「アリア」王太子からの使者が待つ部屋に入る直前。母エリスはアリアの両肩を掴み、真剣な眼差しを向けた。「あなたは私たちの自慢の娘よ」「ありがとう」「だから、使者に何を言われても気を強く持つのよ」「……なんで、私が傷つく前提なの?」アリアの言葉にエリスは首を傾げる。「だって、あなた、聖女らしくないもの」「え? 見た目はいけると思うんだけど?」恐る恐る尋ねると、エリスは優しく微笑んだ。「見た目は問題ないわ」微笑みが増す。「見た目"は"ね」「……それ。見た目しか褒めるところがないって意味になるよね」助けを求めるように兄たちを見る。「見た目は聖女っぽい」「父さん譲りの銀髪に、母さん譲りの蒼い瞳。色合いは完璧だな」「だが、中身が聖女じゃない」「最後の一言いらない!」アリアが抗議すると、父ローデリヒが咳払いをした。「エリス。最後に娘へ助言を」「ええ」「ちょっとお父様!」エリスはローデリヒに抗議の声を上げるアリアへ向き直る。「分厚い薄絹を何百枚も被ったくらいの気持ちで、おしとやかに振る舞いなさい」「……分厚い薄絹って。それは薄絹と言って良いの?」誰も答えてくれなかった。◇◇◇「聖女マリア様、王太子殿下よりお手紙を預かっております」応接室に響いた最初の一言で、アリアの眉がぴくりと動く。(マリア?)視線だけ家族に向ける。全員微妙な顔をしている。だが使者は気づかない。緊張しているのだと勝手に解釈し、胸を張った。「王太子殿下は、マリア様を正妃として迎えられることを大変喜んでおられます」「……そうですか」アリアの反応が薄い。使者は少し首を傾げながらも、赤いリボンを解いて便箋を広げた。「それでは、お読みいたします」咳払い。「"今夜、城下の灯りがとても綺麗に見えるらしい"」(……ん)「"マリア、それを君と見たい。いつか君が好きだと言った甘いミルク酒も用意しよう。お礼は、私のシャツ一枚だけを羽織った君の姿で――"」そこで使者の声が止まった。便箋とアリアの顔を何度も見比べる。「どうかなさいました?」アリアはにこやかに尋ねる。「わ、私は、その……」「私、王太子殿下にお会いしたことはありません。先日成人したばかりですので、ミルク酒も飲んだことがありませんわ」使者の背中を冷
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