僕だってチートがあれば苦労なんてしていない のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

116 チャプター

小さなトップ会談

「やってるなぁ」 ジョーは村に入るなり開口一番そう言った。  今年三度目の来訪だ。  いつもの年なら年に一、二度くる程度だったから頻繁に来ていると言っていい。  その代わりいつも秋にくるキャラバンが今年は来なかった。  多分、廃村になったと聞いたんだろう。  そう、この村は対外的には野盗に襲われ全滅、廃村手続きがなされている。「こんにちは、今回はいつまで?」「うん、今年の冬はここに腰を落ち着けるつもりだ」 なんと。「拠点作りも大切な仕事だからね」 確かにね。「ということでこちらの要望も聞いてもらうつもりだが、キャラバンのメンバー全員村の復興に手を貸そう」「ありがとうございます」「早速だが、今はなにをやっているんだ?」 僕は現状を説明する。  まず、今現在同時進行で行われている作業の説明。  家を建てる。  これにはルンカーを焼く作業も含まれている。  次に村を囲う塀の建設。  今は、そのための木材の切り出し作業にガーブラを班長に男手十人が北の森に出払っている。  村に残っている男は僕と鍛治職に専念しているジャリ、建築の現場監督としてジャスがいるだけだ。  伐採に同行している女性はザイーダだけ。  彼女はサビーとともに作業員の安全確保で警備担当だ。  冬ごもり前のバヤルなんかが出てきたら撃退してもらわなきゃいけないからね。  残りの女性陣は家づくりにレンガを積んでいる。「じゃあ、家づくりは俺たちが代わろう。他にやることありそうだ」「助かります。冬の保存食作りしないといけなかったんで」 ジョーはてきぱきと指示を出し村の女性たちと仕事を代わる。  彼女たちには指示を出して保存食作りをはじてめもらう。  それから僕はジョーを連れて僕の小屋へ移動する。  今後の話し合いだ。「えーと……」 僕はまず短期計画を説明する。  家は引き続き住民分建設する。
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前世という蓄積

 それから僕は村を少し小さくして北側を牧畜に利用する案を説明する。「いいね。じゃあ春になったら農耕用のホルスや食用のジップやゴルトを用立てよう」 こういう即断即決が心地いい。  余談だけど、うちでもジップを二頭飼っていた。 牧草地は柵で、村は塀で囲って防備とすることも説明した。「面白いことを考える。それは二百年近く安定していたこの国の発想じゃないぞ。ブチーチン帝国や、帝国の脅威にさらされているジハラジャ王国あたりの発想だ。いや、でも未来を見据えたらいい選択だ」 なるほど、確かに元の村は柵さえなかったけど、これはど田舎だからというよりこの国の政治情勢に由来していたんだ。「しかし、塀で囲むってことは襲われる可能性を強く見越しているってことか?」 「ええ」と僕は頷く。「根拠は?」 僕は、野盗に一度襲われていること、キャラバンが頻繁に出入りすればいずれ村が復興したことが知れ渡ること、王国の戦乱がこんな田舎まで波及する可能性を根拠として示した。「なるほど道理だ。昨日今日学び始めた少年とは思えない智慧だな」 そりゃあ歴史オタクの前世持ちですから。  文字とこの国の歴史以外は何十年という学習の蓄積があるのだよ。「雪が降るまでに終わらせたいんだけど、無理っぽいんですよね」「確かに無理だな。おそらく一月としないうちに雪は降る」「僕もそう思います」 伊達に十五年もこの村で暮らしていない。  いつ頃雪が降るってのは体験的に判ってる。「雪が降ったらどうするつもりなんだ?」「戦闘訓練を……」「戦闘訓練!?」「ええ、いくら柵や塀で囲ってもそれだけで村を守れるなんて思ってません」「村人みんなで戦おうってのか」「戦いに不向きな人もいるんじゃないかと思ってますよ?」「適性を見ることも含めての訓練か」「そうです。戦い方、武器の得手不得手なんかも知っておくべきでしょ」「そういうもんか?」
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怪物という存在

 ジョーとの会談から二日後、大量の木材とともに男たちが戻ってきた。  そんな彼らを僕とジョーがにこやかに出迎える。「嫌な予感がビンビンするぜ」 サビーの勘は鋭いなー(棒)  僕は、ジャリに頼んでいた何種類かの鉄製武器をみんなの前に用意する。「明日一日休んだら、この武器持って西の山に行くよ」 と、朗らかに宣言した。「はぁ!?」 うん、そういう反応になるよね。  僕はざっとどうして武器が必要なのか、二日前にジョーと話し合ったことを改めて説明する。「それと西の山に行くのとどう関係があるんだ?」 いい質問ですね!「西の山には怪物がいるからです」 当然、村人はざわつくよね。  まぁ、村にいる限り安全なんだけどね。  僕は怪物の説明をする。 おっと、みんなにも説明しとくね。  この世界には植物・動物と怪物と魔物という生物区分があるんだ。  植物動物については前世の区分でだいたいあってる。  魔物は魔力によって動いていたり、魔力を何らかの形で利用する生き物のことだ(もっとも魔力を魔法として利用していても僕ら人族やナルフ族などを魔物とは呼ばない)。  ここら辺は非常に明確に区分できてる。  さて、怪物だ。  これは実は一般の動植物との区分がかなり曖昧で、書物によれば怪物と思われていたものが実は動物だったり、学者の論争で動物から怪物にカテゴリーが変更になったものもあるらしい。  雑な説明をすると人に害をなすものが怪物ってことになってるんだけど、じゃあ時々人を襲うことのあるボワールやバヤルは怪物かといえば猛獣と呼ばれることはあっても怪物じゃないんだな。  で、問題の西の山に生息している怪物なんだけど、これはもう怪物としか呼びようのない生き物だ。  名をスクリトゥリという。  この辺では西の山にしか生息していない植物系の怪物で、根を張っているのでほとんど移動できない。  「枝」が動いて相手を捕まえ、絞め殺した後「根」で絡
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女性であっても

「そんな怪物をなぜわざわざ退治に行く必要があるんだ?」 サビーがあまり興味なさそうに訊ねてくる。「さっき村長が説明した通りこの村に俺たちの拠点を作る」 と、ジョーが説明を引き受けてくれた。 そっちの方が説得力があるだろうと、僕は任せる。「そうするとそのことを嗅ぎつけた野盗に襲われる可能性があるだろ? 村を守る戦いは避けられない。そこでみんながどれくらい強いか知っておきたいわけだ」「自分の身は最低限自分で守れってことか?」 と、ルダーが訊ねる。「そういうことだ。俺たちの品物はサビーたちが守る。そこらの野盗なら十人二十人と束になっても負けないだろうが、彼らはあくまで俺の私兵だと思ってくれ。最終的には俺たちの品物を守ることが最優先だ」「もちろん、村に野盗を入れないのが最善だから彼らが村のために戦わないってことじゃないよ」 と、一応フォローする。「ということで、スクリトゥリ退治でみんながどれくらい戦えるかみて、今後の対策を考えようと思っているんだ」「そういうことならワシらには異存はない」「ワタシに意向を確認しましたか? ガーブラ」「なんじゃい? イラードは異存があるのか?」「ないですけどね」「ならいいじゃろう」 他の住人も概ね異存はなさそうだったので、割とあっさり予定通り明日一日休養日に充てて、明後日からスクリトゥリ退治に西の山に行くことになった」「私たちも行きたい」 と、強く主張したのはクレタだ。女性陣にも二、三人希望している住人がいるらしい。 そもそも戦闘の頭数に入っているオギンとザイーダ以外にも戦いたいっていう跳ねっ返りがいるんだね。 さすがにカルホとアニーはお留守番だ。 クレタはちょっと議論になったけど、最終的にオギンが面倒を見ることでみんなの許可が出た。 まぁ、僕が「連れて行く」と強く主張すれば否応なく参加させられたかもしれないけど、今はまだ信頼も実績もない「たまたま村長」だから、みんなで話し合って納得ずくの結論の方
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村人、怪物退治に行く

 ということで次の日はだらだらと家を作ったりしながら過ごし、出発の朝を迎える。  もう標高の高いところはチラチラと雪が降ってたりする季節ということで、みんなそれなりにあったかい格好で西の山に向かう。  村の西側はいくらも進まないうちに森になり、やがて山を登り始める。  西は切り立った崖とはいえ、登れるところはあるもんだ。  スクリトゥリは大体標高七百シャル以上に生息しているらしい。  僕の村が標高三百シャルと比較的高地に存在しているので、四百シャルくらい登るとスクリトゥリのテリトリーだ。「そろそろスクリトゥリのテリトリーだ。みんな気をつけろ」 サビーが注意を促す。  実は夏場、スクリトゥリを見分けるのは比較的簡単だ。  奴らは樹木に似ているけれど怪物で、生き物を襲って養分にしているからか葉が茂らない。  残念なことに今は冬の初めで山の木はほとんど落葉しているから、ぱっと見見分けがつかない。  ならなんでこの時期にスクリトゥリ退治なんかしようと思ったかといえば、ま・タイミングの問題もあったんだけど、簡単に見分けられたらみんなの戦闘力を測れないと思ったからだ。  村の再建はキャラバンの人たちと女性陣に任せてきたのだけど、なぜか指揮を頼もうとしたジョーもこっちに参加してる。「俺がジャッチメントしようと思ってな」 って言ってたけど、これ、たぶん僕が試されてるんだよね、きっと。「そうね」 うん、ジャンはリリムの賛同を得た。  テッテレ〜!「ん?」 心の中でふざけていると、違和感のある木を見つけた。  妙にクネクネした幹の木だ。  周りの木は天に向かってまっすぐ伸びようと努力してる風なのに、その木だけはなんていうかひねくれてる。 たぶんこいつがスクリトゥリだ。 僕はジョーに視線を送って頷くと、腰に佩いはいた剣を抜く。
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村長、怪物退治をしてみる

 僕は慎重にスクリトゥリに近づく。  スクリトゥリは僕に反応して動き出す。  便宜上枝腕と呼ぼう。  スクリトゥリは枝腕を伸ばして僕を捕まえようとする。  その動きはスローモーションというほどではなかったけれど緩慢と言っていい動きで、チャンバラごっこの経験があって前世で剣道の有段者だった僕には一つ一つは余裕で対処できるものだ。  ただ、厄介なのはその数だ。  襲い来る枝腕は数えて七本。  上の方にまだ十本以上の枝腕がありそうだけど、今のところそれを使う気はないみたい。  その一本一本が意外としなやかで強靭だったのも思った以上に厄介で、ただの木なら余裕で枝払いできるだろうに剣を振るってもなかなか切り落とせない。  斧ならもっと楽なのかな?  今のところ危機的状況とは無縁だけど、このままじゃ埒が明かない。  僕は戦いながらこの戦闘の問題点を洗い出してみた。  まず、剣がなまくらだ。  戦国時代、日本刀には数打物と呼ばれた粗製濫造の量産品があったと言われてるけど、それと比較してもかくやという出来だ。  鍛治を始めたばかりのジャリに要求するのは酷かもしれないけど、農機具と違って斬れ味の悪さは戦闘結果にまるっと影響する。  延いては自身の生死に直結する。  枝腕とチャンチャンバラバラやっているうちに刀身が歪んできたようでもあるし、こいつは春までになんとかしてもらわなきゃならないな。  せめて砥石のいいもの使って初撃くらいは高い殺傷力を発揮してもらわなきゃ。  僕の剣戟もひどいものだ。  剣道で使っていた竹刀には刃がないから、どの角度で振っても結果は同じだったわけだけど、実剣はちゃんと刃を向けて振らなきゃ威力が発揮されない。  たぶん、僕の振り方が悪いことも剣の寿命を縮めているんだと思う。  こんなじゃ木刀振ってる方がまだマシかも……。
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スクリトゥリ

 次にスクリトゥリ問題。  戦い始めて五分はたった。  これだけやってればさすがに枝腕の一本や二本切り落としてるんだけど、特にダメージを受けたって印象がない。  植物型怪物はダメージ感が判りづらいということを差っ引いてもダメージを与えた気がしない。  これはきっと枝腕をいくら切ってもダメージにならないんだ。  普通の木とおんなじで。  ということで、スクリトゥリ攻略の戦術を考えよう。  普段肉体労働が多かった僕の体力は16歳だってことも考慮してまだ余裕がある。  これはきっと神様からの恩恵だってことにしとこう。  人よりちょっと優秀に産んでもらっているらしいからね。  多少息は上がってきたけど。  それはさておきだ、枝腕をいくら切り払ってもダメージにならないのであれば、幹胴か根足を攻めなきゃならないってことになる。  ちなみにスクリトゥリは基本移動できないし、その部分で獲物の養分を吸収するいわば口にあたる部分なので根足という表現は適切じゃない気がするけど他の部位同様便宜的にそう呼ぶことにする。  試しにひと抱えはありそうな幹胴に切りつけてみる。  するとスクリトゥリは身震いしたように一瞬固まった。  うん、いわゆるダメージが通ったってやつだ。  根足に剣を刺してみる。  こっちは身悶えするように幹胴がいっそうねじれた。  どちらも攻め続ければ倒せそうだ。  これはどっちが安全か? どっちが効率がいいかの判断だな。  上から覆いかぶさるように攻めてくる枝腕の攻撃をかいくぐりながらということを考えれば、下を向いて攻撃しなきゃならない根足より、幹胴を狙う方が安全な気がする。  けど、ダメージ具合を見ると根足の方が弱点なんだと思える。  普通に退治するなら、二、三人組になって戦えば済むんだろうけど、今日のスクリトゥリ退治は個々人の力量を測る意味合いが強くて、僕はジョーに試されているんだと思うんだよなぁ……。  僕はチラリとジョーを盗み見る。 …………。 ちくしょう!  ポーカーフェイスでやがん
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村長としての力量

 えぇい、この場の僕は村長として、指揮権を持つ人間として振舞うことが正解と見た。  ファイナルアンサー!  僕は見守っていた中からそもそも戦闘要員であるサビーたち以外の比較的落ち着いている二人を選んで声をかけ、二人に枝腕を迎撃してもらいながら根足を攻撃してスクリトゥリを倒した。 どや!?「うん、合格だ」 やったね!「一人で倒せると思ったんだが?」 と、ジャリがまた突っ込んでくる。「ああ、俺もそう思うぞ」 と、ジョーが同意する。「だが、様々な条件を勘案して最適な決断をすることが求められる立場にいる人間というのがいるんだよ。例えば俺とかな」「ジャンはそういう人間ってことなのか?」「そうだろ? 村長という立場を考えれば、自分が常に先頭に立って戦えばいいってもんじゃない。ちゃんと冷静に判断できて、適切に対処する。それが村長の役割ってもんだ」「そういうもんなのかね?」「そういうもんだね」 相槌はオギンからもたらされた。「もちろんここ一番で頼りになった方がそりゃあいいさね」「単なる村長ならそれでもいいだろうが、そこらあたりどう考えてるんだ?」 サビーが僕を見ながらジョーに訊ねる。  何を求められてるんだ?「筋は良さそうだし、ちゃんと強くなるさ」「ならいい」 ね、何を求めてんの?「さて、じゃあ他のみんなの実力を測るとしようか」 あ・教えてくれないのね……。「じゃあまずスクリトゥリを見つけたら僕かジョーに教えてください」 僕は気を取り直して指示を出す。  スクリトゥリのテリトリーはそれなりに広い。  動けなくて動作が緩慢、そんな狩りの成功率が低そうな生き物が狭い範囲に生息してたら過当競争で種が滅ぶ。  討伐に出た村人全員分の相手を見つけるのにたっぷり三日もの時間がかかった。  この討伐遠征で致命的な怪我をした人はいない。  けど、何人か
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酷な話だけれど、命を預けるものだから

 村に戻って、村の再建・復興作業が再開された。  ちなみに西の山では最終日にラバトやデヤールを狩って戻ってきてる。  いわゆるついでってやつだ。  基本的には狩りの上手なジャリとジャス、サビーやオギンたちが狩猟したものだ。  僕もラバトを一羽弓で仕留めたぞ。  西の山は植物型怪物スクリトゥリの生息地だからか、獲物は少し少なめだった。  村に戻った僕らは改めて役割分担を割り振って仕事を始める。  冬用の炭焼き、ルンカー作りに二人ずつ。  サビーたちには北の森で狩猟。  ジャスに建築現場の監督を任せ、僕はルダーとジャリを交えてジョーと話し合う。  会場は僕の小屋。  ジャリを呼んだのはもちろん武器の品質強化の件。  ルダーは前世知識持ちだから内政問題のアドバイザーとしてだ。  すでにジャリがむくれてる。  無理もない。  ジョーに強烈なダメ出しをくらったんだから。  師匠もなく見様見真似で打った刀の品質をどうこう言われたって、僕もむくれるよ。  とはいえだ。「鉄器の良し悪しは見分けられるのか?」 僕が訊ねると、むすっとしたまま頷いてみせる。  それを額面通りに信じるわけにもいかないので、スクリトゥリ退治に僕が使った剣と、僕が野盗の襲撃にあった時に唯一身につけていたナイフを彼の前に置く。「せめてこれくらいの品質で作れるようになってもらわなきゃ困るんだ」 ジャリは二つを手にとって眉間にしわを寄せながら見比べると、すげー敗北感を浮かべて一言「努力する」とつぶやいた。  たぶんジャリも鍛治の腕が未熟なんてもんじゃないことを自分自身で痛感していたと思う。  だって、彼が使った剣はスクリトゥリを倒す前にポッキリ折れちゃってたんだから。  そういえば僕が使った剣はグニャグニャに曲がってたな。  同じ剣を作っているはずなのにまだまだ品質がバラバラだった。
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転生者はやっぱり前世に引っ張られるものなのだろうか?

 たぶん理屈は教えられる。  前世の記憶を掘っていけば刀鍛冶の文献知識なら確実にある。  なんたって僕の前世は歴史オタクだ。  でも、理論と実践は別物だ。  こればっかりはトライ&エラーを繰り返してもらう以外にない。  師匠がいれば上達も早かったかもしれないけど、それは無い物ねだりというやつだ。「剣もいいが、何人か才能のないのがいただろ」 あー……うん、いたねぇ。「俺も戦いは得意とはいえなかった」「無理して剣を振るう必要はないかなって思うんだ」「剣じゃなきゃなにを使えってんだ?」「斧とか? 槍とか」「ヤリ?」 ん?  ジャリは槍を知らないのか?「長い棒の先に刃物がついている武器のことだ」 説明してくれたのはジョーだ。  よくご存知で。  と言っても人類の歴史(前世)では古代から使われている戦闘兵器だ。  きっとこの世界でも一般的な武器だと思う。  田舎の農民として平凡に暮らしていたら知る機会も少ないだろうけどね。  寝物語に話してもらった英雄たちはほとんど例外なく剣で戦ってたし。「槍はいい! 俺でも扱えそうだ」「なんでルダーも知ってるんだよ!?」 前世持ちだからだな。「槍の穂先なら剣ほど品質も問われないか」 と、ジョーはしれっというけど、そんなことはない。  ここ一番で信用ならないものに命を預けるなんて不安だよ。「ま・まぁ、始めたばかりの鍛治師にすぐすぐ逸品を望むなんて僕も非道じゃない。上達には期待してるけどね」「じゃあ、武器の話は一旦置いといて……家造りもそろそろ先が見えてきただろ? 村長の家はどうするんだ?」 うん、そこだ。  ルンカー造りの家は有事を想定して進めたことなんだけど、どうもこの小屋に住み慣れちゃったせいで合わないんだよね。  前世の記憶も影響してるかもしれないんだけど……。
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