10月初旬――夜の風は少し肌寒い。あんなにも暑かった夏が、もうずっと前のことのように思える。私は、花屋の仕事を終えて真っ直ぐ家に向かっていた。1人暮らしの小さなマンションは、仕事場からそう遠くない場所にある。通い慣れた道を自転車で走りながら、ペダルがいつもより重いことに気づく。疲れが溜まってきたのかな……花屋の仕事は結構体力がいるうえに、最近あまりゆっくりと体を休めていなかった。私の名前は、斉藤 愛莉(さいとう あいり)、24歳。少し茶色っぽいセミロングの髪を束ねて、だいたい毎日アップスタイルにしてる。身長は165cmで、体重は……周りは「スタイルが良い」なんて言ってくれるけど、きっとお世辞だろう。昔からずっと自分に自信が持てない地味な女で、一応、彼氏はいるけど、それに関しての悩みも尽きなくて、将来のことを何かと不安に感じることが増えてきた。しばらく走り、ようやくマンションが見えてきたところで、駐輪場に入れるために自転車を降りた。「愛莉!!」誰かが私の名前を呼ぶ声が耳に響いた。暗闇から突然聞こえたその声に、一瞬心臓が止まりそうになる。変質者かとビクッとしたけど、この声、明らかに聞き覚えがある。「何で? 何で愛莉がここにいる?」えっ、だ、誰?この人、どうして私の名前を知ってるの?こ、怖いよ。本当にいったい誰なの? この、目の前にいる……美し過ぎる超絶イケメンは!!「無視するなよ、俺だよ」えっ、この声……この懐かしい声は……「ま、まさか……瑞? 瑞なの?」「まさかって……」苦笑いする男性の顔をまじまじと見て、私は、恐る恐るもう一度訊ねた。
Last Updated : 2025-12-20 Read more