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第1章・第12話:怪物と呼ばれる英雄と、止まらない少女の足

Autor: 銀狐
last update Data de publicação: 2026-05-25 06:07:49

 橋の真ん中に近づくにつれて、空気が変わっていくのが、肌でわかった。

 遠くで、ヘリコプターのプロペラ音がする。まだ姿は見えないけれど、風の震え方がいつもと違う。

 橋の欄干の向こう、川の流れはゆっくりとしていて、水面が鈍く光っていた。

「ナギ」

「ん」

「ここから先は、走ってもらう」

「え?」

「俺が合図したら、全力で向こう側のたもとまで走れ。振り向くな。止まるな。泣くな」

「三つも条件つけないで」

「守れそうなやつだけ守れ」

「泣かないのは、ちょっと自信ない」

「泣きながらでも走れ」

「わかった」

 うなずいた瞬間、橋の向こうからサイレンの音が聞こえはじめた。

 赤と青の点滅が、遠くに小さく揺れている。

「警察……」

「だけじゃねえな」

 カミヤの声が低くなる。

 そのすぐあと、橋のこちら側——私たちが来たほうからも、同じような

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     橋の真ん中に近づくにつれて、空気が変わっていくのが、肌でわかった。 遠くで、ヘリコプターのプロペラ音がする。まだ姿は見えないけれど、風の震え方がいつもと違う。 橋の欄干の向こう、川の流れはゆっくりとしていて、水面が鈍く光っていた。「ナギ」「ん」「ここから先は、走ってもらう」「え?」「俺が合図したら、全力で向こう側のたもとまで走れ。振り向くな。止まるな。泣くな」「三つも条件つけないで」「守れそうなやつだけ守れ」「泣かないのは、ちょっと自信ない」「泣きながらでも走れ」「わかった」 うなずいた瞬間、橋の向こうからサイレンの音が聞こえはじめた。 赤と青の点滅が、遠くに小さく揺れている。「警察……」「だけじゃねえな」 カミヤの声が低くなる。 そのすぐあと、橋のこちら側——私たちが来たほうからも、同じようなサイレンの音がした。 振り返ると、白と黒のパトカーが数台と、その後ろに黒いワゴン車が連なっているのが見えた。「挟み撃ち……」 呟いた私の背後で、カミヤが小さく笑った。「わかりやすいな」「笑ってる場合じゃなくない?」「笑ってねえよ」 橋の両端に、車が並ぶ。 拡声器を通した声が、風に乗って響いてきた。「そこにいる二人、聞こえるか! ゆっくり手を挙げて、こちらに歩いてきなさい!」 よくドラマで聞く台詞。でも、実際に自分が向けられると、胃がきゅっと縮む。「少女は、保護する! 抵抗はするな!」 私のことだ。「カミヤ……」「落ち着け」 彼は、私の肩に手を置いた。 その手は、驚くほど冷静で、安定していた。「俺がやることは、ひとつだけだ」「なにを——」 最後まで聞く前に、世界が変わった。

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