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ผู้เขียน: 酔夫人
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-17 11:01:24

黒曜魔塔・最上階。

ルシアン・ノクスは執務室の隣、寝室のベッドの上で書類を読んでいた。

指を動かすのもおっくうで、書類を宙に浮かせて読んでいた。

「……はあ」

ため息一つで、三枚の書類がひっくり返る。

いずれも研究費削減により、研究できなくなったものだった。

「……金、かあ」

世知辛い呟きである。

 コンコン。

(……ん?)

隣の執務室と繋がった扉ではなく、廊下に繋がった扉からノックの音がした。

(珍しいな)

ルシアンのところに来るのは、研究の相談がある者ばかり。

執務室にいないと分かってそのままここに来るから、廊下側の扉を叩く者は滅多にいない。

「……誰だ?」

(清掃担当者か? 何カ月ぶりだ?)

「ルシアン・ノクス様ですか?」

「そうだが……」

(若い女性? 夜這いか?)

ルシアンは元平民だが、魔塔の主となったときに男爵位を与えられている。

一代限りの爵位だが、ルシアンは貴族女性に人気がある。

貴族は、生まれたときは貴族である。

しかし、爵位を継ぐか爵位を持つ貴族と結婚しないと、平民になってしまう。

家からの援助がある場合、かなり裕福な平民となり生活にも困らないが、「貴族です」を前面に出して「平民なんて」と笑っていた身に平民落ちは堪える。

そのため、一代限りであっても派閥なく、ついでに五月蠅い姑たちがいない爵位持ちのルシアンは好物件。

ルシアンが塔から出てこないことは有名で、結婚しても実際は単身赴任状態。

「亭主、元気で留守がいい」を地で行く、自由が約束された結婚への手形なのだ。

(……いや、夜じゃないから、”夜這い”じゃないか)

ルシアンは、夜這いを歓迎してはいないが、夜這いを拒んでもいない。

健康な成人男性なので、淡白なほうだと自覚してはいるが性欲はある。

しかし面倒臭がりなので、自慰行為で解消するよりは、夜這いされて女性リードで解消したほうが楽だと思っている。

行為によって好意を得たことはないので、結婚の「け」の字もルシアンの頭には浮かばない。

「誰だ?」

「聖女です」

「……ん?」

(いま、聖女と言ったか?)

驚いて、ルシアンは上体を起こした。

「いやいやいや、ちょっと待て。何で聖女がここに?」

「ルシアン・ノクス様に用事があるからです」

(……ん?)

「ああ、そうか。用事があったから来たのか」

「そうです」

(聖女が、何の用事で……いや、考えるのはやめよう)

ルシアンは、しばし考えたが、考えて――面倒になった。

「……どうぞ」

「開けますよー」

(元気な聖女様だな)

扉を開ける声は元気いっぱいだったが、開いた扉の先にいた女性はルシアンの中の『聖女』ってイメージに合った。

銀色の長い髪。

儚げな水色の瞳。

「聖女の、アリア・ヴァルグリムと申します」

(アリア・ヴァルグリム……ヴァルグリムって……)

きれいな、体幹のぶれないカーテシーをぼうっと見ながら、アリアの名前を脳内で再生していたルシアンは、“ヴァルグリム”の名に気づいた。

「北部辺境伯家の……」

面倒臭がりのルシアンでも、魔塔の最大スポンサーくらいはちゃんと把握していた。

「ヴァルグリム家のご令嬢が何の御用ですか?」

普段は次男のレオンハルトから武器や防具の注文を受け付けている。

ヴァルグリム家からの依頼される魔導具は、貴族のちっぽけな見栄を満足させる魔導具とは違って、役に立っていると実感できる魔導具なので魔塔でも「自分がやります」と人気の高い依頼。

魔塔全体のモチベーションアップにも欠かせない注文だ。

ルシアン自身も、友人でもあるレオンハルトから受ける依頼は、楽しいと毎回思っている。

(あれ、でも、聖女の用事できたのだったか?)

ルシアンは首を傾げる?

(聖女が俺に、何の用事だ? それに……)

「……なんで黒装束なんだ?」

(聖女と言ったら「白」じゃないのか)

そう思ったルシアンの言葉だった。

「お忍びなので」

「聖女が?」

「聖女って、お忍びでの行動はNGでしょうか」

ルシアンは考えた。

「危険じゃなければ、いいんじゃないか?」

「それなら、大丈夫です。最低限の身を護る術はありますし、フロストリンク数匹なら一人で狩れます」

アリアの言ったフロストリンクは、氷の鎖を纏った狼型の魔物。

冷気の鎖で獲物を絡め取り、動きを封じることができるほか、群れで行動することが多く連携してくるため、魔物の中でも中級クラスに属する。

(それを一人で狩れるとなると、冒険者でもBクラスでも上位……聖女が?)

「お兄様たちなら、バルグリムも一人で狩れるのですが、私は一人ではまだ……」

バルグリムは全身が氷晶で覆われた氷の巨人。

(出会った者は命を諦めろと、まさに絶望を与えるという魔物……それが“まだ”と語れるレベル……聖女が?)

とりあえず、王都の破落戸が十人以上束になっても、この女性なら大丈夫だということがルシアンには分かった。

「帰りも気をつけるんだぞ」

「ありがとうございます、ルシアン・ノクス様」

アリアは、ぺこりと頭を下げた。

カーテシーの所作が綺麗だったから、頭を下げる仕草がルシアンにはやけに幼く見えた。

(いや、元気だなー)

淑やかか嫋やかな貴族女性しか見たことのないルシアンには、アリアは新鮮だった。

「それで、聖女様がお忍びで何しにここへ?」

「はい。ルシアン様、私と結婚してください!」

「……はあ?」

ルシアンの二十五年の人生で、一番間の抜けた声が出た。

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