論理でも、感情でも、彼女は完全に手詰まりだった。 周囲からは、もはや彼女を哀れむような視線さえ向けられている。「……行くわよ!」 彼女はヒールを鳴らして踵を返し、SPたちを引き連れて出口へと向かった。 自動ドアが開く直前、彼女は一度だけ振り返り、私を睨みつけた。 その瞳には、殺意に近い憎悪が燃えていた。 けれど、私はただ静かに、深々と頭を下げて見送った。「お足元にお気をつけてお帰りくださいませ」 完璧な、秘書としての礼。 それが彼女にとって、何よりの屈辱だったはずだ。 エリカの姿が見えなくなると、ロビーには静寂が戻った。 私はゆっくりと顔を上げた。 緊張が解け、ふっと息を吐く。 その時、パチ、パチ、と乾いた拍手の音が聞こえた。 誰かが拍手をしたのをきっかけに、それは波紋のように広がり、やがてロビー全体を包む温かい拍手へと変わった。「すごいです、月島さん……!」「あんな剣幕の人を、一人で追い返すなんて」「今まで誤解してました……すみません」 社員たちが口々に声をかけてくれる。 彼らの瞳には、もう不信感はない。 そこにあるのは、共に会社を守った「仲間」への信頼だった。 私は二階を見上げた。 回廊の手すりにもたれ、征也がこちらを見ている。 彼は満足げに口角を上げ、音もなく唇を動かした。 『よくやった』 その一言だけで、強張っていた胸の奥が熱くなる。 私は小さく頷き返し、床に落ちていた週刊誌を拾い上げた。 表紙の悪意ある見出しは、もう何の力も持っていない、ただの紙屑に見えた。 けれど、私はまだ知らなかった。 追い詰められたエリカが、プライドを粉々にされた復讐として、最後の、そして最悪の手段に打って出ることを。 ◇ それから、三日が過ぎた。 嵐のような騒ぎが嘘だったかのように、会社には穏やかな日常が戻
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