บททั้งหมดของ 感情を持たない婚約者は怪異の真実を知っている 〜第三王子と月夜の怪異事件録〜: บทที่ 21 - บทที่ 27

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第一章 21話 宵の女神

 禁書区域の空気は、相変わらず冷たかった。古書の頁を捲る音だけが、静かな石室へ響いている。ルシアンは腕を組んだまま、机へ広げられた記録を睨んでいた。アルヴェリア暦523年。アルヴェリア暦609年。アルヴェリア暦643年。 時代は違う。だが、不気味なくらい共通点が多い。 水辺。失血。黒髪の女。そして、水鏡の魔女。「……偶然にしちゃ出来すぎてる」 低く呟くと、フェリクスが肩を竦めた。「だから面白いんじゃないか」「兄上、人が死んでる事件だぞ」「分かってるよ」フェリクスは軽く笑ったまま、古書を閉じる。「でもね、ルシアン。こういうのは怪異として見ると間違える」「どういう意味だ」「人は理解できないものを怪異にしたがる。特に二百年以上前はね」フェリクスは椅子へ腰掛け、机上のランプを少し寄せた。橙色の灯りが古書を照らす。「アルヴェリア暦500年代頃は、まだ教会の力が今ほど強くなかった時代だ。地方信仰も多かったし、魔術を本気で信じてる人間も珍しくなかった」ルシアンは小さく眉を寄せる。「魔術なんて昔話だろ」「今ならね」フェリクスは楽しそうに笑った。「でも昔は違う。病気も、干ばつも、異常気象も、人ならざる力のせいだと思われてた」そう言いながら、彼は別の古書を開く。そこには女神らしき挿絵が描かれていた。長い黒髪。水辺。三日月。そして、暗い水面。「ノクシア」フェリクスが名を読む。「宵と水を司る女神。今では異端信仰扱いだけどね」ルシアンは絵を見ながら眉を顰めた。「……随分不気味な女神だな」「教会はそう教えるからね」フェリクスは頁を捲る。「でも、もっと古い記録だと少し違う」そこに描かれていたのは、先ほどより穏やかな女神画だった。月光の下、水辺へ祈りを捧げる姿。「元々は豊穣や鎮魂を司る女神だったらしい。夜、水、死者への祈り。この辺りを管理していたみたいだ」「管理?」「当時の人間にとって、死は今より身近だったからね。だから死者を慰める神格は重要だった」フェリクスは指先で頁を叩く。「でも教会勢力が強くなるにつれて、夜や秘術を司る存在は危険視され始めた」「……異端扱いか」「そういうこと」 静かな声だった。ルシアンは再び挿絵を見る。黒髪の女神。暗い水面。そして、魔女。 妙に嫌な繋がり方をしていた。「黒髪の噂って、その辺が元
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第一章 22話 月桂宮の水音①

 禁書区域を出た頃には、夜もかなり深くなっていた。図書塔の窓から見える中庭は静まり返り、昼間の気配が嘘みたいに消えている。ルシアンは小さく息を吐いた。「今日はここまでにするか……」さすがに頭を使いすぎた。地下水路。ノクシア。水鏡の魔女。黒髪の噂。情報が多すぎる。フェリクスも古書を閉じながら肩を回した。「そうだね。地下水路を調べるなら、灯りと人手がいる」「騎士団を動かすか?」「大規模にやると噂が加速する。まずは内密に確認した方がいい」その時だった。禁書区域の外から、慌ただしい足音が近づいてきた。ルシアンの目が細くなる。 次の瞬間、扉が軽く叩かれた。「ルシアン殿下!」 若い女官の声だった。フェリクスが扉を開ける。そこに立っていた女官は、顔を青くしていた。「月桂宮で……また水音が……!」 空気が変わった。ルシアンは即座に顔を上げる。「何だと?」「侍女たちが怯えております……! 窓の外から歌声のようなものも聞こえたと……!」フェリクスとセレネの視線が、一瞬だけ交わる。 地下水路。王太子妃がいる月桂宮。さっきまで話していた場所だ。「行くぞ」ルシアンは迷わなかった。 深夜の王城回廊を、四人は足早に進む。窓の外では、月明かりが白く石畳を照らしていた。夜の王城は広い。だが今夜は妙に静かだ。足音だけが、不自然なくらい響いていた。 月桂宮へ近づくにつれ、人の気配が増える。女官、侍女、護衛騎士。月桂宮は王太子妃リリアーナの私的空間だ。普段、男性が自由に出入りできる場所ではない。 回廊前で控えていた女官長が、ルシアンを見るとすぐに頭を下げた。「お待ちしておりました、ルシアン殿下」ルシアンは扉の前へ立ち、軽くノックする。「王族特務隊隊長、ルシアン・アルヴェリアです。失礼いたします」 中から、穏やかな声が返った。「どうぞ」 扉が開く。その瞬間、セレネが小さく目を瞬かせた。「……月桂宮にも入れるのですね」 少し意外そうな声音だった。ルシアンは振り返る。「言ってなかったか?」「聞いていません」 淡々と返される。ルシアンは少し眉を上げた。 前に話した気がしたんだが。「あー……俺、王族特務隊の隊長やってるんだ。王族警護と特殊案件担当。だから月桂宮も管轄内」セレネは静かに目を開く。「なるほど……」 本当に初めて知った顔だった。
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第一章 23話 月桂宮の水音②

「歌声もか?」ルシアンが静かに尋ねる。リリアーナは小さく頷いた。「ええ。でも私は直接聞いていないんです」 穏やかな声だった。だが、部屋の空気は張り詰めている。月桂宮に控えていた侍女たちは、皆どこか青ざめていた。 夜の月桂宮は静かだ。昼間のような人の出入りもない。灯りも最低限しか落とされておらず、広い室内には薄い橙色の明かりだけが揺れている。だからこそ、小さな音でも異様に響く。まして今は、水鏡の魔女の噂が王城中へ広がっている最中だ。リリアーナはそっと腹部へ手を添えながら、小さく息を吐いた。「侍女たちが、女性の歌声のようだったと怯えてしまって……」ルシアンは窓の方を見る。厚いカーテンの隙間から、月明かりが細く入り込んでいた。「殿下は聞いてないんだな?」「ええ。ただ……昨夜も、似たような音はありました」「昨夜?」「水が流れるような音です。窓の下から聞こえてきて……最初は雨かと思ったのですが、今夜も同じ音がしたと聞いて」フェリクスが静かに窓辺へ近づく。ルシアンもその後ろへ立った。 窓の外には、中庭が広がっている。月明かりに照らされた噴水は静まり返っていた。この時間に水音が響くこと自体がおかしい。フェリクスは窓の下を見下ろした。「……思ったより近いな」フェリクスは窓枠へ軽く手を置く。「月桂宮って、かなり中庭寄りに造られてるんだ。真下を旧水路が通っていても不思議じゃない距離だね」ルシアンも改めて外を見る。確かに近い。昼間なら、噴水の水しぶきが見える程度の距離しかなかった。その時だった。フェリクスの視線が、ふと床で止まる。「……これ」ルシアンも視線を落とす。 窓際の石床に、小さな水滴が点々と残っていた。月明かりに照らされ、僅かに光っている。ルシアンは眉を寄せた。「雨じゃないな」 今夜は晴れている。窓も閉まっていた。フェリクスがしゃがみ込み、指先で床へ触れる。「……まだ濡れてる」 透明な水が指先へ付着する。乾ききっていない。つまり、ごく最近付いた水だ。フェリクスは顔を上げ、リリアーナへ視線を向けた。「この辺り、以前から湿っていましたか?」リリアーナは小さく首を振る。「いいえ。少なくとも私は見たことがありません」 女官長も不安そうに口を開いた。「月桂宮は毎日清掃しております。このような水跡は……初めてです」つまり
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第一章 24話 月桂宮の水音③

だが言った直後、フェリクス自身が少し困ったように笑う。「……とはいえ、僕も実際に見たことはないんだけどね」「適当に歩くなよ」「さすがに怒られるから大丈夫」ルシアンは小さく息を吐き、近くに控えていた女官長へ視線を向けた。「古い通路に繋がる場所、分かるか?」 女官長は一瞬迷ったような顔をしたが、やがて静かに頷いた。「月桂宮の裏手に、現在は使われていない保管区域がございます。その奥に、昔の使用人通路が残っていると聞いたことがあります」「案内できるか?」「……はい」 女官長は壁際の灯りを手に取った。小さな炎が揺れ、薄暗かった回廊へ淡い光が広がる。ルシアンたちはリリアーナの私室を出た。 月桂宮の表側は、王太子妃の居住空間らしく柔らかな色彩で統一されている。厚い絨毯。磨かれた白い壁。金細工の装飾。だが奥へ進むにつれて、景色は少しずつ変わっていった。装飾が減り、灯りも少なくなる。やがて女官長が案内したのは、使用人用の細い通路だった。普段ルシアンたちが通る回廊とはまるで違う。横幅は狭く、大人二人が並ぶには窮屈なほどしかない。王族や貴族の視界へ入らないよう、使用人たちが裏側を移動するための通路なのだろう。だからこそ装飾も最低限だった。 冷たい石壁がむき出しのまま続き、小さな夜灯だけが等間隔に掛けられている。ぼんやりとした橙色の光が、細長い影を石床へ落としていた。どこか息苦しい。昼間ならまだ違ったのかもしれない。だが深夜の静寂の中では、この狭さが妙な圧迫感を生んでいた。 女官長の靴音だけが、コツ、コツ、と静かに響く。普通の令嬢なら、かなり怖がるだろう。実際、先ほど月桂宮にいた侍女たちは、水音の話だけで顔色を失っていた。ルシアンは何となく後ろを振り返る。だがセレネは、いつも通り静かな顔でついて来ていた。怯えている様子はない。海色の瞳で、淡々と周囲を観察している。 暗闇に慣れている、というより、怖がること自体を忘れているような落ち着き方だった。 相変わらず肝が据わってる。 学院時代もそうだった。試験だろうが実技だろうが、こいつが取り乱したところをほとんど見た記憶がない。さらに奥へ進むにつれ、人の気配が完全に消えていく。空気も変わった。微かに埃っぽい。長い間閉ざされた空間特有の、古い匂いが漂っている。壁際には木箱や、白布を被せられた古い家具が並ん
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第一章 25話 地下水路

 石階段は思った以上に長かった。 降りるほど空気が重くなる。湿った匂いが肺へまとわりつき、ルシアンの手にした灯りの炎も、不安定に揺れていた。コツ、コツ、と足音だけが暗闇へ響く。狭い石壁にぶつかった音が、少し遅れて返ってくる。まるで、後ろから別の誰かが歩いているみたいだった。ルシアンは小さく眉を寄せる。「……気味悪いな」「音が反響してるんだよ」 後ろからフェリクスが静かに答えた。「地下水路特有の構造だね。壁が石造りだから余計響く」その時だった。フェリクスが思い出したように口を開く。「そういえば、新しい補佐官君は?」「ああ、エドガーなら執務室へ戻した」ルシアンは前を向いたまま答える。「事件関連の資料整理を頼んである」「なるほど。さすがに地下探索までは連れて来なかったか」「剣も使えねぇしな」エドガーは頭は回る。だが、こういう場所向きではない。むしろ今頃、山積みになった記録書類と格闘している方があいつらしかった。さらに数段降りたところで、ふっと空間が開けた。階段が終わる。ルシアンは灯りを少し高く掲げた。揺れる炎が暗闇を押し退け、地下空間をぼんやり照らし出す。そこに広がっていたのは、古い地下水路だった。 天井は低い。背の高いルシアンだと、少し圧迫感を覚えるほどには狭い。両脇の石壁には、長い年月をかけて染み込んだ黒い水跡が浮かび、床の端には浅く水が溜まっている。 灯りがなければ、数歩先すら見えない暗さだった。炎が揺れるたび、石壁の影が歪む。まるで誰かが動いたように見えて、一瞬、視線がそちらへ引っ張られた。どこかで、水が流れていた。ちゃぷん。 遠くで小さな水音が響く。だが、その音は地下通路の反響によって妙に広がり、位置が分からなくなる。前から聞こえたと思えば、次は後ろから聞こえた気がする。ルシアンは小さく舌打ちした。「方向が分かりづれぇ……」「だから歌声に聞こえるんだろうね」フェリクスが周囲を見回しながら言う。「人の声って、反響すると妙に伸びるから」ルシアンはゆっくり周囲を観察した。地下水路と言っても、ただの下水ではない。古い石造りの通路が幾つも枝分かれしている。王城建設初期の設備なのだろう。アルヴェリア暦726年。 王城は何度も増築されている。古い設備が地下へ埋もれていても不思議ではなかった。その時だった。灯りの
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第一章 26話 地下礼拝堂

 地下礼拝堂は、想像していた以上に広かった。 地下水路の先に突然現れたとは思えないほど、空間が整っている。ルシアンは灯りを少し高く掲げた。揺れる炎が石壁を照らし、古びた礼拝堂の全貌がゆっくり浮かび上がっていく。 天井は半円状になっていた。地下とは思えないほど高い。水路部分の圧迫感とは違い、この空間だけ妙に広く感じる。 壁面には古い彫刻が刻まれていた。だが、その多くは不自然に削られている。まるで、何かを隠すように。 床には薄く水が溜まり、歩くたび小さな波紋が広がった。地下特有の湿気が濃い。それなのに、この空間には別の匂いも混じっていた。 香だ。 甘いような、少し苦いような独特の香り。最近焚かれたものだと分かる。フェリクスも周囲を見回しながら、小さく息を吐いた。「……思ったより保存状態がいいね」「放置されてたにしては綺麗すぎる」ルシアンは祭壇へ近づく。石造りの祭壇は古いが、埃が少ない。最近誰かが触れた跡がある。灯りを近づけると、表面には細かな傷が無数に刻まれていた。古い文字だ。だが一部は、何かで削り取られている。風化というより、意図的に消されたように見えた。その時だった。後ろで、水を踏む小さな音がした。 振り返ると、セレネが壁際へ近づいていた。海色の瞳が、削られた石壁を静かに見上げている。「……どうした」「削られています」セレネは壁へ触れず、目だけで痕跡を追っていた。「かなり後の時代に、意図的に」ルシアンも灯りを向ける。確かに不自然だった。一部分だけ、深く削り取られている。普通の風化ではこうならない。フェリクスが興味深そうに近づいた。「分かるの?」「削り方が違います。元々の彫刻と年代が合っていません」セレネは静かな声で続ける。「古い礼拝堂を、後の時代に誰かが修正したのだと思います」「つまり、残したくない何かがあった?」「可能性はあります」 地下礼拝堂。消された紋章。ノクシア。全部が少しずつ繋がり始めていた。ルシアンは祭壇の奥へ灯りを向ける。そこには、大人三人分ほどの高さがある巨大な女神像が残されていた。 天井近くまで届きそうな石像は、長い年月を地下で過ごしていたせいか、表面の一部が黒ずんでいる。だが、それでも異様な存在感があった。 長い髪。細い指。胸元で抱える大きな水瓶。その水瓶からは、今も地下水が流れているよ
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第一章 27話 微睡みの声

 地下水路を出た頃には、空が白み始めていた。 夜明け前の王城は静かだった。昼間の喧騒が嘘みたいに、人の気配が少ない。地下の湿った空気から戻ってきたせいか、石造りの回廊を流れる朝の冷気が妙に心地よく感じた。ルシアンは軽く息を吐く。 身体が重い。 王都の噴水で遺体が見つかってから、まともに眠れていない。学院での事件。王城で倒れた女官。禁書区域で見つけた古い記録。そして地下水路。気づけば、夜は明けかけていた。 隣を歩くセレネも、さすがに疲れているらしい。濡れた黒髪がまだ完全には乾いていない。地下水路の湿気をまとったまま、静かな顔で歩いている。フェリクスが小さく肩を竦めた。「今日はここまでにしようか。さすがに頭が働かない」「兄上でもそんなこと言うんだな」「失礼だなぁ。僕だって疲れるよ」そう言いながらも、フェリクスの表情はどこか楽しそうだった。「地下礼拝堂、面白かったしね」「面白いで済ませるな」「でも久々だろ? ルシアンがこんなに夢中になってるの」 ルシアンは小さく眉を寄せる。否定しようとしたが、言葉が出なかった。確かに気になっていた。王城の地下に、あんな場所が残っていたことも。誰かが今も使っている形跡があることも。全部が妙に引っかかっていた。「じゃ、僕は一度部屋へ戻るよ。また昼頃に」フェリクスは軽く手を振ると、そのまま別の回廊へ消えていった。 静けさが残る。ルシアンは隣のセレネを見る。「お前も休め」「殿下こそ」「俺はまだ執務が残ってる」セレネは少しだけ呆れたような顔をした。「少しはお休みください」「努力はする」 絶対休まない返答だった。セレネも分かっているのか、小さく息を吐いた。「……無理はなさらないでください」「お前もな」 短いやり取りの後、二人はそれぞれ別の回廊へ向かう。 婚約者であるセレネには、王城内に専用の居室が与えられていた。正式な婚姻前とはいえ、王族教育や公務補佐のため、半ば王族扱いに近い立場なのだ。ルシアンはそのまま執務室へ戻った。部屋へ入った瞬間、ようやく肩の力が抜ける。 机の上には、エドガーが整理したらしい資料が既に積み上がっていた。几帳面すぎるほど整っている。「……仕事早ぇな」ルシアンは適当に一枚手に取る。だが文字が頭へ入ってこない。視界が霞む。 限界だった。 ルシアンは低く息を吐くと、
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