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第4話

Auteur: 橙川こがね
彼のあまりにも率直な言葉に、小島の顔から笑みが少し薄れた。だが、そこまで驚いた様子は見せず、ただうなずいただけだった。

彼女は紗羽のほうへ視線を移し、穏やかな声で言った。

「紗羽様、お顔色があまりよくありませんね。よくお休みになれなかったのでは?」

紗羽は小島の気遣わしげな目を見て、胸が少し温かくなった。この家で、小島は数少ない、今も本気で彼女を心配してくれる人だった。

彼女はそっと首を横に振った。

「大丈夫よ、小島さん。心配してくれてありがとう」

小島はもう一度京介を見てから、言った。

「京介様、大旦那様のお考えでは、あなたと紗羽様はしばらく本邸へお戻りになっていないので、今夜、お二人で一度本邸へお戻りになり、ご家族でお食事を、とのことです」

彼女は少し言葉を切り、付け加えた。

「大旦那様は、紗羽様には必ずいらっしゃるようにと、特に念を押しておられました」

京介の顔色は明らかに沈んだ。彼はもちろん、それが何を意味するのか分かっていた。

彼の祖父は高齢ではあったが、耳は早かった。そして何より、家の体面としきたりを重んじる人だった。この微妙な時期に、紗羽を名指しして家族の食事に出席させようとするのは、決して偶然ではない。

彼は胸の苛立ちを抑え込み、冷たい声で答えた。

「分かった、小島さん。この件は、俺がお祖父様に直接きちんと説明する」

小島の笑みは、どこかぎこちなかった。京介と、黙ったままの紗羽を交互に見やり、何か言いたげに唇を引き結ぶ。けれど結局、何も言わず、小さくため息をついてキッチンへ入っていった。

京介はそれ以上留まらなかった。皐月の手を引き、玄関へ向かった。

紗羽のそばを通り過ぎるとき、彼は足をわずかに止めた。横を向き、少しも波立たない彼女の落ち着いた顔を冷ややかな目で見やった。

「夜六時に迎えに来て本邸へ連れていく。覚えておけ。お祖父様の前で余計なことを言うな」

そう言い終えると、彼は皐月の肩を抱いたまま、振り返りもせず出ていった。

リビングには静けさが戻った。キッチンのほうから、食器がかすかに触れ合う音だけが聞こえていた。

紗羽はその場に立ち、閉ざされた扉を見つめた。指がわずかに丸まり、またゆっくりとほどけた。

彼女が振り返ると、ちょうど小島が温め直した栄養食と小鉢を持って、キッチンから出てくるところだった。

小島は朝食をそっと食卓に並べた。すぐにはその場を離れず、紗羽の前まで歩み寄ると、目元を赤くしたまま、そっと彼女の手を取った。

「紗羽様」

小島の声はとても低く、痛ましさが滲んでいた。

「おつらかったでしょう」

たったそれだけの言葉だった。けれど紗羽の胸には、かすかな痛みと温かさが同時に広がった。

誰もがこの結婚を陰で嘲笑う中で、小島は数少ない、彼女を一人の人間として気遣い、わずかでも尊厳を守ろうとしてくれる人だった。

紗羽は瞳の奥に一瞬よぎった揺らぎを抑え、小島の手をそっと握り返した。

「小島さん、ありがとう」

一番惨めなときに、まだ少しの尊厳を残してくれたことに、心から感謝していた。

小島は彼女の手の甲を軽く叩いた。すべては言葉にしなくても伝わっていた。

「まずは少し召し上がってください。お身体が大事ですから」

一方、京介は皐月を、都心に新しく買った高級マンションへ送り届けていた。

マンションには贅を尽くした内装が施され、どこもかしこも真新しい空気を漂わせていた。皐月の好みに合わせた雰囲気だった。

京介は彼女を柔らかなソファに座らせると、やさしく言い聞かせた。

「いい子だから、ちゃんと休んでいろ。今夜は帰りが少し遅くなるかもしれない。本邸に行かなければならない」

皐月は素直にうなずき、名残惜しそうに彼の手のひらへ頬をすり寄せた。

「うん、京介さん。行ってきて。私、ちゃんと自分と赤ちゃんのことを大事にするから」

京介が出ていくと、マンションには皐月だけが残された。

彼女の顔から、従順で甘えるような表情がゆっくりと消えていった。代わりに、かすかな不安と打算が浮かんだ。

彼女は床まである窓の前まで行き、階下で京介の車が走り去るのを見届けた。それからソファのそばへ戻り、自分のブランドバッグの内ポケットから、普段あまり使わない別のスマホを取り出した。

電源を入れてほどなく、登録名のない、発信地不明の番号から電話がかかってきた。

皐月はすぐに電話に出ると、寝室へ行き、ドアを閉めた。

受話口から、軽薄な男の声が聞こえてきた。からかうような笑いが混じっていた。

「どうだい、柴崎のお嬢さん。俺の『種』は悪くなかっただろ?周防家の若奥様の座、うまく手に入りそうか?」

皐月の顔色が瞬時に変わった。彼女は声を低くし、語気には険しさをにじませた。

「黙りなさい。警告しておくわ。この件は絶対に墓場まで持っていきなさい。二度と口にしないで。分かった?」

「そんなにぴりぴりするなよ」

電話の向こうで、男はさらに世の中をなめきったように笑った。

「俺たちは今、同じ船に乗ってるようなもんだろ。お互い得をする話じゃないか。安心しろよ、口止め料さえきちんと払ってくれれば、こっちは絶対に黙ってる。よく考えてみろよ。将来、俺の息子が周防家の大きな財産を継ぐんだ。実の父親としても鼻が高いってもんだろ。こっちは大歓迎だよ」

「寝ぼけたこと言わないで!」

皐月は歯を食いしばった。

「自分の立場を忘れないで。私たちが取引していることもね。お金は約束どおり振り込む。でも、少しでも口を滑らせたり、余計な欲をかいたりしたら、あんたには一銭も渡らない。それどころか、ただでは済まないから」

「分かった、分かった。ルールは分かってるって」

男は適当に応じ、さらに何度か軽口を叩いてから、ようやく電話を切った。

皐月は熱を持ったスマホを握りしめ、胸をわずかに上下させた。

この秘密は時限爆弾のようなものだった。贅沢な暮らしを手に入れるために、彼女が背負わなければならない危険だった。

彼女は何としても京介をつなぎ止め、一刻も早く周防家の嫁としての立場を確かなものにしなければならなかった。この子を産んで初めて、周防家での居場所を手に入れられるのだ。

紗羽については、昨日の意味深なメッセージを思い出し、皐月の目が陰った。

紗羽はいったい何を知っているのか。それとも、ただはったりをかけているだけなのか。

夜六時、京介は時間どおりに、かつて紗羽と新婚時代を過ごした邸宅へ戻ってきた。

彼は暗証番号を入力してドアを開けた。リビングには明かりがついていたが、異様に広く、冷え冷えとして見えた。そして彼の視線は、玄関先で止まった。

紗羽はスーツケースのそばに立っていた。すでに外出の支度を整えていた。

彼女は仕立てのよい淡いベージュのカシミヤのワンピースを着て、その上に同系色のロングカーディガンを羽織っていた。髪はしなやかに肩の後ろへ流れ、顔には薄く化粧をしていて、わずかな青白さを隠していた。その姿は、どこか距離を感じさせた。

まるで、彼が初めて彼女に会ったときのようだった。彼女の目も心も、別の男だけに向けられていて、彼を完全に無視していたあの頃のように。

京介は昔の光景を思い出し、瞳の奥がひそかに暗くなった。さらに、こうもあっさり去る準備をしている彼女の姿を見ると、朝から積もり続けていた苛立ちが、一気に燃え上がった。

彼は眉をきつく寄せ、スーツケースに目をやった。口調は荒かった。

「住む場所は見つけたのか?」

京介は、彼女が少しは途方に暮れると思っていた。住む場所くらい用意してほしいと、自分に泣きついてくるはずだと。明石家はもう終わり、兄は刑務所の中。自分にすがる以外、彼女に行く当てなどないはずだった。

紗羽は目を上げ、静かなまなざしで彼を見た。そしてうなずいた。

「ええ。しばらくはホテルに泊まるつもり」

「ホテル?」

京介は皮肉げに笑った。

「紗羽、どうしてもそういう真似をするつもりか?ホテルに泊まって、俺にひどい扱いを受けたって周りに見せつけたいのか?俺に追い出されて、行く場所もなくホテル暮らしをしている。そう思わせたいわけだろ。そんな惨めな芝居、誰に見せるつもりだ?」

そんな言葉を浴びせられても、紗羽の表情は少しも揺らがなかった。

彼女はむしろ、ほんの少し首を傾けた。本当に考え込んでいるかのようだった。そして淡々と問い返した。

「じゃあ、私はどこに住めばいいの?」

「俺名義の物件がいくつあると思ってるんだ。お前だって知らないわけじゃないだろう?」

京介は、彼女の他人事のような態度にさらに苛立ちを煽られた。彼は一歩前へ出て、高圧的に迫った。

「どこでも一つ選んで、ひとまず住めばいいだけだろう。どうしてこのタイミングで、わざわざ見苦しい真似をする必要がある?」

紗羽は静かに一歩後ろへ下がった。視線を窓の外の重い夕暮れに向け、声は淡かった。

「もう離婚手続きを進めている以上、財産関係はきちんと整理しておいたほうがいいと思うの」

「離婚手続き」という一言が、細い針のように京介の胸に突き刺さった。

京介は、紗羽の冷めた横顔を見つめた。そこには、かつて自分に向けられていた未練も、押し殺した悔しさも見当たらない。ただ、自分とはもう関係のない人間を見るような、静かな距離を感じさせるまなざしだけがあった。

京介は紗羽を冷ややかに見据えた。強がっているだけだ、とすぐに決めつける。今の紗羽に、自分以外、頼れる相手などいるはずがないのだから。

彼は鼻で笑った。その笑いには、冷たい嘲りが満ちていた。

「紗羽、俺の前でちっぽけなプライドを必死に守ろうとしているお前、見ていて本当に痛々しいな」

そう言うと、京介の声にはさらに露骨な軽蔑が滲んだ。

「そんなふうに気高くて自立した女のふりをして、何か変わるとでも思っているのか?俺が見直すとでも?夢を見るな。俺と別れたら、お前は何者でもない。ホテルに泊まる?好きにしろ。どこまで強がれるか、見ものだな」

紗羽は、もう彼の嘲りに返事をしなかった。

彼女はただ、わずかに目を伏せた。長く濃いまつげがまぶたの下に小さな影を落とし、表に出そうな感情をすべて隠した。

そして手を伸ばし、シルバー色のスーツケースを引き寄せた。

キャスターが床を滑り、かすかな音を立てた。あまりにも静かなリビングの中で、その音は妙に耳障りなほどはっきり響いた。

京介は、紗羽が何も言わず、迷いのない足取りで自分より先に玄関へ向かうのを見ていた。胸の奥で、抑えようのない苛立ちがじわじわと募っていった。

彼は口を開きかけた。だが結局、陰った顔のまま、その後を追うことしかできなかった。

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