バ先のダウナー男子に、気付けば毎日溶かされています。 のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

104 チャプター

第41話 宿泊に変更で

「……うぅ~……痛ぁぃ……っ、ん、ぁ……」「煽る南緒が悪いよ」 低く、どこか突き放すような熱を帯びた声が、鼓膜を震わせる。 痛みと快感の境界線は曖昧になり、身体は本能的に縋りつく。 内側からせり上がる衝動に抗えず、無意識に佐伯自身を強く締め付けていた。 ずぷ、ずぷ、と耳障りなほど卑猥な粘着音が静まり返った室内で響き、腰を叩きつけられる衝撃が背骨を伝って脳を痺れさせる。 もっと、もっと佐伯に掻き回してほしい。 中をかき混ぜられて、埋め尽くしてほしい——そんな強欲な願いをよそに、佐伯は言った。「もう、南緒は俺が居ようが居まいが、酒飲むのやっぱ禁止。あんなベタベタ触らせて、自分からも触られに行くんだもん。……ほぼ浮気みたいなもんじゃん。クソビッチの一歩手前までいってたよ」 責めるような言葉とは裏腹に、佐伯の手は肌をそっとした手つきで這い回る。「でもっ、一番は……いちばんはっ、澄人、だけぇ……っ」「一番しかないの。二番も三番も存在しないよ、始めから。……俺だけなの。分かる?」 無理やり視線を合わせられ、逃げ場を塞がれる。 アルコールと絶頂の余韻で頭はドロドロに蕩け、視界は涙に滲んで霞んでいた。 冷たく厳しい言葉を投げかけられているはずなのに、口元には締まりのない笑みがこぼれそうになる。「ん、もっと……いっぱい♡ いっぱい、壊れるまでしてっ……」「あー、もう。聞いてんの? ちゃんと。……二度と他の男と喋んないでほしいくらいムカつく」 * もう何度果てたのか、記憶はとうに霧の向こうだ。時計を確認する余裕もなく、この情事の終わりがどこにあるのかも分からない。 佐伯はようやく奥から、自身の熱を引き抜いた。 不意に失われた充足感に吐息を漏らすと、佐伯は屹立したそれを、誇示するように顔の前に突きつける。「最後、顔射したいから。……ちゃんと、自分から舐めて」 言われるがまま、喉の奥深くまで熱を咥え込む。入りきらない部分は、震える指先で優しく、けれど俺なりに、懸命に扱き上げた。 舌の動かし方も、指の使い方も、そのすべてを佐伯に躾けられているから。「ん、はむっ……ふ、んぅ……♡」 俺が必死に奉仕する様を、佐伯はじっと見つめ、不意にベッドサイドのスマートフォンを手に取った。 亀頭の裏側をれろ、と舐め上げると、先端から溢れ出た透明な蜜が
last update最終更新日 : 2026-04-25
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第42話 甘えないで

昼のピークちょい手前、ドアベルが鳴って、赤ちゃん連れのお客さんが入ってきた。 ベビーカー押した若いママさんで、赤ちゃんは一歳くらいかな?というサイズ感。 佐伯がいつも通り無表情で注文取って、クレープの生地を焼いていく。 俺はレジ横で見てただけなんだけど、クレープができて、ママさんが食べようとした瞬間ーー「ふぇ……ふぇぇ……!」 赤ちゃんが、まさかのギャン泣き。 ママさんも、めちゃくちゃ困った顔してて、慌ててあやし始めたけど全然止まらない。 声量も中々のボリュームで、チラチラと他のお客さんも心配そうにその様子を伺っているのが分かる。 見てられなくて、俺は思わず声をかけた。「よかったら、俺あやしますよ! ゆっくり食べてください!」 ママさんは一瞬きょとんとしてから、「え、本当ですか!?」とめちゃくちゃ助かったような顔をしてくれて、 赤ちゃんが座ってる椅子の前に、俺がしゃがむ形になった。「ほらほら〜、みてみて〜!ウサギさんだよ」 中学生の時に、歳が離れた弟が産まれたから、俺はお世話もあやすのも慣れている方……だと思う。 指ゆらゆらさせたり、変顔したり、必死であやしてたら、さっきまであんなに泣いてたのに、ぱちっと泣き止んで、俺の指をぎゅっと握ってきた。「あぶ!あぶー!」(か、かわいすぎるだろ……!) ママさんも安心して、ようやくクレープを食べ始めた。 その間ずっと、俺は赤ちゃん係。 にこにこ笑うし、たまに「あー」って声出すし、もう完全に天使。 そのうち、懐いてくれたのか、椅子からジタバタと手を伸ばして。 慌てるママさんが抱っこひもを出そうとしたので、俺は一旦それをしまって貰った。「よければ、抱っこしても大丈夫ですか?」 そんなそんな、と遠慮するママさんも、赤ちゃんが俺に向かって必死にテーブルを伸ばすのをみて「お願いしてもいいですか……?急いで食べます!」 と了承してくれたので、俺は肩口のところで頭を受け止め、お尻を片手にのせてぽんぽん、とその背中を優しく撫でた。「あー、眠いのかな? 寝ちゃったら、このまま抱っこひもに入れてあげますね」 にこ、と笑うと、ママさんも頷いてくれて、店内に居合わせた他のお客さん達も、そのうちすやすや寝始めた赤ちゃんの寝顔をみてほっこりムードが漂っていた。 で、ふとカウンターの
last update最終更新日 : 2026-04-25
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第43話 どうしたの?

先に家に着いた俺は、エプロンつけてキッチンに立ってた。 フライパンで野菜を炒めて、味噌汁もあっためて、今日はわりとちゃんとした晩飯。 「絶望的」とか「ゴミを増やすな」って俺の料理をけちょんけちょんに侮辱された時期もあったけれど、“好きこそものの上手なれ”って言葉通り――その腕前は着実にレベルアップしていた。 もうすぐかな、って思ったタイミングで冷蔵庫からビールを出して。「澄人、もうすぐ出来るよー」 って声かけた瞬間、後ろから、ぴとってくっつかれた。「……」 無言。 背中に額をぐりぐりと押しつけて、両腕で俺の腹を軽く囲ってくる。「ちょ、まだ火使ってる。危ないから」 って言っても、離れない。 顔は見せないくせに、甘えてるのだけは全力で伝わってくるのが、これまたずるい。「……このままでいいじゃん」「よくねーよ。危ないし」 そう言いながらも、俺は結局、フライ返す手を片手だけにして、もう片方で佐伯の手を軽く掴んで握ってあげた。「はい、できたぞー。席ついて」 そう言っても、佐伯は動かない。 半ばおぶるように、でも重すぎてそれは無理で、立ったまま引き摺るようにして座らせると、今度は何事もなかったみたいに腕組んで、ぼそっと呟いた。「……めんどくさい。南緒が食べさせて」「は?」 一瞬、聞き間違いかと思った。 あの佐伯が、今、俺に食べさせろって言った? 明日、大吹雪にでもなんのか?「自分で食えよ」「やだ」 即答だった。「いや、ガキかよ。俺だってお腹空いてるんだけど」「南緒がいい」 はあ!?ってなるのに、 佐伯はもう完全に“やってもらう側”の顔してる。 ……くっそ。「一回だけだからな!」 って言って、結局、俺はスプーンですくって、佐伯の口元に持っていった。「ほら」「あーん」 自分で「あーん」、言うな!こっちが恥ずかしい。 内心ツッコミ入れつつ、口に運んでやると、素直に食う。 その後も何回か「はい」「あーん」を繰り返して、最終的にはちゃんと自分でも食べ始めたから、まあ許す。 確かに色んな事を「めんどい」「だるい」と面倒くさがる佐伯だけど、こんなに全てを放棄するのは初めてだった。 疲れてるのか、でも試験はこの前終わったし、レポートもなさそうだし。 そんなことを考えながら飯を食べ終わって、
last update最終更新日 : 2026-04-26
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第44話 どっか行ったり、しないでね

「……はい、おしまい」 ぽんぽん、と軽く肩を叩いて合図を送る。だが、佐伯は離れるどころか、逃がさないと言わんばかりに俺の腕を強く掴んできた。 抵抗する間もなくソファまで連行され、強引に体の向きを変えられる。そのまま、俺の太ももには佐伯の後頭部がずしりと乗せられた。「は!? ちょ、なに」 「ここがいい」 迷いのない即答。「いい、じゃないんだよ。重いし」 「大丈夫」 何が大丈夫なんだよ。 心の中で毒づきながらも、完全に退路を断たれた角度で膝枕が完成する。佐伯は満足したように小さく吐息を漏らすと、ゆっくりと瞼を閉じた。 ……なんだこれ。「今日どうしたの? 澄人。やけに甘えて……」 返事はない。代わりに、俺のTシャツの裾を指先でちょん、と摘んできた。 引っ張るでも、握りしめるでもない。ただ“離れないためだけ”にあるような、縋るような弱い力。 それを見た瞬間、今日あやした赤ちゃんの、あの小さくて柔らかな手を思い出した。(あー……もしかして、アレに対抗してんのか……?) 呆れ半分、愛しさ半分で小さく溜息をつき、佐伯の髪に指を通す。 さらさらとした髪からは風呂上がりの清潔な匂いがして、撫でるたびに佐伯は気持ち良さそうに、ほんの少しだけ目を細めた。「赤ちゃんかよ」 「……否定しない」 目を閉じたまま、低く響くような声が返ってくる。「まさか、昼の赤ちゃんに嫉妬してるとか?」 わずかな沈黙。「……さあ」 誤魔化す気すらゼロの肯定。 マジかよ、と苦笑しながらも、俺の手は止まらない。 あの佐伯が、赤ちゃん返り。冷静で、淡白で、何事にも執着しないような涼しい顔で仕事をこなすあの佐伯が、だ。 指先で前髪を整えるように触れてやると、彼の眉間に寄っていた険しいしわが、氷が解けるようにゆっくりとほどけていった。「南緒」 「んー?」 「動かないで」 「はいはい」 条件反射で頷いた自分に、自分でも笑いそうになる。 佐伯はそれきり口を閉じ、俺の膝の上で静かに呼吸を繰り返していた。太ももに伝わる頭の重みも、肌をなでる吐息の熱も、いつもと振る舞いが違うってだけで、愛おしいような、甘やかしてあげたくなるような気持ちになる。(ほんと、今日はどうしたんだか……) 無防備な寝顔を眺めているうちに、胸の奥がくすぐったくなる。俺は
last update最終更新日 : 2026-04-26
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第45話 ライバル登場!?

大学三年になり、バイトもだいぶ板についてきた今日この頃。 仕事も覚えたし、流れもだいたい把握できて、ちょっと「俺、成長したかも」なんて気分になれる。でも、そんな俺の前に新しい波がやってきた。 新しいアルバイトの子だ。しかも、バイト仲間で俺に前回飲み比べを挑んできて潰れた、高橋の後輩だそうな。「橋本唯です! よろしくお願いしますっ」 ぴっちぴちの大学一年生。男の子だけど、肌は白くて透き通る感じ、目は大きくてぱっちり。背は俺より少し低いくらい。 いやでも、なんでこんなに可愛いんだろう。芸能人で言うなら、3000年か4000年に一度の美少女の男版みたいな……そんな印象。正直、見とれちゃうレベルだ。 しかも、名前まで可愛い。そんなことってある?「宜しく」 指導係の佐伯は、いつも通りすんとした顔で無表情。可愛いとかどうとか、まったく通じないタイプだ。いや、感情を顔に出す機能がそもそもないのかもしれない。 橋本くんは頬を真っ赤にして俯いている。なるほどな、これは緊張の色だな。俺も最初に佐伯を見たときは「かっこいい!」って思ったけど、まあ、そのあとが地獄なんだけどね。全然優しくないし、指導はめちゃくちゃ厳しい。俺は3日目あたりで心折れそうになったもん。 佐伯は橋本くんを連れてアイスの説明を始める。名前から特徴まで順番に。橋本くんは必死にメモを取るけど、佐伯の説明は速すぎて追いつけない。まるで、俺が「脳みそ何グラム?」って聞かれたあの日のことを思い出す感じ。「ああ、ごめん。早かった?」 佐伯が珍しく柔らかく声をかける。「えっと……ごめんなさい、僕が鈍臭いから……」 橋本くん、泣きそうになってる。しかも、あの佐伯が謝ってる。え、なんだこれ。思わず顔を見合わせる俺と高橋。 その後、二人はアイスのスクープ練習。距離が妙に近い。橋本くんのほっそりした腕で何度も失敗するたび、佐伯が自然に腰をケースに近づける。思わず眉をひそめる俺。 (……ちょっと、なんでそこまで?) 佐伯は橋本くんの目を見て、さらにアドバイス。「もっと、腰近づけて、ケースに押しけるようにして。体重かける感じ」 橋本くんはコクコク頷き、制帽からはみ出た髪を耳にかける。そういう些細な仕草も、見てるだけで可愛い。 次にクレープ作り。 佐伯が橋本くんを俺の方に
last update最終更新日 : 2026-05-01
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第46話 俺の恋人が狙われている

「佐伯さんってー、すごい優しいですよね」「え、そう? まぁ、それなら良いんだけど」「手取り足取りって感じで、カッコいいし……好きになっちゃいそう♡」 思わずドアノブを握った手が止まる。……これ以上聞いちゃいけない気がするのに、足がその場から動かない。「佐伯さんって、恋人いるか分かりますか?」「あー、居るって本人が言ってた。詳しいことは何も教えてくれないけど……噂によると、めちゃくちゃ可愛くて優しくて、料理もうまいとか。年はわかんないけど、佐伯が好きになるなら年上とかじゃない?」 なんだそれ、どこ情報だよ……。心の中で突っ込みながら、ドアノブを回す。すると二人の視線が一気に刺さる。「あ、小瀧さん! お疲れ様です」 首をこてんと傾げて微笑む仕草が、やっぱり可愛い。俺がやったら絶対佐伯に即一蹴されるレベルだ。「お、お疲れ。仕事はどう?」「佐伯さんが優しく教えてくれるので、すっごく分かりやすいです」 嬉しそうな笑顔。こんなふうに笑いかけられたら、そりゃ惚れるやつもいるよな……。「なんか分からないことあったら、俺に聞いても大丈夫だから。佐伯がいない時とか……」「ありがとうございます!でも平気です、さっき佐伯さんに『いつでも聞いて』って言われたので」 同じ笑顔だけど、言葉の端に少し棘を感じる。俺は軽く「そっか」と愛想笑いを返す。 そのやりとりを見ていた高橋が、慌ててフォローに入る。「橋本、そろそろ戻った方がいいかも」「あ、本当だ! アイス補充の仕方、教えてもらってきます。佐伯さんに」 やたらと「佐伯」を強調しながら小走りで戻っていく橋本くんの背中を見送り、俺はここに何しに戻ってきたんだっけ……と、ちょっと考えるのを忘れる。 高橋がサッと布巾を渡しながら、ぼそっと言った。「……まーた、やってるし」 「え?」 俺が聞き取れずに顔を上げると、高橋は詳しく話し始めた。「あいつ、大学のサークルでも、なんというか……小悪魔なんだよな。色んな男に思わせぶりな態度を取って、告白されると即振る。そしてまた次の男に行く」「な、なんでこのバイト紹介したの?」「いや、なんか俺にも押しが強くて……どうしてもってお願いされたんだよ」 小悪魔……確かに、言われてみればそんな空気感が橋本くんから漂ってる。 でも、あんなに顔が良かったら、目の前で転がした男
last update最終更新日 : 2026-05-01
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第47話 ライバルの本性

「あ、はい。大丈夫ですよ、澄人さんに手当してもらったので」 ほら、と指先を見せてくる。思わず口元が引き攣りそうになった。 でも、そんな俺の反応をまるで楽しむかのように、橋本くんはスマホを弄りながら軽く口を開く。「小瀧さんてー、恋人います?」「え?」 橋本くんは恐ろしい速さでスマホをタプタプと操作しながら、顔を上げずに言う。「なんとなくですけど、澄人さんのこと好きそうに見えたので」 その言葉に、思わず押し黙る。 佐伯と付き合ってることは、バイト先の誰にも内緒だ。働きにくくなるし、佐伯自身も面倒くさがるだろうし、俺たちは未だにお互いを苗字で呼び合っている。「そ、そう?……普通に、仕事はできるし。尊敬はしてるよ。ちょっと冷たいところはあるけど……」 橋本くんはその言葉に、ちょっと小馬鹿にしたように形の良い眉の片方を上げて言った。「へぇ。僕にはすっっごい優しいですよ。なんでも答えてくれるし。小瀧さんにだけ冷たいんじゃないですか?」 なんだこのマウント……。わざとなのか無意識なのか、まったく読めない。波風を立てたくない俺は、注意や牽制の言葉も出せず、ボールペンでメモを書き込むフリをしながらその場を立ち去ろうとする。 すると、ドアが先に開き、佐伯が入ってきた。「小瀧、なんかヘルプして欲しいことある?」 俺は一瞬固まる。ああ、これは橋本くんと二人きりにさせちゃダメなやつだ。「じ、じゃあ、ゴミ捨て溜まってたからお願いしていい? 俺、キッズサンデーのチョコの仕分けしなきゃいけないから」 佐伯を一旦、バックヤードからも店頭からも“追い出す”作戦。 だが、すくっと橋本くんが立ち上がる。「澄人さん! 僕、手伝いますっ」 ……いや、手伝いなんていらない。俺はちょっと焦って佐伯の方を振り返った。「一人で出来るから」 「でも、これくらいはやらせてください」 その手が、佐伯のポロシャツの袖口に軽く触れる。指先がちょっと腕に触れていて、なんだか確信犯のような気がしてきた。 佐伯は一瞬視線を下にやり、橋本くんの顔と手首のスマートウォッチをチラリと見比べた後、あっさりと了承する。多分、人員の配置と、シフトの時間とか、客の混み具合を考えて、そう判断したんだろうけど……。「じゃあ、そっち持って」 橋本くんは、さっき怪我したばかりとは思えないほど軽や
last update最終更新日 : 2026-05-02
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第48話 真正面からの略奪宣言

「ね? 小瀧さん」 目が笑っていない。 何に同意を求めているのか分からないまま、俺はただ黙ってその顔を見つめる。胸の奥がざわついて、息をするのも少し緩慢になった気がする。 橋本くんの視線が、まるで俺の心の奥まで覗き込んでいるようで、変な汗が背中を伝う。 すると、橋本くんは声を少し顰め、耳元で小さく囁いた。「ごめんなさい♡ 澄人さんのこと、奪っちゃいますね」 その言葉をもう一度確かめるより前に、橋本くんはにっこりと笑ってくるりと背中を向け、軽やかに接客に戻りクレープを作り始めた。 俺は固まったまま、体が動かない。 心臓が、胸の中で暴れている。 ――橋本くん、俺と佐伯が付き合ってるって気付いてる。 しかも、それを堂々と“略奪宣言”までしてきた。 信じられない、という気持ちと、妙に背筋を冷たいものが走る感覚。 こんな子に本気でアプローチされたら、俺、どうなっちゃうんだろう。 思い返すと、最初から澄人は割と優しかった。 気づいたら、この子の言いなりになっていたこともあった。 連絡先だって、教えてしまったみたいだし。(もしかして、俺が気づくのが少し遅かっただけで、もう心のどこかで揺れてたりするの……?) 指先が一気に冷たくなった。 帽子を目深に被り直すと、店舗に続くドアが開き、佐伯が遅番で出勤してきた。「お疲れ様です」 俺の小さな挨拶も、橋本くんの存在感にかき消される。 ぴゅっと駆け抜ける橋本くんの姿を、帽子の下からじっと見つめるしかなかった。「さっき僕一人で、クレープ完璧に作れました! 土日に、澄人さんと二人でいーっぱい練習したおかげです!」 両手で佐伯の片手を握り、上目遣いで見上げる。 まるで、握手会みたいだ。 佐伯は、橋本くんの手を振り払おうともしない。 それどころか、少し微笑むような表情を浮かべている。「へえ、もう出来るようになったんだ」 ――俺は、その二人の距離感に、ただただ飲み込まれていく。 普段なら、冷静に見ていられるはずなのに。 それでも、どうしても視線をそらせない。 俺の胸の奥は、嫉妬と焦燥と、少しの羨望でごちゃごちゃに揺れていた。 その後も佐伯の隣をキープされ続け、橋本くんのスキンシップは止まらなかった。腕に触る、背中あたりの服を掴む、近くにぴっとりと体を寄せて作
last update最終更新日 : 2026-05-02
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第49話 不安と過呼吸

――早く帰ってきてほしい。 そう思った瞬間、不意に目からぽろっと涙が落ちた。 慌てて袖口で拭っても、また溢れて、止まらない。 さっきまで我慢できてたのに。 バイト先じゃ絶対そんな素振り出せないから、こうしてひとりになると、全部一気に出てくる。(……早く、帰ってきて。 俺のこと、またちゃんと見てほしい。) そう願うたびに寂しさが積み重なって、胸が苦しくなる。 そんなとき、スマホの通知音が鳴った。 高橋から。インスタのストーリーズのスクショだ。 “これは流石にやばくね?” 変な胸騒ぎを覚えながら、タップする。 そこには、居酒屋の料理と、向かい側に座る人のビール……そして写り込んだ、男性の手首。 一瞬で理解した。(これ……佐伯じゃん) 左手首の黒いスマートウォッチ。 白いスウェットパーカー。 見慣れたものばかり。 追い討ちみたいに、画像には文字入れまでされていた。 “今からせんぱいと飲み🍺(๑╹ω╹๑ )💞” 心臓がどくん、と痛む。 その瞬間、スマホをそっと画面ごと伏せた。 高橋が送ってくれたのは、きっと佐伯に起きるかもしれないトラブルを心配したんだと思う。 でも、返事を打つ気力が、まったく湧かなかった。(……内緒で二人で飲みに行ってるんじゃん) 頭が真っ白になる。俺には行くなって怒ったくせに。 バイト先では、あんな距離で……。「……なんだよ、それ。」 しぼんだ声が、誰もいない部屋に消えた。 作りかけのご飯も、なんだか全部バカらしくなって――俺はそのまま、力が抜けるようにソファへ寝転んだ。 ぼんやりした天井、冷えた胸、静まり返った部屋。 佐伯がいないだけで、こんなに世界が薄暗くなるなんて知らなかった。 *** 佐伯が帰ってきたのは、25時をとうに回った頃だった。 玄関の鍵が開く音がした瞬間、心臓がびくっと跳ねる。 さっきまで涙も枯れて無心になっていたのに、帰ってきたと分かった途端、また胸の奥がざわざわしだす。 俺の様子を一瞬だけ確認した佐伯は、無言のままシャワーへ直行。その背中を見ているだけで、胃が重く沈むような痛みが走った。 しばらくして戻ってきた佐伯は、部屋着姿で首にタオルをかけ、 まるで当然のように俺の身体を抱き上げてベッドに移した。 酒の匂いがふ
last update最終更新日 : 2026-05-03
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第50話 佐伯は俺のものだから

時計の針が真夜中を指す頃、俺の呼吸はようやく人間らしいリズムを取り戻した。 泣き疲れて、喉はひりひりするし、手足は冷えたまま重くて、でも、どうにか水を飲むだけの体力は戻っていた。 ペットボトルを置くと、佐伯が俺の隣――触れられる距離に、静かに座る。 “こんなふうに壊れると思ってなかった” そんな空気を全身から漂わせていて、でも責めてくる感じはまるでなくて。逆に、俺のほうが気まずくていたたまれない。「……さっきの続きなんだけど」 佐伯は、ゆっくり俺の目をのぞき込んでくる。 目が合った瞬間、怖くて逸らした。 聞きたくない。聞きたくないけど……聞かなきゃダメだ。 俺が視線を落とすと、佐伯は落ち着いた声で言った。「橋本に、もうやめて欲しいってちゃんと伝えた。アプローチっていうか、あの猫被り含めて、南緒にマウント取るのも。俺に触るのも」 その言い方には、迷いも、気まずさも、変な優しさもなくて。 ただ、 “俺が嫌だからやめてほしい” それだけが透けて聞こえた。「……で、何が目的でやってんのかも、聞いた」 俺は目を伏せる。 そんなの、聞かなくてもわかってるつもりだった。「橋本は、高橋が好きで。……高橋は、南緒のことが好きだから、排除したかった、ぽい」「……えっ?」 理解が追いつかなくて、頭が真っ白になる。 疑問が浮かぶより先に、思考が止まった。 けれど佐伯は俺の顔を見ながら、まるで答え合わせみたいに淡々と続けた。「高橋の片思い相手を知りたいからバイト始めて。気を引きたくて、俺を利用したって。同時に、自分の恋愛の邪魔だから、南緒をどうにかしたかった。んで、南緒と俺が付き合ってるのに気付いて……二人から愛されてるのがムカついて、傷つけたいって思ったらしい」 点と点が、繋がっていく。 橋本くんがやたらアピールしてきたのは、いつも高橋がシフトにいる日だった。 色んな男を誘惑してすぐ振るって言う高橋の話は、多分……高橋への当てつけ、気を引きたいからで。 バイト先を教えて欲しいって押しが強くて断れなかったっていうのも、高橋との時間をもっと持ちたかったのかな……と、全部が一本の線になる。 けど、言われるまで全然分からなかった。「……俺、澄人が橋本くん突き放さないから、好きになったのかと思った」 喉の奥がつまって、ぽた
last update最終更新日 : 2026-05-03
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