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第3話 王子と結婚?

Author: 酔夫人
last update publish date: 2026-01-30 16:59:14

使者が帰ったあと、応接室には何とも言えない空気が流れていた。

しばらくの沈黙を破ったのは父ローデリヒだった。

「さて……どうするか、ではないな」

ローデリヒは娘を見る。

「アリア。お前はどうしたい?」

アリアは迷うことなく答えた。

「結婚はしない」

「そうだな」

ローデリヒは満足そうに頷く。

「うちの娘が、相手の名前さえ間違えるほどのアホに嫁ぐ必要はない」

「そこは私も同感」

アリアは小さく笑う。

しかし、母エリスは表情を曇らせた。

「でも、聖女の浄化は必要よ」

部屋の空気が引き締まる。

「魔素は年々濃くなっている。このまま聖女が現れなければ、辺境だけじゃない。この国のどこかで、これからも大勢の人が苦しむわ」

アリアは黙って頷いた。

そのことは誰よりも理解している。

だからこそ、聖女になったことを嫌だとは思わなかった。

嫌なことはアホと結婚することだ。

「聖女は、やっぱり王都へ行かなきゃ駄目なんだよね」

「ええ」

エリスは静かに頷く。

「王城には魔力増幅装置があるもの」

魔塔が何代にも渡って完成させた巨大な魔導具。

聖女の浄化を何倍にも増幅し、国中へ届ける唯一の装置だった。

しかし巨大すぎて動かすことはできず、王城から持ち出すこともできない。

「つまり、聖女が王城にいればいいんだよね?」

「そういうことね」

アリアは腕を組み、小さく唸る。

「それなら教えて」

「何だ?」

ローデリヒが促す。

「どうして王子様と結婚する必要があるの?」

家族全員が一瞬黙った。

「えっと……」

フィンが口を開く。

「そう言えばそうだな」

「だよね」

アリアは満足した顔で頷く。

「だったら、結婚しなくても私がお城に住めば同じじゃない?」

確かに理屈は間違っていない。

だが、誰もすぐには反論できなかった。

「でも、どうやって城に住むの? 行儀見習いとか? まさか侍女になるとか言わないわよね」

エリスが言うと、アリアはにっこり笑った。

「もっと簡単な方法があるじゃない」

「……何かしら」

「私がお城の主になればいいのよ」

エリスは嫌な予感がした。

「アリア……」

「つ・ま・り」

アリアは満面の笑みで宣言した。

「私が王様になります!」

部屋が静まり返る。

「……何てことを考えるの、あなたは」

エリスは額に手を当てた。

「無理よ」

「そうかな?」

首を傾げる娘に頭を抱える母親とは対照的に、父親は嬉しそうだった。

「面白い」

「あなた!?」

「女王アリアか」

「悪くないな」

「むしろ見てみたい」

「王様が代わるだけだろ」

夫の発言に驚くエリスに、息子三人の同意が圧し掛かる。

「やっぱり出来るよね」

アリアは喜ぶ。

誰一人止める者がいない。

常識人は自分だけなのかとエリスは痛みが強くなった頭を抑える。

「よし」

ローデリヒは立ち上がった。

「どうやってアリアを王位に就けるか考えよう」

「本気なの!?」

ローデリヒは真顔で頷く。

「もちろんだ。名前を間違えるアホが次期王になるなら、アリアのほうがマシだ」

「それは……そうかもしれないけど」

エリスは苦笑する。

「それに聖女は絶対に必要だ」

「つまり、何をされても絶対に殺せない」

カイムとレオンハルトが頷き合う。

「あっ」

アリアの目が輝いた。

「それなら私、先陣を切りたい!」

兄たちは顔を見合わせる。

「向こうは聖女だから私を攻撃できない。でも私は攻撃できるでしょう?」

にこり。

「最強の盾、完成!」

しばし沈黙が流れる。

「……確かに」

「理屈は合ってる」

「聖女にしかできない作戦だな」

兄たちは真面目に頷いた。

「だから、ここで褒めんじゃないの!」

エリスだけが頭を抱える。

今回の聖女は、歴代でも類を見ない武闘派だった。

そして、その突拍子もない発想が、やがて王国そのものを揺るがすことになる。

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