リビングに静かな空気が流れていた。 三浦が持参した資料へ目を通していた時だった。 佳苗のスマホが震える。 画面を見た瞬間、指先が止まった。『母』 その文字に、胸の奥がざわつく。 少し迷ってから通話へ出た。「……もしもし」『佳苗!?』 母の声が響く。『やっと出た! あなた今どこにいるの!?』 責めるような口調。 昔から変わらない。 佳苗は無意識に背筋を伸ばしていた。『悟くん、すごく困ってるのよ』「……」『夫婦喧嘩くらいで家出なんて恥ずかしい真似やめなさい』 佳苗は静かに息を吐く。 前にも似たようなことを言われた。 その時は苦しくて、何も返せなかった。 でも今は少し違う。「……お母さん」『何?』「私はもう戻るつもりないから」 電話の向こうが一瞬静かになる。『は?』「離婚する」『何言ってるの!?』 母の声が鋭くなる。『そんなの駄目に決まってるでしょ!』 佳苗は唇を噛む。 やっぱり。 この人は、自分の気持ちより世間体なのだ。『恵だって傷ついてるのよ!?』 その言葉に、佳苗は少し目を伏せた。 昔なら。 ここで黙っていた。 自分さえ我慢すればいいと思っていた。 でも。「……もう、その言葉では戻りません」『え?』「お姉ちゃんなんだからって」 静かな声だった。「ずっとそう言われてきた」『佳苗……』「でも私、もう限界だったの」
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