カナは焦りのあまり声を荒らげた。「紬さんからファイルを受け取った後、ローカルにコピーを保存した時は、データは確かに正常でした!」直輝は不快そうに眉をひそめた。「では、君が保存した時点でデータが改ざんされていなかったという証拠はあるのか?」カナは言葉に詰まった。彼女のメール権限は部署の共有アカウントに紐づいており、送信履歴には「送信済み」と表示されるだけで、紬の個人メールのように詳細な時間や添付ファイルの内容まで正確に追跡することはできなかった。紬から転送されたメール自体は残っていたが、彼女がローカルに保存していたファイルは、麻衣から「バージョンを更新しろ」と指示された際に上書きされてしまっていた。紬は麻衣に向かって問いかけた。「あなたがカナから最後にドキュメントを受け取ったのは、何時?」「五時半ごろだったかしら」麻衣は臆することなく答えた。麻衣は以前から「紬の息がかかった」カナを快く思っておらず、この機会にカナを紬の側から排除しようと目論んでいた。カナさえいなくなれば、自分がのし上がる機会はいくらでも増える。「あなたのパソコンを開いて、そのドキュメントを出して」紬の視線が、麻衣のデスクに置かれたノートパソコンを射抜いた。麻衣は躊躇いながら直輝に視線を送った。直輝は安心させるような眼差しを返し、紬をなだめるように口を挟んだ。「紬さん、この件はもう結論が出ている。君には関係のないことだ。執行層のミスだよ。君はまだ体調が戻っていないんだ、これ以上無理をしてまで――」「直輝さん」紬は強い口調で彼の名を呼んだ。「事実を語るには証拠が必要だとおっしゃるなら、そう急いで結論を出さないでください。まずは、真実が何なのかを確認しましょう」直輝の表情が強張った。これ以上引き止めれば、かえって誰かを庇っているように見えてしまう。麻衣は、内部の痕跡はすべて消去してある、何も見つかるはずがないと自分に言い聞かせ、平静を装ってパソコンを開いた。紬は麻衣のローカルに保存されていたバージョンのドキュメントを見つけ出すと、プロパティから「編集履歴」を呼び出した。これは会社で統一導入されている共同作業システムで、すべてのローカルファイルの変更記録が自動的にクラウド上のログと同期される仕組みになっている。そこに刻まれたタイムスタ
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