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第7話

Author: 氷花
茂みの中で、蓮が奈美を太い木の幹へ押しつけていた。その手つきは荒々しく、声には苛立ちが滲んでいる。「こんな時に、そんなことするのか?!」

奈美の服は乱れ、頬には赤い指の跡が残っていた。それでも彼女は艶っぽい眼差しを向け、蓮にしがみつく。「蓮さん……誘ってるんじゃないの。ただ怖かっただけ……このことで、あなたに見放されるんじゃないかって……だから、ちゃんと謝りたかったの」

「謝りたい?」蓮が小さく笑った。その声は、先ほどよりずっと柔らかい。「確かに腹は立った。でも、今はこうして……お前が俺の機嫌を取ってくれてるだろ?」

彼は奈美に顔を近づけ、自分が叩いて赤くなっている頬に優しくキスをした。

「痛いか?瑠璃がいたから、さっきはお前にあんな風に当たってしまった……ごめんな」蓮は彼女の髪を撫で、低い声で言った。

「後で……たっぷり埋め合わせをしてやるからな、ん?」

「うん……」奈美が満ち足りた表情で彼の胸に顔を埋めた。

その様子を見ていた瑠璃は、目眩と立ちくらみを覚えた。全身の力が一気に抜け落ちていく。

自分がどん底に突き落とされていたその時。両親の遺灰が雨に流され、何ひとつ残らなかったその時に……蓮は、すべての元凶である奈美と一緒にいた。しかも、人目のない茂みの中で。自分の苦しみなどなかったかのように、二人だけの世界に浸っていたのだ。

それにあろうことか……彼自身が奈美を叩いたことで、心を痛めている。

あまりの馬鹿馬鹿しさと突き刺さるような痛みに、瑠璃は立っていられなくなった。背を向けて逃げようとしたその時、足元を滑らせ——

「あっ!」

バランスを崩し、濡れた石の階段を瑠璃はそのまま転げ落ちていった。

後頭部を階段の角に強打し、激痛とともに目の前が真っ暗になっていく。

目を覚ますと、そこは自宅の見慣れた大きなベッドの上だった。

瑠璃が目を覚ますと、ベッドのそばに座っていた蓮はすぐにその手を握り、焦りと後悔が浮かんだ顔で瑠璃を見つめた。「瑠璃!やっと起きた!ごめん、全部俺のせいなんだよ」

焦ったように言い訳を始める。「遺骨入れを買いに行っていたんだけど、もどってくる道で車が急に動かなくなって。しかも豪雨だっただろ?それで戻ったときにはもう……階段でお前が倒れてたんだ……」

血の気のない瑠璃の顔を見つめ、蓮は宥めるように続けた。「そんなに気に病むことはないよ。人間はみんな、死ねば灰になる……天国にいるお父さんとお母さんも、きっとお前を責めたりはしないよ」

綻びだらけの嘘と、必死に作る心配そうな表情。瑠璃の心は、無数の針で刺されるように激しく痛んだ。それは、身を丸くしたくなるほどの痛みだった。

彼女は何も答えず、ただ静かに背中を向けて目を閉じた。

それを、両親の遺灰を失った深い悲しみのせいだと思った蓮は、その日から瑠璃を喜ばせるために様々なことをした。

仕事をすべて断り、自ら料理を作る。花屋の花を買い占めては、寝室を花の海にし、海外の楽団を呼んでは、瑠璃のためにコンサートまで計画した。

使用人たちが羨ましそうに呟く。「旦那様は本当に奥様思いなんですね」

だが、その一つ一つの優しさが、彼女の血を流す傷口に塩を塗り込む行為であることは、瑠璃しか知らない。

そんなある日、蓮にかかってきた一本の電話が平穏を打ち壊す。

奈美の家に強盗が入り、さらには奈美も数カ所を刺されて瀕死の状態で病院に運ばれた、という内容が瑠璃にも聞こえていた。

電話を握る蓮の手がガタガタと震え、表情が一気に凍りついていく。

電話を切った彼は大きく息を吸い、瑠璃へ強引に微笑んでみせた。「瑠璃、会社で緊急の国際会議が入っちゃったから、行かなきゃならないんだ。すぐ戻ってくるから」

蓮の隠しきれない焦燥感を見つめながら、瑠璃は馬鹿馬鹿しいと思っていた。

だから、特に何も言わずに、淡々と頷くだけ。

ちょうどいい。彼がいなくなれば、自分もここを離れる準備を静かにできる。

すでに業者には連絡済みだ。この苦しみに満ちた家を売り払い、離婚が受理されたら自分はこの街を出る。二度と彼には会わない。

その日、瑠璃は用事を済ませて帰路についていた。しかし、人通りの少ない路地に入った瞬間、背後から急に麻酔薬を含ませた布で口と鼻を強く塞がれた。

助けを呼ぶ暇もなく意識が朦朧としていき、彼女の体はその場に力なく崩れ落ちた。

次に目覚めたのは、消毒液の臭いが漂う見知らぬ場所だった。

ベッドに縛り付けられ、口もガムテープで塞がれている。くぐもった呻き声をあげることしかできない。

すると、近くから低く押し殺した声が聞こえてきた。

蓮と、彼の親友である陣内湊(じんない みなと)だった。

湊の驚愕に満ちた声が響く。「蓮!お前正気か?!なんで瑠璃をこんなところに連れてきたんだよ?!」

反対に、蓮の声は冷たく恐ろしいほど躊躇いが感じられなかった。「奈美が刺され、腎臓が壊れた。今すぐ移植が必要なんだよ。適合するのは瑠璃の腎臓しかない」

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