プロジェクトが始まってからというもの、紗月は異様なほど忙しくなった。 ほとんど毎日、定時を過ぎても会社に残り、終電ぎりぎりまで働いてから、ようやく帰るという生活が続いていた。 蒼空は毎日、数時間だけ会社に顔を出す。 それが彼に与えられた役割なのだろう。 出社している間、彼は紗月のすぐそばに立ち、彼女が行うデータ調査や比較、そして単調で地道な書類作業を眺めながら、ひっきりなしにプロジェクトの詳細や進行計画について質問を投げかけてくる。 仕事に対して熱心で献身的に見えるが、実際に手を貸すことは、一度もなかった。 それでも紗月は、毎回、細かいところまで丁寧に答えていた。 本来ならチームで進めるべき仕事は、いつの間にかほとんど紗月一人で担われていた。 他社や団体への調査も、常に彼女一人。 本社側のメンバーが同行することは一度もなかった。「紗月さん、みんなそれぞれ別の方向で調査してるんですよ」 蒼空はそう説明した。 紗月は完全に理解できたわけではなかったが、それでも小さく頷き、納得した様子を見せた。 一か月が過ぎ、紗月は定例報告書を仕上げる。 そして、朝倉レガリア・ホールディングス――朝倉グループ本社での報告に向かう準備を整えていた。 これは両社で取り決められたスケジュールで、月に一度の定例報告は、双方の会社を交互に会場として行われることになっている。 報告当日。 紗月は万全の準備を整えていた。 会議室の前で、蒼空に呼び止められる。 彼はにこりと笑い、覗く八重歯が年齢よりも幼く見せていた。 無邪気なその表情のまま、紗月の手から仕事用のノートパソコンを取り上げると、当然のように言った。「紗月さん、最初の報告ですし、今回は下で見てるだけで大丈夫ですよ。僕が代わりに発表します」「え……でも……」「これ、実は上層部の判断なんです。僕も抗議はしたんですよ? だって、これは紗月さんの努力の結晶ですし……紗月さんがどれだけ頑張ってきたか、僕はちゃんと見てますから。でも上はそれを知らないんです。今回、両社の共同プロジェクトってことで、かなり慎重になってて……紗月さん、子会社所属だから、どうしても信用が薄いんでしょうね」 筋の通った説明に、紗月は言葉を失う。「……それって、社長の意向でもあるんですか?」「大丈夫ですよ、紗月さん。今回の報告
Last Updated : 2026-05-01 Read more