車へ乗り込んだあとも。 佳苗はどこか落ち着かなかった。 助手席へ座りながら、 そっと窓の外を見る。 久しぶりだった。 こんなふうに、 何かを考えず外へ出るのは。「……どこ行くんですか?」 シートベルトを締めながら尋ねる。 すると。 雄吾はハンドルへ手を掛けたまま、 淡々と答えた。「飯」「え」「お前、最近まともに食ってないだろ」 図星だった。 佳苗は少し気まずそうに目を逸らす。 離婚問題が始まってから、 食欲にも波がある。 食べられる日と、 何も喉を通らない日。「……バレてました?」「顔見れば分かる」 即答。 佳苗は思わず小さく笑った。 その反応を見て、 雄吾はエンジンをかける。 静かに車が走り出した。 夜の街。 窓の外を流れる光を見ながら、 佳苗は少しだけ肩の力を抜く。 その時。 ふいにスマホが震えた。 佳苗の身体が反射的に強張る。 画面を見る。『悟』 短く息が詰まる。 すると。 隣から低い声がした。「見るな」 佳苗は迷う。 でも。 以前みたいに、 すぐ開こうとは思わなかった。「……はい」 スマホを伏せる。 その小さな変化に、 自分でも少し驚く。 昔なら。 悟からの連絡を無視するなんて、 考えられなかった。 怒らせないように。 嫌われないように。 ずっと気を張っていたから。
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