それは、想像していたよりもずっと速く、そして力強い音だった。トクトクなんて可愛らしい音じゃない。 まるで、蒸気機関車が全力で走っているような。 あるいは、小さなドラマーが命の太鼓を連打しているような。 力強い、生の音。 私のお腹の中で、こんなにも激しい音が鳴っている。「……聞こえますか、天道様。これが、赤ちゃんの心音です」 医師の声が遠くに聞こえる。 視界が滲んで、天井の明かりが揺れた。 生きている。 あんなに怖い思いをしたのに。冷たい地下室に閉じ込められ、薬を飲まされそうになり、血を流したのに。 この子は、私のお腹にしがみついて、こんなに元気に心臓を動かしている。 ふと、繋がれた手が震えていることに気づいた。 隣を見る。「……」 征也は、石になったように固まっていた。 モニターの小さな光と、スピーカーから流れる轟音に、魂を吸い取られたかのように立ち尽くしている。 その目から、ボロボロと大粒の滴がこぼれ落ちていた。 涙は頬を伝い、顎から床へと、音もなく落ちていく。「……せいや、くん?」 私が声をかけた瞬間。 彼の身体が、ガクンと揺れた。 糸が切れたように膝から崩れ落ちる。 診察台の脇に膝をつき、私のお腹に顔を埋める。「……生きてる……」 掠れた、震える声。「生きてる……。俺たちの、子供が……」 彼の肩が、激しく震え始めた。 薄い検査着を通して、私の腹部に熱いものが染み込んでくる。 涙だ。 あの「氷のCEO」と恐れられ、誰の前でも弱みを見せなかった彼が。 私を強引に縛り付け、魔王のように振る舞っていた彼が。 今は、ただの一人の男として、子供のように泣きじゃくっている。「うぅ…&
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