湊は話を終えると、誰にも振り返らず、ざわめく会場をまっすぐ後にした。結婚式でのスキャンダルは一晩で瞬く間に拡散し、どれだけ湊が情報を封じても、あの写真はあっという間にネット中に広まった。倫理に反するゴシップは特に注目を集め、まして湊自身が今や話題の人。ライブ配信の切り抜きやスクショがあちこちで拡散され、湊の会社の評判は急降下、取引先も次々と取引を停止した。会社を守るため、湊は毎日必死に走り回った。一方で、こういうスキャンダルは女性へのダメージがより深刻だった。綾香は、両家の親戚や知人から責められ、パーティーに出れば社交界の奥さまたちから冷ややかな視線や皮肉を浴び、時には街ですれ違う人からも指をさされる始末。まるで、世界中から見捨てられたようだった。だが、そんな日々も――今はもう、遠く海外にいる詩織には何の関係もなかった。夜になり、詩織はホテルのベッドでスマホの電源を入れる。すると、一気に大量の着信とメッセージが画面を埋め尽くす。――きっと今ごろ、結婚式場は大混乱になっているだろう。そう思っていると、いきなり誰かにスマホを取られた。我に返ると、目の前にはまだ濡れた腹筋が飛び込んでくる。悠生がバスタオル一枚で片手をベッドにつき、もう片方の手で詩織のスマホをチェックしていた。髪からは水滴が垂れていて、それが首筋から鎖骨、引き締まった腹筋のラインを伝い、腰に巻いた白いタオルに消えていく。顔が一気に熱くなり、詩織は慌てて悠生を押しやった。「悠生、ちょっと!なんで裸で出てくるの?」「どうせまた脱ぐのに、着ても意味ないだろ」悠生が身を乗り出してきて、湯上がりのあたたかい息が急に近づく。髪から落ちた水滴がそのまま詩織の襟元に入り込み、ひやりと冷たくて思わず身震いした。詩織は思わず身を引いて、声まで震えてしまう。「悠生、や、やめて……ちょっと待って」詩織が抵抗する間もなく、彼は詩織の手首をそっと掴む。「何をそんなに逃げるんだよ」そう言って薬のチューブを開け、親指で薬を取ると、そっと詩織の手の甲に塗り広げていく。その細やかな指先の感触が、腕を伝って、耳の先まで熱くなる。……自分で勝手に意識しすぎだ。二人の間に、しばらく静かな時間が流れる。黄色い照明の下、悠生は伏し目がちに薬を塗っていた。長いまつ
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