「今日だから言うの。浮かれてる時ほど契約書を読み落とすから」 「もう職業病じゃない、それ」 「姉病よ」 そう言って、詩織姉はようやく少しだけ笑った。 肩に置かれた手の力が、ふっと緩む。 「……本当に、綺麗よ」 その一言は、会場の拍手より、湊の甘い言葉より、胸の奥にまっすぐ刺さった。 私は、姉の肩に額を押しつけた。 泣いたら負けだと思っていたのに、今日の私は負けっぱなしだった。◇ 披露宴が終わる頃、窓の外は淡い夕暮れになっていた。 宴の終わりには、父と母にも手紙と花を渡した。父は最後まで座っていられたことを少し得意そうに笑い、母はヘアピンに目を留めてから、花束ごと私の手を包んでくれた。 高層階のガラスに、東京の街の光がひとつずつ灯っていく。テーブルの上のキャンドルが揺れ、白い花びらの影がクロスの上に落ちていた。 最後のゲストを見送ったあと、控室へ戻る途中で、私は足を止めた。 会場の扉の前には、小さな額が置かれていた。さっきまで、なかったものだ。 式の直後に撮った集合写真を、スタッフがもうプリントしてくれたらしい。 中央に私と湊。隣には志保さんと、私の父と母。少し離れて詩織姉と征司さん、麗華さん、奈々さんと航平さん。佐藤工場長は端のほうでぎこちなく笑っている。白鳥真琴は、なぜか少しだけ斜めに立ち、完璧な微笑みを崩していない。 血筋だけなら、ひどくまとまりのない写真だ。 九龍家の古い肖像画に描かれていたような、同じ顔立ち、同じ名字、同じ価値観でそろえられた一族ではない。 でも、今日の私には、それがとても綺麗に見えた。 「気に入った?」 背後から湊の声がした。 振り返ると、彼はジャケットのボタンを外し、いつもの完璧なCEOではなく、披露宴を終えたばかりの夫の顔で立っていた。 「はい」 「本邸に飾ろう」 「いいの?」 「祖母が見たら、文句を言うだろうな」 「どんな?」 「並びが甘い。僕の表情が締まっていない。……それから、君のドレスだけは褒める」 「最後だけ華枝様っぽい。湊は?」 「ずっと褒めている」 「聞き飽きるくらい?」 「足りないくらい」 さらりと言われ、頬が熱くなる。 結婚式が終わっても、この人の溺愛は終わらないらしい。 湊は、写真の横に置かれていた白い花を一輪
Last Updated : 2026-07-27 Read more