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第8話

Auteur: 氷花
「はぁっ?!」湊が息をのんだ。「お前……あんなに瑠璃を大切にしてただろ?以前は指に小さな切り傷がついただけでも、まるで大怪我みたいに取り乱してたのに、今は奈美のために、隠れて彼女の腎臓を奪おうっていうのか?俺の聞き間違いだよな?」

湊は蓮を鋭く睨みつけた。「正直に答えろ。お前、本気で奈美に惚れてるのか?!」

部屋の空気が張り詰める。

あまりに長い沈黙だったため、瑠璃はもう答えは返ってこないと思った。

すると、耳慣れた、しかしどこか見知らぬ人のような蓮の声が聞こえてきた。そこには微かな開き直りが混ざっている。

「惚れてるからって、それが何だって言うんだよ?」

蓮は一呼吸置き、当然のことだと言わんばかりに続けた。

「愛と体の関係は、切り離せるものじゃない。それに、この数年、ずっと俺のそばにいて、体を重ねてきたのは奈美だ。そんな相手に惹かれたとしても、不思議なことじゃないだろ?

瑠璃のことは……」

彼の声が低くなった。彼自身でも気づいていないであろう苛立ちと嫌悪感が漏れている。

「愛していないわけじゃない。ただ……あいつのことは汚いって思ってしまうんだよ。だから触れることはない。それで……自然と情も無くなる。

このことはもういい。これ以上聞くな」

蓮は話題を切り上げるように冷たく言い放った。

「奈美に時間は残されてないんだ。手術が終わって瑠璃が目覚めたら、拉致されて腎臓を奪われたと伝えてくれ。怪しまれないようにな。

後で……きちんと償うつもりだから。

奈美に惚れてるけど、瑠璃への情まで消えるわけじゃない。だから、この件……隠し通す」

隠し通す……

奈美に惚れてる……

あいつのことは汚い……

自然と情も無くなる……

その一言一言が熱い鉄の塊のように、瑠璃の耳を焼き、心を突き抜けた。

蓮は自分を汚らわしいと嫌い、浮気をするだけでなく、他の女に本気になっていたのだ。

10年間、彼に愛されていると信じていた。しかし、自分などの都合よく取り出せる臓器を持ち、新しい女を喜ばせるための……ただの「道具」に過ぎなかったのか?!

耐え難い痛みとあまりの屈辱に、瑠璃は喉が裂けるほど叫びたかった。

しかし口は塞がれ、子猫が鳴くような絶望的な鳴き声しか出せない。溢れる涙が、目隠し用の布を濡らしていく。

必死に抵抗しても無駄だった。足音が近づいてきたかと思うと、冷たい針が肌を突き抜けた。麻酔液が血管に流し込まれる……

意識が遠のく中、あの日の記憶がよみがえってきた。16歳のまばゆい午後の日差しの中で、少年が赤面しながら「瑠璃、好きだ!」と叫んだあの記憶。

場面が変わると、観覧車で指輪を差し出し、「結婚してくれ」と緊張しながら言った彼の姿。

永遠だと信じていた愛は、月日が流れる中で彼の偏見によって腐り落ちていった。今では、瑠璃の心臓を突き刺し、臓器を奪い去る一番鋭利な刃物へと変わり果てている!

潮が満ちるような暗闇が、完全に瑠璃を飲み込んでいった……

目が覚めると、そこは病院のベッドの上だった。

腰に走る刺すような痛みが、自分が何を失ったのかを告げているような気がした。

ベッドサイドには蓮がいて、瑠璃が目を開けると、すぐさま寄り添い、申し訳なさそうな顔を向ける。

「瑠璃、気がついたか!ごめん、俺が情けないばかりに……お前を守れず、拉致犯なんて奴らに……」

彼は彼女の手を握りしめ、掠れた声で続けた。「安心しろ。犯人は刑務所に叩き込んでやったからな。絶対に一生を懸けて、この罪を償わせてやる!」

瑠璃は蓮を見つめた。自分の腎臓を抜き取らせ、今また目の前で悲劇の主人公を演じるその姿に、足先から凍りつくような冷たさを感じる。

いっそのこと死んでしまおうかとさえ思った瑠璃は、一言も話す気力はなく、疲労と共に目を閉じた。

その後の数日間、蓮は相変わらず、至れり尽くせりの献身ぶりだった。

しかし、彼が毎晩深夜になると、煙草や仕事といった理由をつけて長時間病室を空けることに、瑠璃は気づいていた。

ある日、瑠璃は傷の痛みに耐えながら、こっそりと後を追ってみた。

案の定、特別病室のドア越しに、奈美に優しくスープを飲ませる蓮の姿を見つけた。その手つきはどこまでも優しく、二人の距離はあまりにも近い。そして、見つめ合う眼差しには、隠しきれない親密さが滲んでいる。

だが、不思議なことに、そんな光景を目の当たりにしても、瑠璃の心はかつてのように激しく痛むことはなかった。

痛みがなくなったのではない。

痛みが極限に達し、感情が麻痺してしまったのだ。

心が死んでしまえば、もう悲しむことさえできない。

彼女の心は、すでに死んでいた。

彼への愛も、憎しみも、期待も、全てが消えてしまった。

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