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Author: 酔夫人
last update Huling Na-update: 2026-02-12 08:36:09

「やることは簡単なのです。聖女として城に入って、王様たちを制圧します。聖女の護衛ということで、お兄様たちが帯剣して謁見する許可も下りています」

「三人とも、か?」

「ええ、三人全員です。辺境の田舎者である兄たちに、滅多にできない王城見学を許す……みたいな手紙が王子様から届きました」

アリアの言葉に、誰かが深いため息を吐いた。

「……馬鹿なのか?」

「馬鹿なんだな」

「馬鹿だろう」

馬鹿の三段活用。

「ヴァルグリム三兄弟の武力なら国一つを落とせると言われているのだぞ」

辺境伯たちの呆れた声に、アリアが口を開く。

「だから、その、国落としをしにいくんですってば!」

「あ、ああ、そうだったな……自分たちの国だけどな……」

アリアを宥めるように頷きつつも、むうっと彼は眉間にしわを寄せる。

「王族の守りである近衛兵たちはどうする? 国の騎士たちの中でも屈強な者たちが揃っているぞ」

「お母様の古巣ですね」

”ああ、そうだった”という空気がこの場で流れ、視線がエリスに向かう。

エリスは一つ咳払い。

「近衛隊の同期に連絡してみたところ、”いいんじゃない? 協力するよ”という返事をもらいました」

エリスの答えに、全員が仰天する。

「近衛騎士と言えば、王家への忠誠心が高いことで有名ではないか」

「そう言うことになっていますが、実態は違います」

噂と実態が異なる。

よくあることではあるが、いいことではない。

「この国で真面目に騎士になりたいと思っている者は、辺境伯家の騎士団に憧れています」

エリスの言葉に、その憧れの騎士団の管理者である辺境伯たちは満足気に頷く。

「私も、騎士学校で優秀な成績を納め、『牙』の入団テストを受ける日のことを指折り数えておりました。それが、”美人だから、この子にする”という感じに近衛兵に抜擢されてしまった。このときの悔しさが分かりますか?」

確かに美人だからなあ、と多くの者が思った。

しかし、誰もそれを言うことはできなかった。

いまエリスが握っている彼女の愛槍は小刻みに揺れていたから。

下手なことを言ったらアレが飛んでくると、全員が口を噤んだ。

「それが近衛兵の三割の実態です」

「努力を侮辱する行為だな。残り七割は?」

「王様たちのそばにいれば、覚えもめでたくなって、遊び放題、女の子たちは入れ食い状態。俺ら勝ち組、ウウェーイという、高位貴族のバカ息子たちですね」

「なるほど」

それなら、国を落とせるのでは。

「特に国王と王太子については、馬鹿は死ななきゃ治らないと思っているので、”丁度良かった”とのことです」

「……なるほど」

それどころか、国王の前まで近衛兵にエスコートされそうだ。

(よし、いける!)

いけるのでは、という空気がこの場を支配し始めたことで、アリアはさらなる追撃を試みる。

「大丈夫です。いざとなったら、私が盾になります」

「え?」

「だって、聖女ですから」

「え、なに、その理屈。危ないよ?」

東部辺境伯の声が素になる。

この老伯、アリアを赤ん坊の頃から可愛がっている。

「大丈夫ですって。向こうは聖女を殺すことはできないので」

「ああ、そうだね」

聖女はこの国を浄化するのに絶対に必要な存在。

「でも、私はそれを躊躇う理由はないので、やり放題です」

「アリアちゃん、それは聖女の台詞としてどうかと思うよ……」

「イメージに合わないと家族にはさんざん言われましたが、性格が先で聖女というジョブが後から身についたのです」

「確かに、そうさなあ」

東部辺境伯は、納得したように頷いた。

「問題は、王様たちを奪還しようって貴族たちの動きです」

「……いるのか?」

「いるでしょう。王様たちのそばでおべんちゃらを言っている高位貴族とか」

「ああ……確かに、何家かあるなあ……名前が出てこないけれど」

「私も名前が出てきませんが、彼らの戦力が北部に向くと困るんです」

誰かが呆れた声を出した。

「北部辺境伯家に剣を向けるって、自殺願望が過ぎるだろう」

「命令する人は剣を持たないので」

アリアの言葉に、”ああ”と納得する空気がその場を流れる。

「つまり、命令させないようにする。それで我らか」

「俺たちが四方八方から蜂起すれば、王都の連中は動けまい」

「ううむ」

東部辺境伯が唸る。

「最悪のケースでは、魔獣たちをおさえつつ、軍を迎え撃つことになるのか」

東部辺境伯は、うむと頷いた。

「東部はその話に乗ろう」

会場が騒めく。

「王家からの援助がもらえないこの状況で、東部はすでにじり貧の状態。長くはもたない。それならばアリア女王に賭けるのも一興だ」

東部辺境伯の言葉に、ざわめきが重く広がる。

全員が他人事ではない。

「しかし、アリア嬢が女王になっても、国に辺境を支援するだけの金はないだろう」

「その点は、安心してください」

アリアがパンッと自分の胸を叩く。

「お金はないので、私が体で払います」

全員が驚いて、目をむく。

若い騎士には如何わしい想像をした者もいるようで、顔を赤らめた彼らたちは先輩騎士から拳骨という教育的指導を受けたのち、娘ラブのローデリヒから凄まじい威圧を受けて卒倒した。

その状況に、アリアは深く反省した。

「……申しわけない」

「馬鹿アリア。言葉を選べと言っただろう」

フィンの苦言を、アリアは笑って誤魔化した。

「私が女王になったら、全国各地にいき、国中を浄化していきます。何かと戦うとかではなく、ただ行脚するだけでいいので、大した苦労でもありません」

「いや、結構な距離ではないか?」

「皆様、私のお転婆っぷりをご存知でしょう?」

アリアは、ニッと笑う。

「魔素が浄化されれば、みんなで土地を立て直すことができます」

言い切ったアリアに、全員が目を丸くする。

「……狂ってるな」

そう言った誰かが、笑った。

しかし、彼らはこれまでのアリアを見てきた人たちだ

「女王様が自らが、その足で全国各地を回るとは」

「だが、理屈は通っているし、実際にそう願った聖女もいた」

「それを、王家が赦さず、結婚という形で聖女を城に閉じ込めた」

「自分たちの利益のためだけに」

東の辺境伯は、ため息を吐いた。

「アリア嬢の策なら、王家だけを切ることができる。アリア嬢が聖女である今しかできないやり方だ」

よし、とこの場の全員の気持ちが一致する。

「辺境は、守りに徹しよう」

次々に声が上がる。

「我が領、兵を出す」

「補給は任せろ」

「王都が動けば、こちらが受け止める」

ローデリヒは、深く息を吐いた。

その隣で、エリスが「あ」と声をあげた。

「うちの国、既婚者しか女王になれないわ」

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