海渡は、一度たりとも「離婚」という言葉が梨沙の口から出る日が来るなど想像したことがなかった。だから、その言葉を聞いた瞬間、思わず笑ってしまった。「自分が何を言っているのかわかっているのか?」梨沙は手を上げ、白く細い指でドアを指した。「ええ、もちろん。離婚するか、出て行くか。どちらか選んで」海渡の口元から笑みが完全に消え、瞳の色が暗く沈む。「俺がお前に優しくしすぎたってことか?いいだろう。お望みどおりにしてやるよ!」海渡は踵を返してオフィスを出た。ドアは乱暴に押し開けられ、壁に激しくぶつかったあと跳ね返り、大きな音を立てる。工房を出た海渡は、その足で杉山の見舞いに病院へ向かった。「これはこれは、飛田社長。今日はどんな風の吹き回しです?」「杉山さんこそ、ご冗談を。お加減はいかがですか?」「奥様のおかげでね」杉山は鼻で笑った。海渡は彼の向かいに腰を下ろす。彼が知りたいことは一つだけだった。「杉山さん。昨夜、いったい何があったのか教えていただきたい」杉山は目を伏せ、薄く笑った。「奥様はなかなか大した人物ですよ。私を色仕掛けで籠絡して便宜を図らせようとしたんです。私が断ると、今度は恥も外聞もなく身を寄せてきた。こちらが厳しく拒絶したら逆上して、酒瓶で殴りつけてきました」少し間を置き、堂々とした口調で続ける。「私はすでに警察に届け出ています。飛田さん、奥様に伝えてください。この件は必ず最後まで追及する、と」海渡は奥歯を舌でなぞった。「この件に何か誤解がある可能性はありませんか?私の知る限り、妻はそういう人間では......」杉山は彼を見つめ、目に嘲りを浮かべる。「誤解?何をどう誤解するというんです?」海渡は少し考えた。「実は妻は聴覚障害があり、補聴器がなければ音を聞き取れません。ですから、杉山さんの言葉を誤解してしまった可能性もあるかと。それで今回のような事態になったのでは......?」杉山は首を振った。「誤解かどうかくらい、私にはわかります。飛田さん、遠路わざわざここまで来られたのは、見舞いだけが目的ではないでしょう?」海渡はため息をつく。「妻がこのような騒ぎを起こしてしまい、本当に申し訳ありません。ですが、梨沙は私の妻です。どうか私の顔を立てて、この件は
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