Semua Bab 名家の恥と捨てられた娘は、契約結婚先で花開く: Bab 11 - Bab 13

13 Bab

11

「どこだ、どこにしまった! 誰か知らんのか!」 父が叫ぶが、誰も答えない。かつては美術品の管理台帳をつける専門の使用人がいた。だが、彼を解雇したのは他ならぬ父自身だ。  義母も麗華も、屋敷に何があるかさえ把握していない。彼女たちにとって、美術品は換金できるかどうかの道具でしかないからだ。 焦燥に駆られた父の視線が、床に膝をつく小夜子を捉えた。「おい、役立たず! お前だろ、お前が隠したんだろう!」 父が大股で近づき、小夜子を見下ろす。理不尽な言いがかりは、いつものことだ。小夜子は雑巾をバケツの縁に置き、顔を上げた。(双龍図……) 脳内の検索にかける。所要時間は0.5秒。  膨大な屋敷の物品リスト、その保管場所、保存状態。藤堂から叩き込まれた管理術によって、小夜子の頭の中には完璧なデータベースが構築されていた。  小夜子は淡々と告げた。「『双龍図』でございましたら、第2蔵の3番棚、上段の桐箱に収めてございます」「……は?」 父が口を開けたまま固まる。小夜子はさらに補足した。「先週の火曜日、湿度が60パーセントを超えましたので、私が移動させました。あの掛け軸に使われている和紙は湿気に弱く、書斎のままではカビが生える恐れがありましたので」 事実だけの報告。恩着せがましさも、非難の色もない。ただの業務連絡だ。父は半信半疑のまま、つっかけを履いて庭へと走っていった。 数分後。戻ってきた父の手には、確かに桐箱が握られていた。中を確認し、安堵の息を吐く。  だが、その安堵はすぐに醜い怒りへと変わった。父は小夜子の元へ戻ると、手に持っていた扇子を振り上げた。 バシッ! 乾いた音が廊下に響く。扇子の親骨が、小夜子の額を打ったのだ。鋭い痛みが走り、視界が一瞬白く弾ける。「勝手なことをするな! カビだの湿度だの、もっともらしい嘘をつきおって。本当はこっそり持ち出して、売り払うつもりだったんだろう! 卑しい奴め」 父の唾が飛ぶ。自分の管理不足を棚に上げ、娘を泥棒扱いすることでプライドを保とうとする、浅ましい姿だった。  義母も勝ち誇ったように鼻で笑う。「本当に可愛げのない子。管理台帳もまともにつけられないくせに、小賢しいのよ。これだから妾の子は。やっぱり血は争えないわね。家政婦がお似合い、いいえ、家政婦の仕事も満足にできないとは」(台帳をつけていな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-04
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12:管理台帳

 喉まで出かかった言葉を、小夜子は飲み込んだ。今、口答えをすれば、この場はさらに長引く。 あと1時間もしないうちに黒崎隼人が来てしまう。客人を迎える準備を遅らせるわけにはいかない。 小夜子は額の痛みを無視し、畳に手をついて頭を下げた。「申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」「フン。さっさと準備に戻れ」 父たちは桐箱を大事そうに抱え、客間へと消えていった。 一人残された廊下で、小夜子はようやく身を起こした。額に手をやれば、鈍い痛み。少し腫れている。(良かった、血は出ていない。このくらいなら前髪で隠せば目立たない。大丈夫) 客間のほうからは、「これで成金男も腰を抜かすはずだ」「白河家の威光を見せつけてやるのよ」という、浮かれた声が聞こえてくる。 小夜子は冷めた瞳で、その方角を見つめた。(……あの方々は、分かっていない) 黒崎隼人という男の噂は、小夜子も耳にしている。合理的で、無駄を嫌い、冷徹なまでに利益を追求する「再生屋」。 そんな男が、威圧的な『双龍図』を見て、感心するだろうか。(今日はビジネスの会談。相手を威嚇するような図柄よりも、心を落ち着かせる枯淡な『山水図』のほうが、場の空気を整えるには相応しいのに) 相手の心理を読み、その場に最適な空間を演出する。それこそが、老舗旅館が受け継ぐべき「おもてなし」の真髄であり、キュレーターとしての資質だ。 小夜子にはそれが見えている。だが、今の彼女に決定権はない。父たちが選んだミスマッチな掛け軸が、かえって白河家の「腐敗したプライド」を露呈させることになるだろう。(これも、この家の運命ね) 小夜子がバケツを持ち上げようとした時、背後から義母の声がかかった。「おい、小夜子。いつまでサボっているの」 義母は嗜虐(しぎゃく)的な笑みを浮かべ、顎で蔵のほうをしゃくった。「掃除はもういいわ。さっさと着替えてきなさい。例の『アレ』を持ってくるのよ」 その言葉に小夜子の背筋が凍る。『アレ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-05
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13:灰かぶりのメイド服

 黒崎隼人の到着まであと30分。 小夜子は本邸の裏手にある衣装部屋に立たされていた。義母が桐の長持(ながもち)から古びた布切れを引っ張り出して、小夜子に向かって放り投げた。「ほら。今日のあんたの衣装よ」 小夜子は、床に落ちそうになったそれを空中で受け止めた。 それは正規の制服ですらない、時代がかった代物。おそらく数世代前の使用人が着ていたと思われる、黒のワンピースと白いエプロンだった。生地は洗濯を繰り返して薄くなり、色はあせている。経年劣化で白い生地は薄いクリーム色に変化していた。 何ともみすぼらしい古着に、だが、小夜子は何も言わない。「いいこと、小夜子。今日の客人は、由緒ある白河家を金で買い叩こうとする成り上がりのハゲタカよ。そんな相手に、金で買ったばかりの新品を見せつけてどうするの」 義母は歪んだ笑みを浮かべ、勝ち誇った顔で講釈を垂れた。「ああいう奴らは、金さえ出せば何でも手に入ると思っている。だからこそ、あえて『金では買えない時間』を見せつけてやるのよ。何代にも渡って補修し、大切に受け継がれてきたその制服こそが、ポッと出の成金には真似できない白河家の『伝統』と『格式』の証明になるんだから」(……なるほど) 小夜子は手の中の古着を見つめた。つまりは、「新しい制服を買う金がない」という恥ずかしい事実を、「物を大切にする伝統精神」という高尚な理屈にすり替えたわけだ。 貧乏を質素倹約と言い換え、ボロボロであることを歴史の重みだと主張する。没落貴族特有の、あまりに苦しい見栄とこじつけだった。 だが、今の小夜子に拒否権はない。「承知いたしました」 小夜子は服を抱え、部屋の隅へと向かった。 手早く着替える。あてがわれたワンピースは、サイズが合っていなかった。袖は短すぎて手首の骨が露出し、スカートの丈も中途半端だ。 鏡の前に立つ。そこに映っていたのは、時代錯誤でみすぼらしい使用人の姿だった。 けれど不潔さはない。小夜子は襟元を整え、エプロンの紐をきっちりと結んだ。古びた布であっても、着る人間が背筋を伸ば
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-05
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