澪尽しーTwin Sisters, One Forbidden Loveー双子の奪われた恋ー のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 10

24 チャプター

1話 名前の似ている4人ー呪われた村 編ー

「はいっ、ミネラルウォーター! 炭酸ダメなんでしょ?」 助手席から差し出されたペットボトルを受け取り、私は小さく息をつく。 莉央――私と同じ顔を持つ双子の妹は、相変わらず世話焼きで、そして無邪気だった。 けれど、ふと視線を上げたとき、彼女の膝に落ちていた“白い羽”に胸がざわつく。 「……どこから入ってきたんだろう、こんな羽」 私がつぶやくと、後部座席の怜央が笑いながら身を乗り出した。 「気にするなよ。山の上だし鳥だって飛んでる」 軽い口調。けれど私は知っている。 “この村で舞う羽は、ただの鳥のものじゃない”――そう語る怪談を、昔から。 後部座席のもう一人、真央が窓の外を覗き込む。 「……なんか、静かすぎない? 鳥の声も、虫の音もしない」 車は山道を登り、森の奥へと進んでいく。 風も止まり、葉擦れの音すら消えた世界に、ただエンジン音だけが響いた。 「澪……やっぱり怖くない?」莉央が不安そうに笑う。 私も笑い返すけれど、胸の奥に広がるのは、不思議な寒気だった。 私と全く同じ顔の、一卵性双生児の双子の妹の莉央(りお)は、気の強い美人の私と顔こそ同じものの、優しくて気が弱くておっとりしている。 私達は名前の似ているのだが、まさかの彼氏の名前もお互いに似ている。私の彼は運転手もしている怜央(れお)、同じ大学3年生だ。 「あははっ。澪は莉央ちゃんに頭が上がらないよな。俺もだけど。尻に敷かれまくってるよ。大学首席のこの俺様が」 「首席自慢されてもね?運動全然じゃん!喧嘩も弱いし、頭脳戦だけじゃん怜央は」 「あー?そういうこという?頭がいいのって大事でしょ?頭脳戦も。戦闘ならほら莉央ちゃんの彼氏、真央(まお)くんがいるからこのチームは」 急に話題を振られ、スマホゲームをしていた爽やかなショートヘアの男性は、はにかみながら、へへっと笑った。 「怜央さんには叶わないよね!俺、頭は良くないし。莉央が気が利くし、頭もいいから莉央のおかげで人に騙されないだけで。ただ、そうだね。運動神経に自信があるので、莉央も澪さんも怜央さんも守れる自信あるけど?」 「うわぁ、真央くん頼もしい!ほらー怜央しっかりしてよ!」 真央くんのはにかむ笑顔も、気まぐれな性格も、猫系男子。 莉央は、真央くんの彼女にお似合いのふ
last update最終更新日 : 2026-03-08
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2話 ダム建の村

峠をおりて、村の全貌がみえる。看板には「ダム建設予定地」とあって、来年度には湖のそこに、ダムの底に沈むことが決まっている。 もう買収もおわり、きっと今住んでいる人達は、来年度には引っ越していくのだろうけど。 私たちの両親は、この村に取材に来て行方が途絶えた。私たちの両親のことは聞くつもりは無い。……殺されて眠っている可能性もある。 それくらい都市伝説として噂が立つような不気味さもある。ただ、証拠がないのでお手上げなのだ。 現代の科学を、持っても。証拠不十分なんてことあるのか。 まるで村ぐるみで、証拠隠滅をした可能性もある。 生きてて欲しいが、両親が消えて10数年過ぎて、大学生になった私たちが何処まで真相に迫れるのか、という不安もある。 そうこうしているうちに、民宿前まで来て、怜央に先に降りて、と言われ、怜央が車を駐車場に入れている間に 先に民宿の部屋へ行くことにする。 「澪、私、車にスマートフォン置いてきちゃった。真央と二人で先に行ってて」 そう言って、莉央は車に忘れ物を取りに戻ったので 真央くんと澪は、民宿で2人きりになってしまった。 ……き、気まずい。いつも莉央がいたから、こういう時なんて話…… 「澪は、怜央と普段なに話すの?」  ふと顔を上げたら、真央と目が合う。ふわっと子どものように無邪気に笑う。少しあどけない少年っていうか 同い年なのに。4人とも。怜央は年より大人っぽいし。 「あ、うん。怜央は頭もいいし、なんというか俺様、オラオラ系っていうか……私が話さなくてもひとりでずっとウンチク語るし」 「だろうねえ。俺と真逆。俺は……どちらかというと聴く方だから」 「莉央とどんなこと話すの?」 一瞬、間があって。 寂しそうに笑う。 「莉央も聴くほうがいいってあまり話してくれないけど……たまに口開いても推しの怜央様の……君の彼氏の話?するし」 「あー。注意しておく。んもー。真央くん目の前にしてすることじゃ……」 「顔は……似てるのに、全然違うよな」 「え?」 見ると、目が真剣で、瞬きもせずに見つめられてて、ドキッとしたが、先に目を逸らしてしまう。 な、な、なん。なんなの 違うに決まってる。顔だけ似てるけど中身が違う。私は勝気
last update最終更新日 : 2026-03-08
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3話 白い羽

夕食を終えても、私は箸を握ったままぼんやりしていた。囲炉裏の火が小さくパチパチと弾ける。湯気の向こう、怜央は地図を広げ、真央は外を気にしている。「夜の風、なんか変じゃない?」莉央がつぶやいた瞬間、障子がふわりと揺れた。外では、誰かが歩く足音。だが廊下に出ても、誰の姿もない。「……ねえ、羽」真央が指さした先には、白い羽が一枚。廊下の奥から、まるで“誰かが通ったあと”のように、いくつも舞い落ちていた。 どくっん。心臓の音がうるさい。 何、なんだろう、嫌な感じがする。民宿の女将に聞くと、表情を曇らせて首を横に振った。「夜は出ないほうがいいんですけどねぇ……。山から“呼ぶ声”がするんです。恩返しを求める声が……鶴の恩返しって知ってますよね。恩返しって聴こえがいいけど、世話になったんだからそのぶんを未来永劫、返さないといけません。見返りを……」そう言い残して、襖を静かに閉めた。……呼ぶ声? 誰を? 何のために?見返り……?怜央は興味深げに笑い、懐中電灯を手に取った。「うわぁ。怪談話するにしてもやりすぎ……女将さん人が悪いな。どうせ風の音だろ。ちょっと外、見てくる」止める間もなく、彼は玄関の向こうに消えた。十五分。三十分。どれだけ待っても、怜央は戻らない。莉央の顔から血の気が引いていく。「……怜央くん、また取材熱が入っちゃったのかな」その震える声に、私の胸もざわつく。真央と二人で外へ出る。夜の村は静まり返り、空には星もない。ただ、闇の中を流れるような白いもの――羽が、風に乗って道を示していた。「……あの祠の方、行こう」真央の声が低く響く。その背中を追いかける私の足元に、ふと何かが落ちた。羽。 は、羽?!そしてそれは、まさに、濡れていた。赤く――血のように。どくんとまた心臓が強く鳴った気がした。……風が止んだ。聞こえるのは自分の鼓動だけ。空気が重く、世界ごと沈んでいくようだった。闇の奥で、誰かが私の名前を呼んだ気がした。優しい声。それは――母の声に似ていた。「澪……戻っておいで」お母さん?!振り向くと、そこには誰もいなかった。ただ白い羽が、ひとひら、私の頬を撫でて落ちた。涙が伝う。冷たいのに、なぜか温かかった。そんなはずはない。お母さんが居なくなったのは……私が小学生の時だ。
last update最終更新日 : 2026-03-08
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4話 姉妹愛

夜が終わらない。時計の針は二時を指したまま、微動だにしない。民宿の外は、風すら止んでいた。まるで、この村だけが世界から切り離されてしまったように。「怜央くん……どこに行ったの……」莉央がかすれた声でつぶやく。その横顔を見つめながら、私は唇を噛んだ。泣いている妹の頬を撫でる指先が震える。この子を守りたい。だけど――心の奥で、別の痛みが蠢く。怜央が消えたと聞いた時、胸の奥に一瞬、安堵のような影が走ったのを私は知っている。「お姉ちゃん……私、怖い」「大丈夫。私がいる」そう言いながらも、声が震えていた。怖いのは幽霊でも、恩返しの呪いでもない。“自分の心”だった。囲炉裏の火が、ふいに揺れた。外から誰かの足音がする。思わず立ち上がり、襖を開ける。そこに立っていたのは――怜央だった。「怜央っ……!」駆け寄ると、冷たい夜気と一緒に彼の匂いが胸に広がる。無事だったという安堵に、身体が勝手に震えた。怜央は静かに笑って、私の頬に触れた。「ごめん。遅くなった。少し、見たんだ……例の祠を」「祠?」「白い羽が、山の奥まで続いてた。導かれるように……それで――」彼の瞳が揺れる。そこに、言葉にならない恐怖と、何かを隠している影が見えた。怜央は何かを見た。けれど、それを言えない。その沈黙が、逆に胸をざわつかせる。「怜央、怖かった?」「怖いのは……澪がいなくなることだよ」一瞬、息が止まった。心臓の音が、自分の声よりも大きく聞こえる。冗談めかした笑い方なのに、瞳はまっすぐだった。そのまま、怜央の手が私の頬から髪へとすべる。――抱きしめられる寸前、私は後ろへ一歩下がった。「……ごめん。莉央が、見てる」怜央は一瞬、表情を固め、そして笑った。「そうだな。……俺、たぶん嫉妬してる」「嫉妬?」「お前の中で、まだ“誰か”を探してる目をしてる。……父さんか、母さんか、真央か……誰でもいい、けど俺の知らない誰かを見てる顔だ」図星だった。言葉が出ない。胸の奥に、絡まった糸のような感情が溢れる。恋と、恐怖と、罪悪感。その全部が、白い羽のように絡み合って、離れなくなっていく。――コン。障子の外から、また鈴の音が響いた。音は一度、二度……そして止む。怜央と目を合わせた瞬間、羽がひとひら、床に落ちた。濡れている。血ではない
last update最終更新日 : 2026-03-08
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5話 恩返しの愛

「怜央くんっ!」夜の山道に、莉央の声が響いた。霧の中、真央が彼女の手を強く握る。「走れ、莉央! 戻るんだ、民宿まで!」「でも――お姉ちゃんたちが!」「澪さんは怜央さんを探してる。俺たちは生きて帰るんだ!」息が白く弾ける。空から降る白い羽が、まるで雪のように視界を奪っていく。一枚、また一枚――触れた羽が、肌の上で溶けるように消えた。「ねえ真央くん、これ……痛い」「羽に……血が混じってる……?」真央は莉央を庇い、羽を払った。指先が切れている。羽が刃物みたいに鋭い。「莉央、何があっても離れるな!」「うん……でも、お姉ちゃんたちが――」その頃。澪は怜央の名を呼びながら、山道を駆け上がっていた。懐中電灯の光が揺れ、倒木の影を映し出す。「怜央っ! お願い、返事して!」耳に届くのは、風でも鳥でもない。――鈴の音。そして、怜央の声。「……澪、戻れ!」声のした方に走ると、そこに怜央が立っていた。白い羽に包まれて、まるで光に溶けていくように。「やっと……見つけた……」「来るな! 俺は――もう、戻れない!」「何言ってるの!? 戻るの! 一緒に!」「違う。……俺、気づいたんだ。恩返しって“命の貸し”なんだよ」「どういうこと……?」怜央の手には、あの祠の封印札。そこには、“多鶴”の文字。「この村の恩返しは、“愛された者”が“愛した者”を救う代償に消える仕組みだ。 俺はもう選ばれた。……たぶん、澪を守るために」「そんなの、ふざけないで!」澪は怜央に駆け寄り、胸ぐらを掴んだ。「勝手に決めないでよ! 私だって――怜央がいない世界なんて要らない!」「バカ、泣くなよ……」怜央が微笑む。指先で澪の涙を拭った瞬間、羽が彼の肩に降り注いだ。――身体が、透けていく。「怜央!!」「澪……俺がいなくても、強く生きろ。お前ならできる。……莉央を、頼む」「嫌だ、そんなの絶対に……!」羽嵐が巻き起こる。風が吹き抜け、視界が真っ白になった。怜央の姿が霧のように崩れていく。その瞬間、莉央の叫びが響いた。「お姉ちゃああん!!!」真央に抱きしめられた莉央が、両手を合わせて祈るように叫ぶ。「お願い……怜央くんを連れて帰って! みんなで帰るの!」涙が地に落ち、白い羽に染み込む。次の瞬間、羽が一斉に燃えるように光り、山の空気が震え
last update最終更新日 : 2026-03-08
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6話 決意

夜明けの気配はまだ遠い。祠の前で、私は怜央の体を抱き起こした。脈はある。けれど目は閉じたまま、白い羽の粉だけが髪に降り積もっている。「怜央くん……」莉央が震える声で名を呼ぶ。真央は私たちの背に立ち、周囲へ視線を走らせた。山の気配が変わっている。静かすぎる。鈴の音が、ひとつ。風のない空間に、雪が生まれるようにふわりと漂った。祠の石段の上に、白い影が形をとる。「――来てしまったのね」旅館の女将。けれど今日は暖簾の姿ではない。氷の光をまとう“巫女”の装束に、長い白髪が揺れた。雪明かりのような瞳が、私たちを一人ずつ撫でていく。「あなた…女将さん?」「この村を見守る者。多くを救えず、ただ“残す”ことだけを選んだ者。人々は私を雪女と呼ぶ」背筋が冷たくなる。女将は祠に手を添え、戸口の紙垂を鳴らした。「恩返しは贈り物ではない。贖いの形だわ。与えられた愛を、間違えずに返すための“秤”。重さを違えれば、人は雪に埋もれる」「両親は、どこ?」私は一歩、踏み出した。女将のまつげが震える。「ここにいる。まだ、完全には失われていない」その声に重なるように、白い狐の尾が雪面を掃いた。赤い紐を襟に結んだ白装束の青年が、祠の影から現れる。肌は冬の月のように青白く、目元には笑みとも諦めともつかぬ影。「やっと会えたね、澪」「……誰?」「稲荷の眷属。人の恋慕に火がつくと、時に里が燃える。俺は、その火の行方を見張る役目だ。君たちの父と母の“借り”も」青年の指先が弾くと、雪が舞い、祠の奥で氷が割れる音がした。薄氷の向こうに、人影が二つ。「――お父さん?」声が喉に突き刺さる。氷の幕越しに、父が笑った。若い頃のままの顔だ。『澪、莉央。来るなといったのに、君たちはいつも強情だ』音にならない唇の動きが、確かにそう告げた。女将がそっと目を伏せる。「取材者はこの村の“裂け目”を見た。助けると言い、境界を越えた。愛は尊い。けれど規を破れば、雪が罰を与える」「罰じゃない」白狐の青年が首を振る。「秤だよ。――返す相手を間違えたのさ」氷片が柔く光り、もうひとつの影が揺れた。長い髪、細い肩。『……ごめんね』母の声が、雪の中から滲み出る。次の瞬間、女将の胸元に同じ光が宿り、彼女の頬を一筋の涙が伝った。「私の中に、あなたの母の半分が眠っている」女将の声は、ひどく人間のそれ
last update最終更新日 : 2026-03-08
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7話 恩返しの週末

雪の道の先で、光が爆ぜた。氷の回廊が崩れ、眩しいほどの白が私たちを包む。その中から、父と母の姿が現れた。生きている――息をして、私たちを見ている。「お父さん……!」「澪、莉央……大きくなったな」声が重なる。震える手を伸ばすと、温もりがあった。現実感のないほど柔らかい、けれど確かなぬくもり。私は泣きながら母に抱きつき、莉央も父の胸に飛び込んだ。凍っていた記憶が溶けていくようだった。「ここを……出よう。もう、この村には夜しかない」父の声は静かで、それでも強かった。その足元には、怜央と真央が倒れていた。二人とも気を失っているが、呼吸はある。私は怜央の手を握り、胸の奥で強く祈った。――もう誰も失わせない。その瞬間、祠の奥で鈴の音が鳴った。白い狐の青年が姿を現す。その背後には、雪女将――氷の巫女――そして村の青年が並んで立っていた。「門が、開く」村の青年が手にしていた古びた鍵を掲げた。「俺の祖父が“門番”だった。この村が現世とつながる最後の道を、今、開く」白狐の青年が微笑む。「俺たちはここまでだ。お前たちが愛を“渡した”時点で、秤は止まった。もう、贖いは終わりだ」「行け。生きる場所に戻れ」雪女将の声は、凍るようで、どこまでも優しい。彼女の頬を一筋の涙が伝うと、それは雪になって消えた。「女将さん……」「私は、ここに残る。罪を見届けるために。けれど、もう孤独じゃない。あなたたちの母が、私の中にいるから」母が一歩、彼女のそばに立つ。二人の影が重なり、雪の光になって溶けていく。「お母さん……!」「澪。莉央。生きて。“恩返し”は、もういらないわ。生きることが、それ以上の贈り物だから」涙が頬を伝う。母の声が風になり、雪を押しのけていく。その瞬間、白狐が私の肩に手を置いた。「もう一度、会える日が来る。その時、お前はもう迷わないだろう」「あなたは?」「俺は、ここで終わる。けれど“導き”は、お前たちの中に残る」微笑む白狐の姿が風に散る。村の青年も最後にうなずき、鍵を地面に突き立てた。轟音。鳥居が光り、裂けるように空が開いた。「走れ!」真央が莉央の手を取り、怜央を担ぎ上げた。私は父と並んで走る。光の向こうに、確かに空があった。夜ではない、朝の色だ。駆け抜ける瞬間、背後で女将の声が響いた。
last update最終更新日 : 2026-03-08
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8話 同じ顔、違う役割ー澪尽し 両親編ー

同じ顔なのに、違うね。 幼い頃、近所のおばさんにそう言われたことがある。 そのとき私は、何が違うのか分からなかった。ただ、隣に立つ莉央の手を強く握ったのを覚えている。 鏡の前に並ぶと、確かに同じ顔が二つ並ぶ。けれど、笑い方も、目の動きも、ほんの少しずつ違っていた。 莉央は、柔らかく笑う。 私は、少しだけ強がって笑う。 「澪は強いね」 大人たちはよくそう言った。 転んでも泣かないから。弟分の子をかばったから。先生に言い返したから。 理由はいくらでもあった。 でも本当は、ただ――泣くのが遅かっただけだ。 夕暮れの帰り道、誰もいなくなってから、私はひとりで泣いた。 その日もそうだった。 膝を擦りむいて、じんじんと熱を持つ傷口を見つめながら、息を押し殺す。 泣いているところを見られたくなかった。 “強い子”でいなければいけない気がしていた。 「……澪」 名前を呼ばれて、顔を上げる。 そこにいたのは、莉央だった。 息を切らしながら、駆け寄ってくる。 「なんで、先に帰っちゃうの」 責めるような言い方なのに、声は震えていた。 私の膝を見ると、すぐにしゃがみこんで、ハンカチでそっと拭く。 「痛いでしょ」 「平気」 反射みたいに答える。 莉央は首を振った。 「平気じゃないよ」 その一言で、堪えていたものが崩れた。 涙が、ぽろっと落ちる。 「……ほら、やっぱり」 莉央は少しだけ笑って、私の手を握る。 その手は、小さくて、温かかった。 「澪は、強いんじゃなくて、我慢してるだけだよ」 言われて、言い返せなかった。 「私、知ってるもん。澪が、あとで一人で泣いてるの」 ずっと見られていたのだと、そのとき初めて気づいた。 「……ずるいよ、それ」 小さく言うと、莉央は首を傾げる。 「何が?」 「気づかないふり、しててよ」 莉央は少しだけ考えて、それからゆっくり笑った。 「じゃあ、こうする」 ぎゅっと、私の手を握り直す。 「気づいてるけど、言わない」 その言い方が、妙に莉央らしくて。 私は、少しだけ笑った。 風が吹いた。 どこからか、白いものがひとつ、ひらりと落ちてくる。 「……羽?」 莉央が手を伸ばし
last update最終更新日 : 2026-04-30
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9話 白い羽のはじまり

あの羽を最初に見つけたのは、私たちじゃない。 ――私たちの両親、秀一と真耶だった。   「ねえ、真耶。これ、見てくれ」   父の声は、どこか楽しそうだった。 夕方の居間。窓から差し込む光の中で、父は掌を広げている。 その上にあったのは、真っ白な羽だった。   「……鳥?」   母が首をかしげる。 けれど父は、小さく首を振った。   「いや、違う。少なくとも、普通のものじゃない」   父――秀一は、民俗学の研究をしていた。 昔話や伝承、消えた村や、語られなくなった記録。 そういうものを集めては、楽しそうに語る人だった。   「これが落ちてた場所、変なんだよ。山道の途中でさ、人が立ち入らないようなところなのに――やけに綺麗に残ってた」   羽を光に透かしながら、父は続ける。   「それに、触っても重さがない。まるで――」   言いかけて、少しだけ笑う。   「作り物みたいなんだ」   母はしばらく黙って、その羽を見ていた。 やがて、そっと指先で触れる。   「……冷たい」   その一言だけが、少し浮いて聞こえた。   父は興味深そうに目を細める。   「そうか?俺には何も感じないけどな」   「ううん……なんだろう、氷みたいな……」   母は言葉を探すように、羽を見つめる。 その目に、ほんのわずかな違和感が宿っていた。   けれど父は、それに気づかない。   「面白いな。ちょうどいい資料になるかもしれない」   そう言って、羽を机の上に置いた。   そのとき、玄関の引き戸が音を立てた。   「こんにちは」   柔らかな声が、家の中に入ってくる。   振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。   すっと伸びた背筋。落ち着いた所作。 手には、風呂敷に包まれた道具一式。   「絵里奈先生」   母が立ち上がる。   「今日はお稽古の日でしたね」   女性――絵里奈は、静かに微笑んだ。   「ええ。少し早く着いてしまって」   その視線が、机の上に向く。   白い羽。   一瞬だけ、空気が止まったような気がした。   「……それは」   絵里奈の声が、わずかに低くなる。   母が振り返り、答えた。   「主人が見つけてきたの。変わってるでしょう?」   絵里奈は、ゆっくりと羽に
last update最終更新日 : 2026-04-30
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10話 学園の皇帝

 大学に入ってすぐ、その名前を聞いた。   「学園の皇帝」   大げさだと思った。 けれど、実際に姿を見たとき、その意味はすぐに分かった。   講義室の後ろの席。 足を組んで座る男の周りだけ、空気が違う。   視線を向けられることに慣れているような、無遠慮な余裕。 それでいて、どこか冷めた目。   ――怜央。   学年首席。顔もいい。頭もいい。 なのに性格は、少しだけ悪い。   「見すぎ」   唐突に声が飛んできた。   気づけば、こちらを見ている。   「別に」   目を逸らさずに返すと、怜央は少しだけ口角を上げた。   「強がりか?」   「そっちこそ」   言い返した瞬間、周囲の空気が一瞬だけ張り詰めた。   けれど次の瞬間、怜央は笑った。   「面白いな、お前」   その一言で、妙に距離が縮まる。   最初の印象は、最悪だったはずなのに。   「澪だよ」   「知ってる」   当たり前みたいに言われて、少しだけ腹が立つ。   「有名人なんだろ?双子の姉のほう」   その言い方に、ほんの少し引っかかる。   けれど、それ以上聞く前に、講義が始まった。   それが、怜央との最初の会話だった。   ――そして。   そのすぐ後に、もう一人の存在に気づく。   講義が終わり、席を立ったときだった。   「先輩、またやってるんすか」   軽い声。   振り返ると、ひとりの男子が立っていた。   短めの髪。どこにでもいそうな、普通の後輩。 けれど、どこか掴めない。   「まひろか」   怜央が軽く手を上げる。   「その顔、また誰かいじってましたね」   「別に」   「いやいや、絶対そうでしょ」   くすっと笑いながら、まひろは私に視線を向けた。   一瞬だけ、目が合う。   その視線が、妙に深かった。   「この人?」   「そう」   短いやり取り。   なのに、何かを確認しているような空気。   「へえ」   まひろは少しだけ首を傾げる。   「強そうっすね」   「は?」   思わず声が出る。   怜央が笑う。   「だろ?」   「うん。選ばなさそう」   さらっと言われた言葉が、引っかかる。   「……何を?」   聞き返すと、まひろは
last update最終更新日 : 2026-05-01
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