悟の家を飛び出してから、一か月。 恵は実家で暮らしていた。 最初の数日はよかった。「しばらくゆっくりしなさい」 母もそう言って迎え入れてくれた。 だが、その"しばらく"は長くは続かなかった。「恵、ご飯くらい自分で作ってよ」 仕事から帰ってきた母が、ため息交じりに言う。「えー、疲れてるし」「疲れてるって、今日は家にいたんでしょう?」「求人見てたの」「それだけ?」「ちゃんと探してるもん」 口を尖らせる恵に、母は呆れたように冷蔵庫を開けた。 中には飲み物と調味料が少し残っているだけ。「買い物も行ってないの?」「お金ないし」「だったら、お母さんが帰る前に連絡くらいしなさいよ」「仕事中に連絡なんて悪いじゃん」「……そういう問題じゃないでしょう」 母は疲れ切った顔で額を押さえた。 仕事から帰れば夕飯を作り、洗濯をし、掃除もする。 恵はソファでスマートフォンを見ているだけ。 最初は「傷ついているんだから」と我慢していた。 だが、毎日続けば話は別だ。「ねえ、恵」「なに?」「あんた、仕事はいつ決まるの?」「だから探してるって」「探してるだけじゃ生活できないでしょう」 恵は露骨に顔をしかめた。「そんなに働け働けって言うなら、お母さんが養ってよ」「何言ってるの?」「親なんだから当たり前じゃん」 その一言で、母の表情が変わった。「……いい加減にしなさい」「は?」「あんた、もう子どもじゃないのよ」「なんでそんな言い方するの!」「だったら働いて生活費くらい入れなさい!」 恵も立ち上がる。
Read more