All Chapters of Lv1・Maxからのまちづくり: Chapter 111 - Chapter 120

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第111話・SSランクの町、その実態(アナイナ視点)

 ベッドに入って横になっている。眠気はちっともやってこない。 まだ計画には先があって、少なくともわたしが今日やらなきゃいけないことは終わったのは分かっているのに。 頭の中がカッカカッカしてる。 初めて間近で会った町長は、わたしの知ってる町長とは全然違った。 滅茶苦茶偉そうで、町の人間は自分のもので、使い捨てになると思ってて、スキルしか価値がないと思ってて、えーと、それからそれから……。 ああもう、悪口が次から次に溢れ出て逆に言葉が追っつかなくなってる! あんなの、町長じゃない。ただの悪いヤツ。 いっそのことエアヴァクセンの全員グランディールに連れて行っちゃえばとか思うけど、さすがに今の状況でそれは無理。とりあえずお父さんとお母さんを連れてグランディールに帰ることを考えなきゃ。     ◇     ◇     ◇ 結局うとうとも出来ずに夜が明けたので、わたしは気を紛らわすために料理することにした。 お父さんとお母さんはまだ寝てる。 わたしは台所に行って、SSランクの町とは言え実家が貧しいことを思い知った。 食材庫には野菜も穀物も肉も魚も調味料もほとんどない。パンはパン屋で買うとしても、まともに料理は出来ない。 ……グランディールでは、そんなことなかった。お金は流通してないけど、野菜も穀物もお肉や魚もちゃんと町から平等に配られていた。クイネ師匠は、こんなに食材が豊富で平等に配られているグランディールはすごいって言ってた。 とりあえずお父さんのスキルで作れる火があるから、スープを作りながら、わたしはぼんやりと考える。 SSランクの町だから、食材がないってことはないはず。多分、上流階級……いいスキル持ちや町長に近い家にはいい食材が行ってるはず。 それは逆に、町長から遠い人間……お父さんお母さんみたいなショボスキル高上限や、低レベルの家には食材も何も回ってきてないってこと。 ……何がSSランクよ。 町の人みんなが幸せに暮らせてこそのSSランクでしょ! こんな、町に住む人が幸せにお腹いっぱいになれない町なんて、Eランク以下! っていうか、グランディールはランク外だった時からみんなちゃんとご飯食べれてたよ! じゃがいもと青菜のスープがいい匂いを出し始める。 ん。上出来。「アナイナ?」 お母さんが起きてきて
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第112話・逃走準備(アナイナ視点)

 と。 なんとも乙女チックなことをしておいて、わたしは部屋の中に引っ込む。 さりげなく小鳥の脚に触れた時に爪でむしり取ったものを掌でほぐして開く。 小さな小さな紙。 そこにはいくつかの数字が書いてあった。(OK) わたしは表情にも態度にも出さないよう苦労しながらポッケの中に紙を入れ、今度はお布団をお日様に当てる。 計画の行動リーダー、「動物操作」スキルのティーアが小鳥に持たせた連絡。数字は暗号で、意味は町の中に入った、次は〇〇刻に連絡するというもの。 この作戦には、かなりの人数が関わっている。わたしが体を張る作戦だから、お兄ちゃんが心配して、そして周りの人も心配して色々協力してくれた。 使えそうなスキル持ちの人はみんな我先にと手を上げてくれた。 その他の人たちも、クイネ師匠とか、パン屋のアルトスさんとか、みんなわたしを応援して、励まして、心配してくれた。 この作戦は、グランディール中の人たちが気にかけてくれている。お父さんお母さんと、みんなと一緒に無事に町に帰ることで、やっとみんなに頭を下げられる。 だから……絶対、成功させる! それから二日、何事もなく。 四日目に、動きがあった。 子鼠が持ってきたメモ帳の暗号に、「今晩十一刻決行」と書いてあった。 町への侵入及び内部調査が上手く行って、あまりにも何事のなさに見張りの目も緩んできて、いよいよお父さんとお母さんを連れ出せる準備が出来たって意味。 よし。 やる。やってやる! お兄ちゃんが教えてくれた、表情の隠し方。 心の中で、仮面を被るんだって。 お兄ちゃんはよく町長の仮面を被ると言った。心の中で、理想の町長を思い描き、その仮面を被るんだって。 じゃあ、今私が被るべきは? 純真な女の子の仮面。お父さんお母さんと一緒にいたくてたまらない、何も企まず大人しい女の子。よし。 わたしは夕食の用意を始めた。 小さい頃からの習慣で分かっていたけど、十一刻はお父さんもお母さんも寝ている。十一刻になる直前くらいに起こさないと。 サージュはお父さんやお母さんにスキルの何かが仕込まれているかもって言ってた。だからヴァローレも来ているんだけど、その時はその時。それはわたしの考える仕事じゃない。わたしがやるのは、お父さんとお母さんを連れ出すこと。それさえうまくやればいい。 家族のために夕食
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第113話・脱出(アナイナ視点)

 ナーヤーさんの後ろから、アレとリューが入って来た。「初めまして。息子さんにはお世話になっています」 ナーヤーさんは頭を下げると、わたしを見た。「じゃあ、早速行きましょう」「しかし、……私たちは」「分かっています」 ナーヤーさんは小さく頷いた。「貴方たちにかけられているスキルも、SSランクの町から出ることの難しさも、離れることの不安も。でも」 ナーヤーさんはまっすぐお父さんの目を見る。「息子さんや娘さんの足手まといになりたくなければ、この町を捨て、私たちの町に来てください。準備は全て出来ています」 お父さんとお母さんは真剣にナーヤーさんを見て、頷いた。「アレ、リュー、お願い」「任せるっす。位置は特定してるっす。あと、会議堂の方から衛兵が走ってきてるっす」「遅いわね。ピーラーだったら即家の前に来ているわ」 昔の雇い主を思い出すかのように呟いて、ナーヤーさんはアレを見る。 アレは頷いて。「「移動」!」 次の瞬間、わたしたちは森の中で、ティーアとフレディさん、ヴァローレの傍に居た。「スキルがついてるな」 ヴァローレの瞳が金色になっている。「は……い……分かるのですか?」「僕の鑑定はオールマイティ。町から人まで鑑定できるし、スキルと解き方も鑑定できる」「……息子がお世話になっている町の方ですか」「お世話? 逆、僕たちがお世話になっているんだ」 しばらくお父さんの頭の上あたりを見つめて、ヴァローレは呟いた。「済まないが、手荒な真似になる」 ヴァローレは頭一つ高いお父さんの服を引っ張ってしゃがませると、頭の方に手を伸ばし、何かを引っ張った……ように見えた。  パシンッ! 音がして、お父さんが一瞬よろける。「お父さん!」 慌ててお父さんの所に走る。お父さんは何かパチパチと瞬きをしていた。「奥さんも」 ヴァローレはお母さんの頭の上にも手を伸ばして何かを引っ張った。  パシンッ! また音がした。 お母さんがぐらりと倒れ掛かるのを、ナーヤーさんが受け止める。「これで、追跡系のスキルは全部取れた」 いや、全部取れたって簡単に言うけど、簡単に取れるもんじゃないからね? 追跡関係のスキルの目印スキルを解除するのって、本当に難しいものなんだって聞いたよ? 改めてグランディールの人たちのすごさを思い知る。 そして、そ
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第114話・到着

 ぼくはコツコツと指先でデスクを叩きながら時間が経つのを待っていた。 ティーアから今晩真夜中動くとの連絡は今朝一でエキャルが届けてくれた。エキャルは今回の作戦の為に、色を変えることを認めてくれた。クイネが二度と使わないと言った絵付のスキルでエキャルの羽根の上から白を重ねてくれたのだ。だから今日エアヴァクセンの町民の見たエキャルは白い珍しい鳥程度の認識だろう。 真夜中を指す針がゆっくりと夜明けに向かって動いていく。「エキャル」 色を戻したエキャルが小首を傾げる。「上手く、行くよな」 ぼくの手が震えてるのが分かる。「アナイナは、上手くやってくれるよな」 エキャルは頭をぼくの手に擦り付けてきた。「ティーアにナーヤー、アレにリュー、ヴァローレがいるんだ、大丈夫だよな」 エキャルは止まり木からぼくの頭の上に飛び移り、優しく飾り尾羽で背中の辺りを撫でてくれた。「うん、大丈夫、そうだよな」「町長!」 外からサージュの声が聞こえて、ぼくは反射的にエキャルを乗せたまま会議堂を飛び出た。 夜明け近い町の中。 そこにあるのは馬車。 ティーアが御者台でぐったりしている。「ティーア?!」「大丈夫……緊張が解けただけだ……」 右腕だけが持ち上げられて、ひらひらと大丈夫の合図をする。 リューがふらふらと降りて来るし、アレは降りてくる気力も残っていないようだ。「何があった?!」 予想以上に疲労している面々……馬まで泡を吹いている……を見て、ぼくは聞いた。「かーなーりーなー数の追手から時間稼ぎに逃げ回り続けて、危うく挟み撃ちを食うところだっただけよ。でもそれも作戦だし」 ナーヤーが疲労しつつも笑顔を浮かべてぼくを見た。「ヴァ……あ、いや」「いや……大丈夫、追手の中に追跡系スキルの持ち主はいなかったし……馬車にも人間にも今現在スキルの影響下にあるのはいない。敢えて言うならアナイナがアパルの影響下にあるだけ」 やっとぼくは安堵の息を吐いた。「いやしかし、相手を疲労させるスキルって言うのは厳しかった……」「ああ、だからみんな」 馬までぐったりしてるわけだ。「よく「移動」出来たね」「目に見えるのを一人ずつ疲労させるスキルだったから、馬が止まった後は一人ずつ顔を出して時間稼いで、寸前でアレが「移動」した」 ヴァローレ、
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第115話・家族の食事

 会議堂のすぐそば、町の中では一級品の場所に建っているのが、ぼくとアナイナの家だ。 家が増えたり面積が広がったりしたけれど、ぼくの住む家は常に会議堂の近くにある。それでもなかなか帰れないのは、寝る時間を惜しんで仕事をしているからだけど。 目の前の、目立たないけれど上品そうな家のドアの前に立つと、中からいい匂いがする。 ノックを三回。「誰?」「ぼく」「お兄ちゃん!」 バッとドアが開く。 五日近く作戦の中心として頑張っていた緊張とか疲れとかを一切見せない、嬉しそうな顔。「アパルが明日はお兄ちゃん帰すからって言ったからお兄ちゃんの分も料理作ってたんだ。食べれるんでしょ?」「うん。久しぶりにゆっくり料理を味わえそうだ」「やっぱりお兄ちゃん、わたしがいないと寂しかった?」「寂しいというより……心配だった。ミアストに酷いことされてないかとか、作戦がちゃんと進行しているかとか」「うん、わたしのこと心配してくれたんだよね。なら嬉しい」 食卓に二脚あった椅子が四脚に増えている。 住人が増えなくても、宿泊する人が増えると家具などが増える謎のグランディール住宅。「お父さんとお母さんを起こしてくるね」 アナイナは嬉しそうにキッチンを出て行く。 四人分の朝食の準備が整ったテーブルで、座って待つと、足音が聞こえてきた。「お兄ちゃん、連れてきたよー!」 満面の笑顔でドアを開けたアナイナの後ろから、お父さんとお母さんが入って来た。 エアヴァクセンにいた頃と同じ、清潔とは言えない服と、湯処にあまり通っていない体。エアヴァクセンはそんな広くないので湯処は限られていて、更に使える町民はもっと限られてくる。高上限レベルの持ち主でも、現在のレベルがそれほど高くなければ湯処を自由に使う許可もない。「クレー!」「クレー、無事だったのね?」「運が良かった」 ぼくは立ち上がって、両親のハグを受けた。「エアヴァクセンから追放して出会えた人たちに助けられて、ここまで来れたんだ」「それで、すまないが……」 お父さんが申し訳なさそうに言う。「この町は一体何という町なんだい? 昨日ここに来てすぐ眠ってしまったから、一体どんな町で何があるのかもわからないんだ」 アナイナに視線を送ると、悪戯っぽく笑っていた。多分言ってないな。ぼくの口から言ったほうが驚きが大きいと思っ
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第116話・非日常な町の日常

「アナイナ~……」 ため息交じりに叱ると、アナイナは膨れた。「だって、お父さんもお母さんも、お兄ちゃんの半年の努力知らないんだもん。お兄ちゃんはミアストみたく継いだんじゃない、お兄ちゃんが人を集めて一から作って大きくしてCランクにした町だよ? それをあんな、人間にスキル以外の価値はないって言うようなミアストと一緒にしないでって感じ。これはお兄ちゃんにも言ってます。お兄ちゃんは時々自分が何もやってないって言うけど、お兄ちゃんのスキルと努力があったからグランディールは出来たんだよ? 町長のお兄ちゃんが引き下がっちゃうと町の価値が落ちる!」 どうだ、と胸を張るアナイナ。……ド正論。ぐうの音も出ない。「クレーが造ったって、一体、どういう力で……」「お兄ちゃんのスキル忘れた? 「まちづくり」って」「で、でも、あれは上限レベル1……つまり目覚めた時点で最大値であって、だから町長は!」「スキルの上限レベルが低いのは、それ以上能力が上がると世界にまで影響が出る力になるから」 ぼくもサージュに聞くまでは絶望していた低上限レベルの秘密。「「移動」のアレにはもう会ってるよね。彼は上限レベルが50で、今は10だったかな。SSランクの町から邪魔されず移動したから、その力のほどは分かるよね。同じ「移動」でも平均的上限レベル500以上でレベル10だったら、普通なら町の外へ出ることも出来ない」 両親は顔を見合わせたまま。「この町の基はぼくのスキル。そこからみんなが手を入れて、Cランクまで上げた。もっと上げる予定。町の名前はグランディール」 ぼくは立ち上がり、歩いて行って窓を開けた。 空中を飛び交う水路。あたたかな光に満ちた町。「まあ、ご飯を食べて湯処に行ったら、この町を案内するよ。ぼくたちで造ったグランディールを」     ◇     ◇     ◇ 呆然と口に食事を運び続け、終いにはカトラリーまで噛み砕きそうになっている両親を止めて、湯処に向かった。 向かう途中も、空を見上げて呆然としている。「あれは水路ね」「水路って……普通溝があって、その間を流れているものじゃ……」「「水操」ってスキルで流して、それを町スキルで固定した」「簡単に言うけど……」「簡単ではなかったけど、説明すると簡単になる」 ぼくたちは湯処に着いた。「ここは……?」「湯処」「
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第117話・夢とスキルと現実と

「……確かに、お父さんは子供の頃、門番になりたかった」 お父さんが遠い目をして呟いた。「門番?」「ああ。町を守る門番さんがカッコよく見えて、戦闘系のスキルを手に入れて、立派に町を守って見せると思ったものさ。スキルが「火種作り」で夢を諦めたよ。戦うスキルがなければ意味はないからね」「でも、スキルなくても訓練すれば強くはなれるでしょ」「スキルを持っている人には劣るからなあ」「スキルないってだけで諦められる夢だった?」 お父さんは難しい顔をして考え込んだ。「……そうだね、諦めたくはなかった。だけど、お父さんの父さんに言われた。そんなスキルで何を守るんだってね。同じ訓練をしてもスキル持ちには敵わないんだから素直に諦めろと」「でも、やりたいことがあるのにスキルのせいで出来なかったら腹立たない?」「そりゃあ……」 お父さんは少し考えこんで、そして息を吐いた。「そうだね、火種作りで有利になる職種もほとんどなかったし……スキルレベルを上げて使えるようにするしかなくて……」「楽しかった?」「楽しいはずがない」 溜息交じりのお父さん。「やりたかったことじゃないし、未来も見えない。ただひたすら火種を作り続ける毎日だった。これが何の役に立つのだと思ったこともある」 考えてた通り、未来の希望も何もない面白くない日々だったらしい。「それだったら、スキル持ちには負けても訓練受けて下っ端でも門番やったほうが楽しいだろうとは思わなかった?」「ああ、思ったとも」「だからこの町はスキルで職業は決めない。やりたい人がやりたいことをやる。それが一番住んでいる人にとっても幸せだと思うから」「そうなのかしら……」 お母さんは難しい顔。 まあ、しょうがないよね。この世界ではぼくの考えが異端なんだ。 置いてくれた町のためにスキルで尽くすのが町民の正しい在り方、とほとんどの町で教えられている。 だから、元ファヤンスの町民に公布した「スキルと職業は関連しなくてもいい」の報はしばらく町長は正気かどうかの議論の種になっていた。……子供から成人したばかりの層には大歓迎されたけどね。スキルがわからなくて将来を決めかねていたりスキルと性格とが合わなくて町を追い出されそうになったりしてたの。 絵付の高レベルスキルを持つクイネを本気で食堂の親父として受け入れたことで町長は正気かど
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第118話・みんなが笑って暮らせる町

「ここが畑」 まず案内したのが畑。「広いのね。しかも町の中に」「うん。最初町を造った時から出来てて、住人が増えると広がった」「畑も広がるの?」「多分、増えた人数に必要なだけの広さが増していくんだと思う。住宅地も畑も湯処も全部増えてった。あと住人が欲しいと思うものも増えてく」「……悪いクレー、理解が追い付かない」「僕も正確に把握しているわけじゃないから」 スキル「まちづくり」が一体何処まで出来て何処までが出来ないかと言うのは未だに町の誰も……ぼく自身すら把握してない。予測できるのは、町を造るのに必要なことは大体何でも出来るということ。ただ空を飛ばすという、伝説の町であってもどこかの町が出来たことなら出来るという反則技まであるからなあ。「ここの畑は?」「最初は畑スキル持ちが面倒見てたけど、最近はやってみたいって人が教えてもらいながらやってる。「豊作」とか「育成促進」とかのスキルを使ってくれてるから、町の人間を養う分の農作物は十分確保できてる」「向こうの緑は?」「あそこは牧草地」 緩やかな丘陵をお母さんが指すので、ぼくが教える。「行ってみていいかしら?」「大丈夫。立ち入り禁止の柵がない所は誰でも入れるから」 畑を回り込んで牧草地に行くと、放し飼いの豚や山羊や羊がのんびりもぐもぐタイム中。「やっぱりここも働きたい人は働いてるの?」「うん。スキル持っててその職業訓練受けた人に、指導を頼んでる。あとは学問所で座学かな」「やっぱり合理的じゃない気がするけど……」 お母さんの素直な感想。「いいんだよ、合理的じゃなくても」 ぼくは言った。「合理的に暮らすんじゃなくて、幸せに暮らす町だから。合理的にして、誰が幸せになれるかって言うと、それは町民じゃない気がするんだ」「じゃあ、誰が幸せに?」「ファヤンスで見た限りでは、町の上層部……町長やその腰巾着って言った連中。ファヤンスの上層部がもっと町じゃなくて町民のことを考えていたら、グランディールにほぼ全員が移住してくるってことはなかった筈」 馬がぽっくりぽっくり歩いてくる。「お父さんには町のことはよくわからないが……一体どうやってファヤンスの住民がこの町に移住してきたんだ?」「この町に陶土があるんだ」 何度か荷馬車として乗せてもらった馬の鼻面を撫でながら、ぼくは町
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第119話・理想と現実、過去と今

 いや、そんなすごいことはしてないんだけどなあ。 ぼくが考えて居ることを見抜いたのか、お父さんは困ったように笑った。「うん、今のお前は自覚がないし、自覚しないほうがいいかもしれない。ただ、覚えておいたほうがいいかもしれない」「何を?」「お前のやりたいことはお前にしかできない。でも、それを成すには周りの人が必要」「多分……分かってる、と思う。グランディールは、みんながいてこその町だってこと」 この町を造るのはぼくのスキル。でも、町民がいなければグランディールはただのハリボテ。「そうだね、既に町長としての責務をこなしているお前には当然のことかもしれない。でも、それを忘れた時がお前が終わる時だと思ったほうがいい、とお父さんは思う」「うん。……うん」 町を案内して、最後に会議堂に来た。「ここが会議堂。最近はぼくが住んでる家みたいなものかな」「はー……エアヴァクセンの会議堂より立派だ」「そう言われると感激ですよ」 向こうからドアが開いて、そこでシエルが笑っていた。「シエル。来てたの?」「おう、町長。そろそろ家具の注文時期が来るから、ちょっと本気でデザインを」 そして視線を後ろに向ける。「初めまして……じゃない気もしないではないですが、とりあえず。この町のデザイン担当のシエル・テークヌン。元はエアヴァクセンにいたから、何処かですれ違ってたかも知れませんね」「ああ……覚えている。「空画」のシエルさん……ですよね」 シエルは鼻の頭をポリポリと掻いている。「確か、絵が描けなくなって追放されたとお伺いしていましたが」「全くその通り。あの忌々しいミアストのおかげで空に絵も描けなくなったからって追い出されてね」「しかしその後どうやってグランディールに辿り着いたのでしょう?」 お母さんの素朴な疑問に、シエルはチラリと視線をぼくに送る。「いいよ。嫌でもそのうちバレるし」「? 何か?」「オレはエアヴァクセンを追い出されてから盗賊の仲間入りをしてましてね」 お父さんが目を剥いて、お母さんがくらりとして門に手をかけて何とか持ちこたえた。「あ、やっぱきつかった?」 シエルがぼくに視線を移す。「大丈夫。ぼくと出会ってから足は洗ったんだし、何せこのグランディールにはある意味ぼく以上に必要な存在なんだから」 ぼくは両親の方を向いた。「いきなり
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第120話・陶器の値打ち

 その後会議堂で町の移住手続きを済ませた両親だけど、エアヴァクセンからはまだ外されていないことが判明。 多分、ぼくに繋がる糸を切りたくないって言う町長の企みだろう。両親の書類を握りつぶせばいずれは何処かの町で伝令鳥を貸してもらえるほどには役立っている息子を手に入れようって思ってんな。 でも、実はぼくは町長だってことを、ミアストはまだ知らない。知らないからこそのこんなみみっちぃ妨害をしたんだろう。 町がすべて、と言うこの世界。 でもサージュのように町を見捨てて放浪者になる人間もいる。珍しいけど皆無じゃなく、町から消えて数十年経っても元の町に戸籍が残っているパターンも多い。今回の両親も同じ。 だから、ぼくは堂々と移住届を受け取った。 放浪者が町民になるのは難しい。元の町のお墨付きのスキルがないってことだから。でも、元の町と合わなくて飛び出てきたいいスキルの放浪者は若い町が奪い合いをすることも。この場合町同士の争いを避ける為、最終的には放浪者の意思が尊重される。これが数少ない、町の意向ではなく個人の意向が優先される例。 だから、放浪者になると言ってエアヴァクセンを出た両親がグランディールを選び、グランディールがそれを断らなければ移住は完了する。 戸籍がグランディールの住民票に入れられた瞬間、エアヴァクセンの両親の戸籍は自然抹消される。 今頃戸籍が消えたことを知ったミアストは怒り狂ってるだろうなあ。 登録印と名前を書いた紙が消える。それは、両親がエアヴァクセンを見限ったことになる。 こんな弱スキルの夫婦に見限られたSSランク。 いい笑いものになるだろう。 必死で探しに来るだろうけど、スキルの匂いも消した、「移動」で来たから手掛かりになるものはない。 見つけられるもんなら見つけて見ろ、だ。「で、家は別なのか?」 既に両親は会議堂を出ていて、ぼくはまた書類の山と向かい合い。その手伝いをしてくれているサージュに当然のことを聞かれ、ぼくは頷いた。「うん。家族で相談したけど、ぼくはもう成人してるし、アナイナももう半年。この町にいる限りは大丈夫だろうし、そもそもエアヴァクセンでも結局二人になる可能性が高かったから、二人でのんびり暮らすって」「それもいいな」 サージュには子供はいないけどファーレと言う奥さんがいる。老後に衣食
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