「蘭のふしだらな様子が気に入らなかったみたいでね。何人かの上流階級の奥様方が腹を立てて、そのまま服を引き裂いたのよ。そうしたら、蘭は許してくれって必死に頼んでたんだから。今思い出しても、ほんと笑えるわ。でも、その時の奥様方ときたら、あんたの母親があんな姿になってるのが、面白くて仕方なかったんでしょうね。賑やかな大通りまで引きずり出して、服を全部脱がせてから、その場で踊るように強要したのよ。でも、泥酔してた蘭は、こっちが支えてやっても立てないくらいで……深津市社交界一の華なんて呼ばれてたのに、あの夜で全部終わっちゃったの。最後に許しを乞う時のあの目つき……ふふっ。今でも忘れられないわ」得意げに語る翠は、急に声を上げて笑い出し、復讐の快感に完全に酔いしれているようだった。奈緒はうつむいたまま、自分でも気付かぬうちに動きを止めていた。先ほど翠が話していた内容は、奈緒の断片的な記憶とすべて一致している。ある夜、母親が突然自分を賃貸アパートの部屋に閉じ込め、そのまま一晩帰ってこなかったことを、奈緒はぼんやりと覚えていた。そして翌朝戻ってきた母親は、服がすべて引き裂かれ、見るも無惨な姿になっていた。全身から酒の匂いが漂い、虚ろな目に乱れた髪。まるで、一夜にして魂を抜き取られてしまったかのようだった。その日を境に、母は完全に別人のようになってしまった。母はすぐに資金をかき集めて酒屋を開き、さまざまな銘酒を売りさばくようになった。そして夜の街にも頻繁に出入りし、まるで自分自身を壊すかのような生き方になっていった。かつて深津市社交界一の華と呼ばれていた母も、いつしか夜の街で「女王」と呼ばれる女へと堕ちていったのだ。その後、母は3年で父の莫大な借金を返済し、今や深津市で知らぬ者はいない、有名な高級クラブ・ノクターンを始めた。これまで母は、苦労を一言も漏らさず、ただ自分に勉強して、まっとうに生きろと言い続けていた。だが、今ようやく母がこの10年、どれほど地獄のような日々を送ってきたのかを、奈緒は知った。そして、あの頃の一連の出来事について、すべてを理解した。どうやら、母をあそこまで追い詰めた人間は、翠や静香だけではなく、他にもいるらしい。奈緒は誓った。必ず全員を突き止めて、この手で地獄へ落とす。母が味わった苦しみを何百倍にも
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