「……じゃ、お疲れ」 「うん、お疲れ」 数日ぶりに、俺の方から穏やかに挨拶を返した。 反対方向に歩き出す、二つの足音。次の角を曲がれば、俺は駅に向かい、あいつは自分の家へと帰る。ただそれだけのことなのに、猛烈な名残惜しさが、飲み込んだクレープの甘さとともに胸を突き上げてくる。 口の中に残る余韻が、「もしかして」という予感で俺を満たしていく。 けれど、期待して傷つきたくない。俺ばっかりが佐伯を「そういう目」で見ていたら? あいつにとって、これはただの「クレープつきの謝罪」だったら? ――でも、このまま今日を終わらせたくない。 今ここで呼び止めなければ、明日どんな顔をして会えばいいのか、ますます分からなくなる。 俺は、一歩ごとに遠ざかっていく佐伯の背中を追いかけるように、勢いよく振り返った。 「さ、佐伯――っ!」 振り返った先、佐伯はポケットに手を突っ込んだまま立ち止まっていた。 まるで、俺が呼び止めることを最初から分かっていたかのような、静かな眼差しで俺を見つめている。 「……なに?」 眉を下げて、困ったように優しく笑う。その顔を見たら、もう、我慢なんてできなかった。 俺は佐伯の元へと駆け寄り、その胸に飛び込むようにして顔を伏せた。 「……泣いてんじゃん、小瀧」 呆れたような、けれど極上に甘い声。佐伯の親指の腹が、頬を伝う涙を優しく拭い去る。 俺はその広い胸に額をこつん、と預けた。佐伯の手が、俺の後頭部を慈しむように包み込む。 「また俺のせい?」 「そうだよ。だから……ないでよ」 「ん? ……今、なんて言ったの?」 「……一人で帰さないで、って……言ってます」 震える声でそう告げ、勇気を振り絞って佐伯の瞳を見上げた。 佐伯は一瞬だけ驚いたように目を見開き、やがて、この上なく愛おしそうな微笑みをその端正な顔に湛えた。 そのまま、俺の手は優しく引かれ、あいつの温かなコートのポケットの中へと誘い込まれる。 「……小瀧が、帰らなければいいんだよ。今夜は」 もっとはっきり「俺の家に来い」と言えばいいのに。 「好きだ」とはっきり言葉にしてくれればいいのに。 けれど、そんな不器用な誘い文句の代わりに、暗いポケットの中で、佐伯の指が俺の指を甘ったるく、何度も
Zuletzt aktualisiert : 2026-04-18 Mehr lesen