茶会は、表向きには穏やかに進んでいた。 藤の花の香る紅茶。 焼きたてのシナモン菓子。 円卓を囲む貴族や商人たちの控えめな笑い声。 外から見れば、ただ品のよい社交の場にしか見えないだろう。 だがその実、ここで交わされているのは、次にどこへ資金が流れ、誰がどの家と結び、誰が沈みかけた船から飛び降りるかという生々しい駆け引きばかりだった。 私は会場を歩きながら、卓ごとの空気を拾っていた。 オルト商会とオルゼン商会は、すでに具体的な仕入れの話へ移っている。 地方子爵の一人は、第二王子派へ寄る覚悟を固めたらしく、レグス伯爵に領内の物流整備について相談を始めていた。 上々だ。 想定より少し早いくらいに、人が動き始めている。 だが、だからこそ気が抜けない。 この場で一番の不確定要素は、招かれざる客――リシェラ・ヴェルムントだった。 彼女は会場に入ってから、決して目立つ真似をしていなかった。
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