【ナターシャ視点】夜の庭は、夕方の庭とは違う色をしている。石川先生のところで作業があった日は、桐谷家の車が迎えに来てくれる。小さい子どもではないから大丈夫なのに。そう言ったら、「小さい子どもじゃないからダメ」とみんなに言われてしまった。――ついでだから。みんなが納得する形におさめたのは誠司。部活を終えた誠司が桐谷家の車に乗り、そのまま石川先生に寄る形で決まった。「ターシャ」穏やかな声。みんなが呼ぶ愛称だけど、誠司に呼ばれたときは少し音が違って聞こえる。「お待たせ、帰ろう」「うん」すぐに顔を上げず、しばらくしてから誠司を見た。「どうした?」そう言って首を傾げる誠司は、きれいな人だなって思う。蓮司おじ様の男性らしい凛々しさに、桔梗おば様の優しさがミックスされた顔立ち。武司おじ様に言わせると、『いいとこどり』をした顔立ち。さらに、幼い頃からいろいろと『道』と付く習い事をしている。その成果で、立ち姿はきれいだし、雰囲気も同年代の男の子たちと一線を画している。周囲はそんな誠司を『大人びている』という。誠司の妹の茉白は『嘘くさい』という。私は――分からない。大人……ではないかな。私から見て大人は、石川先生や蓮司おじ様たちみたいな人たち。ああなりたくって、大人のふりをしている。うん、それが誠司だと思う。そう思うのは、私もそうだから。私も大人のふりをしている。クールぶって、みんなとは違うって顔をしている。でも、社会的に見れば『子ども』。桔梗おば様や、カノンたちからしてみたら、まだ保護対象の子ども。「まだまだ、だな」私の呟きに、誠司は苦笑する。「まだまだ、か」「そう、まだまだ」足りない、何もかもが。私も、誠司も、その足りない何かを埋めようとしている。門についている照明が、私たちを照らす。庭にできた長い影は、ふたつ重なっている。でも、私たちは手も触れていない。つないでいない手は、ゆっくりと揺れている。まるで、誘うようで。でも、掴まれたくないといってもいるようで。「ターシャ」影を見るのに満足して、そろそろって思ったタイミングで誠司から声をかけられる。このタイミングを、なぜか誠司は間違えない。物心がつく前から一緒にいたから、物を測るタイミングが同じなのかもねと誠司は言う。そうかもしれないし、そう
Last Updated : 2026-03-07 Read more