ANMELDEN
四月七日 夕方。
「ガタンガタン」
電車の揺れが、窓ガラスに映る曇り空を震わせている。
だが、その揺れがどうも心地いい。
「次は、冨永山町~。お出口は左側です」
車掌の声が響いた瞬間、妙な胸騒ぎに襲われる。
『一体…』
そう思考を巡らせるが、どうもその正体はわからない。
東京とはまるで違う、のどかな山間の町。
とある事情で越してくることになったこの場所に、淡い期待と言いようのない不安を抱いていた。
東京に未練がないと言えば嘘になる。
親しくしている友人も、数は少ないが確かに居た。
慣れた街並み、雑多の中を歩く感覚。
そのどれもが、今の現状とともに薄れゆく。
それでもここに来ることを選んだのは、失うことに慣れているからかもしれない。
ふと眠気が体を襲い、少しだけ目を閉じる。
瞼をそっと落とす。
そのとき――
聞き覚えがあるようでない声が、脳裏に響いた。
不快感はなく、むしろヒーリング音楽のような心地の良い女性の声。
ふと瞼を開けると、そこは電車内の景色とは似ても似つかなかった。
全体が青白い空間に、一人で立たされている。
両手をパタパタと閉じては開いてを繰り返す。
その感覚は、現実と瓜二つのように感じる。
目前に視線を見やると、古びた椅子に腰掛けている一人の女性が静かに微笑んでいた。
「また、お会いしましたね」
蝶々の模様が付けられている白いワンピースを可憐に着こなしている。
年は同じくらいだろうか。
若々しい印象だ。
いきなりの状況に言葉を失う。
面食らっている間に、女性が話を続ける。
「あなたがこの町に来るということは、それ相応の覚悟があるのでしょう」
「ただ……」
「引き返すなら今です。ここで決断なさい」
なんのことだか見当がつかない。
しかし、不思議と嫌な気持ちはしない。
そんな驚嘆している状況を横目に、女性は淡々と続ける。
「記憶を消してこの町から去るか」
「それとも——」
「ここで出会う仲間たちとの、かけがえのない記憶を取り戻すか」
この女性が言っている言葉の意味がわからない。
わからないはずなのに。
『ここで出会う仲間たち』
この言葉が胸の奥に引っかかる。
どうしてかの理由は見当たらない。
数秒考える。
そして、ゆっくりと答えた。
「……俺には——」
「俺には、ここ以外に行けるところがない」
女性はそっと胸を撫で下ろし、安堵したように微笑んだ。
「あなたの決意、承りました」
「では、また会える日まで——」
優しい声が空間に溶けると同時に、視界が白飛びする。
「はっ…!」
悪夢を見たように飛び起きる。
辺りを見渡すと、周りは電車内へと戻っていた。
幸い、同じ車両内に乗車している人はいなかった。
深く息を吐きだし、電車の座席へと深く座る。
さっきの出来事。
夢といえばそれまでだ。
だが、確かに心に存在する感覚がある。
何か大切なことを決めたような、ぼんやりとした実感だけが残っていた。
————
数分後、電車は冨永山駅に到着した。
ホームに人気はなく、自販機の排気音が無骨に鳴り響いている。
少し歩き改札を出ると、高校生らしき人物が見受けられた。
スマホを見ながら、必死に誰かを探している様子だった。
制服のような衣服を丁寧に着こなしつつも、どこか慌ただしさを感じる振る舞い。
長い黒髪が風に靡いており、どこか清楚な雰囲気を放っている。
そんな彼女を見つめていると、こちらに気づいたようだ。
タッタッ。
駆け足で駆け寄ってきた。
「突然で悪いんだけど……もしかしてキミが転校生?」
「そう…ですけど…」
「よかった~! 人違いだったらどうしようかと思ったよ」
「私、羽川(はねかわ)衣百合(いゆり)」
「 キミの名前は?」
「枝先(えださき)黎慈(れいじ)。二年生です」
「え、二年生!? 」
彼女は驚嘆した表情を浮かべていた。
「ごめんね?私、先生からあんまり詳しく聞いてなくて…」
「…そっか、年下か」
「じゃあ私が先輩だね!」
これが俗に言うドヤ顔というやつだろうか。
いかにもな顔をこちらに向けてきている。
「……って、冗談だよ。真に受けないでよ~」
衣百合は軽く笑って手を差し出した。
「よろしくね」
その手を握り返す。
「早速悪いんだけど、これから学生寮まで案内するね」
彼女について行くように外を歩き出した。
さっきまでは気が付かなかったが、肌寒い四月の風が吹いている。
桜の花びらが少し散り始め、遠くに山並みがぼんやり見える。
その山並みから、夕日が姿を覗かせている。
東京の喧騒とは正反対の、静かな町並み。
内心で小さく息を吐く。
「にしても、キミも大変だよね」
「こんな辺境に来ちゃってさ」
「都会に比べたら何もないに等しいけど、ゆっくりするにはいい場所だと思うよ」
ちょっとした世間話をしながら歩いていると、目の前に大きめの建物が現れた。
木造で少し古びているが、周りの建物と比べると大きさは一流だ。
「お、着いた! ここが私立河平商工(かひらしょうこう)学園の学生寮だよ」
寮の中に入り、彼女から鍵を受け取った。
部屋番号は226。
「それじゃあ、私は明日の始業式の準備があるから」
「また後でね~」
衣百合はそう言い残して足早に去っていった。
廊下を歩いていると、突然部屋の扉が開いた。
「うわっ!?」
小柄な男子生徒が飛び出してきて、互いの肩にぶつかる。
「ご、ごめん!」
慌てて顔を上げた少年は、そのまま固まった。
まるで信じられないものを見るように。
「あれ、転入生って今日なの…?」
「……え?」
少年の口から小さく声が漏れる。
だが次の瞬間には我に返ったようだ。
「ごめん!今は急いでる!」
そう言い残して走り去っていった。
扉を開けて部屋に入ると、そこには質素な1ルームが広がっていた。
ベッドとクローゼット、それとちょっとした机だけ。
部屋の中心には、東京から送った荷物入りの段ボールが積まれていた。
質素だが、学生寮だったらこんなもんだろう。
さっと荷物を片付け、少し外に出ることにした。
玄関の脇にある鍵を取り、外に出た。
少し歩くと、よくあるコンビニが見えた。
コンビニの前で、制服を着た男子生徒二人が雑談していた。
何気なく耳を傾けてみることにした。
「なあ、最近この町で話題の『夢』って知ってるか?」
「都市伝説だろ?」
「いや、結構マジらしいぜ……」
都市伝説やオカルトには興味がない。
しかし、さっきの出来事を経験して反応せずにはいられなかった。
その男子生徒らしき二人組に思わず声をかけた。
「すみません、突然だけど……その『夢』って…?」
男子生徒たちは一瞬嫌な顔をし、そっけなく答えた。
「あんた、他所もんだろ」
「昔から住んでる奴ら以外には話すなって言われてんだ」
「他を当たってくれ」
二人はそのまま去っていった。
尋ね者のような対応をされたことに、妙な気持ちを感じた。
外はすっかり夕暮れになっている。
コンビニで飲み物を買って寮に戻ることにした。
外から帰ると、寮のロビーでは衣百合(いゆり)がソファーでくつろいでいた。
「お、おかえりー!」
「迷わなかった?」
「まぁ、なんとか…」
「ならよかった!」
「 そういえば、連絡先交換してなかったよね」
「ほら、これIDね」
彼女がスマホの画面をこちらに差し出してきた。
その画面をメッセージアプリ上で読み取った。
ピコン。
効果音と共に友達追加された。
「よし!これで大丈夫そうだね!」
彼女は満足そうな顔をしていた。
「羽川さん……この町の『夢』って、何か知ってる?」
考える暇もなく、咄嗟に口から出ていた言葉だった。
その瞬間、衣百合の笑顔が一瞬だけ固まったように見えた。
「あはは……」
「なんのことかな? 私はよくわからないや」
苦笑いを浮かべながら、彼女は必死に話題を逸らした。
反応的に、知らないなんてことはないだろう。
「わかりました…」
二人の間に静寂が訪れる。
その静寂に耐えられなくなったのか、彼女は唐突に立ち上がった。
「それじゃあ、私は部屋に戻るね」
「夜ご飯は冷蔵庫にあるから、温めて食べてね」
衣百合(いゆり)が去った後、冷蔵庫から青椒肉絲を取り出し、ロビーで温めて食べた。
今日は色々あった日だった。
移動に時間を使い、疲労が蓄積しているのを感じていた。
それと同時に、眠気が襲ってくる。
時間は18時半。
眠りにつくのは早すぎる。
だが、睡魔には到底勝てない。
軽く仮眠を取ることにした。
ベッドに仰向けになり、そのまま目を閉じた。
「では、とりあえず夢の核まで向かいましょう」四人は夢の核に向かって歩き出して行った。「とりあえず着いたが…」ただならぬ雰囲気が出ている。空気も先ほどとは打って変わって、どこか甘ったるくなっている。頭がクラクラするくらいだ。屋敷の外周にあった城壁も、ほぼ半壊で無くなっている。「黎慈さん。ここからは一人行動でお願いします」「ああ、分かった」黎慈は深く深呼吸をした。そして、景佑の方を見て一言。「生きてたら、また会おう」「縁起でもないな」二人は冗談混じりで笑った。「朱音を現実に返したら、俺もすぐに向かう。それまでくたばるなよ?」「フッ、どうかな…」「待ってるぞ」黎慈はそう言うと、夢の核の中に向かって行った。半壊していた城壁の内部に入ると、中は化け物が無数にいた。ただ、襲ってくる様子はない。まるで感情を失い、無気力になったような状態で彷徨っている。黎慈はそれを横目に、中に入れそうな場所を探し始めた。屋敷の外側を色々と見ていると、壁が豪快に破壊されている場所があった。「ここからなら…」黎慈はその穴から、屋敷の内部に入って行った。幸い、穴の先は小さな部屋になっていた。ただ、誰かの話し声が聞こえる。「こんな事態は初めてだぞ!主人はなんと?」「…まだ情報が回ってこない。しばらくは待機だろうな…」二人が話している様子だ。壁越しから聞こえてくる。「あーもう!むしゃくしゃする!ちょっと行ってくるわ!」「ば、ばか!待て!」二人は動揺しているように感じた。『今しかない!』黎慈は部屋の扉を最速で開けた。扉を開けると、案の定兵士のような格好をした化け物がいた。「だ、誰だおま…」声を出させる間もなく、一人を倒す。もう一人も、連鎖反応の如く始末する。あまりに早い身動きに、自分でも困惑していた。「いつもより、体が軽いな…」手を何度か握りしめる。ブラムを使っても、全く疲れない。『これも、不安定が故の影響なのか?』とにかく、黎慈は先を急ぐ事にした。黎慈と別れた頃。「それで、これから向かうところなのですが…」黎慈が夢の核に向かったのを確認し、夢の住人が話し始める。「景佑さん、前に夢の主人である和寿の記憶を見た場所って、覚えてますか?」現実だと、あの大きな公園だ。ここからそう遠くないことも覚えていた。「もち
その後は特に何もなく、夢の中に向かうことにした。「どうやらやってくれたようですね」聞き覚えのある声が聞こえてきた。目を開けると、いつもの少女が座っていた。「あなた方のおかげで、今はかなり不安定な状態です」「すでに相方さんはいらっしゃいます」「夢の住人も迷い込んだ人も一緒にいるようです」「そこまでお送りしますか?」「頼んだ」少女が立ち上がり、歩いて行った。黎慈はそれについてくように歩いていく。「そう言えば、お前の夢の住人ってやつなのか?」黎慈が歩きながら少女に聞く。少女が立ち止まる。「ん~、少し違うかも知れません」少女が歩きながら説明を始める。「認識の違い、ですかね」黎慈はよく分からなかった。「現実の人間と、夢の住人と言う二つの括りで決めるなら、そこの違いはあります」「ですが、ブラムの適性などは夢の住人の方が圧倒的に上です」「夢の世界の適性も高いと言えます」「最初から夢の住人か、そうでないかの違いです」少女は黎慈の方を見た。まだ分からないという顔をしていた。「…まあ、少し難しい話だったかも知れません」話しながら歩いていると、光っている扉が見えた。「ここです」黎慈が入ろうとすると、少女が呼び止めた。「一つだけご忠告を」「不安定な状態で夢の世界に入ると、安定化するまで出られなくなります」「不安定な状態で戦闘不能となると、最悪の場合死ぬ可能性もございます」黎慈は覚悟を決め、固唾を飲み込む。「くれぐれもご注意ください」「あぁ」黎慈は少女の言うことを了承し、扉を開けて中に入った。「ご武運を」そう言葉が聞こえると、視界がパッと明るくなった。意識がどんどん薄れていった。「よっ、遅かったな」目を開けると、そこには景佑と夢の住人がいた。二人はいたが、もう一人いるはず。周りを見渡しても、朱音が見当たらない。「朱音はどこに?」「この中にいるよ」景佑が指を刺した先は、なんの変哲もない住宅街に佇む一軒の家だった。「安全のために、夢の核からはかなり遠い場所に隔離しました」「ここなら、化け物に襲われる心配もないかと思いまして」確かに、化け物たちの気配が全くしない。夢の中のはずだが、妙に現実味が強い場所だ。「呼んできます」夢の住人が家の中に入って行った。すぐに家の中からは朱音と夢の住人が出てきた。
黎慈は開きっぱなしだった寮のドアを閉め、二階にある空き部屋へと向かうことにした。空き部屋の前についた。部屋の扉を開けようとするが、びくともしないくらいガッチリと閉められていた。「和寿、帰ったよ」黎慈がそう声掛けをすると、ゆっくりと扉が開く。 扉が開くと、衣百合が立っていた。衣百合は廊下を見渡して確認していた。「大丈夫…だよね?」「もちろん」「良かった…」衣百合は気が抜けたように椅子に寄りかかっていた。「大丈夫か?」黎慈が衣百合にそう問いかけると、今の状況に慌てて立ち上がった。「ああごめん…」「気にしてないよ」黎慈の声に安心したのか、表情が緩んだ。「もしなにかあったらって思ったら、とても気が気じゃなくてさ…」黎慈は照れくさそうに笑いかける。だが、黎慈の中にある感情が爆発しそうになっていた。しかし、今のこの状況で恋愛などにしている場合ではないことは明白だった。「ありがとね…でも大丈夫だよ」 胸の鼓動が飛び出しそうなほど高揚している。「これからは、心配させないようにするよ」「約束ね?」 二人は指切りをした。二人が感傷に浸っていると、ロビーのドアが開いた音がした。「おーい、二人ともいるんだろ?」聞こえてきた声は亮のだった。二人は触れ合っていた手を瞬時に離す。「上にいるよ~」衣百合が大きな声で亮を呼んだ。「部屋に戻ってるね」黎慈は衣百合にそう伝え、亮が来る前に自室に戻った。そうして思いに耽っていると、夕飯の時間なのに気がついた。黎慈は部屋着に着替え、一階へと向かう。一階に降りると、音で気がついていたのか衣百合がこっちを見ていた。少し気まずさもあるが、そのままキッチンへ向かう。衣百合はまだ夕飯の準備をしていた。「手伝えること、ある?」今までよりもぎこちなく衣百合に聞く。「もう終わるから大丈夫だよ」「あ、出来上がったのをダイニングに持って行ってくれる?」黎慈は言われた通り夕飯を持って行った。夕飯を置いてくるついでに寮を見てみたが、いつもいるはずの亮の姿が見当たらない。「あれ、亮はどこ行ったの?」ダイニングにいる衣百合に向かって声をかける。「ああ、まだ自室にいるってさ」なんとなく理由は察せる。これもあいつなりの配慮なのだろう。「二人ってことか…」 衣百合に聞こえないくらいの小声で独
そして次の日になった。黎慈は制服に着替え、ロビーに向かった。ロビーにはすでに衣百合がいた。そのままソファーに座った。そうしていると、黎慈のもとに衣百合が朝食を運んできた。「今日はよろしくね?」衣百合はそう言った。「まあ、俺ができることはないけど…」「祈ってくれてるだけで充分だよ」衣百合は優しく微笑んだ。「じゃあ、全力で祈ってるよ」昼休みになった。黎慈と景佑は空き教室に向かった。衣百合はまだ来ていなかった。「黎慈は色々と聞いてるんだよな?」「まあ、昨日聞いたけど…」黎慈は昨日のことを言うのか渋った。だが、景佑の為にも言うことにした。「かなり緊張してそうだったぞ」立ちながら話す黎慈に、景佑が椅子を用意しながら話す。「そりゃあ、そんだけのことをするんだからな…」「逆に緊張感持ってもらわないとな」冗談混じりで景佑が言う。そんなことを話していると、衣百合が教室にやってきた。「じゃあ、早速話していこうか」衣百合がスマホの画面を見せ、詳細を話し始めた。「なるほどねえ…」「まあ良いんじゃない?学内の雰囲気も一気に変わるだろうし」景佑は曖昧な感じを出しつつも、了承していた。「じゃあこれで行こうか」黎慈が最後にまとめるように話し始めた。「景佑の行動はどうする?」黎慈がそう言うと、衣百合が『うーん』と唸った。「私とグルだとバレたらめんどくさいから、そのまま帰って大丈夫だよ」「帰宅後は一旦黎慈に連絡してもらう感じで良いかな?」「うん。了解」そのまま三人は解散した。6時限目が終わった。正念場がやってくる。『頼む』黎慈は心の中で祈った。「キーンコーンカーンコーン」放送のチャイムが鳴る。どうやら始まったようだ。「全校生徒、並びに職員にお知らせです」周りにいる生徒たちは唖然としていた。「二年主任の夏樹 和寿に告ぐ」「お前は生徒たちに傍若無人の限りをつくし、生徒に対して事実上の殺人を犯した!」「学校に来なくなっている生徒がいるのはこれが原因である」「これは紛れもない事実であり、お前の犯した罪は絶対に」「これは我々からの宣戦布告だ!」「生徒諸君、教師諸君も忘れるでない」黎慈は放送が終わるとすぐに教室を出て行った。廊下はほぼパニック状態だった。生徒たちは『なにあれ!?』など阿鼻叫喚の様子だった。
黎慈と衣百合は二人で帰ることにした。ある程度の距離感を保っていた。身長差はありつつも、側から見ればカップルのそれだっただろう。「実はさ、ちょっと緊張してるんだよね」衣百合が、この謎の空気感を変えるために話し始めた。黎慈は、自分にしか見せない衣百合の一面になんとも言えない感情を抱いていた。信頼の証ではあるのだが、その一面にどう接したらいいか分からなくなっていた。学校などではしっかり者のイメージがついており、この一面を知っていること自体になぜか動悸がする。「衣百合も緊張するんだな」黎慈は一言だけ口から漏れる。黎慈は衣百合を見ようとはせず、帰り道の道路の奥を見ていた。よく顔は見えなかったが、顔はぷすくれていた。「人をなんだと思ってるのさ…」衣百合は肩をガクッと落としていた。衣百合は冗談混じりでそう言いつつも、緊張は止まらないようだった。少し視線を落とすと、手が震えていた。『何かをしてあげたい。言葉をかけたい』そうは感じていた。だが、何を言えばいいか分からない。手を近づけようとしたが、結局触れ合う直前に手を離した。「まあ、疲弊しすぎて倒れんなよ」気持ちを悟らないように、なるべくいつも通り返した。声の震えも抑えたつもりだった。必死に普段通りを装う。「ありがとね」衣百合のその言葉には、様々な感情が乗っているのを感じた。これが恋愛的な感情なのかは分からない。二人は緊張しながらも、寮に帰った。寮につくと、ロビーにはすでに亮がいた。亮は二人で帰ってきたのを見て察したのか、すかさずニヤリと笑った。「ごゆっくり~」亮はそう言うと、2階にある自分の部屋に上がっていった。「あいつ…」黎慈は亮の言葉に少し苦笑いをしながら、軽くため息をついた。茶化してくる分、これが亮なりの気遣いなのだろう。「はあ…あいつ…」衣百合も黎慈に続いてため息をついた。「亮って昔からあんな感じなのか?」黎慈はロビーにあるソファに座った。「高校より前の亮は知らないけど、一年生の時とは変わってないよ」「…まあ、そう簡単に変わりはしないだろな…」「でも、今日はなんかありがとね」「聞いてもらってスッキリしたよ」黎慈は少し微笑んだ。「別に大したことはしてないよ」肩をすくめた。「そんなことないよ」「黎慈くんは誰かの支えになってると思うよ。
「まず、私に具体的な説明貰える?」黎慈と景佑は具体的な説明を衣百合にし始めた。「簡単な内容は黎慈くんから聞いてたけど、やっぱり不思議な話だね」「まあ今さら驚かないけど…」ここまで驚きの連続が続いている。三人とも今更驚かない。「ここからが本題だ」「どうやって注意を引くかだけど…」黎慈は頭を抱えた。これと言って特に思いつかない。ここまで安全にやってきているからこそ、この最後で危険な目に遭わせる人を増やしたくはない。思考を巡らせていると、衣百合が話し始めた。「夢の核がある場所は、現実のこの学校なんだよね?」衣百合がそう聞いてきた。二人は頷く。「なら、あの人はこの学校全体を自分の居城だと思ってるわけでしょ?」「だったら、この学校のあの人が考えている認知自体を変えれば良いんじゃないかな?」黎慈は衣百合の話に希望が見えた。「具体的にはどうするんだ?」景佑が衣百合にそう聞く。「学校全体で“そういう雰囲気“を出せば良いんじゃないかな?」なんだか曖昧な内容だ。ただ、可能性としては捨てきれない。「具体的な内容はあるのか?」黎慈がそう聞く。「ん~、例えばだけど、全校生徒の和寿の認知を変えるとか?」「あの人、表ではものすごく善人だから、そのギャップを利用すれば良いんじゃない?」「少なからず和寿に被害を受けた生徒は存在するわけだから、その人たちを使えば…」「…その作戦、俺ら以外の協力者にものすごくリスクがないか?」景佑が考え込んでいて下がっていた頭をあげ、衣百合に言った。「あ…」衣百合は気づいてなかったようだ。口がポカーンとなっている。「俺ら以外の協力者はやめよう、危険すぎる」黎慈がそう言うと、二人は了承したかのように頷く。「でも、協力者がいないとこの作戦は厳しいと思うよ?」衣百合がそう言う。確かに、一理ある考えだ。「…良い考えがある」景佑は何かが閃いたようだ。そう話していると、昼休みが終わるチャイムが聞こえてきた。「昼はここまでだな。放課後、またここに集合でいいか?」黎慈が言う。「問題ないよ」「大丈夫だ」二人はそう言い、その場は解散した。授業が午後に移り変わり、終わろうとしていた5時限目が終わった。「あ~ねむ」眠い目をなんとか起こしながら迎えた6時限目。教科は数学だった。いつもなら手厳しい
黎慈(れいじ)は夢の中で覚醒した力の余韻が、まだ体に残っている気がした。体が気怠い気がするが、無理やり頭と体を起こす。昨日の出来事を共有するためにも、いつもより早く寮を出た。衣百合(いゆり)も亮(りょう)もまだ眠っている早朝だった。学校に着くと、教室も廊下も無人だった。静まり返った朝の廊下を歩きながら、黎慈(れいじ)は昨夜の混沌とした夢の世界を思い出していた。体に流れ込んだ熱い奔流、あの声、そして化け物を殴り飛ばした時の衝撃。
時間は7時半、衣百合(いゆり)が食器を洗いながら、ロビーの椅子に座っている黎慈(れいじ)に話しかけてきた。「黎慈(れいじ)くんは、今日の学校はどうだった?」「まあ、楽しそうな雰囲気でしたよ。一年間、楽しみです」「なら良かった。私、こう見えても生徒会の人間だからさ。そう思ってもらえて嬉しいよ」 衣百合(いゆり)は笑顔で黎慈(れいじ)を見ており、また衣百合(いゆり)が話しかけてきた。「黎慈(れいじ)くんはさ、部活動とか入る予定はある?」「今は
学生寮に戻ったのは、午後4時を少し回った頃だった。部屋に入るなりベッドに腰を下ろし、鞄を床へと放り投げる。空き教室での会話が、まだ耳を占領している共通夢。夢の中で落ち合う。にわかには信じがたい話だ。普通だったら、興味も湧かなかっただろう。しかし、夜になるまで何を考えても空回りするだろう。一度深く息を吐き、スマホで夕食前の時間にアラームを設定した。まだ時間はある。余計な考えが脳を占領するよりも、一度寝てリセットした方が良いと考えた。部屋の電気を消し、制服のままベッドの上で目を閉じる。意識はすぐに沈んでいった。また、妙な違和感を感じた。目をゆっくりと開ける。──青白い
「そこまでして知りたいんだな。この町について」男子生徒の声は、静まり返った空き教室の中でやけに重く響いた。放課後の校舎は人気が少なく、窓の外から聞こえてくるのは、遠くのグラウンドで続く部活動の掛け声だけだ。古びた時計の秒針が、やけに大きな音を立てて時を刻んでいる。「当たり前だ」迷いなくそう答えた。「この街に一生住む可能性もあるんだ」「少しでも、自分の中の疑問は晴らしておきたい」できるだけ平静を装ってそう答えた。しかし、自分でも感じるほど強い興味に動かされている。無理もないのだろう。妙なことの連続で、「……そっか。分かった」彼は一度目を伏せ、小さく息を吐いた。その仕草







