僕だってチートがあれば苦労なんてしていない のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

116 チャプター

楽しい読書で判ったこと-前篇-

 読み書きを習い始めて判ったことは、この国の文字が表音文字だってこと。  それもアルファベットより仮名文字に近い。  これはすごくありがたい。  なにがありがたいって表意文字より圧倒的に覚える文字が少なくて済む。  そして仮名文字の最大の特徴は文字の並びで発音・読み方が変わらないってことだ。  「knight」で「k」を発音しないとか、ある意味余計なことを覚えなくて済む。  ただし母音だけで三十あるとか、拗音促音濁音に半濁音まで発音全部に文字が当てられているのが、二十六文字しかないアルファベットや五十音と呼ばれる仮名文字との違いだ。  最初はどの文字がどの発音を表しているのかを覚える。  ザイーダに指さされた文字の発音を答える。  間違えると罰ゲームで、僕は腕立て伏せや腹筋。  子供達は広場を一周だ。  なかなかにスパルタ教育だ。  次に地面に棒切れで黙々と文字を書いて覚える「書き取り」。  次に絵物語を読む……といった具合でまさに初等科教育さながらだ。  三軒目の家が完成する頃には四人とも一通り書物が読み下せるようになっていた。  なるほど、確かに僕は人よりちょっと優秀にしてもらっている。  前世の経験も生きているのだろうけど、四人の中で一番物覚えが早かった。  さて、大量の書物を読んで判ったことは、まずこの国がウズルマサル大陸にある八カ国(と、一自治区)の一つリフアカ王国だってこと。  国名は知ってたけどね。  大陸の南東部に位置していて、四カ国と国境を接している。  そのうちの一つがジョーの出身国ラシュラリア王国だ。  この村は王国内の北北西、二つの山脈の麓に当たる僻地で、山脈を超えればブチーチン帝国。  まぁ、今まで山脈を超えて行き来が行われた記録はないらしいので必然的に山脈からこっち側が王国で向こう側が帝国という国境線が引かれているようだ。
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楽しい読書で判ったこと-中篇-

 詳しい地図がないのでなんとも言えないけど、この村のさらに奥に行くつか集落が確認されている。  定期キャラバンはここを終点にしているから奥の集落は王国内であっても王国じゃない感じなのかもしれない。  前世風に言えば未開の少数民族って扱いだろうか。  王国は封建制で五爵位の貴族階級があるようだ。  上から伯爵・仲爵・叔爵・季爵・男爵。  この村はズラカルト男爵領内にあるから、まぁそんなもんだ。  王国の歴史は後継問題で乱世突入してるからもうそんなに重要じゃないんでさらっと読み飛ばしたけど、そこから考察できる文化水準は中世的だ。  ただし近世に片足突っ込んでいるところがある。  まぁでもこれは前世の時代区分を適用するのが間違っていると考えるべきだろうか。  まず、医療が進んでいる。  魔法頼みではあるけれど、医療水準は近代的レベルにある。  どうやら魔力を通して人体に働きかけて怪我や病気を治すため、人体構造に関してよく研究されているからだろう。  病気に関して言えば、科学技術が発達していないので原因が特定できず治療できない事例があるみたいだけど、怪我に関して言えば千切れた腕でも完治させられるようだ。  もちろん魔法使いの腕によるみたいだけど。  魔法技術が発達していることによって火器の代わりとして用いられていることも文献から判った。  火力的には室町末期、戦国時代水準だな。  魔法使いはその適性者が少なく、ほとんどが国に抱えられているようだ。  この辺りは誰でも引き金を引けば人が殺せる鉄砲と違って数を揃えられない欠点と言える。  でも、優れた魔法使いは速射もできるし大火力の攻撃もできるらしい記述があるから侮れない。  今、この国にはどれだけ魔法使いがいて、どの勢力に所属しているか?  そこら辺の情報収拾が必要だ。  伝説の大魔法使いは「空の星を落とした」とか語られてるけど、少なくとも近年の魔法技術では一撃で城壁を壊せるような破壊力はなさ
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楽しい読書で判ったこと-後篇-

 いずれにしても科学技術を基礎にした前世文明の恩恵を得られる僕は戦略戦術で勝負ができそうだ。  なにせ神様のおかげで数千年の戦いの歴史が頭の中に入ってる。  伊達に歴史オタクじゃないぞ。  専門分野は日本史だけど。  それから文明を持っているのは人族だけじゃないようで、ナルフ、ドゥワルフ、タルル、グフリ、オルグなどの亜人がいる。  ちなみにどれもその種族の言葉で「人」を指す単語だ。  「アイヌ」がアイヌ語で「人間」を意味する単語なのと一緒だ。  僕ら人族は彼らにとって亜人という位置付けになるんだね、ちょっと混乱しちゃうかも。  ちなみに大陸を八つの国に線引きしているのは人族なんだけど、それぞれの種族で別の線を引いて国や地域が分けられているらしい。 …………。 複雑だね。  人種以外に知性を持ったグループがいて、魔族ってカテゴライズされているようだけど、外見的に一定のパターンがないらしく、人型の親から鳥型の子が生まれたりするんだって。  デビルマンのデーモン族的なアレなのかね?  そうそう、僕が前世の記憶を思い出した時リリムが言ってた神様の話。  基本的に一つの種族に一柱か二柱の神様が存在しているようだ。  他にも火の神様、水の神様みたいな存在があるようで、ここら辺りは八百万な感じだけれど、大きく違うのは実際に現世利益があることだ。  各種族は仲が良かったり悪かったりで普段はあまり交流がないらしい。  人族と一番友好的なのはドゥワルフ族で、魔族は敵対的。  その魔族とグフリ、オルグ族はある種の同盟を結んでいると文献に書かれている。  魔族とは別に魔獣という存在もあって、これは通常の動物と違って魔法と密接に関わっている存在を指すようだ。  具体的にはドラゴン(やっぱりいた)なんかがそれにあたる。  と、まあこれが五軒の家が建つ頃までに仕入れた知識だ。  その間ジョーは約束通り一度、新しい村人を連れてきて村の住人は二十人を超えた。  家が建つスピードと住人が増えるスピードがミスマッチで
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森歩きの秋

 収穫期を前に、村人総出で少し離れた別の森に木材の伐採に出かける。  季節はまだ暖かいので数日林の中で過ごす予定だ。  荷車二台にホルスが四頭、村人二十一人(うち、男手は十三人)。  ついでに大掛かりな狩りもする。  雑木林の動物たちはすっかり僕らを警戒して森の奥に入ってしまったようで、最近はとんと成果が上がらない。  冬になれば、餌不足で雑木林に降りてくるんだろうけど……。  少し山を登れば実りを迎えた果樹などもあるかもしれないので、女性陣にはそっちをお願いした。  結果、それなりの成果があった。  ここで活躍したのはキャラバン組だ。  元々キャラバンに帯同していて荒事慣れしていた五人が中心となって獲物を見つけ、追い込み、狩っていく。  この森には雑木林にはいないボワールがいた。  大型で気性の荒い草食獣で畑や人を襲うこともあるらしい。  畑は食い荒らすため、人は身を守るために襲うらしい。  けど、肉は美味いそうだ。  それと、仕留めたラバトを横取りしようとしたナルフも一匹仕留めた。  こっちは警戒心が強く滅多に人前に姿を現さない肉食獣だけど、その希少性から毛皮が高値で売れるそうだ。「木材はどうやって運ぶんだ?」 そろそろ戻ろうとなった時、村人が僕に訊ねてきた。「馬そりに乗せて……あーいや、そりを作ってホルスに引かせる」 うん、そりって判るのか?「なんだよ、それ?」 わかんないか、やっぱり。「俺が知ってる」 と、ルダーが説明をしてくれる。  さすが戦中世代。  多分、実物を使っているのも見たことあるんだろう。  瞬く間にみんなと協力して二台のそりを作り上げた、「先に言ってくれよ、こんな森の中で急場で作った簡易なそりなんていつ壊れるか判らんぞ」 ……うん、反省する。
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実りの秋

 荷車の方は人手で押し、ホルスの扱いに長けたルダーとイラードが木材をホルスに引かせる。  この遠征で切ってきた木は春まで放置だ。  村に戻ってきた僕らは総出で春に蒔いたフレイラの収穫作業。  それが終わると、秋蒔きのフレイラのために畑を耕す。  この作業は四頭のホルスが大活躍で、瞬く間に畑が耕かされた。  人間がいかに非力なのか、それともホルスがすごいのか。  フレイラの種を蒔いたら次はポモイトの収穫。  ポモイトは豊作だった。  どちらも長期保存ができる大事な食料だ。  秋の収穫はまだまだ続く。  本当は冬になる前に一軒でも多く建てたいのだけど、収穫は時期を外すとできなくなるから仕方ない。  雑木林からピサーメ、ダリプの収穫。  渋いピサーメは干して保存食に。  甘いピサーメは旬のうちに食べきれない分を煮詰めてこちらも保存食に。  ダリプは半分を干して、残りで酒を仕込む。  ありがたいことにジョーの連れて来てくれた人の中に酒造りの名人がいて(というか、意図的に選抜されたんだろう)ホクホクしながら仕込み始めた。「なかなか良質なダリプだ。いい酒になるぞ」 とか言ってた。  その名人に二人助手をつけて酒造りをお願いしている間に女性陣にマルルン拾いをお願いする。  サビーとガーブラには少し離れたところにある採掘場で岩塩を取って来てもらう。  僕はその塩で肉を加工。  新しい村人の中に一人釣り名人がいて、彼に干物作り、干し肉・ハム作りを伝授する。  これで僕の仕事が少し減った。  そして、家づくり再開だ。  住人が増えたんで仕事を分担できるのが嬉しい。  ジャリはルンカーの作り方を新人二人に伝授して、新居に設けた工房で念願の鍛治を始めた。  工房横で和炭を作りながらの作業だ。  木炭は製造方法でいくつかの種類に分けられるんだけど、鍛治に適しているのは不純物が多く炎の上がる和炭がいいそうだ。  というか、この世界では炭といえばこの和炭らしい。  どうりで黒炭が
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読書の秋

「そろそろ村長は頭脳労働中心に動いたらどうだ?」 イラードにそう言われたのはジョーが再訪する三日前だった。  いつものように建築作業をしている時だ。「え?」「肉体労働は頭も疲労するからな、ここのところ村長から先の展望の話を聞かないぞ」 お・おおっ!  それはやばいな。  村の再建は順調だし、そろそろ次のフェーズに移ってもいいか。「ありがとう。イラードって冷静だね。サビーとどっちが年上か判らなくなるよ」「よく言われる」 ははは、言われるんだ。  僕は、お言葉に甘えてイラードに現場監督を任せて、小屋に戻る。  小屋の中は木炭の副産物、木酢液から蒸留したアルコールを使ったランプを照明に利用するくらいに文明化されている。  まだまだ希少なので使えるのは村長の僕だけ。  権力者特権だ。  まだ十六歳なんだけどね。  まずは汚部屋と化している小屋の掃除から。  小屋を作った時からそのままだった寝床を脱穀後の麦わらなどと取り替える。  ヘレンさんに作ってもらっていた新しい敷物で覆いゴワゴワペタペタになっていた寝床は以前より快適になった。  ついでに忙しさにかまけて土間のままにしていた室内も藁を敷いてゴザを敷く。  これでこの小屋に人が呼べる。  部屋が片付くと僕は無造作に積み上げられている書物の整理に取り掛かる。  ここら辺は伊達に前世をオタクで過ごしていない。  いくつかの分類にカテゴライズしてまとめて積み上げる。  こうなると部屋の一角に棚が欲しくなる。  でも、それは明日の仕事にしよう。  まずはこの村の短期目標の再設定の計画を立てなきゃだからね。「リリム」「何?」「これから思考実験をするんだけど、協力してくれないか?」「どんなことするのか知らないけど、私はあなたの決断を促す知識と助言をするために神様から遣わされてるのよ」「それはありがたい」 それじゃあ、始めようか。
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筆と漢字

「まず、神様から与えられた使命はこの時代を生き抜くこと」「そうね」「ところが時代は乱世に突入している」「そもそも、そうじゃなきゃわざわざ転生なんかさせないわよ」 ……確かに。  いやいや、そこはいい。「こんな田舎でも野盗に襲われた。ジョーが領主に頼んで廃村手続きはしてもらっているから、しばらくは村の再建に集中できるんだけど……」「実際、今年は租税の取り立てがなかったでしょ?」「そうだね。おかけで余裕で冬を越せる備蓄ができそうだ」 穀物類はちょっと心許ないけど、この間の狩りで干し肉の量は申し分ない。  仮に足りなくなってもその時は狩りに出れば新鮮な肉にありつけるはずだ。「なにもなければ生きていくには困らない生活ができる目処はたった」「村長の目から見てそう思えるならいいんじゃない?」「やだなぁ、リリムまで僕のこと村長って呼ぶのかい?」「村長は村長じゃない?」「そうなんだけど、できれば肩書きで読んでほしくないんだよ、せめてリリムにはさ」  リリムは腕を組んで僕の周りを二、三周回ってため息をついた。「しょうがないな……」 ありがたい。  二人きりの時間でさえ肩書きで呼ばれちゃうと公私の切り替えができない。  公私の区別はストレスの軽減にも有効なんだよ。  特に責任ある立場の人間ってのにはさ。「でも、今はその責任者って立場でもの考えてるんでしょう?」 あ・また心の声を聞いてやがる。  ……まぁ、確かにそうなんだけどさ。「……まぁ、いい。ジョーのキャラバンの隠れ家的拠点になることになっているから、村の防衛ってのは考えなきゃならない」「ふむふむ」「じゃあ、どんな防備をすればいいか?」「どうするの?」「それを考えるために状況を整理するんだよ」 僕はそう言っていくつかの巻物を広げる。  巻物は面倒だなぁ……
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仮想敵の設定

「この村の領主ズラカルト男爵がどう動くかは全く判らないから、とりあえず野盗から村を守るとこに集中して計画を立てよう」「それでいいの?」「うーん……どうだろう? あらゆる可能性を考えるのもいいんだけど、それで対策が遅れるのは問題だと思わない?」「遅れると思ってんだ」「うん、思ってる」「根拠があるの?」「あるよ」 キャラバンが拠点を移したら、この村に頻繁にキャラバンが出入りすることになる。  そうするとどうしたって目立つだろ?  最初に目をつけるのは領主じゃなく、盗賊だと見てる。  いつの時代もお役所より民間の方が目ざとく耳ざとい。  決断も実行速度も圧倒的に野盗の方が早いだろう。  そして慎重さも持っている。  特に犯罪行為を自覚している場合、リスクをできる限り潰してから行動に移す。  それが自分を守ることにつながっているからだ。「なるほど」 いいタイミングで相槌をうつね。「ということで、来年の春までには野盗対策が済んでなきゃダメだと思うんだ」「なんで春? 春になったら襲われる?」「いいや。たぶん襲われるとしたら収穫期だろうね。去年みたいに」「じゃあ『秋までに』でいいんじゃない?」「いやいや、春になったら畑仕事が始まるだろ? どうしたってそっちを優先しなきゃならないからね。それに、野盗に襲われるってことは戦わなきゃならないってことだろ? 夏場はそっちの準備に充てたいんだ」 武器を用意して、戦闘訓練をする。  付け焼き刃で経験豊富な野盗にどこまで対抗できるか判らないけど、やらないであの時みたいに蹂躙されるのは嫌だ。「そうね。あなたには生きてもらわなきゃいけないんだから」「そういうこと」 さて、そこで具体的にどんな防御策を考えればいいか?  この世界は、こと戦闘に関していえば中世レベルだ。  野盗なんてのはそもそも高度な戦術で動きはしない。  せいぜいが
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村の短期防衛計画

 村を守ると一口に言ってもどこまでを守るかは正直決めとくべきだ。「まずできる限り村人は殺させない」「当然ね」「でも、戦うとなればどうしたって殺すか殺されるかになる。できる限り直接戦わずに撃退したい」「理想よね」「次に、集落もできる限り守りたい。村に入られるってことはキャラバンの商品を奪われるってことに繋がるから、その時点で負けと言っていいし、命あっての物種とはいえ襲撃のたびに壊されていたんじゃ、守ったことにならないからね」「そうね」「村の財産には畑もあるんだけど、広い畑を完璧に守るのは難しい」「村人の人数と畑の広さを考えたら、実際不可能だと思うな」「僕もそう思う。それに野盗は基本的に破壊が目的じゃなくて食料とかの略奪が目的だから、畑を意図的に荒らすとは思えない。まぁ、確率ゼロじゃあないし、襲う過程で荒らされることは想定してる」 枯葉に箇条書きで書いては地面にそれらを広げていく。  それまで村は平穏な日常の中にあったから、防衛なんて考えてない作りだった。  獣の侵入を防ぐ柵さえなかったくらいだ。  今はそうはいかない。「防護柵を設置する必要があるな」 できれば堅固な壁がいいんだけど、万里の長城の例を引くまでもなくどう考えたって時間がない。  柵は簡単に壊されず、乗り越えられないものじゃなきゃいけない。  高さ五シャッケン程度じゃ簡単に乗り越えられちゃうけど、倍の十シャッケンだと村の中が居心地悪く感じないだろうか?  んーん……高さは住人達と相談しよう。  戦乱初期の村人は、単なる村人だから基本的に戦闘力がない。  戦乱が長く続いて戦闘員が足りなくなると領民が駆り出されて従軍するようになる。「戦は兵力ですな」 どこぞの野望ゲームですか、リリムさん。  結果、村人も強くなるわけだけど、現状まだこの村の住人はレベル1相当だ。  戦闘経験があるのは多分サビーたち五人だけだと見積もっとこう。  でも、僕もジャリやジャスも狩り
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測量

 翌日連れ出したのはルダーとイラードにオギン。  ガーブラの推薦だ。  二つの山脈の麓に広がるなだらかな丘陵地帯にあった元々の村は東西一カル南北一カル半。  ちなみに一カルは三千シャッケン。  十スンブで一シャッケン。  三シャッケンで一シャル。  千シャルで一カルというのがこの国の長さの単位だ。  変換がちょっとめんどくさい。  そして、近代化前の世界の常識というか、統一された長さじゃないのが困りものだ。  親指の先から第一関節までの長さが一スンブ、いわゆる尺骨の長さが一シャッケン。  だいたい十倍なだけで厳密に十倍なわけじゃない。  一シャルは紐を親指に挟み肘の下をぐるっと回してもう一度親指で挟み肘の下まで垂らした長さなので、これも実際には三シャッケンよりちょっと長い。  そしてなぜだかちょうど千シャルで一カルになる。  この村では僕の今のそれぞれの長さが基準長として測られた。  さて、改めて村の大きさだ。  村は直径五百シャルの中央広場があり、東西一カル南北一カル半の広さだった。  現在の人口密度は十三人/平方カル。  中央広場の分を差し引いても十五人/平方カル。  スッカスカだ。  二百人くらいは暮らせそうだ。  約五万平方シャルの畑は南東に広がっている。  なぜだか「東京ドーム一個分」と言うよく判らない単位が頭の中に浮かぶ。  畑のためにひかれた用水路は当然村の東側を流れていて、その向こうに雑木林が広がっている。  西側はすぐに切り立った崖がそびえていて、北は山岳地帯。  南側には王国内へと続く街道があるが、北には道らしい道はない。  ちなみに、この間木材を伐採に行ったのは北側だ。  人の手が入っているのは村と畑と雑木林まで、用水路もそうかな?  こうしてみると、本当にど田舎だ。  丸一日かけて村の勢力圏を確認した僕らは、日が沈む頃に僕の小屋に戻ってきて、情報を整理する。「村が広すぎると思わない?」
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