第21話

明良は驚いた様子もなく、軽くため息をつき、美雨をそっと抱きしめた。「美雨は優しすぎる……困ったときは俺に頼んでいいんだよ。だって夫婦だから」彼の優しい慰めに、美雨は思わず目に涙をためた。そして嗚咽しながら反論した。「ただの仮の……」「法律上は本物だ」明良は真剣な顔で言った。「愛情も本物だ。夫婦は一体だ。君のことは元々、俺のことでもある。美雨、三年前に一度譲歩したけど、今でも後悔している」彼の表情はかつてないほど真剣だった。「今回は絶対に譲歩しない！」美雨はついに涙を流した。自分を確かに選んでくれて、確かに支えてくれるという感覚……なんて幸せなんだろう。彼女が泣くのを見ると、明良は驚き、急いで笑顔を作った。「泣くことないよ。そんなに難しいことじゃない……安心して、俺には必殺技があるから」「必殺技ってないでしょ……」美雨は泣きながらも文句を言った。「あなた、元々ただの放蕩者じゃない？」「ははは、俺のこと、よく分かってるな」突っ込まれても、明良は怒らず、むしろ笑った。その様子に、美雨も笑いをこらえきれず、ついに笑みが零れた。その笑いで、悲しみと自責の気持ちが一気に消えた。彼女は初めて、気ままな明良と一緒にいると本当に心がほぐれることを実感した。美雨は再び前向きになった。「日向は私を好き勝手に扱えると思っているけど、大間違いよ！当時のこと、証拠を残してあるんだから！」「そうだ。君が投稿すれば、広報部も協力する」半日後、美雨は画像と動画をSNSに投稿し、瞬く間に世論を巻き込んだ。画像はチャット履歴のスクリーンショットで、【金井日向が浮気している。証拠がある】という最初のメッセージから、旅行中の様々な不適切な動画のサムネまで含まれていた。動画は、日向がプライベートクラブで開いた集会を捉えた監視カメラの映像だ。以前、金井家が徹也の親権を争うのを恐れたため、美雨はとっくにクラブでいろいろ手を尽くし、この監視カメラの映像を手に入れていたのだ。この動かぬ証拠により、世論の流れは瞬時に逆転した。【……これが日向が言っていた、悪人に害されたってやつ？一緒に寝たか？彼、楽しんでるくせに！】【怖すぎる。自分が不倫しておいて、他人を責めるなんて！】【表面上は愛妻家を

第22話

美雨がニュースを見ていると、明良は彼女のベッドのそばにうつぶせになり、満面の得意そうな笑みを浮かべていた。新婚の夜に、彼が布団を持ち込んで以来、ずっとこの部屋に寝ていた。最初は、適当なベッドが買えなかったと言ったが、美雨がネットで注文したベッドが届くと、今度は日向の報復を心配してと言い訳を変えた。美雨は少し呆れつつも、彼を受け入れた。そのまま二週間以上が経過した。二人はすっかり、夜は「おやすみ」を言い合い、朝は一緒に会話する習慣ができていた。「どうだい？俺の必殺技があるって言っただろ？心配いらないよね？」明良は彼女の表情から、金井グループ側が動き出したことを察し、日向が完全に終わったと分かった。美雨は不思議そうに言った。「その記者、あなたが手配したの？」「いや、違うよ。ただ結婚の日、あいつが外でこそこそしてるのを見かけたから……問題が起きたから、あいつを探し出したんだ」どうりで、あの日、明良が突然大声で話したわけだ……美雨は笑った。「あなたって、いつも変な考えばかり……でも、少なくとも昔みたいに一人で突っ走って、喧嘩に行くことはないのね」明良は体を起こし、真剣な顔で言った。「もしまだ解決できなければ、俺は君のために喧嘩に行くさ」その凛々しい顔を目の前にして、美雨は彼の言葉が本気であることを見抜いた。この一生を自由気ままに生き、執着心のない男が、すべての気遣いを彼女に注いでいたのだ。「明良ちゃん……」成年後、彼女は初めて子どもの頃の呼び方を使った。「本当にありがとう。ちゃんと感謝しないとね」「水臭いな。礼なんて……」明良は笑顔で断ろうとしたが、次の瞬間、美雨は少し近づき、彼の唇の端に軽くキスをした。彼は目を見開き、口を変えた。「必要だ。とても必要だ」そして身をかがめ、美雨を抱きしめた。初春のころ、外は小雨が降っていた。しとしとと降る雨は、屋内でささやくような低く柔らかな吐息に重なっていた。……それ以降、日向の消息は完全に途絶えた。美雨と明良は、二週間後、徹也を連れて、ハネムーン旅行に出かけた。家族三人で世界中を巡った。明良の言葉によれば、浅草家は彼の兄が支え、石元家はプロのマネージャーが支える。美雨と彼はただ、幸せになることだけを考えればいい

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