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第3話

作者: 氷花
動画がまるで毒針のように瑠璃の目に刺さる。あまりの痛みに、もう目が開けられなかった。

その瞬間、激しい吐き気に襲われた瑠璃は、慌ててトイレに駆け込んだ。しかし、何も吐けずに、ただ涙だけが溢れ出すばかり……

トイレから戻ると、瑠璃は黙々と荷造りを始めた。自分の物を一つずつ、キャリーケースへ詰め込んでいく。

まるで、ここにある蓮の気配を、1秒でも長く吸ってしまえば、窒息してしまうかのように、瑠璃の荷物を詰める手はとても速かった。

片付け終わったとき、玄関からドアの開く音がした。

蓮が帰ってきた。

彼は高級ブランドの袋をいくつも提げ、いつもの優しい微笑みで瑠璃に話しかける。「瑠璃、ただいま。接待が長引いてて、こんなに遅くなっちゃったんだ。新作のバッグとネックレスだよ。どう?気に入ってくれると嬉しいな」

前なら、喜んで蓮に駆け寄り、袋を受け取るや否や、すぐに抱きついていただろう。

しかし今は違う。彼が奈美と肌を重ね合わせてから帰って来たこと、そして、今抱きつけばその身体に別の女の匂いが残っていることを、瑠璃は知っているのだ。

虚ろな瞳で、蓮を見つめる。

蓮も彼女の違和感に気づき、荷物を置くと肩を抱いて尋ねた。「どうした?顔色がすぐれないみたいだけど、気分でも悪い?」

自分が真相を知ってしまったことを見抜かれたくなかった瑠璃は、必死に感情を押し殺し、顔を背けて答える。「ちょっと生理が辛くて……」

すると、蓮がすぐに焦った表情を浮かべた。「なんで早く言ってくれないんだよ。待ってて。今からお湯を沸かして、何か温かい飲みものでも作ってあげるから」

彼は慣れた手つきでエプロンをつけ、急いでキッチンへと向かった。

すぐに湯気の立つハニーレモンティーが、瑠璃の目の前に差し出された。以前と変わらず、優しく彼女のお腹もさすり続けている。

「まだ痛い?これを飲んだら、もうゆっくり休んだほうがいいよ」彼の声は蕩けそうに優しい。

そんな本気で自分を心配しているような男を見て、瑠璃の心はちぎれそうだった。

蓮、そんなことをしてももう遅いよ。

あの動画を見なければ、この献身的な男が、裏で自分を「汚い」と思っていたなんて、いくら言われても信じられなかっただろう。

情けなくも、再び涙が溢れて落ちてきた。

痛みのせいで瑠璃が泣いていると思った蓮は、心を痛め、力強く彼女を抱きしめた。「大丈夫だよ、瑠璃。俺はここにいるからな」

瑠璃が落ち着き、蓮がそっとその腕を離す。しかしその後、蓮が、先ほどまで着ていた高価なオーダーメイドスーツをさっと使用人に渡し、小声で命じていたところを、瑠璃は見てしまった。「捨ててくれ」

使用人が驚いて聞き返す。「旦那様。このスーツはかなり高価なものですし、まだ一度しか着ていらっしゃいませんよね?」

少し苛立った様子の蓮が、再び繰り返した。「汚れたんだ。捨てろ」

汚れた。

また、これか……

その言葉が毒針のようになって、傷だらけの彼女の心臓を再び貫く。

ただ抱きしめただけで、服が汚れたと感じるなら、自分と暮らしてきたこの長い歳月は、彼にとって苦行でしかなかったのだろう。

瑠璃は下唇を噛み締めて、感情を殺す。

蓮が何事もなかったかのように戻ってきた姿を眺め、瑠璃は絶望を感じた。

蓮。そこまで隠せるなんて、むしろ尊敬するよ。

分かった。これほど私を汚いって思うなら、もう二度とあなたの視界に入るような真似はしない……あなたの世界から消えてあげるから!

瑠璃の元気がないのを見て、翌日、蓮は会社の仕事を休み、瑠璃をチャリティーオークションに連れて行った。

会場では様々な食事が用意されていたが、瑠璃は何を食べても味がしなかった。

瑠璃があまり食べていないことに気づいた蓮は、秘書の一人である坂本に電話をかけ、瑠璃が好きなパンを買いに行かせる。

しかし、パンを持って慌ただしくやってきたのは、なぜか奈美だった。

蓮の表情が変わり、彼が少し声を低めて言った。「俺は坂本に買ってくるように言ったんだけど……坂本は?」

仕事着に身を包んだ奈美が頭を下げる。「坂本さんに急用ができたということで、近くにいた私が届けに来たんです……」

蓮は瑠璃をちらりと見て、疑われることを心配したのか、それ以上は何も言わず、一言だけ言った。「そこに置いておけ」

そしてすぐに瑠璃へと、優しい笑みを向ける。「瑠璃、少しは何かを食べておいたほうがいいよ。ほら、これ。お前が一番好きなやつ」

瑠璃は自分に手渡されたパンを見てから、蓮に視線を戻した。

その瞬間、瑠璃は見てしまった。蓮の瞳に一瞬だけ浮かんだ別の誰かに向ける気遣い……

どうやら、奈美を心配しているらしい。

このパンを手に入れるには、かなり並ばなくてはならないし、ここからはかなり遠い場所にある。だから、奈美がそんな苦労をしてしまったことを、蓮は気に病んでいるのだ。

馬鹿馬鹿しい。

昔、自分が一言「あの店のパンが食べたい」と言っただけなのに、真夜中に家を抜け出し、わざわざ何時間も並んで、まだ温かい焼き立てのパンを自分に届けてくれたあの少年。なのに今では、彼自身のせいで苦労をしてしまった他の女のために、心を痛めている。

しかし、瑠璃の心は傷つきすぎて、すでに痛みを感じなかった。

何も言わずパンを一口齧る。やはり、いくら好きなものとは言えど、今はゴムを噛んでいるようで全く味がしない。

オークションが始まると、奈美は秘書として蓮のそばに立っていた。

ある令嬢にワインを注ぐ際、奈美は不注意で相手方のドレスを汚してしまった。

焦った奈美は何度も頭を下げて謝り続ける。

しかし、令嬢が眉を吊り上げ、いきなり奈美の頬を叩いた。

「どこに目をつけてるわけ?ワインすらまともに注げないなんて!しかもこのドレス、世界に数着しかないものなのに。そんな安物のスーツを着ているあなたみたいな人に、弁償できるの?!」

頬を押さえながらも、涙を浮かべて何度も謝る奈美。しかし弁償することは不可能だった。

令嬢は奈美に怒りをぶつけていたが、しばらくすると怒りながらその場から去っていった。

瑠璃は冷めた目で一部始終を見守っていたが、ふと蓮に視線を向けてみた。

彼はその場でじっとし、奈美を庇おうとはしなかった。しかし、唇を固く結び、険しい表情で、視線は常に奈美を追い続けている。

蓮は堪えていたのだ。

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