浮気した男ほど、なぜか開き直るものだという。明石紗羽(あかし さわ)は最初、その言葉を信じていなかった。けれど周防京介(すおう きょうすけ)が、家で働く若い家政婦と関係を持ったことで、信じざるを得なくなった。妊娠検査の結果がまた望んだものではなく、沈んだ気持ちで家に戻ったその日、彼女は自分のものではない検査結果を見つけた。その瞬間、顔がこわばった。そこに記されていた名前は、柴崎皐月(しばさき さつき)。あまりにもよく知る名前だった。紗羽の胸に、ふいに嫌な予感が広がる。書類を握る手に、思わず力がこもった。彼女は顔を上げ、向かいにいる冷ややかな表情の男を見つめ、信じられない思いで問いかけた。「これは、どういうこと?」「離婚しよう」京介の黒い瞳は、何を考えているのか読み取れないほど暗く沈んでいた。彼は信じられないという顔をした紗羽を見つめ、一語一語、はっきりと告げた。「皐月ちゃんはずっと俺のそばにいてくれた。あの子は母親になりたがっているし、俺との結婚も望んでいる。今、皐月ちゃんは俺の子を身ごもっている。俺にとっても大切な存在だ。だから、叶えてやるのが当然だろう」紗羽の心は、底まで沈み込んだ。胸の奥で感情が激しく渦巻く。それでも彼女は、ただじっと彼を見つめていた。目の前の男は、仕立てのいい黒いスーツを着こなしていた。整った顔立ちには冷ややかで近寄りがたい雰囲気が漂い、今は薄い唇を固く引き結んでいる。感情を押し殺しているせいか、顎のラインはいっそう鋭く際立って見えた。浮気をしておきながら、どうしてここまで堂々としていられるのだろう。紗羽には、本当にわからなかった。結婚してからの五年間、友人たちはことあるごとに紗羽に忠告していた。京介と、家にいる幼なじみ同然の若い家政婦には気をつけたほうがいい、と。最初、彼女は信じなかった。紗羽と京介の結婚は家同士が決めたものだったし、京介はもともと冷たい性格だった。それでも彼女に対してだけは、いつも驚くほど根気強く、優しかったからだ。彼女がどんなに機嫌を損ねても、彼はできるかぎり望みを聞き入れてくれた。そして彼女を抱きしめ、柔らかな声で言った。「紗羽、君を笑顔にするのは、夫である俺の役目だろ」その言葉を聞くたび、彼女はひそかに思った。自分はきっと、周
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