【ジギスムント視点】「……埒が明かないな」 決戦開始から、すでに二時間が経過していた。 王都軍は押している。 だが、崩せない。 魔王軍は一歩も退かない。 四百の魔法陣による砲撃。 重装歩兵による突撃。 弓兵の飽和射撃。 どれを叩き込んでも―― 結界は削れるだけで、消えない。 そのうえ。 ノリスが動くたびに前線が崩される。 まるで――「生き物のようだ……」 参謀が、静かに頷いた。「魔王城と連動しています。 城がある限り、あの結界は消えません」「城を攻めればどうなる」「迂回には三時間。 その間、魔王を自由にすれば前線が持ちません」 ジギスムントは霧の向こうの魔王城を見た。 魔王と城。 両方を敵に回すと、これほど厄介か。「……望むところだ。数で削る」 三万の兵は伊達ではない。 いずれ、疲弊する。【ヒマリ視点】 戦線は、膠着していたが拮抗は崩れつつあった。 元々数が圧倒的に足りていない。 ――押されている。(クルス。このまま持つ?)『魔力供給は問題ない』 一拍。『ただし――』(ただし?)『フェルマーと結界術者が疲弊し始めている』 ヒマリは隣のフェルマーを見る。 額に汗が滲み、指先がわずかに震えていた。「フェルマー」「問題ない」 即答だった。 問題がある人間の顔だった。「……あと、どれくらい?」「一時間は保つ」 一時間。 ヒマリは戦況図を見下ろす。(それまでに第四軍を引きずり出さないと……) そのとき。 本陣の幕が乱暴に開いた。「報告! 右翼、押されています!」 フェルマーの視線が戦況図へ落ちた。 右翼。 シュルツの担当区域。 防衛線が、ゆっくりと後退している。 統率が、乱れていた。「シュルツはどこだ」 伝令が、息を飲む。「……確認できません」 フェルマーの目が細くなった。(このタイミングで消えるか) シュルツにも策があるのだろう。 第二軍への働きかけは、自分も考えていた。 だが。(聞いていない) この戦場での離脱は、予定外だ。 フェルマーは静かに言った。「ヒマリ」「なに」「シュルツが消えた」 ヒマリの表情が、一瞬だけ固まる。「……消えた?」「右翼の小隊を連れて、だ」 沈黙。 フェルマーは続けた。「間者だ
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