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第二十三話:接戦の決着、九州への切符

作者: ちばぢぃ
last update 最終更新日: 2026-02-20 09:45:54

九州大会初戦、福丘高校 vs 日向高校。6回裏にキャプテン佐藤大輔の右中間を破るタイムリーツーベースで先制した福丘は、1-0のリードを保ったまま試合は後半戦へ突入した。涼の投球は依然として冴え渡っていた。ストレートは158キロ台を維持し、スライダーの曲がりは鋭く、チェンジアップは打者の膝を抉るように落ちる。日向打線は夏の甲子園経験者らしく、じわじわと反撃の気配を見せ始めていたが、まだ本気を出していないようにも見えた。

ベンチの球太は右腕の包帯を軽く押さえながら、息を詰めてマウンドを見つめていた。退院して間もない体はまだ重く、投げられない悔しさと、チームを信じる気持ちが交錯する。

「涼……絶対に抑えてくれ」

7回表、日向の攻撃。涼はマウンドに立ち、深呼吸した。肩を軽く回し、キャッチャーの西田とサインを交わす。初球、ストレート。159キロ。ミットが乾いた音を立てる。日向の7番打者が空振り三振。続く8番も三振。2アウト。

しかし、9番打者に四球を与え、1番打者にセンター前ヒット。2アウト一・三塁のピンチ。

スタンドがざわつく。福丘の応援団は「篠原コール」を連発するが、声にわずかな緊張が混じる。球太はベンチの柵を強く握りしめた。

「ここだ……ここを抑えろ」

西田がマウンドへ向かう。

「涼、肩は?」

涼は静かに答えた。

「いける。ストレートでいく」

次の打者、日向の2番。フルカウント。涼の勝負球、ストレート。

バシュン!

159キロ。打者が空振り三振!

「バッターアウト!」

7回を無失点で締めた。ベンチに戻った涼に、翔が駆け寄る。

「涼! 完璧だ!」

涼は肩を軽く押さえながら、息を整えた。

「まだ……終わってねえ」

8回表、日向の攻撃。涼は続投。肩の疲労が微かに見え始めていた。球速は158キロを維持しているが、リリースポイントがわずかに下がっている。1番打者を三振に取り、2番をセカンドゴロに打ち取る。2アウト。

しかし、3番打者に四球を与え、4番にレフト前ヒット。2アウト一・三塁。

再びピンチ。監督の山田が立ち上がる。

「篠原、降りろ!」

涼は首を振った。

「監督……あと1イニング、ください」

監督は唇を噛み、静かに頷いた。

「わかった。だが、次にランナーを進めたら即交代だ」

涼の次の投球。ストレート。158キロ。打者が空振り三振!

「スリー! アウト!」

8回も無失点。スコアはまだ1-0。福丘のリードは保たれている。

8回裏、福丘の攻撃。日向の宮崎翔太は疲労が見え始めていた。2アウトから翔が四球を選び、続く大石がセンター前ヒットで一・三塁。

打席は涼。宮崎の初球、外角低めスライダー。涼は見逃しストライク。二球目、内角ストレート。ファウル。

三球目、真ん中低めストレート。涼のバットが振られる。

カキーン!

打球はライト線へ。フェンス際まで伸びる……ライトがダイビングキャッチ! アウト!

チャンスを生かせず、1-0のまま最終回へ。

9回表、日向の最後の攻撃。涼はマウンドに立つ。肩を押さえながら、深呼吸。スタンドの「篠原コール」が一層大きくなる。

1番打者を三振に取り、2番をセカンドゴロに打ち取る。2アウト。

しかし、3番打者に四球を与え、4番にレフト前ヒット。2アウト一・三塁の絶体絶命のピンチ。

ベンチの球太は立ち上がり、右腕を押さえながら祈るように見つめた。

「涼……ここだ」

西田がマウンドへ向かう。

「涼、最後だ。ストレートでいくぞ」

涼は頷いた。

次の打者、日向の5番。フルカウント。涼の勝負球、ストレート。

159キロ!

打者が空振り三振!

「バッターアウト!」

試合終了! 福丘高校の勝利。1-0。

グラウンドに歓声が爆発した。選手たちがマウンドに駆け寄る。涼は肩を押さえながら、土に膝をついた。翔が背中を抱き上げる。

「涼! 完投だぞ! 完封だ!!」

涼は息を切らしながら笑った。

「みんな……ありがとう」

ベンチから球太がゆっくり立ち上がり、右腕を押さえながらマウンドへ向かった。涼と目が合う。

「涼……すげえよ。完封勝利だ」

涼は球太の肩に手を置いた。

「お前がベンチで見ててくれたからだ。次は……お前の番だ」

球太は頷いた。涙が一筋、頰を伝う。

「俺……早く投げたい」

監督が選手たちを集めた。

「よくやった。1-0の接戦を制した。九州大会、2回戦へ進む」

スタンドの歓声が、チームを包む。プロスカウトのノートに、何かが書き込まれているのが見えた。

初戦突破。福丘高校は、九州の舞台で一歩を踏み出した。

球太はベンチで右腕を握りしめた。包帯の下の痛みは、まだ消えない。でも、その痛みが、明日への力になる。

「俺のマウンド……待ってろ」

九州大会は、まだ始まったばかりだ。涼の完封勝利が、チームに確かな自信を与えた。

しかし、次の試合はさらに厳しい。球太はベンチから、チームを見守りながら、心の中で誓った。

「俺も……絶対に、戻る」

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