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妻を「汚い」と捨てた夫。真実を知り嫉妬に狂う
妻を「汚い」と捨てた夫。真実を知り嫉妬に狂う
Auteur: 氷花

第1話

Auteur: 氷花
九条瑠璃(くじょう るり)と九条蓮(くじょう れん)が結婚して5年目のこと。瑠璃のもとに、親友から一枚の写真が送られてきた。

写真の中には、華やかなイルミネーションを背景に並んで立ち、同じ夜空を見上げている、蓮と彼の秘書である江崎奈美(えざき なみ)の姿があった。

友人からはこう添えられていた。【瑠璃、この奈美っていう女には気をつけたほうがいいと思う】

瑠璃は写真を数秒見つめると、思わず笑ってしまった。そして、軽い調子で返信する。【大丈夫。世の中の男が全員浮気しても、蓮だけはしないから】

そう言い切れるだけの自信が、瑠璃にはあった。

蓮は九条家の御曹司として知られる存在だが、その彼が瑠璃を心から愛していることは、周囲の誰もが知っていたし、奈美の美貌も雰囲気も育ちも、瑠璃と比べればかなり見劣りする。少なくとも瑠璃には、奈美が自分たちの関係を揺るがす存在だとは思えなかった。

瑠璃はスマホを置き、再び花を生け始める。この時はまだ、親友からの忠告を気に留めていなかった。

だが3日後の夜。蓮がシャワーを浴びている時に、ベッドサイドに置かれた彼の携帯の画面がふっと光った。ラインの通知だ。

瑠璃は覗き見るつもりはなく、ただ何気なく視線を向けただけだった。しかしその瞬間、彼女の目は画面に釘付けになった。

それは、奈美からの連絡だった。

そして、蓮が彼女につけていた登録名は――「いい子ちゃん」

その言葉が棘のように瑠璃の胸に刺さり、一瞬で耐えがたい痛みに襲われる。

頭の中が真っ白になった瑠璃は、ベッドの端に座り込んだ。指先が氷のように冷たくなっていく。

そんなはずがない。

瑠璃は今見たものが信じられなかった。

瑠璃と蓮が、歩き始めたばかりの頃から学生時代を経て、夫婦になるまで、ずっと一緒だったことは誰もが知っている。蓮の人生を振り返れば、どの場面にも瑠璃がいた。それほど長い時間を、二人は共に歩んできたのだ。

16歳のとき、蓮は全校生徒の前でスピーチをしていた。しかし、突然原稿を放り出したかと思うと、大勢の中にいた瑠璃に向かって叫んだ。「瑠璃!お前が好きだ!俺と付き合ってくれ!」

18歳の誕生日のとき、蓮は遊園地を貸し切った。そして、観覧車が頂上に達したとき、耳を赤くした彼が、指輪を取り出し、震える声で言ってくれたのだった。「瑠璃。俺と結婚してください。20歳になったら、真っ先にお前を迎えに行くから」

蓮は瑠璃を深く愛していたからこそ、それだけに、その独占欲の強さも人一倍だった。

自分以外の男が瑠璃の3メートル以内に近づくことを許さず、彼女が別の男に少しでも目を向ければ、3日間は機嫌が悪くなる。拗ねたり嫉妬したりしながら、最後には瑠璃が笑って謝り、「愛しているのはあなただけ」と言うまで許してくれなかった。

だが、瑠璃はずっと、これこそが理想の愛の形だと思っていた。

たとえ世界中の人が敵に回っても、蓮だけは違う。どんな時も、自分の味方でいてくれると信じていたのに。

今や、スマホの画面に表示された「いい子ちゃん」の短い文字が、蓮への信頼を一瞬で打ち砕いた。まるで頬を強く打たれたかのように、瑠璃が疑いもなく信じていたものが、音を立てて崩れ去っていった。

胸を何者かに強く掴まれているような激痛が広がり、息が詰まる。

彼女は震える指で、何度もそのIDを確認し、必死に記憶に刻み込んだ。

その晩、瑠璃は奈美のアカウントを追加した。

すると、まるで瑠璃が追加するのを待っていたかのように、すぐさま奈美からメッセージが送られてきた。【瑠璃さんですよね?私の連絡先を追加した理由は、なんとなく予想はついています。明日の午後3時、ブルーベイ・カフェに来てください。すべてをお話ししますね】

瑠璃はそのメッセージを見つめたまま、胸の奥がすっと冷えていくのを感じていた。

翌日、瑠璃がブルーベイ・カフェに入ると、悪びれる様子もなく、堂々とした態度の奈美がすでに待っていた。

瑠璃が席に着くや否や、奈美は瑠璃に携帯を差し出す。そこに表示されていたのは、停止された動画。

「これを見てもらえれば、知りたいことが分かると思いますよ?」その奈美の言葉には、優越感と挑発が混ざっていた。

瑠璃の指先が震えた。これを再生してしまえば、今まで築き上げてきた自分の美しい世界が崩れ去ってしまう……そんな気がした。

しかし真実という名のパンドラの箱は、破滅をもたらすとわかっていても開けずにはいられない。

大きく深呼吸し、瑠璃は再生ボタンを押した。

どうやらそれは、プライベートパーティーの動画のようで、薄暗い光の中、たくさんの人々が思い思いに楽しんでいる。

そして、何より目を引くのは、動画の中心で人目も気にせず激しく唇を重ねている蓮と奈美。二人は、熱に浮かされたように一心不乱だった。

さらに、囃し立てる周囲の友人たち。

二人が唇を離した後、誰かが笑いながら蓮を揶揄う。「蓮、奈美ちゃんとのキスはどうだ?瑠璃さんと比べて、どっちが刺激的?」

蓮は隣に座っていた友人の煙草を口にくわえると、冷めた表情で煙を吐き出しながら、残酷なまでに落ち着いた口調で答えた。

「比べること自体が間違ってる」

少し間を置いてから、好奇の視線の中、彼が淡々と付け加える。

「瑠璃とキスしたことはないし、もちろん、寝たこともない」

その瞬間、周囲が水を打ったように静まり返ったかと思うと、すぐにどよめきが広がった。

「はぁ!?嘘だろ!だって蓮、あれだけ瑠璃さんに夢中だったじゃん!付き合えることになった日なんて、嬉しさのあまりベロベロに酔っ払って、嬉し泣きしながら俺たちと朝まで騒いでたのに。まじで、手出してないっていうのか?」

灰を落とす蓮の眉間には、隠しきれない鬱屈した陰りが漂っている。数秒の沈黙の後、彼が吐き捨てた言葉がナイフのように、画面越しの瑠璃の心臓を切り刻んだ。

「うん。確かに、あいつのすべてを俺のものにしたいって思うほど、俺はあいつのことを想ってた。でも、あの拉致のことがあってから……」

拉致という言葉を出した蓮が、苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。

「瑠璃が汚れているように思えてならないんだ。俺が潔癖症ってこともあるかもしれないけど、あいつに触れようとするたびに……瑠璃を拉致した奴らも、同じように触れたんじゃないかって……」

まるでその光景を思い浮かべることすら耐え難いかのように、蓮は一瞬言葉を止めた。そしてしばらくして、彼がぽつりと呟く。

「汚いんだ。本当に、汚らわしい。どうしてもこのことだけが、受け入れられないんだよ」

蓮は自分の腕の中にいる奈美を見て、少し口調を緩めた。

「お前らは、俺が瑠璃に飽きて、もう好きじゃなくなったから、別の女と一緒になったって思ってるんだろ?

でも、そうじゃない。俺はまだ瑠璃のことが好きだ。でもあいつは、もう汚れてしまった……それに、奈美は瑠璃ほど完璧じゃないけど、汚れていない。だから、こいつの全てを俺のものにできる」

蓮が最後に放った一言は、瑠璃を地獄に突き落とす決定的な言葉だった。

「汚い瑠璃なんかより、ずっといい」

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