星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 20

70 챕터

第11話……終戦と始まりの値段

 ――三日後。 アーバレストの新政庁の玉座の間は、煙と静寂に包まれていた。 帝国の紋章が焼け落ちた壁の前で、鎖に繋がれたひとりの男が引きずられてくる。 クロイツ男爵。 その顔には疲労と絶望の色が濃く刻まれていた。 彼の肩を支えるのは、彼のかつての側近たち。 彼らの軍服からは、すでに男爵の紋章が剥がされている。「……貴様ら、何をしている。私を誰と心得る――!」 男爵が吠えるが、誰も目を合わせない。 副官のマルセルが淡々と告げる。「我らは、もはや貴殿の部下ではありません。降伏文書はユリウス閣下に提出済みです。」 その声に、クロイツは言葉を失った。 膝が崩れ、鎖が床に鳴る。 広間の奥から、ツーシームと少年ユリウスが現れる。 少年はまだ若いが、今は凛とした領主の面をしていた。 ツーシームは煙草をくわえ、軽く片手を挙げた。「よう、男爵。三日ぶりだね。まさか部下に縛られて会うとは思わなかったろ?」 クロイツは顔を上げた。 その目には怒りよりも、どこか空虚なものが漂っていた。「……トブルク伯爵に……見捨てられたとき、運は尽きていたのかもしれんな……」 ユリウスが一歩前へ出た。「あなたは父の名を辱め、ヴァルカンの民を虐げた。帝国の法も、あなたをもはや庇わない」「法……? ハッ、子どもの口から法とはな……」 男爵は乾いた笑いをこぼす。「お前もいずれ知るだろう。権力の裏は、いつも汚泥なのだ」 ツーシームは無言で一歩進み、男爵の前に立った。「説教は結構。あんたの部下は、すでに投降済みだ。街も宇宙港も、もうアンタのもんじゃない」 クロイツは悔しさに唇を噛み、血を滲ませる。「……おい、海賊ツーシーム。貴様も金のために動く女だったはずだ。なぜ、あの小僧に肩入れする?」 ツーシームは肩をすくめた。「金のためさ。――あんたから奪った権益で、坊っちゃんが払う。それ以上に筋が通る話は、他にないだろ?」 一瞬、沈黙ののち、クロイツの目に、敗者の光が宿る。「……なるほど、筋は通っている。」 ユリウスは背筋を伸ばし、静かに命じた。「ルシアン=クロイツ。あなたを反逆と殺人の罪により拘束する。裁きを受ける覚悟を」 男爵はうなだれたまま、静かに呟いた。「……帝国の法の裁きか。結末としては、悪くない」 ユリウスは黙して見つめていた。 ツー
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第12話……位相鉄の峡谷で

 冷えた風が吹き抜ける峡谷を、二人を乗せた小型ホバー車が滑るように進んでいた。 車体の横にはツーシームの海賊団の徽章、「モリガン」の赤い翼が描かれている。「……ここが、ヴァルカンの災いの源だよ」 ツーシームの声に、ユリウスは前方を見つめた。 谷底の暗闇の中に、無数の光点がちらついている。 それは採掘灯だった。 そして光の下では、金属のように赤く輝く鉱石の筋が、地殻を走っている。「……これが、位相鉄鉱石?」 ユリウスは息を呑む。「そう。普通の鉄鉱石と違って、強靭な『位相』を持つ。要するに、存在してる座標さえも安定してない。加工などは普通の設備じゃ無理さ」 ツーシームは岩肌に埋め込まれた管制装置に手をかける。 パネルが光り、地下深くから機械の唸りが響いた。「クロイツがこれを欲した理由は単純だ。――帝国のどの星にも、これほど純度の高い鉱脈はなかなか無い」 ユリウスは黙って頷き、岩壁の裂け目に近づく。 近くで見る位相鉄の結晶は、まるで液体金属が凍ったように揺らめいている。 指先を伸ばすと、結晶の輪郭が微かにずれた―― まるで現実と幻の境目に触れたようだった。「……これが、父が皆に隠し、そして守ろうとしたものか。」 ツーシームは肩をすくめる。「守ろうとしたのか、隠そうとしたのか。どっちにしても、持ち主を選ぶ代物だね。皆に知られれば、再び戦争の種になる」 ユリウスは静かに振り返った。「――なら、僕が守る。この星の富を、再び誰かの血で汚さないために」 ツーシームは片眉を上げ、煙草を咥えた。「坊っちゃん、綺麗ごとを言うには、鉱石の量が多すぎるぜ……」「それでも構わない」 少年の瞳には、確かな光が宿っていた。 ツーシームはしばらく黙り、やがて苦笑した。「……やれやれ。ま、いいさ。それを聞きたくて、あたしはここまで案内したのかもね」 奥の坑道では、採掘機が鈍く唸り、光る結晶が青白く空気を照らしていた。 その光に包まれながら、ツーシームは呟く。「さて、人間の運命は、位相鉄より重いのかな……」◇◇◇◇◇ ヴァルカン南極圏、帝国地理院の地図にも載らぬ灰色の峡谷。 その地下深くに、位相鉄鉱の採掘施設が静かに稼働していた。 外見は旧式の採掘プラントに見えるが、内部はツーシームが再編した独立運営体制だ。 採掘ロボットの管理から
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第13話……銀河の裂け目、文明を分けた三つの価値観

 銀河聖帝国ノヴァが統べる星系は、大小合わせて数百に及ぶ。 広大な統治領域は、政治的・軍事的な便宜のために六つの総管区「セクター」へと区分され、それぞれに一人の総管区長が置かれた。 その地位には、原則として侯爵級以上の高位貴族が任じられる。 さらに各総管区の下には、複数の有人星系が属し、その星系単位では伯爵級が統治権と徴税権を担っていた。 伯爵領には惑星議会や管理庁が設置され、帝国直轄の軍政と貴族統治が折り重なる形で支配が行われている。 しかし――すべての星が同じ恩恵を受けていたわけではない。 例えば、ヴァルカンを抱えるエウロパ星系は、星間航路から外れた辺境に位置し、正式な「有人星系」として帝国行政に登録されていなかった。 そのため、ここでの統治は帝国の直接支配ではなく、いくつもの下級貴族たちの荘園的支配――すなわち、古めかしい封建制の延長線にあった。 形式上は帝国旗の下にあれど、実態はそれぞれの領主の私有領であり、税も治安も「貴族の気分」ひとつで左右される。 ゆえに、この辺境の惑星ヴァルカンは、帝都から見れば取るに足らぬ片田舎。 だが、ツーシームや少年ユリウスが知るように―― その地下には、帝国すら喉から手が出そうな位相鉄の貴重な鉱脈が眠っている惑星も、例外的にあるのである。◇◇◇◇◇ 銀河聖帝国ノヴァの支配は、多くの人類を包括する巨大な秩序であった。 だが、帝国の版図は銀河全域を覆うには至らず、その外縁には――帝国の統治が及ばぬ二つの独立領域が存在した。 その一つは、人類統合共和国。 古の時代――人類は労働力の代替として、 金属製の機械ではなく、より軽い有機物で構成された人工生命体――いわゆるバイオロイドを創り出した。 当初、彼らは機械AIと同じように、「人間に逆らわないよう」遺伝的制御が施されていた。 だが、世代を重ねるうちにその制御は徐々に歪み、わずかながらも「自我」と「選択」の芽が生まれたのだ。 やがて、次元異常による古の空間異変「ディメンション・クラック」が発生した際、多くのバイオロイド集団が人類の支配圏を離脱。 苦労の末に、独自の国家――人類統合共和国を形成した。 彼らは、銀河聖帝国ノヴァのように爵位などの階級によって社会を築くことを強く拒んだ。 「血は不平等な情報である」――それが共和国の基本認識である
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第14話……銀河文明の三つの基盤

 エーテル機関の誕生。 二十四世紀。 既存の反物質炉や重水素推進では、いかなる技術をもってしても光の速度の壁を越えることは不可能だと、古の人類は悟った。 彼らが次に目を向けたのは、宇宙を満たすダークエネルギーの一種――エーテルである。 その未知の力を燃料とする実験炉「深域跳躍炉」、「虚域航行機関」が次々に試作され、やがて両者を統合・改良した総合次元推進機構「エーテル機関」が誕生した。 それは、人類史上初めて空間跳躍――ワープ航法を実現した装置である。 この発明を契機に、人類の文明圏は瞬く間に太陽系の外へと拡大し、百年も経たぬうちに数百の星系にまで進出した。 以後、人類の銀河史は「エーテル紀」としても記録されることとなる。 やがて地球人類の文明は、「空間異変」の発生により失われたが、エーテルという燃料の供給は辛くも絶えなかった。 異常空間の裂け目――「エーテル層」から抽出された流体が精製され、以後の人類文明を支える恒星間エネルギー源として利用され続けている。◇◇◇◇◇ 位相鉄鉱とアダマンタイト鋼の誕生 二十五世紀。 人類が太陽系を離脱してから久しく、過酷な宇宙空間に耐え得る新素材の探索が進められていた。 その最中、外縁宙域の小惑星地帯におけるレアメタル採掘中、作業員たちは奇妙な鉱石を発見する。 それは赤褐色に輝き、接触した者に幻覚や過去の記憶を見せるという不可解な性質を持っていた。 初期調査の結果、化学的にはほとんど反応を示さず、 既知の元素のどれにも分類できなかった。 研究者たちはそれを「位相鉄鉱石」と命名し、長らく「観賞用の奇石」として博物館に展示するほかなかった。 だが、ある一人の科学者がその鉱石の異様な硬度と構造の不安定性に注目する。 ――ウォーレン=アダマンタイト博士。 博士はエーテル機関の派生技術である「空間撹拌機」を用い、位相鉄鉱石が持つ多層構造の「位相ずれ」を安定化させる実験を行った。 結果、鉱石は通常物質とは異なる結晶秩序を保ちつつ、既存の金属をはるかに凌駕する強度を発揮したのである。 この発見は、物質工学の革命を意味していた。 地球の物理産業学会は、博士の名を冠して「アダマンタイト鋼」と命名。 以後、精錬技術が確立され、位相鉄鉱を溶解・安定化したこの超合金は、標準型外洋宇宙船の外殻、軍事兵器の装甲
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第15話……バルバロッサ宙域会戦

 第六総管区の外縁部――バルバロッサ宙域。 この宙域は、人類統合共和国およびパニキア連邦の勢力圏と接しており、境界は常に火薬庫のように不安定だった。 遭遇戦は日常茶飯事であり、増援が加われば、それは即座に艦隊戦へと発展する。◇◇◇◇◇ 聖帝国第八外征艦隊 旗艦「ビシュヌ」艦橋。「――トラヴァース提督へ報告! パニキア連邦艦隊、十六光秒の距離に展開! 総数、およそ六百!」「うむ。シールド艦、艦列の最前列へ。全艦、第一次戦闘態勢。……防壁展開、開始!」 静かな命令が、艦隊全域へと伝わる。 まずは十数隻のシールド艦が艦隊前方に展開。 彼らは電磁波兵器を遮る電磁防壁と、質量弾を減衰させる重力防御場を展開する専用艦である。 その後方には、二百隻ずつのミサイル艦とビーム艦が複数の戦闘ブロックを組み、さらにそれらを統率する巡洋艦二十隻が指揮ラインを形成していた。 最後列には、旗艦「ビシュヌ」を含む四隻の大型戦艦が堂々と陣取る。 かつての大規模AI反乱で、量子演算核の大半は失われた。 加えて、この宙域では常に磁気嵐が吹き荒れ、AI制御の稼働をも阻害する。 結果として、現在の宇宙戦においては―― 「人による判断」こそが、戦術全体を支配することとなっていた。 シールド艦の防御管制装置が順次起動し、空間に青白い輪郭が浮かびあがる。 高出力の電磁防壁と防御重力場が結合し、帝国艦隊の前面を覆う巨大な防御幕が形成された。「前衛、防壁安定――各ブロック、射撃準備完了!」 背後では、ビーム艦群が戦列を組み、艦首砲のエーテル収束環が灼けるように光を帯びる。 それは艦橋内の照度が一瞬下がったと感じるほどだった。「敵、射程内に侵入!」「――敵は旧式艦が主力だ。射程外から先制攻撃を掛ける。全ビーム艦、斉射開始!」 その言葉と同時に、二百隻のビーム艦が一斉に光を放った。 エネルギー光束の奔流が前方の防壁を貫き、無数の槍となって敵艦隊へと襲いかかる。 閃光が宙域を染め、衝撃波が防壁を震わせ、後方に位置する「ビシュヌ」の艦体をも震動が貫く。 だが、艦橋のトラヴァース提督は微動だにせず、次の発令を下した。「よし、第二波を重ねる。全ミサイル艦、射撃――開始!」 数千発の質量弾頭が一斉に射出され、防壁の隙間をかすめながら前方宙域へと流れ込む。 質量弾は射程も
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第16話……限定的勝利

 帝国宙軍通信第八外征艦隊報 第2657号 宙軍総司令部宛 送信元:第六総管区 第八外征艦隊旗艦「ビシュヌ」 発信日時:聖帝国暦644年6月24日 暗号区分:第一種極秘通信(戦闘報告・要約)件名:第六総管区外縁・バルバロッサ宙域戦闘報告(第一次)1.概況 標準時〇八三〇時、当艦隊はバルバロッサ宙域外縁において、国境を侵犯するパニキア連邦の艦隊(推定六〇〇隻)と交戦。 同一〇一五時、敵は全面撤退し、宙域の防衛を完了せり。2.戦果および被害(速報値)総出撃艦数:452隻残存稼働艦数:315隻損耗艦総数:137隻(損傷92/喪失45)内訳: シールド艦 17隻中 喪失4/損傷6/稼働7 ビーム艦 198隻中 喪失18/損傷45/稼働135 ミサイル艦 195隻中 喪失19/損傷35/稼働141 巡洋艦 20隻中 喪失2/損傷4/稼働14 戦艦 4隻中 喪失0/損傷2/稼働2動員兵数(乗員総数):9万7400名 うち戦死1万9800名、行方不明3200名。 生存兵推定:7万4400名。3.戦闘経過(要約) 開戦後、当艦隊はシールド艦群による防壁展開を実施し、ビーム艦・ミサイル艦の一斉射撃により敵前衛を制圧。 〇九二〇時以降、敵の反撃により前衛部隊に損害多数を生ずるも、戦列は終始統制を維持。 敵艦隊は弾薬および推進炉出力の限界に達し、撤退を開始。 これを追撃せず、救助および宙域掌握を優先せり。4.所見 本戦闘において当艦隊は、戦略目標たる宙域防衛を完了した。 敵は旧式艦が多くも練度は高く、味方の損害は甚大。 よって、当戦闘を「限定的勝利」と判定す。以上 報告責任者:銀河聖帝国宙軍 第八外征艦隊司令官 レオンハルト=トラヴァース中将(識別符号 MX-1785) 旗艦「ビシュヌ」艦橋発◇◇◇◇◇ 帝都ネオ=ベルゼブブ宙軍総司令部。 報告電文が読み上げられると、参謀室の空気は一瞬にして重くなった。 確かに勝利――敵は退き、第六総管区の防衛を成功とした。 だが艦隊損耗三割、人員と物資の消耗は甚大。 壁面の光幕には、赤い数字で、膨大な「物資補給要請」と「人員補填要請」が点滅していた。「……また、兵站部の奴らが悲鳴をあげそうだな」 老練の次席参謀長が低く呟く。「敵の侵攻は第六総管区だけで、三ヶ月で八度
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第17話……帝国艦隊を支えた星

 聖帝国暦644年7月――。 惑星ヴァルカン、アストレア子爵家館・応接室。 重厚な扉が開き、一人の壮年の軍人が姿を現した。 整えられた銀髪、深い青の軍装。 その立ち居振る舞いは、あくまで静かで嫌な威圧感はない。 彼が帝国第八外征艦隊司令官レオンハルト=トラヴァース提督であった。「……アストレア子爵殿。急な寄港となり、申し訳ない」 落ち着いた声。 その瞳には、先の戦勝の傲りも見えない。 ユリウス少年は緊張しながらも頭を下げた。「いいえ……惑星ヴァルカンは、皇帝陛下の軍の御役に立てることを誇りに思います。ご帰還の途中と伺いました。どうか、お力になりたい……!」 レオンハルトは小さく微笑む。「感謝する。我が艦隊は長期戦闘と宙域紛争で、損耗が激しくてね。兵も船も限界だ……、どうにか補給と応急修理を施したい」 声は疲労を帯び、どこか悲しみすら滲む。 ツーシームはその声色に嘘を嗅ぎ取れなかったが、疑念に眉をひそめた。(本当に……『ただの帰還』だけなのかい?)◇◇◇◇◇ ――数日後。 ヴァルカンの港湾都市と工廠区は、歴史にない賑わいとなった。 空を覆う無数の傷だらけの戦列艦群が着陸し、何千人もの帝国兵と技術士が惑星に降り立つ。「資材搬入急げ! オルビタス級の推進炉だ、手を抜くな!」「医療班、急患搬送! 前線帰還組だ!」「飯はまだかー! 暑い! ビール寄越せー!」 ヴァルカンの町は、他星系からも大量の労働者が流れ込み、修理工員、物資商人、飲食店が怒涛の勢いで増え、景気は爆発的に上向いた。 ツーシームの銀狐商会も例外ではない。 工廠は常にフル稼働、資材がいくらあっても足りなかった。「社長ー! リベットが尽きます!」「じゃんじゃん発注しな! 稼げるうちに稼ぐよ!」 汗と笑いが飛び交い、工員たちの顔は輝いている。◇◇◇◇◇ ユリウスは感慨深げに街を見渡した。「ツーシーム……、惑星ヴァルカンが、こんなに賑わうなんて」「ああ。坊っちゃんの城下町、きっと歴史上で今が一番華やかだね」 ツーシームは手すりに肘を置き、宇宙港を見つめる――その眼差しはまだ鋭い。「……ただし、勘違いするなよ。軍艦と兵隊は、金を落として帰ってくれる客なんかじゃない。生存と物資が全てさ。その裏に何か意図がないと、まだ言い切れない」 しかし、ユリウスは静
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第18話……繁栄の影、迫る伯爵の手

 第八外征艦隊が去って数週間後。 惑星ヴァルカンには、思いがけない余波が訪れていた。 帝国航路局の最新通達――「新規恒星間航路」開設。 その中継地として、地図上に刻まれた名は一つ。 惑星ヴァルカン、……だった。「ねぇ見て! また大型輸送艇よ!」「港が足りない! 新ドック建設だ!」「酒樽の入荷が追いつかねぇーッ!」 公式な航路図に載ったことにより、続々と商用輸送艦が寄港を始め、港湾都市レンドの経済は24時間、眠ることがなくなった。 航路が変わる。 ――それは、銀河経済の沸騰した血流が変わるということだ。 ツーシームの銀狐商会は、工廠を拡張していたが、急増する修理・整備依頼でてんてこ舞い。「社長ォ! こっちの推進機も故障です!」「荷降ろし急げ! 明朝出航だとよ!」 ツーシームはニヤつきながら煙草を噛む。「新航路の恩恵、しっかり噛みしめさせてもらうよ」 一方、ユリウスは政庁で報告を受けていた。「子爵閣下! レンドへの移住申請、前月比140%増です!」「市場税と入港税の増収、記録更新でございます!」 少年領主の顔に、誇りの笑みが浮かぶ。「ヴァルカンは……本当に、『銀河の地図』に載ったんだ」 その光景を眺めながら、ツーシームが呟いた。「坊っちゃんが掴んだ未来だよ。まぁ、ここからが大変かもだけどね」 大型輸送艦の推進光が夜空を照らす。 港のクレーンが止まることはない。 かつては寂れた辺境惑星―― 今は、銀河物流を支える新たな要所となっていた。 その繁栄は当地の誰もが驚くほどの勢いで、止まる気配を見せなかった。◇◇◇◇◇ イーグル星系・トブルク伯爵邸。 豪華な応接室で、伯爵はワイングラスを揺らしながら、老参謀の報告に耳を傾けていた。「――新航路の中継地に、惑星ヴァルカンが指定されたようですな、閣下」 トブルクの目が細く吊り上がる。「ほう……辺境の砂粒が、どうやら宝石に化けつつあるらしい」「大型輸送艦の寄港は増え、住民も急増、経済成長は過去最高とのこと」 伯爵の唇が吊り上がる。「クロイツがしくじった後で、あの小僧……、なにやら運を掴んだようだな」 老人は慎重に問う。「閣下……再び、手出しを?」 伯爵はゆっくりと立ち上がる。 その背後のスクリーンには、ヴァルカンの最新物流データが映し出されていた。「位
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第19話……ヴァルハラ陥落

 惑星ヴァルカン・政庁作戦会議室。 招集された地方領主――準男爵らが緊迫の面持ちで席につく。 ユリウスが立ち上がり、声を張った。「トブルク伯爵が、惑星ヴァルカンの大地を狙っています。放置すれば……我々の未来はありません」 ツーシームがすぐさま横でモニターを操作。 伯爵が統治するイーグル星系の星図が投影される。「……であるゆえ、先に イーグル星系を叩く」 低い声が響いた。 会議室に一瞬、ざわつきが走る。「ま、待たれよ! そのようなこと、帝国中央が黙っておるわけがない!」「それに、反逆と取られる危険が――!」 その叫びを遮るように、ツーシームは言葉を畳みかける。「伯爵がやらかした罪、証拠は山ほどある。位相鉄の利権のために反乱を起こし、ユリウス坊っちゃんの親父を殺した」 準男爵たちの背筋が凍る。 その真実は多くが、彼らは知らなかった事実だった。 ユリウスが続く。「位相鉄が帝国中央に知られたら……この星は直轄領になり、皆さんの領地は没収される」 沈黙。 準爵たちの顔色が変わった。 彼らは気づいたのだ。 今の繁栄は、自分の領地の税収を押し上げている。しかし価値が上がりすぎれば、中央に目をつけられ――剥奪対象になる。 自分たちの利権と未来を守るため、彼らは少年領主の策にのるしかない。 一人の準男爵が立ち上がり、声を張る。「我らは子爵閣下に従う! この繁栄を、ヴァルカンだけのものとせねばならん!」 別の者も続く。「そうだ! 帝国に良い顔をされても、領地を失っては終わりだ!」 次々と賛同の声が上がる。 ツーシームは薄く笑った。 政治というのは、こうして動く。 ユリウスは胸の内で拳を握った。(本音はどうであれ……、きっと僕と一緒に戦ってくれるだろう) ツーシームが宣言する。「標的はただ一つ。トブルク伯爵の首だ」 準爵たちは膝を打ち、声を合わせた。「イーグル星系攻略――成功させるぞ!」 ヴァルカン共同体は今、利権と誇りと未来を守るための戦に踏み出したのだった。◇◇◇◇◇ 聖帝国暦 六四四年四月初旬―― イーグル星系、外縁宙域の小惑星帯。 巡洋艦アストレアと旧式の駆逐艦三隻―― 四隻の小艦隊が、闇の海を一直線に突き進む。 対するトブルク伯爵側は、守りの堅い縦深陣形を敷き、圧倒的な数で待ち受けていた。「ワ
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第20話……伯爵、落つ

 司令室へ踏み込むと、トブルク伯爵は腰を抜かし、床で震えていた。 護衛は蜘蛛の子を散らしたように逃げ去り、伯爵はユリウスの足に縋る。「ア、アストレア殿! 先のことは謝る! これからは共に、帝国の恩為に――!」「……」 ユリウスは無言のまま、その哀れさに高周波サーベルをゆっくり納めた――その一瞬。 伯爵の袖口が閃き、毒刃が突き出される。「死ねええっ――!」 金属が打ち合う音ではなかった。 ゴシュと、何かが深く肉に沈む鈍い感触。 だが、刃はユリウスの喉には届かず、代わりに伯爵の腕へ、ツーシームの高周波サーベルがめり込んでいた。「いかんねぇ、そういうのは」 赤子をあやすような声で、ツーシームは刃を引き抜く。 血が噴き出し、甲板に赤い斑点を散らす。「今回はアタイの利権も絡んでる。坊ちゃんに『慈悲』で全部持ってかれたら困るんだよ」 二度、三度。 伯爵の胸板に鋭い赤い花が咲き、音が止んだ。 返り血を浴びた彼女の刃を、部下の小男が手際よく布で拭い取った。「……さて、帰りますか?」「え? 帰るの?」「伯爵傘下の領主どもが、本気で牙を剥けば厄介だよ。彼らの領地まで攻め込めば、勝ち戦が泥沼になる。後の面倒は後に回す。今日はこれで充分」 ツーシームは気楽に肩をすくめた。 納得とはいかないが、先ほど命を救われたばかりのユリウスには、逆らう言葉が見つからない。「ご領主様、あとは婆も手伝いますから、ご安心を……」 いつのまにか、会計係ゾル婆が血煙の中から顔を覗かせていた。「坊ちゃん、何か忘れてないかい?」 ツーシームが無線の感度を最大に上げる。 ユリウスは小さくうなずき、胸の奥から声を絞り出した。「先代アストレア子爵の仇――トブルク伯爵を討ち取った!!」「「おおおーッ!!」」 重巡洋艦ヴァルハラ船内の味方から歓声が湧き上がり、逆に敵兵は武器を投げ捨て、次々と膝をついた。 その日のうちに、帝都への報告は飛んだ。 この件は「合法的な仇討ち」として正式に追認され、辺境のアストレア家は、一躍格上の貴族を打ち破った若き勇者として名を轟かせることになったのだった。◇◇◇◇◇ ――それから四日後。 惑星ヴァルカンの宇宙港バリスタには、旗艦アストレアを先頭に、傷を負った艦艇が次々と帰還した。 焼け焦げた装甲板、黒く煤けた艦首。 だが迎え
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