ログイン「やってるなぁ」
ジョーは村に入るなり開口一番そう言った。
今年三度目の来訪だ。 いつもの年なら年に一、二度くる程度だったから頻繁に来ていると言っていい。 その代わりいつも秋にくるキャラバンが今年は来なかった。 多分、廃村になったと聞いたんだろう。 そう、この村は対外的には野盗に襲われ全滅、廃村手続きがなされている。「こんにちは、今回はいつまで?」
「うん、今年の冬はここに腰を落ち着けるつもりだ」
なんと。
「拠点作りも大切な仕事だからね」
確かにね。
「ということでこちらの要望も聞いてもらうつもりだが、キャラバンのメンバー全員村の復興に手を貸そう」
「ありがとうございます」
「早速だが、今はなにをやっているんだ?」
僕は現状を説明する。
まず、今現在同時進行で行われている作業の説明。 家を建てる。 これにはルンカーを焼く作業も含まれてい新参者が増えるとよく起こる習慣や物の考え方の違いによる軋轢もなかなか無視できない。 こう言っちゃなんだけど、「村人」は「村人」なのよね。 前世の都会人みたいに適度に隣人を無視するってのがなかなかできない。 ついついお節介を焼いたり、気に入らないことに口出しするとかでいらないいざこざが起きる。 そのたんびに僕が仲裁するんだけど、必ずしも双方納得ずくって裁可が下せるわけもなく、不満がたまって矛先が僕のところへ向くことが避けられない。 着の身着のままで逃げ込んでくる人たちもいるんで、物資不足も心配だ。 これから男爵相手に一丁事を構えるって言う準備に結構資源を割いてたりするんで、なおさらだ。 村の自給自足の根幹である畑仕事もしなきゃいけないし、外貨獲得のための特産品生産もやめるわけにいかない。 本格的な戦闘で男爵軍と渡り合うための訓練も生き残り戦略には欠かせない。 そして、最大の問題が「主」の存在だった。 新しくきた人たちには、雑木林の奥の森が「主」のテリトリーであるってことをいの一番に話して聞かせている。 僕自身で。 元々の村の唯一の生き残りである僕が、実体験も交えて口を酸っぱくして注意しているのに、不用意にテリトリーに入ろうとする奴が後をたたない。 主に十代の思慮の足りない奴らが度胸試しかなんかのつもりで「主」のテリトリーを侵そうとする。 サビーたちに雑木林の巡回警備をしてもらっているから事故は起きてないけど、困るんだよ。 本当に。 やばいんだよ。 とにかく。 見つけるたびに緊急集会を開いて「主」とテリトリーについて話してるのにさ。 いい加減頭にきたんで 「次にテリトリーを侵そうとする奴は無視してくれ」 とサビーに頼んだのが、キャラバンが来てカシオペア戦隊の五人が加わった翌日。 事件はその十日後に起きた。
前世でなにをしてきた人かは知らないけれど、このあたりの用意周到さは壮年期に太平洋戦争を経験した凄みとでも言うんかね? そりゃあ情報と物資の重要性をよう知ってるはずだわ。 頭でっかちな僕とは根っこが違う。「それにしたって賑わってるなぁ。もうちょっとした町だな」 うん、今日の五人を入れて人口九十人に届くよ。 野盗討伐戦後、村の町化計画を策定した際に人口規模百二十人と提示した。 目標まであと三十人だ。 当初計画では二ケ年かけて到達する計画だったのに秋までには達成しそうな勢いである。 急速な発展はいくつかの問題を発生していて、とても頭を悩ませている。 シ○シティ並みに次から次へとよく問題が発生するよ。 まず、住宅問題。 当初、簡易宿泊所で家ができるまで生活してもらうという予定だった。 貨幣経済が割とすんなり受け入れられたのをみて、一軒家以外に長屋も作る計画に変更した。 賃貸住宅を作ることで建設費と施工日数を減らすことに成功してはいるんだけど、なにせ人口流入が想定以上なので建設が追いつかず、バラック生活・キャンプ生活の人も出ている始末。 バラックに居ついてスラム化されると問題なんで早急に解決したいんだけど、リソース全部ぶっこむわけにもいかずにいる。 同じく人口増加に起因する食料問題。 現在は配給制だけど、本来男爵との戦のために備蓄に回すべき分を吐き出して対応しなくちゃいけない状況だ。 北に拡げている耕作地は、種蒔きできたのが従来の畑の五分の一程度。 百五十人規模にでもなったら配給を絞らなきゃならない事態になりかねない。 せっかく貨幣経済が回り始めたのに村内主力産業である外食産業がポシャっちゃう。
盛夏、キャラバンがまたひと組の父子家庭の家族を連れて村に戻ってきた。「そこで一緒になってな」 とジョーは言っていたが、多分表向きの話だ。 だってどうみても「できるっ!」って家族なんだもん。 親父はいかにも歴戦の戦士だし、三人の息子も畑仕事の体つきじゃない。 唯一の娘だって平凡に暮らしてきたらできっこない鋭い目つきで周囲を伺っている。 そもそもみんな似ていない。「いやいや、その設定はさすがに無理があるだろ」 と言うツッコミにニタニタと笑うだけなのが腹がたつ。「年の順にカイジョー、シメイ、オオダイ、ペギー、アーシカだ」 へー……頭文字がカシオペアかぁ(棒)「聞いたぞ。ついに男爵に目をつけられたんだって」「そうなんだ、参ったよ。オルバック様のお世継ぎ様、とか言うのがやってきたと思ったら『村が復興したなら税を払え。納税額は特別に前回並みにしといてやる。ありがたく思え』だってさ」「あー……そりゃまた残念な奴が当たったな」「まぁ、残念な奴のおかげで村の中に踏み込まれなかったから『物怪の幸い』だったんだけど」「年寄り臭い言い回しだな、前世はいくつまで生きてたんだよ」「四十の半ばだよ。ばあちゃん子だったんで言葉や趣味が多少、年寄り臭いのかもしれないけどさ。そっちは?」「天寿まっとう、七十二歳の大往生だ。明治大正昭和と生きてきたし、前世に思い残すことはない」 え? 明治大正!?「え? ジョーって僕のばあちゃん世代なの?」「なに!? そんなに世代が違うのか?」「僕は団塊ジュニア世代。ルダーは戦中派だって」「団塊ジュニア……それが四十半ばってことは未来人だな。まぁいいや前世の話はルダーも呼んで今度じっくり思い出話をするとして、男爵と事を構えるんなら必要だと思ってな。本物の戦士を連れてきてやったわけだ」
弓が使えると言えるのはサビーたち主要戦力の他は四、五人。 ガーブラは白兵戦の中心に置きたいし、ザイーダにはオギンと同様に僕のそばで伝令や諜報に回したい。 塀に囲まれた村にこもっての戦闘だとしても弓の撃ち合いだけで勝負が決まるわけがないから、サビーにもイラードにも白兵戦に参加してもらいたいところだ。 でも、そんなことしたら今度は射手の絶対数が足りなくなる。 命中精度も心許ないのに数撃ちができないんじゃ意味がない。 むーん……。 所詮農民兵団ってことだよねぇ。「女性陣に弓のできるのはいないの?」「女を戦さに駆り出すんですか?」 む〜ん……まだ文化レベルがその位置なのだね。 確かに白兵戦で力勝負とかなったら圧倒的不利だろうけどさ、弓ならいいんじゃないかなぁ? 強弓が引けなくてもいいんだよ。 命中精度も並なら十分だ。「声をかけるくらいいいだろ?」「お館様がそうすると言うなら従いますがね」 不服そうだな。 オギンだってザイーダだって女だろうに。 話題を変えるか。「防具の方はどうなってる?」 この国の基本防具は鎖帷子だ。 そんなもの作る技術はない。 だから革の鎧を作った。 膠を溶かしたお湯に浸した革を重ねて叩いて接着し鎧の形に成形して乾かすとあら不思議、胴鎧の完成だ。 ないよりまし、ないよりまし。「なかなか大変な作業とかで、秋までに十領揃えられるかどうかと言うことです」 同じ作り方で、木の板に革を張った盾も作らせているし、人数分なんてとてもじゃないけど揃えられないか。「その十領も革の確保ができてないんですけどね」 なんと!? 毛皮不足か!
それだけじゃない。 戦が続けば戦闘員が不足する。 最初は家の子郎等だけで戦っていた武士も農民兵を徴収しだす。 いわゆる足軽だ。 ちなみに、こっからは歴史オタク的うんちくなんだけど、『足軽』の記述は平家物語にすでにあるんだ。 当時の足軽は戦闘員ではなく後方支援部隊として輜重や陣の設営を担当していたらしい。 源平合戦の頃は「やあやあ我こそは……」でお馴染みの一騎打ちの時代だったから通常は直接戦闘に参加しなかったんだろう。 それが『悪党』の戦力となり、集団戦の時代の重要戦力として組み込まれる。 まさに「戦さは兵力ですな」だ。 もちろんこれは日本の事例であって、異世界の話だ。 けど、人の歴史なんて似たようなもんだろ。 今は志願兵で揃えられている各領主の戦力もいずれ徴兵で揃えられることになる。 ──というのが僕の見立てなんたけど、こんな前世知識をもとにした分析で村人を説得できるわけもない。 ないんだけど僕には、もう一つの知見がある。 オギンやジョーたちが持ち込む情報だ。 今年になって村に来た人たちの体験も侮れないよ。 そう言った様々な情報を出し、出させて自分たちが置かれている状況を理解してもらう。 議論は深夜まで及んだ。 こういう危機を煽るやり方は、さじ加減を間違えると暴発するんでできれば使いたくないんだけど、効果的なのも事実なのよね。 ということで、村は秋の徴収まで面従腹背を通し領主に対して叛旗を翻すことになった。「去年の野盗との戦いは村の男のほとんどが戦闘に参加したわけだけど、今回はどうしようね」 と、サビーに訊ねると「弓師と矢師は外してください」 と、明確だ。「他の職人も大事ですが、武器の調達・メンテナンスは最重要です」「それをいうなら、ジャリもじゃないのか?」「殴ればある程度ダメージを与えられる剣と違って、飛び道具は命中精度に響きます。それに、率直に言ってジャリ程度の鍛治師ならいくらでも調達できます」
肚が決まれば行動は早い。 その日の夜には村人全員を緊急集会に招集して昼の一件を報告する。 村の人口は八十に近い。 キャラバン不在でさえだ。 キャラバンの隊員を含めれば優に百人を超える。 そんな村人が口々にざわめくのだからなかなか収拾がつかない。 ここは一番、声の大きなガーブラに騒ぎを納めてもらおう。「あー、静かに、静かにっ!」 すげーでけー声で突然言われたので、中央広場はしんと静まりかえる。 先生に一喝されてしゅんとなる児童みたいだ。「みんなにも色々意見はあると思うけど、村は当初から自治独立を目指していた。この件については一応全員説明を受けていたと思う」 説明を受けていたからと言って納得していたとは限らない。「王国の北西の僻地に隠れ里的な村があるらしい」 的な噂を頼りに戦火を逃れてきたような人たちが、「すわ、男爵が徴税に来たから武力で追い返すぞ」 なんて言われても「おいおい待ってくれ、俺たちは戦いから逃げてきたんだ。おとなしく税を払ってなにが問題なんだ?」 とか思っても仕方ない。 でも、納税したからと言って安泰なんてありえない。 『ご領主様』の要求なんてエスカレートするのが前提だ。 やがて税額が高騰する。 戦ってのはとにかく金がかかるものだ。 前世日本では米本位制の期間が長くて歴代政府は主に米で税を徴収していた。 教科書では江戸時代の年貢は一般に五公五民と教わった。 実際には中期以降四公六民だったみたいだけど、実に収穫量の半分を徴収されていたことになる。 ところが安土桃山時代、例えば有名な太閤検地後の年貢率は基本「領主が三分の二」という法令が出ていた。 戦国の時代が収束してなお、三分の二も持って行かれていたのだから、戦国期はどれだけ取られていたか判ったもんじゃない。 もちろん、地域によって条件も違っていて、穀倉地帯なら五公五民だったかもしれないけど、土地の痩せたところでは八割持って行かれてい
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵







