老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~ のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

78 チャプター

58.裏口の先にある影

 エンヴィの背中が路地の角へ消えると、マーガレットは一度だけ深く息を吸い、すぐに気配を消した。 裏通りは薄暗く、石壁の継ぎ目に溜まった湿気が昼の熱を吸っている。表通りの華やかさなど嘘のようだ。ヴェルン商会の裏口は無骨な木扉で、正面の店構えと比べるとあまりに愛想がない。まるで、見せたい顔と見せたくない顔をわざと分けているようだった。 マーガレットは、積まれた木箱の陰へ身を寄せる。 先ほど目に入った荷箱は三つ。  布や香料を扱う商会に似つかわしくない、金属細工の納品印。しかも一つ二つではなく、まとめて運び込まれている。偶然の紛れ込みでは済まされない量だ。 しゃがみ込み、そっと箱の側面を見る。  刻まれている印は、小さな槌と歯車。王都南区に工房を持つ中規模の金物師組合のものだ。食器や装飾金具、扉の蝶番ならまだ分かる。だが、ヴェルン商会がそんなものを扱っている話は聞いたことがない。「やっぱり、変だわ……」 ごく小さく呟いたそのとき、裏口の奥から低い物音が聞こえた。 ぎしり、と床板が鳴る音。  誰かが歩いている。ひとりではない。少なくとも二人、いや三人はいるかもしれない。話し声までは拾えないが、重たいものを運ぶような気配がある。
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