All Chapters of 再会は魔法のような時を刻む~イケメンドクターの溺愛診察~: Chapter 1 - Chapter 10

11 Chapters

1 衝撃的な出会い

10月初旬――夜の風は少し肌寒い。あんなにも暑かった夏が、もうずっと前のことのように思える。私は、花屋の仕事を終えて真っ直ぐ家に向かっていた。1人暮らしの小さなマンションは、仕事場からそう遠くない場所にある。通い慣れた道を自転車で走りながら、ペダルがいつもより重いことに気づく。疲れが溜まってきたのかな……花屋の仕事は結構体力がいるうえに、最近あまりゆっくりと体を休めていなかった。私の名前は、斉藤 愛莉(さいとう あいり)、24歳。少し茶色っぽいセミロングの髪を束ねて、だいたい毎日アップスタイルにしてる。身長は165cmで、体重は……周りは「スタイルが良い」なんて言ってくれるけど、きっとお世辞だろう。昔からずっと自分に自信が持てない地味な女で、一応、彼氏はいるけど、それに関しての悩みも尽きなくて、将来のことを何かと不安に感じることが増えてきた。しばらく走り、ようやくマンションが見えてきたところで、駐輪場に入れるために自転車を降りた。「愛莉!!」誰かが私の名前を呼ぶ声が耳に響いた。暗闇から突然聞こえたその声に、一瞬心臓が止まりそうになる。変質者かとビクッとしたけど、この声、明らかに聞き覚えがある。「何で? 何で愛莉がここにいる?」えっ、だ、誰?この人、どうして私の名前を知ってるの?こ、怖いよ。本当にいったい誰なの? この、目の前にいる……美し過ぎる超絶イケメンは!!「無視するなよ、俺だよ」えっ、この声……この懐かしい声は……「ま、まさか……瑞? 瑞なの?」「まさかって……」苦笑いする男性の顔をまじまじと見て、私は、恐る恐るもう一度訊ねた。
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

2 衝撃的な出会い

「み、瑞なの? 本当に?」 改めて投げかけたその質問にうなづくイケメン。 う、う、う、嘘だーー!! 「本当に……瑞なの?」 「だからそうだって。何回聞くの? まあ、見た目はちょっと変わったかもな」 その変わりよう、ちょっとどころじゃないよ。 「本当に瑞なんだ……びっくり」 「やっと信じた? それにしても愛莉は全然変わらない。すぐにお前だってわかった」 そ、それは褒め言葉? それとも、イヤミ? まあでも、とにかくこの人の正体がわかってホッとした。 菅原 瑞(すがわら みずき)。 私の――幼なじみ。 年齢は4つ上で、私が高校2年生の頃まで家が近所でずっと仲良しだった。 だけど…… その頃の彼とは明らかに違う。 昔の瑞は、身長こそ高かったけど、もっとぽっちゃり――ううん、かなり太ってた。 それに、顔だって「別人?」と思うほど違ってる。確かに面影が全く無いとは言わないけど、人って、痩せたらこうも変わるもの? あっ、もしかして―― 「何? 人の顔ジロジロ見て」 「瑞、整形した?」 我慢できずに聞いてしまった。 「は? 整形なんかするわけない。痩せたらこうなっただけだ」 「痩せたらこうなったって……本当にそれだけ?」 どうしても疑ってしまう自分がいる。 だって…… 普通レベルだった瑞が、こんなにもイケメンに変身するなんて、到底信じられない。 あまりにも衝撃的過ぎて、全然気持ちがついてこないよ。 それに、気づいたら私…… こんなにも心臓がドキドキしてる。 この人は、幼なじみの瑞だよ。 ただの「幼なじみ」にどうしてここまで緊張しなくちゃいけないの? 「うわぁ、久しぶり、元気だった?」って、再会できたことを素直に喜べばいいだけなのに。 なのに…… この胸の高鳴りはいったい何なの? まるで目の前で超魔術でも見せられてる気がして、やっぱり動揺が隠せない。
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

3 衝撃的な出会い

どうしよう、まずは落ち着かないと。でも、このドキドキの抑え方がわからない。あからさまに深呼吸するのも変だし……ああ、もう「勝手に激しく鳴り続けるこの心臓の音が、どうか自分だけにしか聞こえませんように」と……願うしかない。「お前、ここに住んでるのか?」瑞は、私のマンションを指さしている。その細くて長い指がすごく綺麗で、つい見入ってしまう。以前の瑞の太い指はどこにいったの?指だけじゃない、私はあの何ともまんまるいフォルムが好きで、安心感を抱いていたのに。今は……何というか……いやだ、また胸の鼓動が早くなってしまった。「う、うん、そうだけど……瑞は? ここで何してたの?」改めて瑞がこんなところにいたことへの疑問が浮かんだ。「俺のマンション、あれ」また指をさす。私の向かいのマンションを――「えっ! う、嘘! 瑞、あそこに住んでるの?」「ああ」そこは、うちのワンルームとは全く比べ物にならない程、大きくて立派なマンションだ。いつか、あんなオシャレなところに住みたいって、いつも窓から眺めてた。花屋のお給料じゃ、一生無理だと諦めてたけど……そんな素敵な場所に瑞が住んでるっていうの?次から次へと明かされる驚きの真実に頭が追いつかない。もうこれ以上、何も無いよね?「最近、引っ越してきた。愛莉は……ずっとここに住んでるのか?」「あ、う、うん。仕事始めてからずっとここだよ。瑞は、いつ鎌倉のご実家から出たの?」その会話の途中、瑞の携帯が鳴った。急いで着信に反応し、「はい、わかりました。すぐ行きます」と、電話を切った。「悪い、ちょっと仕事。またな、愛莉」そう言って、瑞はまるで嵐のように慌てて私の前から消え去った。いったい何が起こったのか――イマイチ理解ができないままで、私はしばらくここから動けずにいた。
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

4衝撃的な出会い

びっくりした……まさか、瑞がこんな近くに住んでたなんて。自転車だったけど、仕事場が近いのかな?それにしても、あんなに急いで、今、何の仕事をしてるんだろう?瑞の家は代々お医者さんで、鎌倉でかなり立派な総合病院を営んでいる。子どもの頃の瑞は、ずっとお医者さんにはならないって言ってたけど、お祖母さんの死をきっかけに医学部に入って……あれから……ちゃんとお医者さんになったのかな?それとも、別の仕事に就いてるのかな。数年ぶりに会った瑞は見違える程のイケメンになってたのに、私は、相変わらずイケてないまま。こんな私を見て、呆れてるよね、きっと。私達は、親同士がすごく仲良しだったせいもあって、年齢が違っても、小さい時からよく一緒に過ごしてた。瑞は、性格は大人しめで、あまり目立たない存在だったから、地味な私と気が合って一緒にいてすごくラクだった。正直、今、見た目のギャップにとても苦しんでる。さっきのあの人が本物の瑞だとしたら、もし次にまた会った時、私はどうなってしまうんだろ?身長は変わってなかったと思うから、たぶん180cmくらいかな。でも、体重が激減して全体的にスリムになってるせいで、脚がスラッと長く見え、かなりスタイルが良かった。顔も、目は綺麗な二重、くちびるが艶っぽくて、鼻が高くて、とんでもなく整ってた。あと、髪は少し茶色っぽかったかな。軽くパーマで、センターパートの前髪が後ろに向かって自然に流れてて、ちょっとセクシーな感じがした。私がたまに読むオシャレな雑誌に出てくるモデルさんみたいで、全く知らないかっこよ過ぎる誰かに、突然声をかけられた気になってしまってる。どうしよう、参ったな……私は、瑞が住んでいる高級マンションの外観を見つめ、自転車のハンドルを握ったまま深く呼吸をした。「とにかく部屋に入ろう」また、瑞に会えるのだろうか……ふと、そんな思いが頭をかすめた。
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

1 私の仕事

「いらっしゃいませ」自動ドアから入ってきたその男性は、少し元気がなさそうだった。思わず「大丈夫ですか?」って、声をかけようかと迷ったけどグッと我慢した。「す、すみません……花をプレゼントするのは初めてで……どういう風にお願いしたらいいでしょうか?」華やかで色とりどりの花達に囲まれた店内をキョロキョロしながら、その男性は申し訳なさそうに言った。たぶん、40代後半くらいかな?仕事帰りなのか、スーツ姿でビジネスバッグを胸に抱きかかえている。「お花のプレゼントですね。どなたに贈られますか?」私は、お客様に安心してもらいたくて笑顔で尋ねた。「あ、あの……つ、妻に……」「奥様に。それは素敵ですね。お誕生日か何かですか?」「あ、いえ……実は……少し妻の機嫌を損ねてしまって。なので、妻が1番好きな薔薇の花をプレゼントしたいんですが、花を贈るなんて今まで1度もなかったので、上手く注文できなくて。本当にお恥ずかしい限りです」今度は少し照れたように言った。「いえいえ。奥様のお好きな花なら、きっと喜んで下さいますよ」「あ、ありがとうございます」「奥様、薔薇がお好きなんてオシャレな方なんですね」「たまに妻が買ってきて、リビングやキッチンの花びんに飾っています。僕は、毎日の仕事に追われて、それを綺麗だと思う余裕もなくて。ましてや、自分が花を買うなんて思いもしなかったんですが……本当に馬鹿なことをして、妻を悲しませてしまって……」馬鹿なこと? って、まさか……浮気しちゃったとか?だとしたら……奥様、すごく悲しいよね。あまりにも不安そうな男性が気になって、ついプライベートなことを想像してしまった。「薔薇を贈れば許してもらえるなんて、もちろん、そんな簡単なことだと思ってるわけじゃないんです。でも、何か……何かしたくて」
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

2 私の仕事

今にもその場に泣き崩れてしまいそうで、何だか少し戸惑ってしまう。こういう時、どうやって声をかければいいの?「り、理由はわかりませんし、奥様が許して下さるかどうかもわかりませんが……精一杯の気持ちを込めて花束を作らせてもらいますから。だから、元気出して下さい」気の利いた励ましの言葉も見つからず、それしか言えなかった。「すみません……ありがとうございます」この人のスーツの上着から覗くワイシャツには、キチンとアイロンがかけられている。靴も磨かれてるし、ネクタイのセンスも良い。勝手な想像だけど、奥様は、旦那様のために一生懸命家事をされてるんじゃないか――そんな印象を受けた。そんな風に健気に頑張る奥様を思い浮かべ、私ができることを何かしたいって思った。会ったこともないし、真実は全くわからないけど、でも……お花を愛してくれてる人を「笑顔」にしたかった。「あの、奥様の好きな色はわかりますか?」「赤……です」「では、赤い薔薇が良いですね。赤い薔薇の花言葉は『愛情』『貴女を愛しています』です。赤い薔薇をプレゼントすることで、旦那様の想いを奥様にわかってもらえるといいですね」「薔薇の花にそんな花言葉があったんですか……驚きました。そうですね、本当に……」もしかして、奥様はいつも薔薇を飾ることで、この男性に対しての「愛情」を表していたのかも知れない。なのに、それに気づいてもらえなくて、しかも、浮気されたとしたら……それは、とても悲しかっただろう。「何本の花束にされますか?」「どうでしょうか……すみません、悩んでしまいます……」「今の奥様への愛情を示す花言葉は、きっと『死ぬまで気持ちは変わりません』とかですかね」「そ、そうですね」
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

3 私の仕事

「実は、花には本数によっても花言葉が違うんです。でも、その花言葉にしようとすると、薔薇の本数は4本になります」「本数によっても花言葉が違うなんて全然知りませんでした。でも、すみませんが、妻はたぶん4という数字は好みません」確かにそういう人が多いのが現実だ。「では、9本なら『いつまでも一緒にいて下さい、いつも貴女を想っています』。11本なら『最愛』です。いかがでしょうか?」少し考えて、黙り込む男性。私は焦らずに答えを待った。「では……11本で……お願いします」決意と共に出た数字。「最愛」――奥様を1番に愛している。男性は、それを伝えることにしたんだ。最後の決断は奥様だとしても、その想いが届けばいいなって、心から思った。「すぐご用意しますね。しばらくお待ち下さい」私は、できる限り丁寧に真紅の美しい11本の薔薇を花束にした。ラッピングを待ってる間も、男性はソワソワしている。もし、本当にこの人が奥様以外の誰かと体の関係を持ったとしたなら、同じ女性としてものすごく嫌悪感を抱いてしまう。世の中にはこんなことがたくさん溢れてて、仲直りしたり、別れたり……やっぱり、何だか悲しいな。このご夫婦がどんな結末を迎えるのか、私にはそれを知ることはできないけど、人生って本当に人それぞれいろいろあって、とても奥深いんだと思った。そうは言っても、私はまだ24年しか生きていない。人生の深さを語るには、ちょっとまだ早いかも知れないな。花束を作り終えて、私は男性に薔薇を手渡した。感慨深気にそれを見て、男性は「ありがとうございました」と、私に何度も頭を下げ‪て店を出ていった。奥様と仲直りできますように……私は、心の中でつぶやいた。
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

4 私の仕事

「ラ・フルール」、意味は「一輪の花」。これが、私の勤める花屋の名前。フランス語の店名で、可愛くて、すごく気に入ってる。小さな頃から花が大好きだった私。大人になったら花屋で働く……それが、ずいぶん昔からの夢だった。だから、大手フラワーチェーンに入社できた時は本当に嬉しかった。今も、可愛くて美しい色とりどりの花達に囲まれて、ワクワクドキドキの毎日を過ごしている。この支店で働き出してまだ2年目だけど、後輩の指導も任されるようになった。 今年の春に入社したばかりの山下 賢人(やました けんと)君、23歳。彼の指導係に任命されて、いろいろ教えてる。というか、私だってまだまだ未熟だし、今は一緒に勉強してる感じだ。「ラ・フルール」に入社して思ったことは、男性でも花が好きな人が意外と多いということ。賢人君も、その1人だ。今どきの可愛い系イケメンで、シュッとした小顔にメガネをかけている。オシャレなメガネの奥の瞳は、夢や希望に満ち溢れているかのように、いつもキラキラ輝いてみえる。まつげが長くてぱっちり二重だから、ちょっと中性的な雰囲気もある……かな。髪型はナチュラルマッシュのパーマスタイル。ふわっとシャンプーの香りがして、とても爽やかな「メガネ男子」だ。この何とも愛嬌のある素敵な見た目のうえに、優しくて性格も良いから、必然的に女子社員みんなからモテモテで。誰とでも話を合わせることができる賢人君、私もつい弟みたいに接してしまってる。きっと、賢人君も私を姉みたいに頼ってくれてると思う。店員みんなで切磋琢磨できるこの働きやすい環境に身を置けて、私はとても感謝してる。「愛莉さん」その声に振り向くと、キラキラオーラをまとった賢人君が立っていた。センスの良いメガネを何本か持ってるんだろう、どれをかけていてもすごく良く似合っている。「あ、ごめん、何?」「すみません。これって、こんな感じで合ってますか?」賢人君は、私からたくさんのことを学ぼうとしてくれ、よく質問してくれる。こんな私を先輩として見てくれてるんだから、キチンと応えなきゃと思う。もっとしっかり勉強して、賢人君と一緒に成長したい。疲れてるなんて、言ってる場合じゃないよね。私は、心の中で自分に喝を入れた。
last updateLast Updated : 2025-12-20
Read more

1 再会したあなたは……

ある日、久しぶりに彼氏から会いたいと連絡が入った。お互い忙しくて最近ほとんど会えてなかったから、ちょっと嬉しかった。半年前にできた「彼氏」。知り合いに紹介してもらった彼は、みんなが「カッコいい!」と、口を揃えるほどのイケメンだった。何度かデートを重ね、告白してくれた時はすごく嬉しくて、初めてできた恋人を……私は本気で好きになった。きっと、最初のうちはお互い好き同士だったと思う……たぶん。よくデートに誘ってくれたし、食事をしたり、お酒を飲んだり、どこかに出かけたりして、大切に想える人がいることにとても満足していた。遅れてやってきた「青春」を満喫し、毎日が充実してた。でも今は……一緒にいる時間も、離れている時間も、彼が私のことをどう思ってるのか、すごく不安で。なぜなら、「好き」とか、「可愛い」とか……そういう口に出してほしい言葉が、だんだんと聞けなくなってしまったから。その上、「会いたい」って誘われる回数もかなり減ってしまって……付き合って半年なら、まだ手をつないでもおかしくないだろうし、会えばキスくらいしたいと思うよね。なのに、彼は何も言わないし、何もしてくれない。どちらかといえば少しチャラめの彼なのに、今は体もごくたまにしか求めてこなくて、一緒にいても何か物足りないし、つまらない。私のことを大切に思ってるなら、せめて「好き」って……言ってほしい。それって、高望みし過ぎなのかな?大好きな花達に囲まれてる時だけは、余計なことを考えなくて済んでる。でも……仕事から離れると、途端にいろいろ考えてしまって……もう、こんな地味な私のこと嫌いになっちゃったの?もしかして私以外に好きな人ができたとか?気持ちを確かめられないまま毎日が過ぎ、何だか少し諦めモードになっている自分が虚しい。彼に何かを期待することは、無駄なことなのかも知れないって……本気で思い始めてしまってる。
last updateLast Updated : 2025-12-23
Read more

2 再会したあなたは……

***数日後、私は久しぶりに彼に会った。あれだけみんなにイケメンと言われてた彼を見たけど、何だか不思議――嬉しいという感情が全く湧いてこないし、全然カッコいいと思わない。いつだって、会えば自然に出ていた笑顔も、今は無理やり作ってしまってる。人は、こんなにも気持ちを変えられるものなんだ。「暇だし映画でも観ようか」「えっ、あ、うん。そうだね……」彼がチョイスしたのは、特に観たいと思ってなかったアクション映画。半年一緒にいて、私がこの手の映画が好きじゃないってこと、全然理解してくれてなかった。スクリーンを見ていると、まぶたにオモリでもついているのかと思うほど、しだいに重くなる目を無理やりこじ開けているのがつらかった。見終わった後、食事をするためにイタリアンレストランに入った。テーブルに向かい合わせで座わる。大好きなイタリア料理の匂いも、いつもみたいに食欲をそそらない。この人は今、私のことをいったいどんな思いで見てるんだろう?明らかにいつもと違うテンションの私を――「面白かったよな、あの映画。ヒーロー、ちょっとバカっぽかったけどさ。あの俳優の演技が笑えたよな」「えっ……あ、うん」「何だよ、さっきからずっと暗くない?」「別に……そんなことないけど」「そんなことあるだろ。せっかく誘ってやったのに、嫌な顔されたらムカつく。彼氏の前で笑えないってヤバいだろ」「……ごめん」どうして私、謝ってるの?何がごめんなのかわからない。「ムカつくけど、まあ、いいよ。あのさ、愛莉。お前に頼みがあるんだ」「……あっ、うん。何?」何だかすごく嫌な予感がする。「ちょっと今金欠でさ、お金貸してもらいたい。このままだと美味いもの食えないし」「……お金?」「ああ、頼むよ。頼れるの、愛莉だけだしさ」「……いくら?」「そうだな、とりあえず3万かな。今までお前のために使った金額考えたら、それくらい貸してくれるよな」そのお願いに、「もうダメかも」と、直感的に感じた。悲しいくらいに心が痛くなる。「今日は持ち合わせがないから」「嘘だろ? 3万も無いの?」「3万なんて……そんなに持ち歩かないよ」「ちぇっ、ケチくさいよな、愛莉は」どうして……なぜそんな言い方するの?私のこと、そこまで嫌いになった?あんなに……優しかったのに。「とにかくお金は
last updateLast Updated : 2025-12-23
Read more
PREV
12
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status