Alle Kapitel von エースナンバーは俺のもの: Kapitel 21 – Kapitel 30

34 Kapitel

第二十一話:退院の日、九州への再始動

十一月上旬。秋の風が冷たさを増し、福岡の街路樹は赤と黄色に染まり始めていた。早乙女球太は病院の玄関で、右腕にまだ巻かれた包帯を軽く押さえながら、深呼吸した。退院の日。医者からは「投球はまだ禁止。リハビリを継続し、12月以降に軽く投げ始めろ」と念を押されたが、球太の胸はすでにグラウンドに向かっていた。「やっと……戻れる」タクシーを降り、福丘高校のグラウンドに足を踏み入れた瞬間、懐かしい土の匂いとグラウンドの音が体に染み渡った。午後の練習中だった。選手たちが素振りをしたり、ランニングをしたり、ブルペンで投げ合ったりしている。「球太!」最初に気づいたのは伊藤翔だった。素振りを中断し、駆け寄ってくる。続いて鈴木健、キャプテンの佐藤大輔、そして篠原涼。「早乙女……退院したのか」涼が静かに近づき、右腕の包帯を見て小さく息を吐いた。球太は笑顔を作った。「みんな……ただいま。遅くなってごめん」翔が背中をバンバン叩く。「待ってたぞ! 準優勝のMVPはどこだーって、みんな言ってたんだから!」健が笑いながら言った。「包帯まだ取れてないけど……もう投げたくてウズウズしてんだろ?」球太は頷いた。「ウズウズしてる。もう我慢できねえよ」監督の山田浩二がグラウンドの中央から歩いてきた。いつもの厳しい表情だが、目が少しだけ柔らかい。「早乙女。戻ってきたか」球太は敬礼した。「はい。ただいま戻りました」監督は球太の右腕を見て、言った。「医者の許可は?」「投球禁止です。でも……走ったり、素振りしたり、リハビリはOKだって」監督は小さく頷いた。「焦るな。九州大会は来週からだ。お前はベンチからチームを見ろ。投げられない間も、頭の中でマウンドに立て」球太は頷いたが、胸の奥で「投げたい」という思いが渦巻いていた。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-18
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第二十二話:九州大会開幕、涼の5回無失点

十一月上旬。九州大会が開幕した。福岡県代表として出場する福丘高校は、初戦で宮崎代表の日向高校と対戦することになった。日向高校は夏の甲子園に出場した強豪で、投打のバランスが抜群。エースの右腕・宮崎翔太は最速152キロのストレートと鋭いスライダーを武器に、打線は機動力と長打力を兼ね備えた隙のないチームだ。福丘にとっては、九州の壁を越えるための厳しい初戦となった。試合当日、球場は九州各地から集まった観客で埋まっていた。福丘の青白い応援旗と日向の赤い旗が風に揺れ、スタンドからは太鼓の音と掛け声が響き合う。バックネット裏にはプロスカウトの姿もちらほら。涼の新球「ナックルボール」と、浜田理矩のような強打者への対策が注目されていた。ベンチで、山田監督が選手たちに最後の指示を出した。「初戦の先発は篠原だ。早乙女はベンチ待機。右腕の状態はまだ万全じゃない。無理はさせるな」球太は右腕のテーピングを軽く押さえながら、頷いた。退院して1週間。投球はまだ禁止されているが、ブルペンでの軽いキャッチボールは再開していた。今日のマウンドは涼に託される。「涼……頼んだぞ」球太の声に、涼は静かに答えた。「わかってる。ナックルは……まだ封印だ。ストレートと変化球で抑える」監督が頷いた。「そうだ。無駄に新球は使わず、確実に勝ち取れ」試合開始の笛が鳴った。1回表、日向の攻撃。先発は篠原涼。背番号1。初球、ストレート。159キロ。ミットが爆音を立てる。日向の1番打者が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をチェンジアップで三振。1回無失点。1回裏、福丘の攻撃。日向のエース・宮崎翔太のストレートは152キロ。福丘打線は初回から三者凡退。2回、3回と試合は進む。涼の投球は圧巻だった。ストレートは158~159キロを維持し、スライダーは鋭く曲がり、チェンジアップは打者の膝を抉る。日向打線は手も足も出ず、5回まで無安打無得点。涼は新球のナックルボールを一切使わず、夏まで磨いてきた基本球
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-19
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第二十三話:接戦の決着、九州への切符

九州大会初戦、福丘高校 vs 日向高校。6回裏にキャプテン佐藤大輔の右中間を破るタイムリーツーベースで先制した福丘は、1-0のリードを保ったまま試合は後半戦へ突入した。涼の投球は依然として冴え渡っていた。ストレートは158キロ台を維持し、スライダーの曲がりは鋭く、チェンジアップは打者の膝を抉るように落ちる。日向打線は夏の甲子園経験者らしく、じわじわと反撃の気配を見せ始めていたが、まだ本気を出していないようにも見えた。ベンチの球太は右腕の包帯を軽く押さえながら、息を詰めてマウンドを見つめていた。退院して間もない体はまだ重く、投げられない悔しさと、チームを信じる気持ちが交錯する。「涼……絶対に抑えてくれ」7回表、日向の攻撃。涼はマウンドに立ち、深呼吸した。肩を軽く回し、キャッチャーの西田とサインを交わす。初球、ストレート。159キロ。ミットが乾いた音を立てる。日向の7番打者が空振り三振。続く8番も三振。2アウト。しかし、9番打者に四球を与え、1番打者にセンター前ヒット。2アウト一・三塁のピンチ。スタンドがざわつく。福丘の応援団は「篠原コール」を連発するが、声にわずかな緊張が混じる。球太はベンチの柵を強く握りしめた。「ここだ……ここを抑えろ」西田がマウンドへ向かう。「涼、肩は?」涼は静かに答えた。「いける。ストレートでいく」次の打者、日向の2番。フルカウント。涼の勝負球、ストレート。バシュン!159キロ。打者が空振り三振!「バッターアウト!」7回を無失点で締めた。ベンチに戻った涼に、翔が駆け寄る。「涼! 完璧だ!」涼は肩を軽く押さえながら、息を整えた。「まだ……終わってねえ」8回表、日向の攻撃。涼は続投。肩の疲労が微かに見え始めていた。球速は158キロを維持しているが、リリースポイントがわずかに下がっている。1番打者を三振に取り、2番をセカンドゴロに打ち取る。2アウト。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-20
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第二十四話:つかの間の休日、グラウンドの外で

九州大会1回戦を1-0の完封勝利で突破した翌日、福丘高校野球部は監督の山田浩二から「完全オフ」の指示が出された。涼の完封、チームの粘り強い守備、そして球太がベンチから見守った試合の余韻が、まだ選手たちの体と心に温かく残っていた。連戦の疲労を癒すための、貴重な一日。監督は「体を休めて、頭も休めろ。今日は野球以外のことを考えろ」と言い切った。朝、寮の食堂はいつもよりのんびりした空気に包まれていた。選手たちは遅くまで寝て、ようやく顔を出し始めた。翔が大きなあくびをしながら、トーストにジャムを厚く塗っている。健がコーヒーメーカーの前で「今日は誰が淹れる?」とぼやき、大輔が新聞を広げてスポーツ欄をめくっている。涼は窓際の席で、静かにプロテインシェイクを飲んでいた。球太は右腕の包帯を軽く押さえながら、ゆっくりと食堂に入ってきた。退院して数日。まだ投球は禁止されているが、キャッチボールぐらいなら問題ない。みんなが一斉に顔を向けた。「球太! おはよ!」翔が大声で手を振る。健がコーヒーカップを差し出し、大輔が新聞を畳んで席を空けた。球太は笑顔で座り、左手でスプーンを握った。「みんな……おはよう。昨日は……お疲れ」涼が静かに言った。「早乙女。よく寝られたか?」球太は頷いた。「久しぶりにぐっすりだった。夢に……マウンドが出てきたけど、今日は投げなくていいって思ったら、なんか楽だった」翔がケーキの皿を差し出しながら笑った。「今日はオフだぞ! グラウンド禁止令が出てるんだから、どっか遊びに行こうぜ! テレビ塔でも登るか? それとも海でバーベキュー?」健が目を輝かせた。「バーベキューいいな! 肉焼いて、みんなで食おうぜ!」大輔が苦笑しながら言った。「監督に『安静にしろ』って言われてるだろ。特に球太は。無理すんなよ」球太は小さく笑った。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-20
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第二十五話:涼の快進撃、完封の壁と焦り

十一月中旬。九州大会2回戦の日。福丘高校の対戦相手は沖縄大会優勝の琉球高校。夏の甲子園ではベスト8まで進んだ経験を持ち、投打のバランスが抜群のチームだ。エースの右腕・比嘉は最速150キロのストレートと鋭いカーブを武器に、打線は機動力と長打力を兼ね備えていた。福丘にとっては、九州の壁を越えるための重要な一戦となった。 試合前日、部室で山田監督が選手たちに告げた。 「先発は篠原だ。早乙女はベンチ待機。右腕のリハビリは順調だが、まだ投球は禁止。焦るな」 球太は右腕のテーピングを軽く押さえながら、静かに頷いた。退院してから約2週間。軽いキャッチボールは再開していたが、試合で投げることはまだ許されていない。ベンチからチームを見守る日々が続いていた。 「涼……頼んだぞ」 球太の声に、涼は静かに答えた。 「わかってる。今日は……ナックルも使うつもりだ」 監督が頷いた。 「状況次第だ。だが、基本はストレートと変化球で抑えろ。琉球は粘り強い。簡単に崩すな」 試合当日、球場は九州各地から集まった観客で埋まっていた。福丘の青白い応援旗と琉球の赤と青の旗が風に揺れ、スタンドからは太鼓の音と掛け声が響き合う。バックネット裏にはプロスカウトの姿も増えていた。涼の新球「ナックルボール」と、球太の回復状況が注目を集めていた。 1回表、琉球の攻撃。先発は篠原涼。背番号1。 初球、ストレート。160キロ。ミットが爆音を立てる。琉球の1番打者が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をスライダーで三振。1回無失点。 1回裏、福丘の攻撃。琉球のエース・比嘉のストレートは150キロ台。福丘打線は初回から三者凡退。 2回、3回と試合は進む。涼の投球は圧巻だった。ストレートは159~160キロを連発し、スライダーは鋭く曲がり、チェンジアップは打者のタイミングを完全に外す。琉球打線は手も足も出
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-21
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第二十六話:リハビリのグラウンド、志願の言葉

九州大会2回戦を7-0の完封勝利で突破し、ベスト16入りを決めた翌日。福丘高校野球部はレギュラー陣に休養日を与えられた。連戦の疲労を癒すための措置だったが、グラウンドにはまだ数人の選手の姿があった。その中に、早乙女球太の姿もあった。右腕の包帯はまだ取れていないが、痛みはかなり引いていた。医者の許可を得て、軽いキャッチボールまでは再開できていた。今日は1年生の数人と一緒に、グラウンドの隅でリハビリを兼ねたキャッチボール。ボールを投げるたび、右腕にわずかな違和感はあるが、以前のような激痛はない。「球太、今日の球、だいぶキレ戻ってきたな」相手の1年生が笑顔で言う。球太は左手でグローブを叩きながら、静かに頷いた。「まだ……本気で投げてないけどな。軽くでこれなら、もう少しで……」言葉の端に、焦りが混じる。2回戦の涼の完封完投、15奪三振。ナックルボールの影も見え始め、涼との差がどんどん開いている実感が、球太の胸を締めつける。キャッチボールを終え、グラウンドのベンチに座った球太は、遠くで素振りをしている選手たちを見ていた。レギュラー陣は休養日で来ていないが、ファーストを守る2年生・藍沢拓巳の姿が目に入った。藍沢は秋季大会から昨日までの公式戦で、30打数4安打。打率.133。長打はゼロ。バットが完全に湿っているのが、誰の目にも明らかだった。球太は気づいていた。藍沢がベンチで肩を落としている姿を。打席でタイミングが合わず、空振り三振を繰り返す姿を。チームの得点源であるはずの5番が沈黙しているのは、福丘にとって痛手だった。「藍沢先輩……」球太は立ち上がり、監督室に向かった。ドアをノックし、中に入る。山田浩二監督はデスクでスコアブックを広げていた。球太の姿を見て、椅子を引いて座るよう促した。「早乙女。リハビリはどうだ」球太は椅子に座り、右腕の包帯を軽く押さえながら言った。「痛みはだいぶ引きました。軽いキャッチボールまでは出来ます。医者からは『12月以降に徐々に投げ始めれる』と言われました」監督は
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-22
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第二十七話:野手としての初打席、左中間への一撃

九州大会はベスト8をかけた3回戦に突入していた。福丘高校の対戦相手は長崎代表の修明館高校。長崎県内では伝統校として知られ、投手力に定評のあるチームだ。エースの左腕・長谷川は制球力が高く、変化球のキレが抜群。打線は下位まで切れ目がなく、守備も堅実。福丘にとっては、九州の壁を越えるための厳しい一戦となった。試合は5回まで進み、スコアは4-0で福丘がリードしていた。篠原涼の先発は序盤から冴え渡り、ストレートは158キロ台を維持。スライダーとチェンジアップで修明館打線を翻弄し、5回まで無失点。福丘打線も3回に2点、5回に2点を奪い、優位に試合を進めていた。6回表、修明館の攻撃。涼がマウンドに立つが、監督の山田浩二はベンチで球太に視線を向けた。「早乙女。準備しろ」球太は一瞬、息を止めた。右腕の包帯はまだ取れていないが、リハビリは順調。軽いキャッチボールは再開できていたが、公式戦での投球はまだ許可されていない。だが、監督の言葉は「守備」だった。「藍沢が……少し疲労が見える。6回から、お前がファーストを守れ」球太は立ち上がり、藍沢拓巳のファーストミットを借りた。藍沢はベンチで肩を落としながらも、球太にミットを渡した。「頼むぞ、球太。俺の分まで……守ってくれ」球太は頷き、グラウンドへ向かった。初めての公式戦での野手出場。右腕は使えないが、守備位置につく。ファーストの土を踏む感触が、懐かしくも新鮮だった。6回表、涼が三者凡退に抑え、試合は7回へ。7回表、修明館の攻撃。涼が続投し、無失点で抑える。スコアはまだ4-0。7回裏、福丘の攻撃。2アウトから翔が四球を選び、大石がセンター前ヒットで一・三塁。打席は球太。監督のサインは「打て」。球太はバッターボックスに立った。右腕は上手く使えないが、バットは左手で握る。打席に立つのは、投手としてではなく、野手として初めての公式戦。修明館の投手・長谷川の初球、外角低めスライダー。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。球太はファウルで粘る。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-22
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第二十八話:準々決勝のバット、ベスト4の観戦席

九州大会準々決勝。福丘高校はベスト4進出をかけて、熊本代表の熊本東高校と対戦した。相手は投手力に定評のあるチームで、エースの右腕・松永は最速148キロのストレートとキレのあるカーブを武器にしていた。福丘にとっては、九州の壁を越えるための重要な一戦となった。 この日のスタメン発表で、球太は7番ファーストとして初めて公式戦のスタメンに名を連ねた。右腕の包帯はまだ取れていないが、監督の判断で守備と打撃に限定して出場が許可された。藍沢拓巳はベンチスタート。監督は球太に言った。 「早乙女。お前のバットで、チームを引っ張れ。守備は無理はするな」 球太は深く頭を下げた。 「はい。俺……打って、守って、勝たせます」 試合は序盤から福丘ペースだった。涼の先発はストレートが159キロをマークし、ナックルボールも交えて熊本東打線を翻弄。初回から点を奪い、3-0でリード。 球太の初打席は1回裏、2死二塁。相手投手の松永の初球、外角低めスライダー。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。 三球目、真ん中やや低めストレート。球太のバットが振り抜かれる。 カキーン! 打球はライト線へ。フェンス直撃の二塁打! ランナーが生還し、福丘が追加点。スコア4-0。 球太は二塁ベースで拳を握った。ベンチから歓声が上がる。翔が叫ぶ。 「球太! すげえ一発!」 3回裏、2打席目。1死満塁のチャンス。松永の初球、チェンジアップ。球太はタイミングを合わせてフルスイング。 カキーン!! 打球は左中間へ。高く、遠く……スタンドへ吸い込まれる。 グランドスラム! スコア9-0。球太はゆっくりダイヤモンドを回り、ホームを踏んだ。チームメイトがベンチから飛び出し、球太を迎える。涼が静かに近づき、肩を叩いた。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-23
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第二十九話:準決勝前、久々の実家と家族の声

九州大会準決勝は、あと2日後に迫っていた。福丘高校野球部は準々決勝を快勝し、ベスト4進出を決めたばかり。チームは勢いに乗っていたが、連戦の疲労は確実に蓄積されていた。山田監督は「準決勝まで完全休養日を設ける」と言い、選手たちに自由時間を与えた。グラウンドでの練習は禁止。体を休め、頭をリセットし、次の試合に備えろ、という監督の判断だった。選手たちはそれぞれの時間を過ごすことにした。翔は地元の友達とゲームセンターへ、健は実家に帰って母親の手料理を食べに、大輔は寮で映画を見ながら体を休める。涼は一人でジムに行き、肩のコンディションをチェックしながら軽く筋トレをしていた。球太は、久々に実家に帰ることにした。退院してから約1ヶ月。右腕の包帯はついに外れ、医師から「自由に動かして構わない。ただし、投球はまだ禁止。12月以降に徐々に」との許可が出ていた。右手はまだ完全ではないが、肘を曲げ伸ばし、指を動かす分には痛みはほとんどなくなっていた。握力も少しずつ戻り始めていた。朝、寮の玄関でリュックを背負った球太は、みんなに声をかけられた。「球太、実家か。ゆっくり休めよ」翔が手を振る。健が笑顔で言った。「母親の手料理、食べてこいよ。俺みたいに太るなよ」球太は笑って答えた。「わかった。みんなも……体、休めてくれ。準決勝、絶対勝とう」涼が最後まで見送りに来て、静かに言った。「早乙女。家族に……ちゃんと話せよ。お前の今の気持ちを」球太は頷いた。「ああ。ありがとう、涼」電車に揺られ、約1時間半。球太の実家は福岡市郊外の小さな住宅街にあった。駅から歩いて15分。見慣れた道、懐かしい匂い。実家の門をくぐると、母親が玄関で待っていた。「球太! おかえり!」母親の声が弾む。球太はリュックを下ろし、母親を抱きしめた。右腕がまだ少し痛むが、構わなかった。「ただいま……母さん」父親も仕事から早めに帰ってきていた。リビングで家族3人が揃うのは、夏の大会以来だった
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-23
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第三十話:準決勝、沈黙のマウンド

十月下旬。九州大会は準決勝の日に突入した。 福岡市内の市民球場は、九州各地から集まった観客で埋め尽くされていた。福丘高校のスタンドは青と白の応援旗で染まり、太鼓の音が響き渡る。 対戦相手は鹿児島代表の薩摩実業高校。夏の甲子園ではベスト8まで進んだ経験を持ち、投打のバランスが抜群の強豪だ。エースの右腕・黒木は最速154キロのストレートと鋭いフォークを武器に、打線は1番から9番まで切れ目がない。福丘にとっては、九州の頂点に立つための最大の試練となった。 試合開始前、ベンチでスターティングメンバーが発表された。監督の山田浩二が静かに読み上げる。 「先発ピッチャー……佐藤大輔。キャッチャー鈴木健。ファースト……早乙女球太」 選手たちの間に小さなざわめきが起きた。篠原涼の名前が、スタメンにない。ベンチスタートだ。 涼は肩にテーピングを巻いたまま、ベンチの端に座っていた。監督が涼に視線を向ける。 「篠原。ここまでの連戦で肩に疲労が溜まっている。今日は大事を取ってベンチスタートだ。状況次第で上がるが、無理はさせん」 涼は静かに頷いた。表情は変わらないが、肩を軽く押さえる仕草に、疲労の色がにじむ。 球太は右腕のテーピングを軽く押さえながら、監督を見た。監督は球太に言った。 「早乙女。お前はファーストで先発だ。藍沢はベンチ待機。守備は無理をするな。だが……打席では、思い切り振れ」 球太は深く頭を下げた。 「はい。俺……打って、守って、チームを勝たせます」 スタメン発表後、
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-24
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