今日は大晦日。大晦日の夜ぐらい、婚約者と二人で過ごしたかったので、私は早く帰って年越しの準備をするために、会社の皆には、3時間早く仕事を切り上げてもらった。帰り支度をしていると、秘書の長谷川雪(はせがわ ゆき)がにこにこしながら話しかけてきた。「社長が残業しないなんて、珍しいですね。私はてっきり、今日も会議があるかと思っていましたよ。だから、デートに行けないなあ、なんて」コートを羽織りながら、私は揶揄うように尋ねる。「彼氏さんとデート?」雪はぱっと目を輝かせて、こくこくと頷いた。「はい!付き合い始めたばかりなんですけど、なんだかすごく運命を感じる人で!」雪はそう言って携帯の画面を見せてきた。「この人なんです」画面には、街灯に照らされた雪の上に、長く伸びる二人の影が映っていた。男の人は優しく微笑みながら雪の髪にキスをしている。しかし、その顔を見た瞬間、私の指先はすうっと冷たくなった。これって私の婚約者では?私が何か言うより先に、雪の携帯が鳴った。電話に出た雪の声は、とろける飴のように甘い。「もしもし?もう下に着いたの?うん、分かった!すぐ行くね!」電話を切ると、雪は私に手を振った。愛されている幸せいっぱいの笑顔で……「社長、彼氏が迎えに来てくれたので、お先に失礼しますね。社長も、婚約者の方と素敵な大晦日をお過ごし下さい!」そう言うと、雪は嬉しそうに小鳥みたいにぴょんぴょんと跳ねながら、エレベーターへと向かっていった。私の足は勝手に動いていた。はっと我に返ったときには、もう雪の後を追って下りのエレベーターに乗り込んでいる。心臓が胸の中で重たく脈打ち、その一回一回が、言いようのない不安を煽る。覚悟はしていたはずなのに、遠くに見える慣れた姿を目にした途端、心がぎゅっと痛んだ。やはりそれは和田弘樹(わだ ひろき)だった。弘樹は会社の前の街灯の下に立っていた。その立ち姿は、いつも通り、すっと背筋が伸びていてとても綺麗だ。肩に雪が舞い落ちる中、弘樹は雪を優しく見つめていて、その横顔は非常に穏やかだった。あんなに優しい表情、私には一度も見せてくれたことがないのに。そして弘樹はごく自然に腕を広げると、雪を抱きしめた。彼女の髪を優しく撫で、目元を幸せそうに細める。雪が
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