(血の匂いに、もう慣れてしまったわ)雪解け水を含んだ地面はぬかるみ、倒れた魔獣の体液と混じってアリア・ヴァルグリムの靴底に絡みついた。空気は重く、肺に吸い込むたび、喉の奥がひりつく。(魔素の汚れが増した)「アリア、左!」兄フィンの声が飛ぶのと同時に、アリアは身を沈めた。長く戦いに身を置いてきたからできる、反射。黒く歪んだ爪が、アリアの頭上をかすめて空を裂く。「遅い」短く言い放ち、アリアは踏み込む。アリアの剣閃が走り、魔獣の胴を断った。巨体が地面に崩れ落ちると同時に、アリアは異変に気づいた。「なに!?」胸の奥が熱を帯びるのを、アリアは感じた。力が流れ出るのを感じる。「これは……”浄化”?」フィンの言葉に、アリアはハッとして周りを見渡す。(世界が、きれいだ)アリアを中心に、空気が澄んでいく。濁っていた魔素が押し流され、楽に呼吸ができた。「……はぁ」アリアは小さく息を吐いた。「空気って、こんなに美味しいのね」 * 「終わったか」アリアの長兄、カイムが剣を下ろす。次兄のレオンハルトは肩を回し、困ったように息を吐きだした。「また増えてる。王都から届く浄化の力が減っているのだろうな」「もともと辺境は後回しだ」レオンハルトの言葉に苦く笑い、カイムは周りを見渡して眉間にしわを寄せた。「これは……聖女が、王妃様が亡くなったというのは本当にようだ」「次の聖女はまだ見つかっていないから、王家はさぞ必死だろうよ」普段は温和なレオンハルトの嫌味を込めた言葉に、カイムが皮肉っぽく笑った。「王都に籠っていては見つかるわけがない。もしや辺境にいたりしたら……」 「カイム兄さん! レオン兄さん!」慌てた弟、フィンの声にカイムとレオンハルトは揃って剣を構えた。新たな魔獣が出たのかと思ったが……。「なんだ?」「あれ? なんか、とても呼吸が楽だ……」レオンハルトの言葉に、カイムはある可能性に気づく。「まさか……」カイムの呟きに、レオンハルトは先ほど自分が言ったことを思い出した。 ―― 次の聖女はまだ見つかっていない。「「アリア?」」カイムとレオンハルトの目が、末っ子のアリアに向かう。アリアは、照れ臭そうに頬を描く。「私が、次の聖女みたい」「「聖女って柄じゃないだろ、お前!」」兄たちの言葉に、アリアが
最終更新日 : 2026-01-30 続きを読む