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第二十五話:涼の快進撃、完封の壁と焦り

作者: ちばぢぃ
last update 最終更新日: 2026-02-21 10:00:15

十一月中旬。九州大会2回戦の日。福丘高校の対戦相手は沖縄大会優勝の琉球高校。夏の甲子園ではベスト8まで進んだ経験を持ち、投打のバランスが抜群のチームだ。エースの右腕・比嘉は最速150キロのストレートと鋭いカーブを武器に、打線は機動力と長打力を兼ね備えていた。福丘にとっては、九州の壁を越えるための重要な一戦となった。

試合前日、部室で山田監督が選手たちに告げた。

「先発は篠原だ。早乙女はベンチ待機。右腕のリハビリは順調だが、まだ投球は禁止。焦るな」

球太は右腕のテーピングを軽く押さえながら、静かに頷いた。退院してから約2週間。軽いキャッチボールは再開していたが、試合で投げることはまだ許されていない。ベンチからチームを見守る日々が続いていた。

「涼……頼んだぞ」

球太の声に、涼は静かに答えた。

「わかってる。今日は……ナックルも使うつもりだ」

監督が頷いた。

「状況次第だ。だが、基本はストレートと変化球で抑えろ。琉球は粘り強い。簡単に崩すな」

試合当日、球場は九州各地から集まった観客で埋まっていた。福丘の青白い応援旗と琉球の赤と青の旗が風に揺れ、スタンドからは太鼓の音と掛け声が響き合う。バックネット裏にはプロスカウトの姿も増えていた。涼の新球「ナックルボール」と、球太の回復状況が注目を集めていた。

1回表、琉球の攻撃。先発は篠原涼。背番号1。

初球、ストレート。160キロ。ミットが爆音を立てる。琉球の1番打者が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をスライダーで三振。1回無失点。

1回裏、福丘の攻撃。琉球のエース・比嘉のストレートは150キロ台。福丘打線は初回から三者凡退。

2回、3回と試合は進む。涼の投球は圧巻だった。ストレートは159~160キロを連発し、スライダーは鋭く曲がり、チェンジアップは打者のタイミングを完全に外す。琉球打線は手も足も出ず、5回まで無安打無得点。涼は5者連続三振を含む、すでに10個の三振を奪っていた。

ベンチの球太は、右腕を押さえながら、息を飲んで見つめていた。

「涼……すげえ。ナックル、まだ使ってないのに、ここまで抑えてる」

健が隣で呟いた。

「ストレートが走りすぎだろ。あの球、打てねえよ」

均衡が破れたのは5回裏、福丘の攻撃だった。

先頭の翔がレフト前ヒット。続く大石が四球で一・二塁。打席は涼。

比嘉の初球、外角低めスライダー。涼は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中やや高めストレート。涼のバットが振られる。

カキーン!

打球はセンターオーバー。フェンス直撃のタイムリー二塁打! 翔が生還。福丘が先制、1-0!

さらに続く打者がヒットで続き、この回だけでさらに4点を奪う。5回終了時点で5-0。

6回表、琉球の攻撃。涼は続投。

ここで、涼が新球を投入した。ナックルボール。

初球、ナックル。ボールは不規則に揺れながら、130キロ前後でミットに吸い込まれる。打者が空振り三振!

続く打者もナックルで三振。3番打者にヒットを許すが、4番をストレートで三振。この回も無失点。

スコアは7-0に広がり、試合は福丘ペースで進んだ。

9回表。涼はマウンドに立つ。すでに140球を超えていたが、肩はまだ上がる。最終回、琉球の反撃を許さず、三者凡退。三振2つを追加し、合計17個の三振。

試合終了! 福丘高校の勝利。7-0。

完封勝利。涼の完投完封。プロスカウトのノートに、何かが書き込まれる音が聞こえるようだった。

グラウンドに歓声が響く。選手たちがマウンドに駆け寄る。涼は肩を押さえながら、土に膝をついた。翔が背中を抱き上げる。

「涼! 完封だぞ! 17奪三振! 怪物すぎる!!」

涼は息を切らしながら笑った。

「みんな……ありがとう」

ベンチから球太が立ち上がり、ゆっくりマウンドへ向かった。右腕を押さえながら、涼と目が合う。

「涼……すげえよ。完封、17奪三振……ナックルも使って……」

涼は球太の肩に手を置いた。

「お前がベンチで見ててくれたからだ。次は……お前の番だ」

球太は頷いた。だが、胸の奥で何かがざわついた。

「俺……どんどん、差が開いてる」

涼のストレートは160キロに迫り、新球のナックルは高校生ではほぼ打てない。球太の最高球速はまだ158キロ。リハビリ中で、投げられない日々が続く。

「俺……焦ってる」

夜、寮に戻った球太はベッドに横になり、右腕を天井に向けた。包帯の下の痛みは、まだ消えない。

「涼……お前、どんどん強くなってる。俺は……置いてかれてる」

悔しさと焦りが、胸を締めつける。ベンチから見守る日々。チームは勝っているのに、自分だけが取り残されている感覚。

「俺も……投げたい」

涙が一筋、頰を伝う。でも、その涙は、諦めじゃなかった。

「来年の夏……絶対に、追いつく」

窓の外で、秋の夜風が吹いていた。九州大会は、まだ続く。球太のマウンドは、まだ遠い。でも、焦りは、力になる。

「俺……負けねえ」

福丘高校の闘いは、静かに、しかし確実に続いていた。

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