共有

17.今の3人は

last update 公開日: 2026-06-18 20:06:35

ウィリアム様の「送るよ」とは、公爵家の馬車で伯爵家まで、という意味だった。

初めはアルトワ伯爵家の馬車までだと思い、共にそこへと向かっていた私たち。だが、いざ目的地まで辿り着くと、ウィリアム様は何と私をシャロン公爵家の馬車の方へと乗せようとしてきたのだ。

そこからまたあの2人の口論だ。

「姉さんと一緒に帰るのは僕なんですけど。アルトワの馬車で」

「送ると言ったよね?それはシャロンの馬車でアルトワ邸までって意味だよ?」

「結構です。アルトワの馬車がありますので」

「そう。じゃあセオドアだけその馬車で帰りなよ。俺はレイラとシャロンの馬車で帰るから」

お互いに譲らない口論は何分も続き、最終的に私とセオドアが公爵家の馬車に乗せてもらい、伯爵邸まで送ってもらうということで話は落ち着いた。

公爵家の馬車に揺られながら、何となく馬車内を見つめる。

上質でシンプルながらも気品のある雰囲気の空間。

さらに私たちが座る椅子の柔らかさは、まるでベッドのようで、横たわればすぐに寝られそうだ。

間違いなくフローレス男爵家で私が使っていたベッドよりもふかふかで、もう慣れてしまったが、最初は座るたびに感動した。

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   28.ニセモノの正体は

    スープに毒を盛られた日を境に使用人が私とは口を聞かなくなった。私の担当をしていた仲の良かった使用人たちは全てレイラ様の担当となり、新しく私の担当になった使用人たちは何故か私に冷たかった。だが、冷たいだけで仕事を放棄しているわけではなかった。私が使っているレイラ様の部屋の掃除ももちろんきちんとしてくれるし、私の身支度等も手伝ってくれる。しかし、その全てが必要最低限であり、仲の良かった使用人たちのように私への気遣いからくるその先のことは何一つなかった。何故、こんなにも急に冷たくなってしまったのか。やはり6年前のように嫌がらせが始まってしまったのか。そんなことを思いながらも、アルトワ伯爵邸内の階段を1人で登っていると、それは突然聞こえてきた。「ホンモノのレイラ様はあのお方なのに!どうしてニセモノがレイラ様として生きているの!?」廊下から聞こえてきた若そうなメイドの悔しそうな声に、思わず私はその場で足を止める。ニセモノって多分私のことだよね?どうしても話の内容が気になり、私はバレないようにそっとその声のする方へと歩みを進めた。そして廊下で何やら不満げに話をしているメイドたちの姿を見つけた。「ホンモノのあのお方のことを思うと胸が痛いわよねぇ。本来なら学院に通っていたのもあのお方なのよ?それなのに1日中ここに閉じ込められて、ニセモノが学院に通っているんだもの」「図々しいにもほどがあるわ。さっさとあのお方の場所を返すべきよ」「それなのにあのお方は常に笑顔でいらっしゃるからこっちももう苦しくて…」何故下っ端であるメイドたちがホンモノのレイラ様の存在を知っているのだろうか。彼女たちの話に聞き耳を立て、私はそんなことを思った。今ここにホンモノのレイラ様が帰ってきているということは、要らぬ混乱を招く為、伏せられているはずだ。あの日、ホンモノのレイラ様を見た使用

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   27.毒と庇護

    あの4人での演劇鑑賞から1週間後。今日もいつものようにアルトワ伯爵一家の皆様と私は共に夕食を食べていた。「この魚は今朝捕れたものだそうよ」机を挟んで向こう側に座る奥方様が本日のメインディッシュに視線を向ける。すると、セオドアの左隣に座るレイラ様の表情が明るくなった。「まあ、そうなの?それは楽しみだわ」魚料理が一番好きだというレイラ様が嬉しそうに、けれど上品にフォークを使って、魚料理に手をつける。それから美しい所作で魚料理を楽しんでいた。かつてセオドアに『姉さんは実は肉料理の方が好きだ。周りが勝手に姉さんが魚料理好きだと勘違いしていたから、心優しい姉さんは仕方なく、魚料理好きだということにしていた。姉さんが好きなのは肉料理』と教えられたことに疑問を持つ。もう1ヶ月以上、レイラ様のことを見ているが、どう見ても肉料理好きを隠して、魚料理好きなフリをしているようには見えないのだ。普通に魚料理好きに見える。6年前、レイラ様のことを何も知らなかった私は、とにかく一番レイラ様のことを知っていると思われるセオドアのアドバイスをよく聞き、完璧なレイラ様の代わりになろうと決めていた。そしてセオドアの助言もあり、完璧なレイラ様に近づけたのではないかと思っていたが、いざホンモノのレイラ様にお会いすると、私とレイラ様は似ても似つかないものになっていた。この1ヶ月レイラ様を見続けて思ったのだが、食の好み以外にも、選ぶものや身につけるものの好みなど、全てが若干セオドアが言うものと違う気がするのだ。セオドアのレイラ様像が少しだけ違ったのか、わざと間違いを教え続けていたのかわからないが、今はもうそんなことどうでもよかった。完璧なレイラ様の代わりに実はなれていなかったのだとしても、私がレイラ様の代わりを務めるのはあと数ヶ月ほどだ。もうどうでもいい話だろう。「アイリ

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   26. 2人のレイラ

    劇場内の準備が整い、ついに入場が始まる。ウィリアム様が私たちに用意してくれた特別席は個室のようになっており、たくさんの鑑賞席が並ぶ一般席の上から、舞台を観られるようになっていた。そしてこの落ち着いた空間にはきちんと4つの席があった。「さあ、どうぞ、レイラ」ウィリアム様に手を引かれ、まずこの部屋に入ったのは私だった。部屋に入った私は何となく目に留まった左端の席まで移動し、腰を下ろす。するとそのままウィリアム様は私の右隣に腰を下ろそうとした。…したのだが。「ちょっと待ってください」それをセオドアが冷たい声で制止した。「姉さんの隣には僕が座ります。ですからウィリアム様はそこには座らないでください」こちらにゆっくりと近づいてきたセオドアが、そこから動くようにとウィリアム様を促す。だが、そんなセオドアの言うことなどもちろんすんなり聞くウィリアム様ではなかった。「レイラの隣に座るのは婚約者である俺だよ」「違います。家族である僕です」にこやかだが、どこか目の笑っていないウィリアム様と、冷たい表情でウィリアム様を睨むセオドアの間にギスギスとした空気が流れる。何と嫌な空間なのだろうか。「…じゃあホンモノの家族の隣に座ればいいんじゃないかな?」お互いに一歩も引かない空気が続く中、ウィリアム様はセオドアにそうにこやかに提案した。「もちろんそうするつもりですよ。姉さんとアイリス姉さんの間に僕が座るんです」「ふーん。でも2人ともなんて少々わがままなんじゃない?1人くらいは俺に譲るべきだよ?」「どちらも譲れません」「強情だね」何を

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   25. ニセモノの憂鬱

    sideリリーレイラ様が帰ってきて、1ヶ月が経った。この1ヶ月の間にウィリアム様から私へまさかの結婚の打診があったがそれを私は未だに保留にしていた。そもそも何故、何も持たない、何者でもない、私には勿体なさすぎる、あまりにも好条件なウィリアム様からの結婚の打診を未だに保留にしているのか。それは私、リリーが今後どうなるのか、私自身がわかっていないからだった。アルトワ伯爵家にとってシャロン公爵家との婚約はとても重要で大切にしなければならないものだ。例えばレイラ様と入れ替わり終えた半年後、セオドアの意向で、アルトワから籍を抜くことが許されず、今後とも私がアルトワのリリーであることが決まったのなら、きっとウィリアム様と私の婚約、結婚をアルトワは歓迎するだろう。だが、そうではなかったとしたら。私がフローレスのリリーへと戻れたとしたら。フローレスである私がシャロンと婚約、結婚などすれば、それはアルトワにとってとても大きな損害となってしまうだろう。そもそも私が望めば、おそらく私はフローレスへと帰れるので、きっとこのパターンが有力だ。私はアルトワ伯爵夫妻に恩がある。ここまで何不自由なく、整えられた環境で育ててくれたこと、没落寸前だったフローレスを助けてくれたこと、たくさんの数えきれない彼らへの恩から、私は彼らが望まぬことはしたくなかった。アルトワ伯爵家は何度も言うが、シャロン公爵家との婚約を重要視しており、望んでいる。それをフローレスへと戻ったアルトワとは何の関係もない私がするということは、アルトワにとって極めて重要であり、大切にしてきたものを横から奪うということで。そんなことやはり気が引ける。…それでも、それでも、だ。シャロン公爵家のウィリアム様と結婚すれば、フローレス男爵家は確実に安泰で…。しかしアルトワ伯爵家の支援のおかげでフローレスはもう安定しており、努力を続ければ、安泰とはいかずとも、没落することは恐らくないわけで…。こうしてぐるぐるぐるぐると

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   24. 愛しい人 sideウィリアム

    sideウィリアム「それじゃあまた明日、レイラ」「はい、ウィリアム様」大きな扉の向こうでこちらに微笑む彼女に俺は名残惜しそうに笑い、小さく手を振る。彼女の周りには弟であるセオドアとホンモノのレイラがいるのだが、俺の眼中には彼女しかいない。俺に手を振られた彼女は俺に応えるように小さく手を挙げ、柔らかく微笑んでいた。そして扉はいつものように閉められた。ああ、本当はアルトワではなく、シャロンに連れて帰りたい。そう扉の向こうに消えていく彼女を見る度に思う。それでもそうできないのはまだ彼女がアルトワの人間だからだ。名残惜しい、離れ難い気持ちで扉から離れ、シャロン公爵家の馬車へと乗る。それからしばらくして馬車は動き始めた。「…」動き始めた馬車から見える見慣れてしまった風景を何となく見つめる。あのシャロン公爵邸には劣るが、なかなか立派な屋敷には俺の婚約者である彼女がいる。彼女はレイラが帰ってきたあの日、レイラの代わりであるという価値を失った日、俺に言った。ただ元に戻るのだ、と。元に戻るとはすなわち、レイラの代わりではなく、没落寸前の男爵家の何も持たない娘、リリーに戻るということなのだろう。彼女はレイラが現れたことによって、自由になったのだ。今までの彼女は、アルトワ夫妻の顔色を伺い、レイラのように振る舞い、俺に婚約破棄されないように最低限のラインを守ってきた。完璧な令嬢になり、周りの人が求める言葉を欲しい時に吐き、望まれた行動をする。まるで俺たちの人形だったリリーはもう自由の身だ。何を選んでもいい、何をしてもいい、全てが彼女の自由。そこには婚約者の項目だってある。ーーー彼女は俺以外を選ぶ自由を得たのだ。彼女が、リリーが、俺ではない誰かを選ぶだなん

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   23.結婚しよう

    何をやらせても完璧で王子様のようなウィリアム様と、こちらも何をやらせても完璧で女神様のようなレイラ様。あまりにも完璧で美しい2人は常に学院…いや、国中で注目されており、完璧な未来の公爵夫妻として、広く知れ渡っていた。そして完璧な未来の公爵夫妻の仲は大変良く、一切の隙がなかった。…もちろんウィリアム様と私が意図的にそう見えるようにしているだけだが。対外的に大変仲の良い私たちはいつもある程度身分の高い、選ばれた者だけが使えるカフェテリアで共に昼食を食べるようにしている。そこにはもちろんセオドアもいるのだが、今日は用事があるようで、どうしても一緒に昼食は食べられないようだった。『用事が済んだら絶対に行くから。絶対に』と、どこか悔しそうに言っていたセオドアの姿を思い出し、首を傾げる。セオドアは一体何が悔しくてあんな顔をしていたのだろうか?ここにはいないセオドアに少しだけ思いを馳せながらも、私は目の前にある美味しそうなスープに口をつけた。口に含んだ瞬間、野菜とお肉の深い味わいが口いっぱいに広がる。上品な味わいの中にブラックペッパーも効いており、かなり好きな味だ。「…ん。美味しい」なかなか好きな味に自然と頬が緩む。そんな私の一瞬の変化を見逃さず、ウィリアム様は優しく微笑んだ。「それ好きだった?」「…え、あ、はい」あまりにも愛おしそうに私を見るウィリアム様に思わずドギマギしてしまう。完璧な婚約者を演じる為とはいえ、こんなにも甘い瞳までできてしまうとは、さすがウィリアム様だ。何だか気恥ずかしくなり、ウィリアム様からスープの入った器へと視線を落としていると、「うちのシェフにも覚えさせるね、このレシピ」と言うウィリアム様の声が聞こえてきた。ウィリアム様は誰がどう見ても完璧な婚約者だ。婚約相手であるレイラ様をよく見て、気に入ったものや好きなものをすぐ

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   3.代わりなどいない

    気まずすぎる夕食を終えた後、私は私に与えられたレイラ様の部屋で、明日やる勉強の予習と今日の勉強の復習を行う為に、机へと向かっていた。 白色と星空のような深い青色の家具で統一されたレイラ様の部屋は、1週間経った今でもあまり落ち着かない。 男爵家にいた頃は必要最低限のごくごく普通の家具たちに囲まれて生活していた。 それが今ではこんなどれもとても高そうなものばかりに囲まれて生活しているのだ。 どこかふわふわして落ち着かないのも無理はない。 「…はぁ」 そんな落ち着かない部屋で私はじっとノートを睨みつけ、今日も深いため息をついた。 …わからない。わからないから頭に全く入ってこない。

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   2.レイラ・アルトワの代わり

    私、リリー・フローレスがレイラ・アルトワ様の代わりになって1週間が経った。 私は今日もレイラ様として、アルトワ伯爵邸内の広すぎる食堂で、アルトワ伯爵家の皆様と気が重すぎる夕食を共にしていた。 「レイラ。今日はレイラが好んでいた魚料理を用意させたのよ。どうかしら?美味しい?」 私がよく知る一般的なテーブルとは違い、何十人もの人が一斉に使えるであろう長く大きなテーブルの向こう側に優雅に腰掛ける30代前半くらいの見た目のグレーの綺麗な髪を後ろにまとめている美しい女性、アルトワ夫人がふわりと私に笑いかける。 私を優しく見つめる濃い青色の瞳は、明るい星空のように輝いており、その瞳に見つめられ

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   1.リリー・フローレスは死んだ

    その日、没落寸前の男爵家の一人娘、リリー・フローレスは死んだ。 「リリー。お前は我がフローレス男爵家建て直しの為に、アルトワ伯爵家に行くんだ。アルトワ伯爵家のたった1人のご令嬢、レイラ・アルトワ様として」 私の向かい側に座るお父様がそう神妙な面持ちで言う。 同じくお父様の隣に座るお母様もずっとお父様と同じような表情で、時折、心苦しそうに私から視線を逸らしていた。 12年間生きてきた中で初めて乗った豪華な馬車。 私たち没落寸前の男爵家の力では一生乗ることのできなかったもの。 そんなものに今乗って移動しているのは、私が今日からレイラ・アルトワ様になるからだ。 レイラ・アルトワ様。

  • 逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。   18.必要のない存在

    ホンモノのレイラ・アルトワ様が帰ってきた。あの玄関ホールでの喧騒は、レイラ様の帰還によるものだったようだ。最初こそ、レイラ様の成長した姿に、あのレイラ様であると、私は気づけなかった。だが、それでも、よく見るとレイラ様の面影を残す彼女と、そんな彼女との再会を喜ぶアルトワ伯爵一家を見て、私は彼女こそが、私がずっと代わりを務めてきたホンモノのレイラ様だと確信した。私が肖像画でいつも見ていた12歳のレイラ様は、可愛らしさの中にも美しさのある愛らしいご令嬢だったが、今のレイラ様は、その面影を残しつつも、美に全振りした絶世の美女になっていた。今のレイラ様は本当の弟、セオドアととてもよく似ている

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status