禁書区域の空気は、相変わらず冷たかった。古書の頁を捲る音だけが、静かな石室へ響いている。ルシアンは腕を組んだまま、机へ広げられた記録を睨んでいた。アルヴェリア暦523年。アルヴェリア暦609年。アルヴェリア暦643年。 時代は違う。だが、不気味なくらい共通点が多い。 水辺。失血。黒髪の女。そして、水鏡の魔女。「……偶然にしちゃ出来すぎてる」 低く呟くと、フェリクスが肩を竦めた。「だから面白いんじゃないか」「兄上、人が死んでる事件だぞ」「分かってるよ」フェリクスは軽く笑ったまま、古書を閉じる。「でもね、ルシアン。こういうのは怪異として見ると間違える」「どういう意味だ」「人は理解できないものを怪異にしたがる。特に二百年以上前はね」フェリクスは椅子へ腰掛け、机上のランプを少し寄せた。橙色の灯りが古書を照らす。「アルヴェリア暦500年代頃は、まだ教会の力が今ほど強くなかった時代だ。地方信仰も多かったし、魔術を本気で信じてる人間も珍しくなかった」ルシアンは小さく眉を寄せる。「魔術なんて昔話だろ」「今ならね」フェリクスは楽しそうに笑った。「でも昔は違う。病気も、干ばつも、異常気象も、人ならざる力のせいだと思われてた」そう言いながら、彼は別の古書を開く。そこには女神らしき挿絵が描かれていた。長い黒髪。水辺。三日月。そして、暗い水面。「ノクシア」フェリクスが名を読む。「宵と水を司る女神。今では異端信仰扱いだけどね」ルシアンは絵を見ながら眉を顰めた。「……随分不気味な女神だな」「教会はそう教えるからね」フェリクスは頁を捲る。「でも、もっと古い記録だと少し違う」そこに描かれていたのは、先ほどより穏やかな女神画だった。月光の下、水辺へ祈りを捧げる姿。「元々は豊穣や鎮魂を司る女神だったらしい。夜、水、死者への祈り。この辺りを管理していたみたいだ」「管理?」「当時の人間にとって、死は今より身近だったからね。だから死者を慰める神格は重要だった」フェリクスは指先で頁を叩く。「でも教会勢力が強くなるにつれて、夜や秘術を司る存在は危険視され始めた」「……異端扱いか」「そういうこと」 静かな声だった。ルシアンは再び挿絵を見る。黒髪の女神。暗い水面。そして、魔女。 妙に嫌な繋がり方をしていた。「黒髪の噂って、その辺が元
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-06-11 อ่านเพิ่มเติม