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Author: 酔夫人
last update publish date: 2026-01-30 16:59:14

王都ルクスハイム。

白い城壁に囲まれた都は、今日も平和だった。

少なくとも、城の中にいる者たちはそう思っていた。

「辺境から聖女が見つかったと聞いた」

王座に座る国王オスヴァルトは、宰相ヴァルターを呼び出した。

王妃である聖女が亡くなって一ヶ月。

彼は喪に服すどころか、愛人たちの宮殿を行脚して、愛欲に耽っていた。

その分の仕事がどさっと宰相のところにいったため、彼は多忙を理由に国王への報告をサボった。

どうせ読みはしない。

人と時間は有限。

節約できるところは節約するとヴァルターは宰相になった日から決めていた。

読まない報告書は、最初から作らない。

いつか呼ばれて聞かれるのだから、そのとき随時対応。

「聖女はどこの誰だ?」

(報告書に描いてあるのだが)

「北部辺境伯ヴァルグリム家の令嬢、アリア様でございます」

「ほう……」

オスヴァルトは鼻で笑った。

「ようやく、か。ずいぶん遅かったな」

オスヴァルトは玉座の横、王太子セドリックを見る。

セドリックは金髪碧眼、絵に描いたような“王子様”の外見をしている。

(外見だけだがな)

「セドリック、求婚の使者は送ったのか?」

「当然です。辺境ですので、時間がかなり掛かりますからね」

「お前にしては仕事が早いな」

「求愛の手紙なんて、基本的にどれも同じ。先日マリアに送り損ねたものを、そのまま送りました」

「そうか」

(そうか、じゃない!)

「失礼いたします」

ヴァルターは父子の会話に割り込んだ。

「王太子殿下。聖女様は”アリア”様でございます。”マリア”ではありません」

求婚をかねた求愛状のあて名を間違えるなど、あり得ない。

あり得ないのだが……。

「大丈夫だろう。マリアのほうが聖女っぽいしな」

(フリードリッヒのほうが王子っぽいと言われたら改名するのか、お前は!)

「まあ、いい」

(よくない!)

「聖女は王家のもの。それは、この国が始まって以来の常識だ」

オスヴァルトの言葉にセドリックが、軽く肩をすくめる。

「辺境育ちの娘だ。王妃教育は骨が折れそうだが……まあ、こちらでどうとでもなる」

「“聖女”である以上、意思など不要だ」

国王の言葉に、何人かの貴族が頷いた。

ヴァルターはため息を吐き、口を挟むのをやめた。

「浄化をし、子を産み、王家を支える。それで十分」

「感謝されこそすれ、反抗など考えまい」

彼らは気づいていなかった。

その前提が、すでに間違っていることを。

 *

数日後。 

「はあ?」

王都から戻った使者が、青ざめた顔で報告した。

「追い出された?」

「いえ、まあ、その……王太子殿下からの求婚状を、もう一度、いえ、他にも欲しいと……」

王城の一室。

報告を受けた貴族たちは、しばし沈黙した。

「……冗談だろう?」

「何度も求婚してほしいなど……」

「辺境の娘が。王太子殿下からの結婚の申し込みに浮かれているのだろう」

一人が、乾いた笑いを漏らす。

「まあいい。結局、聖女は来るしかない」

「そうだ。聖女は城に入らねば、その力を十全に使えぬ」

魔力増幅装置。

城の中枢に鎮座する、巨大な魔導装置。

聖女がその中心に立つことで、国全体に浄化の力を巡らせる。

「装置は城から動かせん。聖女は城に来るしかないのだ」

「そうしたら、少々教育する必要がありますな」

彼らは笑った。

「兄たちと魔物を討伐しているから、自分が強いつもりでいるのでしょう」

「所詮は若い娘」

「王城に入れば、王家の空気に呑まれる」

「戦神アリアなど辺境では大層な名で呼ばれているが、ただの田舎者よ」

その場にいた誰一人として、アリアが王位簒奪を目論んでいるなど思っていなかった。

 *

 

同じ頃。

北部辺境、ヴァルグリム家。

「王様たち、完全に舐めてるね」

アリアは王都にいるエリスの同僚からの情報を聞いて、にっこり笑った。

エリスは優秀な騎士であり、気さくな性格から男女関係なく友人が多い。

近衛兵にも、友だちがたくさんいる。

「聖女は城に来るしかない、か」

「まあ、理屈としては間違ってないな」

レオンハルトが肩をすくめる。

「聖女が従順、と思っているところで腹が捩じれたけれどな」

「笑い過ぎて、腹筋が痛い」

「従順なアリア……あはははははは、ダメだ、笑える」

アリアは笑い転げるフィンを思いきり引っ叩いた。

「アリア、どうする?」

「うん、これならいける。要は、お淑やか~にしていれば、勝手に向こうが王様たちのところに連れていってくれるんでしょう?」

そうとも言う。

「まあ、そうだね。聖女の付き添いってことで、カイムたちがいけばいいか」

「最悪、次期辺境伯の兄貴は謁見できるだろう」

「じゃあ、俺たちが迎撃だな」

「退路を考えないのは楽でいいよね」

占拠したら、城に居座る。

だって魔力増幅装置があるから。

「問題は、こっちに向かってくる兵力だな。対魔獣に兵を割くし」

カイムは眉間にしわを寄せた。

「どこに協力してもらうか、か……革命だからな、下手に協力は仰げない」

アリアは提案した。

「それなら、辺境全部で戦ったらどう?」

家族の目がアリアに向く。

「魔獣も、魔素も、王家はなにも助けてくれない。どこでも、みんな、そう言っているじゃない」

「まあ、そうだが……」

「だから、私が女王になったら」

アリアは、はっきりと言った。

「辺境を行脚する。遠乗りは得意だもの。北も、東も、西も、南も、見捨てられてきた土地を、全部行く」

ローデリヒが、ゆっくりと笑った。

「……なるほどな」

「辺境全部で、か」

「俺たちと一緒に辺境をまわりまくったお転婆っぷりが、いい証明になるな」

エリスは、娘を見つめて、静かに言う。

「アリア、覚悟はいい?」

「もちろん」

アリアは、迷いなく答えた。

王都は、アリアの”やる気”を知らない。

聖女アリアは、城に“収まる”つもりなど一切ない。

そして――慢心と勘違いの代償を、これから払うことになる。

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  • 新解釈「聖女」   第13話

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