王城へ戻った頃には、太陽は高く昇っていた。昨夜の雨を吸った白い石壁は昼前の光を受けて明るく、馬車止めの石畳には、まだ車輪の跡に水が残っている。 城内では、すでに噂が広がっていた。貴族街の噴水広場で見つかった伯爵と、王立学院の中庭で死んだ教師。どちらも水辺で、血を失い、笑っていた。その話に誰かが水鏡の魔女という名を与えたらしく、使用人たちはルシアンの姿に気づくたび口を閉ざした。 ルシアンは執務室へ入るなり、扉を背後で閉めた。廊下の靴音と小声が少し遠くなり、室内には机に積まれた報告書の紙とインクの匂いが残る。「最悪だな」 机の上には、学院側の報告、騎士団の聞き取り、王都警備隊からの連絡が重なっていた。怪談めいた目撃証言まで混じっているのを見て、ルシアンは眉間を押さえる。「怪異だの亡霊だの、好き勝手言いやがって」 向かいでは、セレネが静かに外套を脱いでいた。黒いドレスの裾には、女子寮で付いた白い埃が少し残っている。「フィンは?」「授業へ戻しました」 セレネは淡々と答えた。「これ以上、現場へ置くべきではありません」「まあ、正解だな」 ルシアンは椅子へ腰を下ろした。フィンはまだ十五だ。貴族の子息として学院にいる以上、いずれ王都の醜い部分を見る日も来るだろう。だが、血を抜かれた死体と怪談の中心に立たせておくには若すぎる。 その時、執務室の扉が叩かれた。「殿下」 入ってきたのは、ルシアン直属の騎士だった。三十代前半ほどの男で、短く整えた茶髪に、乱れのない制服を身につけている。手にした書類の角が少し折れていた。「調べさせていた件、まとまりました」 ルシアンは目を細める。「リリア・セインの件か」「はい」 騎士は一度、報告書へ視線を落とした。「……あまり良い家庭環境ではなかったようです」 窓から差し込む昼の日差しが、机の上の紙束を白く照らしていた。セレネは何も言わず、外套を椅子の背に掛けて、静かに続きを待つ。「セイン伯爵はかなり厳格な人物で、娘へ強い成績要求をしていたようです。学院内の順位にも執着しており、成績が下がった際は、長期間外出を禁じられることもあったとか」「母親は」「社交を優先される方で、娘との関わりは薄かったようです」 騎士がページをめくる。紙の音が、室内に小さく響いた。「使用人の証言では、リリア嬢は幼少期から叱責を
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-06-11 อ่านเพิ่มเติม