ロッカーの扉に響く音があまりにも大きくて、心臓が胸の内側から跳ねた。 ほぼ反射的に体がこわばって、固まる。 そして何より、逃げられない。「…………あいつ、何?」 低い声。 温度がゼロ度以下のやつだ。「え? あいつって……中屋のこと?」 名前を言った瞬間、空気がさらに冷えた気がした。「……フルネーム教えて? 俺の中でブラックリスト入り決定してるから、出禁にしたいし」 佐伯がこんなふうに怒るの、初めて見た。 普通の人は怒ると眉間にしわが寄ったり、唇が吊り上がったりするのに。 佐伯は――違う。 口角だけ、にっこり笑ってる。 なのに目だけ、完全に笑ってない。 その表情がゾクッとするほど恐ろしくて、でも妙に綺麗で、俺の呼吸が浅くなった。「普通に大学の友達だけど」 制服のポロシャツのボタンを外しながらそう言うと、 今度は反対側の手でも、ガン!と壁をふさがれた。 左右から挟まれて、完全に腕の中に閉じ込められるかたち。 逃げ場ゼロ。距離ゼロ。 見下ろす目が、冷凍室みたいに冷たかった。 前に俺が死にかけたあの冷凍室より、今の佐伯のほうが余裕で寒い。「絶対、あいつお前のこと好きじゃん」「……いや、考えすぎ。ただの友達」 即答して、軽く笑ってしまった――それが悪手だった。 佐伯の瞳が、ちりっと怒りの火花を散らしたのが見えた。「んなわけねーだろ。バカじゃねぇの? お前」 まるで「太陽は東からのぼる」くらいの常識みたいに言ってくる。 いやいやいやいや。 中屋からそんな気配感じたこと、一度もないし。 宅飲みだって何回もしてるし、泊まりもあったけど、そういう雰囲気にもなったことないし。 むしろ、一番意識してない友達だし。 「もー、澄人ってすぐに俺のこと、バカって言うよね」 苦笑しつつ肩を竦める。 けれど佐伯は、微動だにしなかった。「来週、大学で会うの楽しみ〜ってマウント取られたんだけど。また誘われるんじゃない?」「……佐伯が嫌なら、二人で飲みに行ったりしないよ」 はいはい、と宥めるように佐伯の頭を軽く撫でる。 たぶん俺は、恋人として少し大人ぶった対応をしていたんだと思う。 でも――それが余計だった。 佐伯のまつげが、ふるりと揺れた。「……普段、全然会えない俺の気持ち、考えたこ
Zuletzt aktualisiert : 2026-04-22 Mehr lesen