Alle Kapitel von エースナンバーは俺のもの: Kapitel 11 – Kapitel 20

34 Kapitel

第十一話:新チームの始まり、背番号の影

九月に入り、福丘高校野球部は完全に新チームへと移行していた。3年生の引退により、部室のロッカーは一気に空き、グラウンドの空気もどこか新鮮で、しかし重い。夏の準決勝敗退の傷はまだ癒えていない。特に球太にとっては、初めて味わった「本物の挫折」が、心の底に沈殿したままだった。朝練の集合時間。山田監督がグラウンド中央に全員を並べた。新チームのキャプテンは3年生から2年生の佐藤大輔(夏のエースだった左腕)が引き継ぎ、監督の横に立っている。「今日から正式に新チームだ。秋季大会まで、約一ヶ月。目標はもちろん、九州大会出場、そして甲子園予選突破。だが……それ以前に、俺たちは一つにならなきゃいけない」監督の視線が、新入生たちに向けられる。特に球太と涼の二人に止まった。「早乙女、篠原。お前たちは夏の準決勝で、チームを背負った。結果は負けだったが、あの投球は無駄じゃない。来年の夏、お前たちが中心になる」球太は地面を見つめたまま、黙って聞いていた。涼は静かに頷くだけ。監督が続けた。「背番号は、今日発表する。ピッチャー陣を中心に、序列を明確にする。エースナンバー……背番号1は、篠原涼だ」グラウンドに小さなどよめきが起きた。涼は表情を変えずに、ただ「はい」と答えた。球太は隣で、拳を強く握りしめた。胸の奥で、何かがチリチリと痛んだ。背番号発表のリストが部室の壁に貼り出された。- 背番号1:篠原涼(投手)- 背番号10:早乙女球太(投手)- 背番号11:佐藤大輔(投手/新キャプテン)- 背番号18:鈴木健(捕手)球太はリストの前で立ち尽くした。10番。エースナンバーから遠い番号。夏の背番号18から上がったとはいえ、涼の「1」と並ぶことはなかった。翔が近づいてきて、肩を叩いた。「10番か……悪くねえじゃん。来年は1番だろ?」球太は無理に笑った。「そうだな……」練習が始まった。新チーム初の紅白戦。新入生・2年生混成チーム
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-11
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第十二話:秋の紅白戦、10番の意地

九月中旬。福岡の空はまだ夏の名残を残しながら、朝夕の風に少しずつ秋の気配が混じり始めていた。福丘高校野球部のグラウンドでは、新チームとしての本格的な練習が続いていた。秋季福岡大会の初戦まで、あと三週間。監督の山田は「まずはチームの形を固める」と言い、毎日紅白戦を繰り返していた。朝練のランニングが終わった後、球太はいつものようにブルペンへ向かった。背番号10のユニフォームを着て、グローブをはめ、キャッチャーミットを構えるのは健だ。「球太、今日の紅白戦、先発だってよ。気合い入ってる?」健の声に、球太は小さく頷いた。「入ってる……つもりだ」だが、その声にはまだ自信が足りなかった。夏の準決勝から一ヶ月。練習では少しずつ球速が戻り始め、フォークの落ち幅も復調の兆しを見せていた。それでも、球太の胸には「崩れるかもしれない」という恐怖が、薄い膜のように張り付いていた。今日の紅白戦は、新チーム初の「本番形式」。混成チーム(主に1年生+一部2年生)対主力チーム(2年生中心)。監督は「背番号の意味を、今日のマウンドで証明しろ」と言い放っていた。球太は混成チームの先発。対する主力チームの先発は、背番号1の篠原涼。二人はマウンドに向かう途中で、軽く言葉を交わした。「今日も……よろしくな、早乙女」涼の声はいつも通り静かだった。球太は目を逸らさず答えた。「負けねえよ。10番だって……ちゃんと投げる」涼は小さく口角を上げた。「楽しみにしてる」試合開始の笛が鳴った。1回表、混成チームの攻撃。涼のマウンド。初球、ストレート。157キロ。ミットが鳴る音がグラウンド全体に響く。福丘の新チーム1番打者が空振り三振。続く打者も三振。3番の翔がようやくレフト前ヒットを放つが、後続が倒れ、無得点。1回裏。混成チームの守備。球太がマウンドに立つ。健がミットを構え、低く言った。「球太。いつも通りだ。俺が全部
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-12
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第十三話:監督との衝突、10番の叫び

九月下旬。秋季福岡大会の初戦まであと二週間を切った頃、福丘高校野球部のグラウンドは連日の猛練習で土が削れ、選手たちのユニフォームは泥と汗で固まっていた。新チームは形になりつつあったが、監督の山田浩二はまだ満足していなかった。「もっとだ。もっと走れ! もっと振れ! 秋季大会で勝つチームは、こんなもんじゃねえ!」朝練のランニングが終わった後も、監督は全員に追加のダッシュを命じた。球太はすでに息が上がっていたが、黙って走り続けた。背番号10のユニフォームが汗で重く張り付き、足が鉛のように感じる。それでも、止まらなかった。夏の挫折以降、球太は「止まったら終わりだ」という思いで、自分を追い込んでいた。午後の紅白戦。今日のメニューは「ピッチャー対決」。球太と涼が交互に登板し、チーム内の序列を再確認する形だった。球太は混成チームの先発。対する主力チームの先発は涼。監督はベンチから腕組みをして、二人の投球をじっと見つめていた。1回表、球太のマウンド。初球、ストレート。152キロ。ミットに収まる音が乾いている。打者が空振り三振。続く打者も三振。3番に四球を与えるが、4番をフォークで三振。1回無失点。ベンチに戻ると、健がハイタッチを求めた。「球太、いいぞ! 今日のストレート、キレてる!」球太は小さく頷いたが、表情は硬い。まだ、夏の記憶が頭をよぎる。2回、3回と進む。球太は3回まで1失点。失点は甘く入ったスライダーを捉えられたものだったが、崩れはしていない。球速は153キロまで上がり、フォークの落ち幅も戻りつつあった。4回表。混成チームの攻撃で、球太の打席。涼の初球、外角低めスライダー。球太は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。三球目、真ん中低めストレート。球太のバットが振られる。カキーン!打球はレフト線へ。フェンス直撃の二塁打!球太は二塁ベースで息を整えながら、監督を見た。監督は無表情だったが、わずかに頷いているように見えた。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-12
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第十四話:秋季大会初戦、10番の証明

十月上旬。秋季福岡大会が開幕した。福丘高校は南部地区のシード校として、初戦はベスト32からのスタート。相手は公立の強豪・筑紫中央高校。夏の大会では福丘に敗れたチームだが、秋は新チームで巻き返しを図っており、打線に勢いがある。 試合前日、部室で山田監督が最終確認をした。 「初戦の先発は篠原。早乙女は中継ぎ待機。ピンチになったら、すぐ上がれ」 球太は背番号10のユニフォームを着て、静かに頷いた。夏の準決勝以降、球太は練習で球速を154キロまで戻し、フォークの精度も向上していた。監督との衝突以降、監督の視線が厳しくなった分、球太は「見返してやる」という思いで毎日自分を追い込んでいた。 監督が球太を見て、言った。 「早乙女。お前は10番だ。夏のことは忘れろ。今日、お前の球でチームを勝たせろ」 球太は目を合わせ、はっきり答えた。 「はい。絶対に、投げます」 涼が隣で小さく頷いた。 試合当日。球場は秋晴れ。スタンドには地元ファンと両校の応援団が詰めかけ、太鼓の音が響く。気温は25度前後。夏の猛暑とは違い、風が涼しく感じる。 1回表、福丘の攻撃。筑紫中央の先発は2年生右腕・松本。球速145キロ台だが、制球が良く、変化球が多彩。福丘打線は初回から三者凡退。 1回裏。福丘の守備。マウンドに立つ涼。背番号1。 初球、ストレート。158キロ。ミットが爆音を立てる。筑紫中央の1番が空振り三振。2番も三振。3番に四球を与えるが、4番をチェンジアップで三振。 涼は1回無失点。ベンチに戻ると、球太が声をかけた。 「いい球だな。今日も……完璧だ」 涼は肩を軽く回しながら答えた。 「まだ始まったばかりだ。お前も準備しとけ」 試合は2回、3回と進む。涼の投球は圧巻だった。ス
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-13
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第十五話:2回戦、背番号10の執念と1番の限界

十月上旬の週末、秋季福岡大会2回戦。初戦の筑紫中央高校戦を4-1で勝利してから、わずか3日後。選手たちは疲労を溜め込みながらも、球場へと向かった。福丘高校の対戦相手は福岡東海高校。夏の大会ではベスト8に進出した強豪で、新チームになってからは打線の爆発力が増し、特に3番から5番のクリーンナップは「東海の三銃士」と呼ばれていた。先発ピッチャーは3年生左腕・藤田。ストレートは148キロ程度だが、抜群の制球力と鋭いスライダー・チェンジアップで、福丘打線を苦しめるタイプだ。前日の夜、寮の部屋で球太はベッドに座り、グローブを膝に置いて黙っていた。隣の健が、夕食後の菓子パンをかじりながら声をかける。「球太、明日2回戦だぞ。藤田の左腕、厄介だって監督が言ってた。涼が先発で、お前は中継ぎ待機……でも、絶対投げたいって顔してるな」球太はグローブの紐を指でいじりながら、ぼそっと答えた。「投げたい。初戦で156キロ出せたけど……まだ、足りねえ。監督の目が、俺に『もっとだ』って言ってる気がする」健はパンを飲み込んで、笑った。「監督とぶつかってから、お前ほんと変わったよ。夏の頃は、涼の背中ばっか見て縮こまってたのに、今は自分のマウンド取りに来てる」球太は小さく息を吐いた。「縮こまってたのは……怖かったからだ。あの7回で崩れた瞬間、もう二度とマウンドに立ちたくないって思った。でも、監督に『意地でも投げたい』って叫んだら……なんか、吹っ切れたんだ」健は頷いた。「吹っ切れたなら、明日も行けよ。10番の意地、見せてくれ」球太はグローブを握りしめ、静かに言った。「見せるよ。俺の球で……勝つ」試合当日。球場は秋晴れ。スタンドは初戦よりさらに埋まり、福丘の青白い応援旗と東海の赤黒い旗が激しく揺れる。気温は23度。風が強く、グラウンドの土が舞い上がる。試合開始前、ベンチで山田監督が選手たちに指示を出した。「藤田は左腕で、ストレートは速くないが、変化球のキレが抜群だ。篠原は先発でいく。早乙女は中継ぎ待
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-13
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第十六話:3回戦先発、因縁の龍門とプロの視線

十月中旬。秋季福岡大会は南部地区のベスト8に突入していた。2回戦の福岡東海高校戦を4-1で勝利してから、福丘高校は勢いに乗っていた。3回戦の相手は、夏の大会準決勝で福丘を涙に沈めた因縁のチーム――龍門高校。夏の悔しさを胸に、新チームとして再び対峙する試合。会場となる福岡市内の市民球場には、すでにプロ野球のスカウトが数名姿を見せていた。球太の耳にも、その噂は届いていた。前日の夜、部室でのミーティング。山田監督が選手たちを前に、静かに告げた。「3回戦の先発は……早乙女球太だ」部室に小さなどよめきが起きた。球太は一瞬、息を止めた。監督の視線がまっすぐに球太に向けられる。「篠原は2回戦で7回まで投げ、肩に疲労が残っている。明日は大事を取って登板を回避する。早乙女、お前が先発だ。龍門は夏と同じ打線が中心。夏の準決勝の記憶は、お前が一番よく知っているはずだ」球太は立ち上がり、背筋を伸ばした。声が少し震えたが、はっきりと言った。「はい。俺が……投げます」監督は小さく頷いた。「プロのスカウトも来ている。だが、気にするな。お前は自分の野球をしろ。10番の意地を、今日のマウンドで証明しろ」涼がベンチの端から静かに言った。「早乙女……任せた。お前の球なら、龍門を抑えられる」球太は涼を見て、拳を握った。「わかった。夏の借りを……明日必ず返してやる」その夜、寮の部屋で球太は眠れなかった。グローブを枕元に置き、天井を見つめる。健がベッドから声をかけた。「球太、明日先発だってな。龍門か……夏の準決勝の相手だぞ」球太は小さく息を吐いた。「そうだ。あの7回……俺が崩れて、涼の肩を無理に使わせて……負けた。あの悔しさ、全部マウンドにぶつける」健は天井を見上げながら言った。「プロのスカウトも来てるってよ。お前の球、今日見られるぞ」球太は目を閉じた。「見られても……いい。俺は俺の野球をする。でも…
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-14
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第十七話:疲労の果て、背負う覚悟

秋季福岡大会3回戦を終えた翌朝、福丘高校野球部の寮は静かだった。昨日の龍門高校戦は、球太の完投勝利(4-1)で終わった。158キロのストレート、鋭く落ちるフォーク、夏の因縁を断ち切ったあのマウンドの記憶は、まだ球太の体に鮮やかに残っていた。 しかし、今朝の球太はベッドから起き上がるのも一苦労だった。 右腕をゆっくり動かすと、肩から肘にかけて鈍い痛みが走る。腰も重く、足首が少し腫れているような感覚。昨日の試合で投げた球数は、公式記録で128球。練習を含めれば130球を超えていた。初めて一人で130球を投げ抜いた体は、まるで鉛を詰め込まれたように重かった。 寮の部屋で、球太はベッドの端に座ったまま、右腕を軽く回した。痛みはないわけではないが、動かせないほどではない。隣のベッドで健が目を覚まし、ぼんやりした声で言った。 「球太……まだ寝てていいぞ。今日は午前中オフだって監督が言ってた」 球太は首を振った。 「いや……起きる。体、動かさないと固まる」 立ち上がろうとして、膝が少しガクッとなった。健が慌てて支える。 「マジで無理すんなよ。昨日、完投したんだぞ。130球だぞ」 球太は苦笑した。 「わかってる。でも……次の試合、2日後だろ。休んでる時間なんてねえよ」 健はため息をついた。 「龍門倒したばっかなのに……次は準々決勝だぞ。相手は北部地区の強豪・北九州学園だって。ピッチャー陣が揃ってるって噂だ」 球太はグローブを手に取り、指で握りしめた。 「知ってる。だから……俺が投げなきゃ」 午前中のオフ時間。選手たちは寮の食堂で遅めの朝食を取っていた。球太はパンとプロテインシェイクを口に運びながら、右腕を軽く揉んでいた。そこに涼がトレイを持って近づいてきた。 「早乙女。体、大丈夫か?
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-15
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第十八話:突然の崩壊、マウンドの果て

十月中旬。秋季福岡大会準々決勝当日。福丘高校の対戦相手は北九州学園高校。北部地区の強豪で、投手陣が厚く、打線もバランスが取れたチームだ。夏の大会では福丘とは当たらなかったが、今年の秋は九州大会出場を本気で狙っている。朝、球太は寮のベッドからゆっくり起き上がった。右腕を回すと、まだ重い。肩から肘にかけて鈍い痛みが残り、腰も固まっている。3回戦の龍門戦で投げた128球の疲労が、2日経った今も体に染みついていた。それでも、球太は鏡の前で深呼吸した。「投げられる……。今日も、投げる」球場に着くと、すでにスタンドは両校の応援団で埋まっていた。福丘の青白い旗と北九州学園の緑黒の旗が風に揺れる。バックネット裏にはプロスカウトの姿も数名。球太はベンチからその視線を感じながら、ブルペンへ向かった。ブルペンでの投球練習。健がミットを構える。初球、ストレート。球太は腕を振り抜いた。シュッ……!健のミットに収まる音が乾いている。球速表示板は157キロを示した。「いい球だ!」健が声を上げる。球太も頷いた。「走ってる……。体、重いけど……球は出てる」フォークも鋭く落ち、スライダーもキレがある。球太は納得した。ブルペンではいつも通り、いや、むしろ調子がいい。監督がブルペンのフェンス越しに見守り、静かに頷いていた。試合開始30分前。ベンチで監督が最終確認。「先発は早乙女だ。篠原はベンチ待機。早乙女、お前のマウンドだ。北九州学園の打線は長打力がある。だが、お前の球なら抑えられる」球太は立ち上がり、声を張った。「はい。俺が……投げます」監督は球太の目を見て、言った。「無理はするな。だが……信じてるぞ」試合開始のサイレンが鳴った。1回表、福丘の攻撃。北九州学園の先発は3年生右腕・岡本。球速150キロ台のストレートと鋭いスプリットで、福丘打線を三者凡退に抑える。1回裏。福丘の守
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-16
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第十九話:病院のベッドから見る空、再生への第一歩

病院の個室は静かだった。白い壁、カーテン越しに差し込む柔らかな秋の陽光、点滴の滴る音だけが響く。早乙女球太はベッドに横たわり、右腕を固定されたまま天井を見つめていた。意識が戻ってから丸一日が過ぎていたが、まだ体は重く、頭の中は昨日のマウンドの記憶でいっぱいだった。「158キロ……出なかった」球太は小さく呟いた。ブルペンでは走っていたはずの球が、試合開始直後には140キロ前半しか出なかった。あの瞬間、腕に力が入らず、視界が揺れて、膝から崩れ落ちた感覚がまだ体に残っている。ドアが静かに開き、監督の山田浩二が入ってきた。いつもは厳しい表情の監督が、今日は少しだけ穏やかだった。手に持った紙袋をベッドサイドのテーブルに置き、椅子を引き寄せて座る。「監督……」球太は体を起こそうとしたが、監督が手で制した。「動くな。まだ安静だ」監督は紙袋からスポーツドリンクとバナナを取り出し、球太の前に置いた。「医者から聞いた。過度の疲労と右肩の炎症。腱板に軽い損傷があるが、断裂ではない。3~4週間は投球禁止。リハビリ次第で、年内には投げられる可能性はある」球太は天井を見上げ、唇を噛んだ。「……年内、ですか」監督は静かに頷いた。「焦るな。お前はまだ1年生だ。来年の夏まで時間はある」球太の目が潤んだ。「でも……準決勝、俺がいなくて……みんなに負担を……」監督は小さく息を吐いた。「準決勝は……涼が先発で投げた。7回2失点で締めて、チームは勝った。スコアは3-2。九州大会出場が決まった」球太は目を閉じた。涙が頰を伝う。「涼が……俺の代わりに」監督は静かに言った。「篠原は肩の疲労を抱えながらも、投げた。お前が3回戦で完投した分、篠原が準決勝で応えた。お前たちは……互いに背中を預け合ってる」球太は声を絞り出した。「俺……投げたかった。監督に『信じてる』って言
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-17
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第二十話:決勝のテレビ、遠くのマウンド

病院の個室は、午後1時を過ぎると静寂に包まれた。カーテンを少し開けると、秋の陽が斜めに差し込み、白いシーツに淡い影を落とす。早乙女球太はベッドに上体を起こし、右腕を固定したまま、リモコンを左手で操作した。テレビの画面が点き、福岡放送のスポーツ中継が映し出される。「秋季福岡大会決勝 福丘高校 vs 神座高校 現在1回表、神座の攻撃!」アナウンサーの声が響く。球太は息を詰めて画面を見つめた。準決勝で自分が倒れた後、チームは篠原涼の先発完投で勝ち上がり、決勝まで進んだ。今日がその決勝の日だ。対戦相手は神座(かむくら)高校。ここ5年間は地区予選止まりのチームだったが、今年は違う。1年生の内野手・浜田理矩(はまだ りく)が加入して以来、チームにまとまりが生まれた。浜田は決勝までの5試合で5本のホームランを放ち、打率.550を超える活躍。プロのスカウトからも「今年の高校生No.1内野手候補」と注目を集めていた。球太や涼と同じく、プロの視線が集まる存在だ。球太は画面に映る浜田の姿をじっと見つめた。背番号3、ショートを守る左打ちの1年生。バットが振り抜かれるたび、スタンドがどよめく。「浜田理矩……すげえ打者だ」試合は1回表、神座の攻撃から始まった。先発は篠原涼。背番号1を背負った涼の初球、ストレート。球速表示板に159km/hの数字が出る。スタンドが沸く。1番打者を三振に取り、2番をセカンドゴロに打ち取る。しかし、3番・浜田理矩が打席に入る。涼の初球、外角低めスライダー。浜田のバットが火を噴くように振られる。カキーン!!打球はレフトスタンドへ一直線。1打席目で先制ソロホームラン。スコア0-1。球太はベッドの上で拳を握りしめた。「くそ……」続く4番に四球を与え、5番にタイムリー二塁打を打たれ、0-2。2回表、福丘の攻撃。1点を返し、1-2。2回裏、神座の攻撃。浜田の2打席目。涼のストレートを捉え、レフトへ2ランホームラン。1-4。球太はテレビを睨みつけた
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-02-18
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