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夢幻の旅路と二つの世界
夢幻の旅路と二つの世界
作者: 百瀬 三月

第一話

作者: 百瀬 三月
last update 公開日: 2026-06-10 10:46:05

四月七日 夕方。

「ガタンガタン」

電車の揺れが、窓ガラスに映る曇り空を震わせていた。

「次は、冨永山町~。お出口は左側です」

車掌の声が響いた瞬間、妙な懐かしさが胸に広がった。

東京とはまるで違う、のどかな山間の町。

家庭の事情で越してくることになったこの場所に、黎慈(れいじ)は淡い期待と、言いようのない不安を抱いていた。

そのとき――聞き覚えがあるようでない声が、脳裏に響いた。

視界が一瞬暗転し、青白い空間に立っていた。

椅子に腰かけた黎慈(れいじ)の前に、見知らぬ女性が静かに微笑んでいた。

「また、お会いしましたね」

女性の声は穏やかだったが、黎慈は言葉を失っていた。状況が飲み込めない。

「あなたがこの町に来るということは、それ相応の覚悟があるのでしょう」

「ただ……」

「引き返すなら今です。ここで決断なさい」

なんのことだか全くわからない。

そんな顔をしていたが、女性は淡々と続ける。

「記憶を消してこの町から去るか、それとも……ここで出会う仲間たちとの、かけがえのない記憶を取り戻すか」

数秒の沈黙の後、黎慈《れいじ》はゆっくりと答えた。

「……俺には、ここ以外に行けるところがない。後者を選ぶよ」

女性はそっと胸を撫で下ろし、安堵したように微笑んだ。

「記憶が無くなっていても、そのままですね。あなたの決意、承りました」

声が空間に溶けると同時に、視界が元に戻った。

黎慈《れいじ》は電車の中にいた。

何か大切なことを決めたような、ぼんやりとした実感だけが残っていた。

数分後、電車は冨永山駅に到着した。

ホームに降り立つと、ボブカットの髪に黒タイツ、学生服姿の女子生徒が一人、誰かを探すように立っていた。

彼女は私を見つけると、慌てた様子で駆け寄ってきた。

「突然で悪いんだけど……もしかしてキミが転校生?」

黎慈が頷くと、彼女はほっとした笑顔を浮かべた。

「よかった~! 人違いだったらどうしようかと思ったよ」

「私、羽川《はねかわ》衣百合《いゆり》! キミの名前は?」

「枝先《えださき》黎慈《れいじ》。二年生です」

「え、二年生!? 私、先生からあんまり詳しく聞いてなくて…」

「…そっか、年下か」

「じゃあ私が先輩だね! ……って、冗談だよ」

衣百合は軽く笑って手を差し出した。

「早速悪いんだけど、これから学生寮まで案内するよ。ついてきて!」

駅から出ると、肌寒い四月の風が吹いていた。

桜の花びらが少し散り始め、遠くに山並みがぼんやり見える。

東京の喧騒とは正反対の、静かな町並み。

黎慈は内心で小さく息を吐いた。

「にしても、キミも大変だよね。家庭の事情は仕方ないにしても、こんな辺境に来ちゃって」

「都会に比べたら何もないに等しいけど、ゆっくりするにはいい場所だと思うよ」

世間話をしながら歩いていると、すぐに学生寮に着いた。

「お、着いた! ここが私立河平商工学園の学生寮だよ」

寮の中に入り、衣百合から鍵を受け取った。部屋番号は226。

「それじゃあ、私は明日の始業式の準備があるから。また後でね~」

衣百合はそう言い残して足早に去っていった。

廊下を歩いていると、突然小柄な男子生徒が部屋から飛び出してきて、黎慈にぶつかった。

「ごめん! ちょっと急いでる!」

男子生徒は慌てて謝ると、そのまま寮の外へ走り去った。

年下に見える小柄な体格が、少し印象に残った。

自分の部屋に入ると、質素な1ルーム。

ベッドとクローゼットだけ。

東京の部屋とは比べ物にならない簡素さだったが、なぜか落ち着く気がした。

荷物を置いた後、黎慈は寮の周りを少し探索することにした。

さっき歩いてきた道にコンビニがあったのを思い出し、そちらへ向かった。

コンビニの前で、同じ学校らしい男子生徒二人が雑談していた。耳を澄ますと――

「なあ、最近この町で話題の『夢』って知ってるか?」

「都市伝説だろ?」

「いや、結構マジらしいぜ……」

黎慈は興味を引かれ、声をかけた。

「すみません、突然だけど……その『夢』って、何ですか?」

男子生徒たちは一瞬嫌な顔をし、そっけなく答えた。

「ごめん、ここら辺に昔から住んでる奴ら以外には話すなって言われてんだ。他を当たってくれ」

二人はそのまま去っていった。

黎慈はお尋ね者のような対応をされたことに、妙な気持ちを感じた。

外はすっかり夕暮れになっていた。

黎慈は飲み物を買って寮に戻ることにした。

ただ、先ほどの出来事で感じ取ったことがある。

この町には「町全体で隠されていること」がある――そんな予感がした。

寮のロビーでは、衣百合がソファーでくつろいでいた。

「おかえりー! 連絡先交換してなかったね」

IDを交換した後、黎慈は思い切って聞いてみた。

「羽川さん……この町の『夢』って、何か知ってる?」

その瞬間、衣百合の笑顔が一瞬だけ固まったように見えた。

「あはは……なんのことかな? 私はよくわからないや」

苦笑いを浮かべながら、衣百合は話題を逸らした。

「わかった……何か知ったら教えてくれればいいよ」

「うん……それじゃあ、私は部屋に戻るね」

「夜ご飯は冷蔵庫にあるから、温めて食べて」

衣百合が去った後、黎慈は冷蔵庫から青椒肉絲を取り出し、自分の部屋で温めて食べた。

少し眠気が差してきたので、軽く仮眠を取ることにした。

何かがおかしい。

妙な胸騒ぎと共に眠りにつくことにした。

目を閉じると、さっきの青白い空間と、女性の声がぼんやりとよみがえった。

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