叶翔は、頬を伝い続ける櫻羅の涙を、指先でそっと拭った。エメラルドのネックレスが、陽の光を受けて静かに揺れている。深い翠色の輝きは、まるで櫻羅という存在そのものを映しているようだった。叶翔はそんな櫻羅を見つめ、優しく微笑みながら言った。「お前だって、ちゃんと愛されてたんだよな。でもこれからは、親父さんなんかよりずっともっと、俺が愛してやるから」その低く穏やかな声に、櫻羅の瞳がさらに潤む。今まで何度も「愛されていない」と思い込もうとしてきた。そうでもしなければ、心が壊れてしまいそうだったから。だが今日――。父親が自分のために残してくれていたネックレスを身に着け、こうして愛する人の隣に立っている。櫻羅は涙を零しながらも、何度も小さく頷いた。叶翔はそんな櫻羅を見つめたまま、司会者から受け取った結婚指輪を手に取る。照明の光を受けたプラチナのリングが、小さく輝いた。叶翔は櫻羅の左手を取る。細く白い指先が、緊張でかすかに震えていた。「……櫻羅」その名を呼ぶ声は、驚くほど優しかった。そして叶翔は、まるで壊れ物を扱うように丁寧な手つきで、櫻羅の左手の薬指へ結婚指輪を嵌めた。指輪がぴたりと収まった瞬間、会場のどこかから小さな歓声が漏れる。櫻羅は胸がいっぱいになりながら、自分もリングを受け取った。叶翔の大きな左手を取り、震える指先で薬指へ指輪を通していく。「……よろしくお願いします」消え入りそうな声でそう言うと、叶翔は優しく笑った。そして二人は見つめ合った。もう、その瞬間の二人の中には、周囲の景色など存在していなかった。招待客も。両親たちも。祝福の声も。何も聞こえない。ただ、お互いしか見えていなかった。司会者が次の進行へ移ろうと口を開きかけた、その時だった。不意に、叶翔が櫻羅の腰を引き寄せた。「……っ」櫻羅が小さく息を呑む。次の瞬間。叶翔はそのまま櫻羅の唇に、深く口づけた。触れるだけのキスではなかった。まるで、今まで抑え込んできた想いを全部伝えるかのような、長く深い口づけだった。会場中が一瞬、静まり返る。風に揺れていた木々の音さえ止まったような錯覚がした。誰もが目を丸くして、その光景を見守っていた。櫻羅も突然のことに驚いていたが、やがてそっと目を閉じる。叶翔の腕の中は、とても温かかった。ようやく唇が離
Zuletzt aktualisiert : 2026-06-07 Mehr lesen