夕暮れ時、突然豪雨が降り出した。晴美がキッチンでコーヒーを淹れていると、窓の外で雷鳴がとどろき、ざあざあと雨が窓を叩きつけた。ちょうど窓を閉め切ったその時、玄関からコンコンと慌ただしいノックの音が響いた。「どなた?」ドアを開けると、そこには全身ずぶ濡れの敬一が立ち、胸には何かを必死に抱え込んでいる。「早く入って!濡れちゃう!」晴美はあわてて道を空け、彼を中へ招き入れた。敬一は足早に部屋へ入り、そっとコートの裾をめくった。そこには、やせ細った白い子猫が小さく身を丸め、震えていた。「路地の角で見つけたんだ。もう少しで流されるところだった」低く落ち着いた声には、かすかな痛ましさがにじむ。晴美はすぐにタオルを持ってきて、子猫をやさしく包み込んだ。「まずは水気を拭いてあげるね。ドライヤー、取ってくる」彼女が背を向けて歩き出そうとした瞬間、手首が敬一に掴まれた。「君の髪もずいぶん濡れている」彼は眉根を寄せると、そっと手を伸ばし、彼女の肩にかかった雨粒を拭い取った。二人の距離は息が触れ合うほど近く、晴美は彼の体から漂う淡い雨の匂いと、澄んだ松の香りを感じ取った。胸が一瞬、高鳴って、思わず半歩後じさった。敬一は手を引くと、軽く咳払いをして言った。「まずは猫の世話をしよう」「うん」彼女は俯き、耳の先がほんのりと熱くなっていくのを覚えた。晴美はリビングのカーペットに座り、そっと子猫の頭を撫でた。小さな体はもうすっかり眠りに落ち、細やかな呼吸に合わせて胸がかすかに上下していた。敬一が湯気の立つミルクを入れたカップを二つ持って戻ってくると、その一つを彼女にそっと差し出した。「まだ寝ないのか?」「もう少しだけ、そばにいてあげたいの」彼女はミルクを受け取り、指先にほのかな温もりを感じた。敬一が隣に腰を下ろし、しばし沈黙したのち、不意に口を開いた。「晴美」「どうしたの?」「もし、いつか……」彼は言葉を切り、低く柔らかな声で続けた。「もう一度恋を始めたいと思ったら、どんな人がいい?」晴美は一瞬息をのんで、彼のほうを振り向いた。窓から差し込む月光が敬一の横顔を照らしている。彼は微笑を浮かべたまま、その瞳には隠しきれない熱い想いが宿っていた。晴美は胸の鼓動が急に早くなり、頬に薄らと赤みが差した。あわ
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