「天道社長、少々よろしいですかな」 会場の中程まで進んだところで、恰幅の良い初老の男性が声をかけてきた。 与党の大物議員だ。 征也は一瞬、私を見て躊躇ったが、私は無理をして微笑んだ。「行ってらしてください。私は少し、飲み物を頂いてきますから」「……すぐに戻る。誰とも話さなくていい」 征也は私の手を強く握りしめ、それから名残惜しそうに離れていった。 彼がいなくなった瞬間。 周囲の空気が、ふっと緩み、同時に鋭さを増した。 守護者がいなくなった獲物に群がるように、遠巻きに見ていた人々の輪が、じりじりと狭まってくる。 私は逃げるように、壁際のドリンクコーナーへと向かった。 喉が渇いて張り付くようだ。 炭酸水でも貰おうと、ウェイターに声をかけようとした時だった。「あら、月島様ではございませんか?」 鈴を転がすような、しかし氷のように冷たい声が背後からかかった。 振り返ると、派手なドレスに身を包んだ三人の婦人が立っていた。 真ん中にいるのは、大手建設会社の社長夫人だ。かつて父が生きていた頃、我が家のガーデンパーティーに招待したこともある。 当時は私にお世辞を言い、媚びへつらっていた人だ。「……ご無沙汰しております、佐藤様」 私は礼儀正しく頭を下げた。 しかし、彼女は扇子で口元を覆い、露骨に顔をしかめた。「まあ、私の名前を覚えてらしたの? 光栄ですわね。……でも、今のあなたに名前を呼ばれると、なんだか背筋が寒くなりますのよ」「え?」「だって、そうでしょう? 犯罪者の方と懇意にされていたのでしょう? そんな方と同じ空気を吸っていると思うと、怖くて」 取り巻きの二人が、くすくすと下品な笑い声を上げる。「本当よねえ。神宮寺さんでしたっけ? 彼を手引きして、天道社長を陥れたって……専らの噂ですわよ」「しかも、妊娠なさったとか。…&hell
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