「もういい」貴臣は彼女の言葉を遮った。これ以上、弁明を聞く気にはなれなかった。「そのおばあさんの写真を一枚、俺に送れ」「……わかったわ」葵は数秒の沈黙のあと、どこか物憂げに応じた。「あとで看護師に撮らせて送るわね。貴臣、心愛さんのことであまり怒らないで。彼女もきっと、おばあさんのことが心配でたまらないだけなのよ」貴臣の胸にのしかかっていた重石が、ようやく外れた。やはり、心愛が理不尽に騒ぎ立てていただけだったのだ。酔いによる頭痛が波のように押し寄せる。貴臣は軽く頭を振り、疲れ果てた様子でソファに身を投げ出すと、そのまま泥のように眠りに落ちた。――その頃。葵は通話を切った。スマートフォンに目を落とし、それからピンクを基調とした部屋を見渡す。瞳には隠しきれない嫌悪が宿っていた。心愛というあの女、本当にしぶとい。あろうことか、貴臣のもとへ乗り込んで騒ぎを起こすとは。葵は冷ややかな笑みを浮かべると、連絡先からある番号を探し出し、そのまま発信した。長いコールのあと、ようやく繋がる。向こうからは雑踏の喧騒が流れ込んできた。どこかの屋台にでもいるのだろう。「もしもし?葵?どうして俺に電話なんてしてくれたんだ?」紘の声には、はっきりと酒気が混じっていた。「貴臣が、あのババアの写真を欲しがってるの」葵は端的に告げた。「今すぐ、あの女が高級病室で寝ている合成写真を作って。至急よ」「合成写真?」紘は電話の向こうで酒臭いげっぷを漏らした。「おいおい、そんなことで呼び出したのかよ?俺は今、田舎で身を隠してるんだぜ。どこでそんなもん作れってんだ?」「そんなの知ったことじゃないわ」葵の声音は一切の反論を許さなかった。「それはあなたの仕事でしょう。紘、忘れないで。あなたが今、のうのうと酒を飲んでいられるのは、誰のおかげ?」紘は黙り込んだ。「……ちっ、わかったよ。お前の勝ちだ」悪態をつきながらも折れる。「そのババアの写真、送ってこい」葵はアルバムを開き、以前盗撮しておいた写真を転送した。送信して間もなく、紘から再び着信が入る。その声には、どこか妙な響きが混じっていた。「この人……どこかで見たことがあるな」「見たことがある?」「ああ、俊輔のあのクソババアだ!」紘の声が一気に冴え渡る。
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